蝶になりたい

いくつになっても、モラトリアム人生。
迷っているうちに、枯れる時期を過ぎてもまだ夢を見る・・・。

ある日の社長

2010-07-23 | 仕事
ずっと以前、仕事で担当した、派手派手クライアントのオーナー社長、H氏。

「今日の打ち合わせは、Sホテル(神戸市内の一流都市ホテル)の最上階の会員制ラウンジでお願いします。」

そう秘書女史から連絡が入った。

ちなみに、この秘書女史には、えらく年齢詐称されていることに、
私は、永年気づかなかった。
27歳だということだったが、10歳ぐらいはサバを読んでいたようだ。
そんなことは、私にはなんの関係もないことなのだが、
この秘書女史にも、いろいろあって、書ききれない。

まあ、とにかく、会員しか入れないラウンジに入ると、
強面(こわおもて)のお若い男衆たちに、かしずかれるように、社長は座っていた。

まさしく
「近こう寄れ」
の状況。
私と営業K氏は、きょろきょろ、場違い感をひしひし感じながら、社長の至近距離に割り入った。


我々の話が進んでいると、社長の斜め延長上に、存在感のある女性が座っていた。
ちょうど私は、社長も見えるし、その女性も一直線上に見える位置。

女性はなにやら言いたげな、ボディ・ランゲージで、メッセージを発したい様子。

こちらばかりをじっと見つめる。
私を見つめるわけがないので、お目当ては、H社長。
(H社長は、体育会系で筋肉隆々、オシャレなイケメン。あ、ついでに、お若い)
その濃厚女性は、年のころなら40過ぎ?
身なりは、重厚で個性的、品質が高い、お金もかかってそうな服装。
そんな服、どこに売ってるん???みたいな。
あまり庶民が目にする、商店街の軒先で見かけるようなファッションではなかった。

ノースリーブには、真っ白な腕が、なまめかしく伸びていた。

いわくありげな目で、たっぷり情感を溜め、こちらにオーラを放ってくるので、
私は社長との話をするにも、その女性が気になって仕方がない・・・。

なんか、用?
用なら、手早くすませてよ。

私は、あくまで仕事で接していたので、そんな、ややこしい濃そうな女性は
一秒も早く、とっとと消えてほしかった。
私たちがいなくなってから、たっぷり、ご用件を詰めてください。

そうこうしているうちに、その女性が、ラウンジのスタッフを介して、
なにやらメッセージを寄こしてきた。

「作家 ○○○○ 電話番号 ○○○○ 」
という名刺のようなメッセージカードみたいなものに、直筆で
「私、○○と申します。お話したいことがありますので、お電話、お待ちしています」
と書いてあった。

社長は、興味ないような、うんざりしたような様子で、ぽいっとどこかに置いた。

へぇ~
なんだか、映画の1シーンみたい。

あとで秘書女史が言っていた。
「私、あの女性を知っています。昔、実家でお会いしたことがあるんです」
どうやら、実体のある方ではあるらしいようだが・・・。
秘書女史は、あまりいい顔をしなかった。

いわくありげで、色々、複雑な事情がからみついていそうな状況だったが、
私は、次の仕事の件もあるし、当日分の社長の話が済んだら、
なんでもいいから早く帰りたかった。

あの人たちの、独特の空間に居ると、疲れるというか、奇妙、というか、
異次元というか・・・
何が本当で、何が嘘で、誰もがそれをわかっていて、でも、表には出さず・・・
虚実取り混ぜた世界のように思えた。

砂の上に建っていたその会社は、それから何年かして、もろく崩れ落ちた。
だが、必ず、裏はありそうだった。
あのまま、消えてしまうということはないと私は感じた。


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