会社(かいしゃ)の先輩(せんぱい)がいきなり声をかけてきた。
「俺(おれ)、見ちゃったんだよなぁ。おまえ、会社の帰りに待(ま)ち合わせしてただろ?」
「えっ、僕(ぼく)がですか? いや、僕は誰(だれ)とも待ち合わせなんて…」
「とぼけるなよ。あの女だよ。ほら、この間、コンペで一緒(いっしょ)になった…」
「ああ…。あれは、たまたま出くわしただけで。待ち合わせなんかじゃ」
「でも、二人で同じ方へ歩いて行ったじゃないか」
「それは、たまたま帰る方角(ほうがく)が同じだっただけで…」
「ほんとにそれだけか? 俺は、昨夜(ゆうべ)は暇(ひま)だったんでおまえらの後(あと)をつけてみたんだよ」
「先輩…、何してるんですか?」
「俺は別にいいんだよ。おまえが誰と付き合っても。でもなぁ、あの女はどうかと思うぞ」
「だから…。付き合ってませんから。昨夜は、たまたま食事(しょくじ)をしただけで…」
「おまえ、ほんとにたまたまだと思ってるのか? おめでたいヤツだなぁ。これは、あれだぞ。おまえを、引き抜(ぬ)こうって魂胆(こんたん)だ。おまえ、絶対(ぜったい)に行くんじゃないぞ」
「はぁ? 僕は、転職(てんしょく)なんかしませんよ」
「今はな。でも、これ以上(いじょう)あの女に近づいたら…。おまえ、落(お)とされるぞ」
「やめて下さいよ。僕は…、連絡先(れんらくさき)も知らないし、もう会うことありませんから」
「今日から、俺と一緒に帰ろう。また、待ち伏(ぶ)せしてるかもしれんぞ」
<つぶやき>こんなことあるのか? でも、ものは考えようで、引き抜きもありかも…。
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鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)はチャラ男(お)に顔を近づけると、不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべて言った。
「なぁ、あの<夜汽車(よぎしゃ)>っていうバーで、何人の女を釣(つ)り上げたんだ?」
チャラ男は顔を引きつらせて、「僕(ぼく)は…何もしてませんって……。ほんとです。僕は何も…。っていうか、誘(さそ)った女は…誰(だれ)も来なかったんですよ」
「来なかった? どうしてだ」
「そんなこと知りませんよ。あのバーで約束(やくそく)したときは、いい感(かん)じだったのに…。すっぽかされたんですって。五人とも…」
目黒(めぐろ)がそこに割(わ)って入って、「五人? 今日の他(ほか)に四人いたのか? どんな女だった?」
「ど、どんなって…。そ、それは…」
鬼瓦が行方不明者(ゆくえふめいしゃ)の写真(しゃしん)を出してチャラ男に突(つ)きつけた。
「こいつらだよ。よく見ろ。みんな、髪(かみ)の長い良(い)い女だろ」
チャラ男は思い出したようで、「ああ、これです。僕が誘ったのは…。間違(まちが)いないです」
鬼瓦は凄(すご)んで見せて、「お前があの店で女を誘ったとき、誰(だれ)か、そばにいたか?」
チャラ男は首(くび)を傾(かし)げて、「さぁ、女の顔しか見てなかったもんで…」
目黒は鬼瓦に言った。「もう時間がない」目黒はスマホを出して、「彼女にGPSを渡(わた)してあるんだ。これで見つける。お前は、応援(おうえん)を要請(ようせい)してくれ」
<つぶやき>元刑事(もとけいじ)だからか、目黒は手際(てぎわ)がいいですね。でも、いつの間に渡したのか?
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