池上彰さんと対決できるくらい博学の人に会った。ピアノの調律さんで、昔のことから現在に至るまで、音楽の知識が豊富なのはもちろん、いろんなことを教えてもらった。楽器は古典音楽の時代からほとんど変わっていなくて、調律を繰り返して使っていると。
自分では演奏しないけれど、楽器を集めることが好きな人がいて、若い演奏家では買えない楽器を持っている。有名な楽器はこうした蒐集家が持っているので、むしろ散財しないで済んでいると言う。
「楽器の音がいいとか悪いとか、あるような気がしますが?」と聞くと、「確かにそれはあるけれど、人間の脳が判断しているので、その人の聴き取り方にある」と答える。「音は耳で聴いているけれど、脳に蓄積され、勝手に評価されていく」と言う。
好みの音が形成されていくのだ。あの演奏家がいいとか、あのオーケストラはボリュウームがあるとか、人に好みが生まれる。演奏家も使う楽器との相性があるようで、「楽器の身体への響きで、これは合うとか合わないと判断している」と教えてくれた。
音楽家の中には何度も結婚している人がいるのも、自分の音を求めるからなのかも知れない。楽器との相性は、恋する人との相性に通じるのだろうか。いや、画家にも何人もの愛人と暮らした人がいるから、世間的な常識よりも愛に対する情熱の強さなのかも知れない。
コロナ禍で人と話すことが激減していたから、久しぶりに博識の人に出会えた気がした。彼は料理も得意のようで、いろいろ自分で試していると話す。「奥さんは?」と聞くと、「106歳になる実母の世話をしているので、こうした自由な時間が私にはある」と言う。
今日は「ひな祭り」、カミさんはゴルフに行っているから、私が食事の用意をしよう。