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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1454「臨床試験」

2024-04-16 18:15:27 | ブログ短編

 男は妻(つま)から勧(すす)められたサプリメントを口に入れると言った。「あの薬(くすり)は完成(かんせい)したのか?」
 前に立っていた女がそれに答(こた)えて、「はい、臨床試験(りんしょうしけん)は間(ま)もなく終了(しゅうりょう)の予定(よてい)です」
「そうか…」男は顔(かお)をしかめるとコップの水を口に流(なが)し込んで、「まったく、なんて苦(にが)いサプリだ。こんなのが身体(からだ)にいいとはとても思えんなぁ」
 女はメモを取りながら、「分かりました。善処(ぜんしょ)します」
 男は手を振(ふ)って、「ああ…、こっちの話しだ。気にせんでくれ。私の身体のことを気にかけてくれるのはいいんだが…。妻は、どうも心配性(しんぱいしょう)なんだよ」
 女は気を使ってか、「お優(やさ)しい奥様(おくさま)なんですね。あたしには、とてもそこまで…」
 男は真面目(まじめ)な顔になり、「この薬が完成すれば、この国のいろんな問題(もんだい)が一気(いっき)に片(かた)づくはずだ。そして、私は総理(そうり)への道(みち)を駆(か)け上ることができる。一石二鳥(いっせきにちょう)じゃないか」
 女は肯(うなず)きながら、「確(たし)かに。医療(いりょう)の進歩(しんぽ)で高齢者(こうれいしゃ)が増(ふ)え続(つづ)けていますから…。高齢者を苦(くる)しませずに減(へ)らすことができれば、若者(わかもの)たちへの負担(ふたん)も軽減(けいげん)できるはずです。何て素晴(すば)らしい考えでしょう。こんな仕事(しごと)に携(たずさ)わることができて、あたしはすごく…」
 その時、男は胸(むね)を押(お)さえてデスクにうつ伏(ぶ)せになった。女は駆(か)け寄ると声をかけた。
「苦(くる)しいですか? 答えて下さい。いま、どういう感(かん)じですか? ねぇ答えて!」
 男は顔をあげると、「君(きみ)…。まさか…私に…? つ、妻が命令(めいれい)したのか?」
<つぶやき>こんな薬を使う世界(せかい)って…、どうなんでしょうか。あなたはどう思いますか?
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1453「とある公園」

2024-04-08 18:01:04 | ブログ短編

 彼女は家の近くの小さな公園(こうえん)を通って家に帰っていた。こっちの方が近道(ちかみち)なのだ。
 ある日のこと、彼女は公園のベンチに空(うつ)ろな目をしたおじさんが座(す)っているのを見かけた。確(たし)か、昨日(きのう)もここに座っていたはず。洒落(しゃれ)た身(み)なりのおじさんなので、彼女の記憶(きおく)に残(のこ)っていた。
「どうしたのかな?」彼女はちょっと気になった。でも、話しかける勇気(ゆうき)はなかった。
 次の日も、そのおじさんは同じベンチに座っていた。今日は従兄(いとこ)が一緒(いっしょ)だったので声をかけてもらった。すると、そのおじさんは二人の方を見て言った。
「君(きみ)たちは…わしのことが見えるのかい?」
 おかしなことを言うなと、二人は顔(かお)を見合(みあ)わせた。彼女はますます気になって、
「あの…、おじさんってずっとここにいるよね。どうかしたんですか?」
 おじさんは微(かす)かに口元(くちもと)を緩(ゆる)めると、「ああ…ちょっと休(やす)んでるとこだ。これから、遠(とお)くへ行かないといけないからなぁ」おじさんは上を指差(ゆびさ)してにっこり微笑(ほほえ)んだ。
 二人はつられて上を見上(みあ)げる。すると、何かきらきらしたものが舞(ま)い上がっていくのが見えた。二人が目を戻(もど)すと、ベンチには誰(だれ)もいなかった。彼女は思わず従兄の腕(うで)にしがみついた。従兄は、彼女の手に優(やさ)しく触(ふ)れると言った。
「行ってしまったね。さあ、二人で手を合わせてあげようよ」
<つぶやき>この公園は霊(れい)の休憩場所(きゅうけいばしょ)なのかもしれません。静(しず)かに見守(みまも)ってあげようね。
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1452「なにものでもない」

