私は見知(みし)らぬ女性から声(こえ)をかけられた。どうやらその女性は、私のことを知っているようだ。だが、私の方はどこで会(あ)ったのか思い出せない。まったく記憶(きおく)にないのだ。
その女性は私に向(む)かって言った。「どうして連絡(れんらく)してくれなかったのよ」
なんの連絡だ? 私には思(おも)い当(あ)たることがまったくない。
「あたしに…あんなことしておいて、とぼけるんですか?」
あんなことって…なんだ? 私は、何を言っているのかまったく分からないと答(こた)えた。するとその女性は目を吊(つ)り上げてまくしたてた。
「はぁ? そうやって逃(に)げるんですか? あたしのこと、もてあそんだのね!」
女性は私の胸(むな)ぐらをつかんで、「こら、坂巻(さかまき)! 今になってとぼけんじゃねぇぞ!」
私は女性の豹変(ひょうへん)ぶりに腰(こし)が引(ひ)けてしまった。でもこのままではぬれぎぬを…。私は、
「ちょっと待(ま)ってくれ。私は山本(やまもと)だ。サカマキなんかじゃない。人違(ひとちが)いじゃないのか?」
「ははぁん。偽名(ぎめい)を使(つか)ったのね。逃げようとしても、その顔(かお)はちゃんと覚(おぼ)えてるから…」
「だから…、本当(ほんとう)に知らないんだ。君(きみ)とは、会ったことはないはずだ」
「ウソつくんじゃないわよ。今夜(こんや)、いつもの店(みせ)で待ってるから。絶対(ぜったい)に来(き)なさいよ!」
女性は私を睨(にら)みつけて行ってしまった。私はホッと胸(むね)をなで下ろした。でも…、いつもの店って…どこなんだ? 私は何も聞(き)かなかったことにした。
<つぶやき>自分(じぶん)とそっくりな人が三人はいるって言いますから…。そんなことなのか?
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