みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1039「お袋の味」

2021-03-04 17:53:30 | ブログ短編

 あたしは彼との結婚(けっこん)を機(き)に、彼の故郷(ふるさと)へ行くことになった。これは、彼に欺(だま)されたようなものだ。だって、〈俺(おれ)のこと愛してるなら、一緒(いっしょ)に来てくれるよな〉なんて言われたら…。
 あたしたちは、彼の実家(じっか)の近くに部屋(へや)を借(か)りることにした。当然(とうぜん)のことながら、彼はちょくちょく実家へ帰っていく。そして、お義母(かあ)さんも毎日のようにやって来る。あたしは別に、お義母さんのこと嫌(きら)いなわけでもないし、彼の家族(かぞく)だもの…あたしは好(す)きよ。でも…。
 お義母さんは来る度(たび)に手料理(てりょうり)を運(はこ)んでくれる。でも、あたしにはお義母さんの味付(あじつ)けは…、濃(こ)すぎるのだ。醤油(しょうゆ)と砂糖(さとう)をたっぷり使って…。これは地域(ちいき)の差(さ)だと思うんだけど、あたしの家では薄味(うすあじ)だったので、どうしてもこの味には馴染(なじ)めなかった。
 毎日の食事(しょくじ)のとき、あたしは思い知らされるのだ。彼は、必(かなら)ずお義母さんの料理から食べ始める。そして、あたしの作ったのは残(のこ)される。彼が言うには、お義母さんのおかずでお腹(なか)がいっぱいになるんだって。もう、ひどいと思わない? だって、結婚前は、あたしの作った料理を美味(おい)しいって、残さず食べてくれたのに――。
 これはもう諦(あきら)めるしかないのか…。だって、彼が子供の頃(ころ)から食べている味だもの、あたしにはとても太刀打(たちう)ちできるわけない。こうなったら――。あたしは、お義母さんに料理を教わることにした。先(ま)ずこの家の味を覚(おぼ)えて、それからよ。子供ができる頃には、この家の味をあたし好(ごの)みに変えてみせるわ。きっとよ。
<つぶやき>嫁(よめ)の挑戦(ちょうせん)は続(つづ)くのでした。きっと、彼女の味が我(わ)が家の味になるはずです。
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