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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1094「メモ書き」

2021-07-10 17:44:25 | ブログ短編

 家に帰(かえ)ると部屋(へや)の中は真っ暗(くら)だった。いつもなら妻(つま)が居(い)るはずなのに…。部屋の明かりをつけると、テーブルの上にメモが置(お)いてあった。僕(ぼく)はそれを見て愕然(がくぜん)とした。
 メモには、〈実家(じっか)へ帰ります〉と書かれていた。この丸(まる)っこい字は妻のものだ。僕は、何がなんだが分からず、部屋中歩き回って考えた。だが、どう考えても妻を怒(おこ)らせることなんかしてないはずだ。今朝(けさ)だって、いつもと変わらず…。
「あれ…。今朝は…、妻と…何か会話(かいわ)したかなぁ?」
 きっと、これだ。妻のことを空気(くうき)みたいに扱(あつか)っていたのかもしれない。まずいぞ。ここは、やっぱり迎(むか)えに行かないと…。って、妻の実家は遠(とお)くて、日帰(ひがえ)りは無理(むり)じゃないか…。明日、会社(かいしゃ)に行かないといけないのに…。「そうだ。妻に電話(でんわ)して…」
 僕は妻に電話をかけた。すると、部屋の中でスマホの着信音(ちゃくしんおん)が…。妻は、そそっかしいところがある。スマホを置き忘れてるじゃないか…! 僕は頭をかかえた。これは、実家に電話するしかないだろう。でも、この時間だと…義父(おとう)さんが…。僕は、義父(おとう)さんが苦手(にがて)だ。妻が家を出たとなると、怒鳴(どな)られるのは間違(まちが)いない。
 突然(とつぜん)、電話が鳴(な)った。出てみると…妻からだった。「ねぇ、あたしのスマホ、そっちにないかなぁ。鞄(かばん)の中にないのよ。どっかに落(お)としちゃったのかなぁ…」
 僕は思わず叫(さけ)んだ。「僕が悪(わる)かった。謝(あやま)るから…、戻(もど)って来てくれ!」
<つぶやき>これって、ほんとに家出(いえで)したんですかぁ。お互(たが)いに、何か忘(わす)れていませんか?
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1093「寄生獣」

2021-07-08 17:46:39 | ブログ短編

 大きな鳥(とり)かごのようなものの中に若(わか)い女性が入れられていた。そこへ、彼女の名前(なまえ)を呼(よ)びながら若い男がやって来る。彼は、彼女を助け出そうとするが扉(とびら)が見つからない。今度は、白衣(はくい)を着た男が出てきて言った。
「お前だな。こいつに寄生(きせい)しているのは。さぁ、正体(しょうたい)をあらわすんだ」
 彼女が声をあげた。「あの、先生(せんせい)…。この人は…彼なんです。あたしたち、付き合って…」
 白衣の男は、「さあ、答(こた)えるんだ。こいつから搾取(さくしゅ)してるだろ? 正直(しょうじき)に答えろ!」
「俺(おれ)は、彼女の恋人(こいびと)なんだ。何も、彼女からもらってなんか…」
 彼女が口を挟(はさ)んだ。「えっ? それ、違(ちが)うよね。この間(あいだ)、お金(かね)、貸(か)したじゃない」
「ああ…、あれは…。返(かえ)すよ。今度、返すつもりでいたんだ」
「じゃあ、二か月前に貸したのも、一緒(いっしょ)に返してくれる?」
「えっ? それは…。えっ、そんなこと…あったか? いや、覚(おぼ)えてないけど…」
「はぁ? なに言ってるの。他(ほか)にも、うちに来たとき、あたしの財布(さいふ)から抜(ぬ)き取って…」
「いや、それは…。何だよ…、俺たち、恋人同士(どうし)だろ。それくらい…別(べつ)に…」
 彼は、大粒(おおつぶ)の汗(あせ)をかきはじめた。汗はダラダラと流れ落ち、彼の顔が崩(くず)れ始めた。どんどん人間(にんげん)ではないものに変形(へんけい)していく。そして、二人の前から逃(に)げ出してしまった。
 白衣の男は呟(つぶや)いた。「まったく、まともな男を見つけられないのか?」
 彼女は怒った顔で、「何で捕(つか)まえてくれなかったんですか? あたしのお金が……」
<つぶやき>これもある意味(いみ)、寄生ってことですかね。いったい何の実験をしてたのか?
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1092「同居人」

