玄関(げんかん)の扉(とびら)が開くと、真理(まり)が満面(まんめん)の笑顔(えがお)で二人を迎(むか)え入れた。陽子(ようこ)と久美(くみ)は部屋の中に入るなり、目を丸(まる)くして口を揃(そろ)えて言った。「どうしちゃったの? 何にもないじゃない」
真理はさっぱりと答(こた)えた。「いい機会(きかい)だから、必要(ひつよう)な物だけにしようと思って」
「それにしたって」陽子は部屋を見回して、「生活感(せいかつかん)まったくないわよね」
「そうねぇ」久美は呆(あき)れたように、「減(へ)らしすぎじゃないの? こんなんで…」
「引っ越し屋さんも驚(おどろ)いてたけど、これで案外(あんがい)、大丈夫(だいじょうぶ)みたいよ」
真理はけろりと言い放(はな)った。以前(いぜん)の彼女の部屋を知っている二人は、信じられないという顔つきで見つめ合った。真理がお茶の支度(したく)で台所(だいどころ)へ立つと、小声でささやき合った。
「どうしちゃったんだろ? もしかして、ふられたとか…。辛(つら)いことあったのかな?」
「あたし、知らないわよ。真理って、誰(だれ)かと付き合ってたの?」
そこへ真理が戻(もど)って来て、「なによ、なに話してるの?」
陽子は話しをそらすように、「ここって、駅(えき)が近いから便利(べんり)じゃない?」
「そうなのよ。それに、家賃(やちん)も思ったより安(やす)いんだ。助(たす)かっちゃうわ」
久美はつい言ってしまった。「私たちいるから。もし何かあったらいつでも言って。足(た)りないものは、これから買いそろえていけばいいんだから」
「それはいいかなぁ。知ってる? 何にもないのって、すっごく気分(きぶん)が良いのよ」
<つぶやき>彼女に何があったのでしょうか? でも、詮索(せんさく)するのはやめておきましょう。
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