風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国という異形

2010-01-24 00:53:44 | 時事放談
 最近、中国という同じ一つの国のニュースであることを疑わせるような、否、同じ国のニュースであるが故に不思議をあらためて思わせるニュースが相次ぎました。
 一つは、中国国家統計局が発表した2009年第4四半期(10~12月)の実質国内総生産で、前年同期比の成長率が10%を越え、2008年9月のリーマン・ショック後、11月に打ち出した総額4兆元(約54兆円)規模の景気対策や金融緩和の効果もあって、過剰流動性を見るとバブル寸前とまで言われながら、2009年第1四半期を底にV字回復軌道にあることが鮮明になりました。その結果、年間ベースで前年比8.7%成長となり、政府が目標として掲げていた「8%増(保八)」を達成するとともに、2010年内には、過去20年来GDP500兆円前後で足踏みしている日本を追い抜いて世界第二位に躍り出る可能性が高いことが、英国BBC放送などで報じられました。経済大国世界第二位の座をめぐる日本との競争は、中国国内のメディアでも熱を帯びているようです。
 もう一つは、グーグルが、サイバー攻撃や中国当局による検閲などを理由に中国撤退を検討している問題です。ことは12月半ばに、中国を発信源として、グーグルの事業インフラを標的とする極めて高度な攻撃が検知され、その後の調査で、同様の攻撃は金融関係やメディアだけでなく国防関連企業を含む30社以上に仕掛けられたことが判明したことに発します。グーグルへの攻撃を詳細分析したところ、中国の人権問題活動家が使用するGメール・アカウントへのアクセスが主目的だったことが突き止められ、2つのユーザー・アカウントが不正アクセスされ、メールの件名が閲覧されたほか、フィッシング詐欺に用いられるソフトなどがコンピューターにインストールされた可能性があるといいます。クリントン米国務長官も、ネット規制に関して「世界人権宣言に違反する行為だ」と言い出す始末で、米国政府としても反対する姿勢を鮮明にしました。
 それぞれ、もう少し踏み込んで見てみます。
 まず、中国のGDPをはじめとする統計数値の信憑性は、この際、措いて置きます。中国の経済成長を牽引するのは、「世界の工場」と言われて久しいように、安価な労働力に支えられた輸出産業で、台湾・香港・マカオ系を含む外資系企業が製造する製品がGDPの約4割を占めると言われます。この分野では雇用や所得税による貢献があるとは言え、単純にGDPを人口で割った国民一人あたりGDP値は、生活実感とかけ離れているのが実態だろうと思われます。そういう意味でも、COP15で自ら主張した通り、中国は先進国ではなく今なお発展途上国であり、時間の問題だったにせよ、世界第二の巨大な経済力を有するに至り、その巨大な経済は今なお猛烈な勢いで経済成長を続け、世界の中で存在感を増すばかりなのです。
 その中国は、社会主義経済と言うよりも、確かに資本主義経済を志向しながら、市場経済に主導されるのではなく、中国共産党による高度に独裁化した官僚主義計画(統制)経済である点が異様と言うべきでしょう。かつては共産主義イデオロギーにより、チベットやウイグルなどの少数民族問題や台湾独立問題を強引に抑え込んできましたが、経済的自由の高まりやインターネットを介したオープンな情報環境を通した自由化・民主化要求の高まりに伴い、政治・社会的な一党独裁体制が揺らぎつつあり、人民解放軍をはじめとする現実世界の軍事・警察機構と世界最高水準の「網絡警察」(サイバー・ポリス)を抱えて、無駄な抵抗を試みているというのが現状ではないでしょうか。自由と平等への信仰篤いアメリカ的な自由市場経済を体現する一民間企業に過ぎないグーグルが、ボーダーレスと言われる世界経済の中で存在感を増すこの異様な統制経済国家に立ち向かっている構図は象徴的です。
 勿論、グーグルにも“お家の事情”がないわけではなさそうです。かつて中国市場に参入した4年前には、「インターネットによる情報量の増大は、検閲を受け入れることのマイナスを補ってあまりある」との判断により、中国当局からの検閲を受け入れた経緯がありましたが、今では「言論の自由に関する世界的な議論にかかわる問題」と事態を問題視する方向に転換しました。端的に検閲に耐えられなくなった背景には、中国検索エンジン市場でグーグルのシェアは僅か12.7%にとどまり、中国語最大の検索エンジンである百度(Baidu)の77.0%に圧倒されて苦戦している現実を指摘する声もあります。昨年9月に現地法人社長が突然辞任したのは実は首切だったと言われますし、中央テレビ局であるCCTVの番組が「グーグルは大量の詐欺広告を掲載しており、しかもエロ写真や下品なニュースも多い」と暴露したのは中傷にしても、中国作家の許可を得ないで8万冊以上の作品をデジタル・ライブラリーに公開したという理由で中国作家協会に告訴され、今月、テレビを通じて中国作家に「申し訳ない」(sorry)と謝罪したと思わせるような談話を発表するトラブルもあったようです。
 いずれにしても、この問題は一民間企業が起こした純粋な経済問題にとどまらず、インターネット上の検閲を人権問題とみなし、体制のありようを問う従来からのアメリカ政府の姿勢に再び火を点し、米中政府間の摩擦にも発展しかねない情勢です。更にアメリカ政府の介入の背景には、今回のサイバー攻撃対象に国防関連企業が含まれていたことにも見られるように、中国だけでなくテロリストからのサイバー攻撃をも「武力攻撃」と警戒すべきかどうか議論している現実もあるようです。ヴァーチャルな電子空間を舞台とする新たな冷戦構造だと書き立てるメディアもあり(WSジャーナルなど)、日米中の正三角形論だとか、日中の経済的な結びつきが強まれば、中国の軍事行動を牽制でき、駐留米軍への依存を減らせるなどと呑気に構えているフシが見られる日本の現政権の姿勢とは凡そ対照的です。東アジア政治に限っても、立脚する地点が違いすぎて、日本はアメリカのまともなパートナーとは見なしてもらえないのではないかと心配です。
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