2021-07-06 17:39:00 | ブログ短編

 僕(ぼく)は格安(かくやす)のアパートを見つけた。今どき、この広(ひろ)さでこの家賃(やちん)は見つからないだろう。それに駅(えき)にも近いときている。そのことを友だちに話すと、それって事故物件(じこぶっけん)じゃないのかと、止(や)めるように言われた。でも、この安さは…。僕は、引っ越しを決意(けつい)した。
 引っ越しを終(お)えて翌日(よくじつ)、僕はすがすがしく目を覚ました。洗面所(せんめんじょ)で顔を洗って、ふと目の前の鏡(かがみ)を見ると、そこに…若(わか)い女性が写(うつ)っていた。僕は、はっとして振(ふ)り返った。僕の後ろには…誰(だれ)もいない。鏡を見ると…僕の姿(すがた)があるだけだ。今のは…何だったんだ?
 ――仕事(しごと)から帰って部屋(へや)に入ると、若い女性が…朝、鏡に写っていた女性が部屋の真ん中に座(すわ)っていた。僕に気づくと、その女性はテレビを指(ゆび)さして何かを訴(うった)えかけている。僕がテレビのスイッチを入れると、その女性は嬉(うれ)しそうに笑(わら)ってテレビに見入(みい)った。
 こ、これは、いわゆる幽霊(ゆうれい)ってヤツなのか? それにしても、リアルすぎる。普通(ふつう)の人間(にんげん)と変わらないじゃないか…。僕は、どうしたものかと考(かんが)えた。こうなったら、なれるしかない。若い女性の…同居人(どうきょにん)がいると思えば……。
 寝(ね)る時間になって、僕はベッドを見た。すると、いつの間(ま)にかそこに彼女が眠(ねむ)っていた。僕の気配(けはい)を感じたのか、彼女は身体(からだ)をずらして僕の場所(ばしょ)を空(あ)けてくれた。僕は、そっと布団(ふとん)に入る。でも、あまりの冷(つめ)たさに、僕は身震(みぶる)いが止(と)まらなくなった。
<つぶやき>こんなとこ絶対(ぜったい)に住(す)めません。でも、幽霊も普通に寝ることってあるのかな?
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1091「よみがえる」

2021-07-04 17:43:16 | ブログ短編

 彼女は目覚(めざ)めた。そこは、誰(だれ)もいない病室(びょうしつ)。彼女はふらふらと部屋(へや)を出ると外(そと)へ向かった。外は夜だった。夜風が心地(ここち)よく彼女の頬(ほお)をなでた。彼女は振(ふ)り返った。病院(びょういん)はまるで廃墟(はいきょ)のように暗(くら)く静(しず)まり返っている。
 彼女は、どこをどう歩いたのか、見覚(みおぼ)えのある場所(ばしょ)に出た。ある家の前で彼女は立ち止まり、玄関(げんかん)の呼鈴(よびりん)をならした。すると、中から中年(ちゅうねん)の男性が出てきた。扉(とびら)を開けた男は、彼女の顔を見て思わず呟(つぶや)いた。「姉(ねえ)さん……」男は我(われ)に返ると、
「す、すいません。あんまり似(に)てたもんで…。あの、どなたですか?」
 彼女は男の顔をまじまじと見て、「えっ、義之(よしゆき)なの? うそ、おじさんになっちゃって…」
「はぁ? あの、どうして僕(ぼく)の名前(なまえ)を…」
「もう、姉(あね)の顔を忘(わす)れたのか? なんてヤツだ。あんなに可愛(かわい)がってやったのに」
「まさか、ほんとに…姉さん? そ、そんなはずないだろ。だって、姉さんは…死(し)んで…」
「そうなのよねぇ。私、死んだはずよね。どうしてここにいるんだろ? ねぇ、母さんたちは? みんな元気(げんき)なの? もう、家が新しくなってるから、どうしようかと思ったわよ」
 彼女は家の中に上がり込んだ。男は彼女の後を追(お)いかけて、「親父(おやじ)とお袋(ふくろ)は旅行(りょこう)だよ。うちのヤツが子供(こども)と一緒(いっしょ)に連(つ)れてってる。俺(おれ)は…仕事(しごと)で行けなくて…」
「あんた、結婚(けっこん)したの? わぁ、良かったねぇ。結婚なんかできないと思ってたのに…」
「姉さん。死んでから、もう二十年たってるのに…。何か、思い残(のこ)したことでも…」
<つぶやき>彼女は若(わか)くして亡(な)くなったんですね。きっとやりたいこといっぱいあって…。
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1090「しずく133~ムリです」

2021-07-02 17:38:34 | ブログ連載~しずく

 水木涼(みずきりょう)が剣道場(けんどうじょう)に入ると、日野(ひの)あまりはいつものように雑用(ざつよう)に追(お)われていた。涼はあまりに声をかけた。周(まわ)りの部員(ぶいん)たちは二人に注目(ちゅうもく)した。涼が他の部員に声をかけるなんて、しかも下級生(かきゅうせい)に――。でも、一番驚(おどろ)いていたのはあまりかもしれない。
 ここで言っておかなければいけない。涼はこう見えて、人見知(ひとみし)りのところがある。親(した)しくなった人だといいのだが、そうでないと…。だから、他の部員たちとおしゃべりすることもできなかったのかもしれない。
 部員たちは、涼が何を言い出すのか固唾(かたず)を呑(の)んで見守(みまも)った。きっと、何かヘマをして怒(おこ)られるんじゃないかと、みんなは思っていたのだろう。だが、涼の方は…。次(つぎ)の言葉(ことば)が出てこない。さて、何を話せばいいのか…。声をかけた手前(てまえ)、何か話さなければ――。
 苦(くる)し紛(まぎ)れに出てきたのは、「相手(あいて)をしてやるから…、防具(ぼうぐ)を着(つ)けろ」
 運動部(うんどうぶ)である。先輩(せんぱい)の言ったことには逆(さか)らえない。部員たちはすぐに動いた。もちろん、駆(か)け足である。あまりは部員たちに押(お)し出されながら、
「水木先輩、ちょっと待ってください。わたし、ムリです。だって、わたしなんかじゃ…」
 有無(うむ)も言わせず防具を着け面(めん)をかぶせられる。こうなったら、もう覚悟(かくご)を決(き)めなければならない。あまりは心の中で呟(つぶや)いた。
「もうイヤだ~ぁ。何でわたしが…。こんなことしなきゃいけないのよ」
<つぶやき>あまりは何で剣道部に入ったのかな。強くなりたかったんじゃなかったの?
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