2024-03-31 18:15:32 | ブログ短編

 私は特別(とくべつ)な人間(にんげん)ではない。地位(ちい)や名誉(めいよ)を求(もと)めていないし、金持(かねも)ちになりたいとも思わない。子供(こども)の頃(ころ)、親(おや)や親戚(しんせき)、周(まわ)りの大人(おとな)たちは、将来(しょうらい)のために勉強(べんきょう)しろとか、何か目標(もくひょう)を持てとか言ってたけど、まだ子供だった私にはピンとこなかった。でも、夢(ゆめ)がなかったわけではないと思う。今となっては、もう忘却(ぼうきゃく)の彼方(かなた)に行ってしまっているが…。
 私は夢を否定(ひてい)しているわけではない。憧(あこが)れるものがあるのならそれを極(きわ)めればいい。どんどん夢に向かって突(つ)き進(すす)め。やりたいようにやればいい。でも、それは私とはまったく関係(かんけい)のない話しだ。私は何かになりたいとは思わなかった。
 私は怠(なま)けようとか思っているわけではない。普通(ふつう)に仕事(しごと)をしてお金を稼(かせ)いで、日々平穏(ひびへいおん)に暮(く)らすことができればそれでいいと思っている。その暮らしの中で、ちょっとした幸(しあわ)せを感じることができればそれで満足(まんぞく)だ。
 私にとってこれはごく普通の生き方だ。無理(むり)してなにものかにならなくてもいいじゃないか。私はそう思う。私はこういう人間でいたいのだ。誰(だれ)が何と言おうとも…。
 私は、自分の考えを誰かに押(お)しつけようとは思っていないし、これを声高(こわだか)に主張(しゅちょう)するつもりもない。人それぞれの生き方があるはずだ。誰かの真似(まね)をしてもつまらない。私は、私だけの生き方を貫(つらぬ)くつもりだ。それが正解(せいかい)かどうかは分からないけど…。
 さあ、今日も一日が始(はじ)まる。今日をせいいっぱい楽(たの)しもう。
<つぶやき>生きるということは難(むずか)しいことですね。楽しむことだけは忘(わす)れないように…。
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1451「抑えきれない」

2024-03-23 17:48:34 | ブログ短編

 彼女はちょっとやっかいな人だ。平気(へいき)で嘘(うそ)をつく。でも、僕(ぼく)は知っている。そんな時の彼女は、人恋(ひとこい)しく思っているときなのだ。誰(だれ)かにそばにいて欲(ほ)しいから、人を困(こま)らせるようなことを言ってしまう。彼女と知りあったときから、僕はそのことに気づいていた。
 他の人たちはそんな彼女を悪(わる)く言うけど、僕はそんなこと思わないし彼女の味方(みかた)でいたいと決(き)めている。彼女は人付(ひとづ)き合いが苦手(にがて)なだけなんだ。思っていることの半分(はんぶん)も口(くち)に出せない。だから他の人から誤解(ごかい)されてしまうのだ。
 ある日のこと…。それは、僕が女友だちと一緒(いっしょ)にいたときだ。突然(とつぜん)、彼女がやって来て、僕に向かって怒(おこ)りだした。僕は彼女をなだめようとした。すると今度は隣(となり)にいた友だちに鉾先(ほこさき)を向けた。僕は止(や)めさせようとして、彼女を突(つ)き飛(と)ばしてしまった。尻餅(しりもち)をついた彼女は目に涙(なみだ)をためて、くしゃくしゃな顔で駆(か)け出して行った。
 それから、彼女と顔を合わすことがなくなった。どうやら僕のことを避(さ)けているようだ。僕は彼女に謝(あやま)りたいと思っているのに…。そこで僕は彼女のことを待ち伏(ぶ)せすることにした。彼女の行きそうなところは分かっている。そして、それはすぐに実現(じつげん)した。
 僕が謝ると、彼女は口をへの字に曲(ま)げて何か言いたそうにしていた。僕は彼女が言い出すのを待っていた。すると今度はぼろぼろと泣き出してしまった。僕は困った。こんなことは初めてなのだ。僕は、彼女に近づき…。そっと彼女を抱(だ)きしめた。
<つぶやき>彼女は、彼のことが好きになってしまったのか。彼に伝(つた)わるといいですね。
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1449「入れ替わり」

2024-03-07 18:01:24 | ブログ短編

 とある飲(の)み屋で知り合った若(わか)い男女。何度(なんど)か顔を合わせるうちに親(した)しくなって、どうやら意気投合(いきとうごう)したようだ。何でも話せるくらいの仲(なか)になったとき、女は男に愚痴(ぐち)をこぼした。
「もし、あたしが男だったら、もっとやりがいのある仕事(しごと)ができるのに。不公平(ふこうへい)だわ」
 男は相(あい)づちをしながら、「そうか…。君(きみ)は、男になりたいのかい?」
「えっ? いいえ、そういうことじゃなくて…。女だと、仕事で成果(せいか)を出しても認(みと)めてもらえないのよ。ぜんぶ、男が手柄(てがら)を持っていっちゃうの。もう、仕事辞(や)めちゃおうかなぁ」
 どうやら、女は酔(よ)っ払っているようだ。男は、そんな彼女にある提案(ていあん)をした。
「どうだろう…。君が受(う)け入れてくれるなら、僕(ぼく)と身体(からだ)を入れ替(か)えないかい?」
 女は首(くび)を傾(かし)げて、「あなた、何を言ってるの。そんなこと、できるわけないでしょ」
「それがね。できるんだよ。君は男になれるんだ。僕の提案に合意(ごうい)してくれればね」
 女は一笑(いっしょう)すると、「もう、あたしをからかってるの?」
「からかってなんかいないよ。君、男になって、やりがいのある仕事をやってみないか?」
 女はしばらく考(かんが)え込んでいたが、「分かった。じゃあ、あたし、男になる!」
 翌朝(よくあさ)、目を覚(さ)ました女は飛(と)び起きて言った。「ここは…どこよ? あたし…」
 そこは、どうやら男の部屋(へや)のようだ。昨夜(ゆうべ)、何があったのかまったく思い出せない。女は、身体に違和感(いわかん)を感じた。目線(めせん)を下げると、胸(むね)の膨(ふく)らみがなくなっていた。
<つぶやき>これはキャーだよ。でも、これから新しい人生(じんせい)を始めることになるんだよね。
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