その娘(こ)は、クラスの中でも目立(めだ)たない存在(そんざい)だった。いつもそこにいるのに、なぜかみんなの印象(いんしょう)に残(のこ)らない。いてもいなくても、別にどうってことのない娘(むすめ)だった。
その娘(こ)が一度だけ、その存在(そんざい)を印象(いんしょう)づけた事件(じけん)があった。それは、カンニング疑惑(ぎわく)だ。別に、彼女がやったわけではない。テストの後にカンニングペーパーが見つかったのだ。最初(さいしょ)に疑(うたが)われたのは、たまたまテストの点数(てんすう)が良かった男子だ。
みんなはその男子を問(と)い詰(つ)めた。だが、彼は否定(ひてい)し続けた。全くの濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だと――。
そこで、あの目立たない娘(むすめ)が登場(とうじょう)する。彼女はカンニングペーパーを見て呟(つぶや)いた。
「これ、ほんとにカンニングペーパーなのかな?……」
みんなの視線(しせん)が彼女に注(そそ)がれた。彼女は、おどおどしながらも先(さき)を続けた。
「だって…、ここに書いてあるのって、全部(ぜんぶ)、テストに出た問題(もんだい)の答えだよね。誰(だれ)も、テストにどんな問題が出るのか知らないわけでしょ。これがテストの前に作られたカンニングペーパーなら、もっと他の問題の答えが書かれてないとおかしいと思うの」
みんなは一同(いちどう)にうなずいた。確(たし)かに、彼女の言っていることに矛盾(むじゅん)はない。
「あたし、思うんだけど…。これは、テストが終わってから、誰(だれ)かが答え合わせをするために書いたんじゃないかしら? きっと、そうだと、あたしは思うわ」
この目立たない娘は、今では名探偵(めいたんてい)と呼(よ)ばれる女性に成長(せいちょう)していた。
<つぶやき>彼女にとって、その後の人生(じんせい)を決めるような出来事(できごと)だったのかも知れません。
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