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全身麻酔で意識が失くなる理由が175年以上の時を経てついに解明(米研究)

2020年07月01日 | 世界びっくりニュース
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全身麻酔の謎を解明"
全身麻酔の謎がついに明らかに torwai/iStock

 1846年、ボストンにあるマサチューセッツ総合病院において、世界で初めて”硫酸エーテル”を使用した「エーテル麻酔」による公開麻酔手術が成功した。(エーテル以外での全身麻酔の世界初は後述するが日本の医師)

 実行したのは歯科医で、エーテル麻酔の発明者とも称されるウィリアム・T・G・モートン。手術は首の腫瘍の切除であった。以来、全身麻酔は医療の現場で欠かせないものとなった。

 にもかかわらず「なぜ人は麻酔で意識を失うのか?」という根本的な理由は不明だったのだ。人類は、なぜその効果が発揮されるのか分からないものを使用して、長い間手術を行っていたのだ。

 しかしついに、長年にわたる医学の謎がついに解明されたそうだ。『PNAS』(5月28日付)に掲載された研究では、ナノスケールの観察技術によって、麻酔が細胞膜に働きかける様子がはっきり観察されたそうだ。

仮説はあったが裏付ける技術がなかった


 麻酔が人の意識を消失させる具体的なメカニズムは不明だったが、それについての仮説は存在している。

 1899年までにドイツの薬理学者ハンス・ホルスト・マイヤーが、次いで1901年にイギリスの生物学者チャールズ・アーネスト・オーバートンが、脂質の脂溶性が麻酔の効き目を左右することに気がついた。

 ここから、おそらく麻酔は脳細胞の膜にある脂質に何らかの形で作用することで、その効果を発揮するのだと推測されていた。

 その後1世紀以上にわたり、さまざまな科学者が同じ結論に達している。しかし、彼らには、それをはっきり裏付ける技術が欠けていたのである。

全身麻酔
photographer/iStock

超解像顕微鏡で見えた脂質クラスターの拡散


 その謎に迫るためにアメリカ、スクリプス研究所の研究チームは、2014年にノーベル化学賞を受賞した超解像顕微鏡「dSTORM」を利用することにした。

 dSTORMは、従来の可視光顕微鏡の限界を超える解像度を実現し、それでいて高エネルギーを照射する電子顕微鏡のように細胞を殺すことのない、生体を生きたまま観測することができる画期的な技術だ。

 研究チームは、細胞を麻酔効果のあるクロロホルムに浸し、dSTORMでガングリオシドの「GM1」という、脂質クラスターを観察してみた。

 すると、きれいに密集していたクラスターが突然広がり、バラバラに散らばる様子が観察されたとのこと。それは、まるでビリヤードのブレイクショットのような感じだったという。

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image by:Hansen lab, Scripps Research

カリウム・イオンチャネルの活性化が意識を消失させる


 脂質クラスターが拡散される際、GM1から中身がこぼれ、「ホスホリパーゼD2(PLD2)」という酵素が放出されていた。

 このPLD2を蛍光薬でマーキングし、その動きを追跡してみると、PLD2はまるでビリヤードの球のようにGM1から離れ、「PIP2」という別の脂質クラスターへと向かったという。

 PIP2には、「TREK1」というカリウム・イオンチャネルがある。これは細胞膜を通過しようとするカリウムの出入りを制御し、細胞内のシグナル伝達を変化させる。また活性化すると神経細胞が発火しなくなり、意識が消失することでも知られている。

 このことから、研究チームは、麻酔を吸い込むと、PLD2を介してイオンチャネルが活性化されるために意識が消失すると結論づけた。

エーテル麻酔
iStock

ショウジョウバエの実験でも裏付け


 この仮説はキイロショウジョウバエを使った実験でも証明されているそうだ。

 PLD2が発現しないようにしてしまうと、ハエにさまざまな麻酔に対する耐性を持たせることができたのだ。

 ただし、麻酔を大量に使えば、最終的にはハエの意識を消失させることができたので、PLD2以外にも麻酔効果を生み出す要因があるだろうことがうかがえるという。

 なお、この発見は麻酔のメカニズム解明だけでなく、たとえば人を眠らせる分子など、脳にまつわる他の謎を明らかにするヒントにもなるかもしれないそうだ。

 硫酸エーテルは意識の問題の解明を手助けしてくれる贈り物だと、研究チームの1人はコメントしている。

Studies on the mechanism of general anesthesia | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/05/27/2004259117

 ちなみに、記録に残されている中で、世界初の全身麻酔手術は、江戸時代の日本人医師、華岡青州が1804年に行ったものだ。

 その際に使用したのは「通仙散」というチョウセンアサガオやトリカブトなどの薬草を配合した薬で、取り扱いが難しく、非常に危険が伴うことから、華岡は通仙散を秘伝としたそうだ。

References:iflscience / medicalxpress/

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