徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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難民危機~ドイツ亡命法厳格化本日連邦議会で可決

2015年10月15日 | 社会
9月26日のブログ記事「難民危機 ヨーロッパ、とくにドイツの対策」で既に紹介したドイツ内閣・州首相会議での亡命法改正案が本日、10月15日、連邦議会で多少の変更を経て、賛成多数(賛成475、反対68、棄権59)で可決されました。改正法案は数日中にドイツ連邦参議院で審議・可決され、11月1日には発効する予定です。

 ベルリンで難民登録を待つ行列 © Kay Nietfeld/AP/dpa

亡命法改正法案の内容を以下にご紹介します。

1.安全な出身国
コソヴォ、アルバニア、モンテネグロは新たに安全な国リストに加えられます。安全と認定された国から来た人の難民申請は、その反対が証明されるまで「明らかに理由がない」とみなされます。今回の改正で西バルカンの全ての国が「安全な国」となります。
「安全な国」出身者がドイツで難民または亡命申請をする場合は、その審査手続きが終了するまで各州の臨時収容施設に留まることが義務付けられます。臨時収容施設は兵舎、体育館、旧工場や旧ホームセンターなどで、最悪の場合テントです。そういうところで審査手続き終了までの数か月過ごさなければならないわけです。また今までは入国から最初の3か月が過ぎた後は就労が許されていましたが、法改正後は審査期間中就労不可となります。

難民の代わりに労働移民
バルカン諸国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソヴォ、マケドニア、モンテネグロ、セルビア)出身者は、難民申請ができなくなる代わりに、仕事のオファーがある場合は合法的にドイツに入国できるようになります。今まではドイツで不足している専門職や高級職の人にしか開かれていなかった道ですが、今後は低学歴でも可能となります。
ただし、求人に対して同じ経歴を持つドイツ人が応募者の中にいる場合は、ドイツ人が優先されます。バルカン諸国出身者が同年に既にドイツで難民申請をしていた場合は、一度国外退去して、祖国からドイツの求人に応募する必要があります。

2.現金支給の代わりに現物支給

これまでは州と市町村が難民申請者に宿泊先、衣服及び食料品などを提供し、更に現金月143ユーロ(約1万9400円)支給していましたが、この現金支給分が今後は商品券などの現物支給に切り替えられます。この改正により、支給された現金(いわゆる「お小遣い」)を難民審査手続きが終わるまで貯めて、審査終了後この貯金を祖国へ持って帰るなどの悪用を防ぐことが目的です。

現金支給を維持するか現物支給に切り替えるかは今後州の自由裁量で決定できることになります。

3.連邦からの助成金

市町村は法改正後受け入れた難民一人当たり月670ユーロの助成金を国から受け取ることになります。この助成金は難民申請者の宿泊先調達や食料支給及び市町村職員、保育士、教師の新規雇用に充てられます。バイエルン州ではすでにこの助成金で官庁職員及び警察官3772人の増員を決定しました。

連邦移住難民庁の見積もりでは年間80万人の難民申請者がドイツに来ると想定して、約30億ユーロの難民助成金が必要となると見られています。
ジグマー・ガブリエル経済・エネルギー相は既に年間100万人以上と予想しています。助成金は難民の数によって変わるので、国の負担総額が見積もりより多くなる可能性もあります。
また各州は低価格住宅の建設のために、国から5億ユーロの助成金を受け取ります。
更に3億5000万ユーロの助成金が両親不帯同でドイツに入国した未成年者の手当と収容のために各州に支給されます。

4.スピーディーなインテグレーション

認可の可能性が高い難民申請者は早急にインテグレーションプログラムに参加できるようになります。また派遣労働者として働くことも許可されます。
ただし、新しいインテグレーションプログラムや語学コースがまず組織されなければいけません。そのための教師が不足しています。
派遣労働が可能になることで労働市場へのインテグレートが早まる可能性はありますが、低賃金セクターから抜け出せなくなるリスクもあります。

5.ヘルスカード

社会民主党(SPD)と緑の党が連立政権を持つブレーメン、ハンブルク及びノルトライン・ヴェストファーレン州では既に難民申請者のためのヘルスカードがありますが、それ以外の州では難民申請者は医者にかかる前に役所で証明書をもらわなければならず、それが認められるのは緊急事態の時だけです。ヘルスカードを全州で導入することで、それが改善され、一般の健康保険の被保険者のようにカードをもって医者に掛かり、料金は医者と保険会社の間で生産されるようになります。ただし保険料は州あるいは市町村が負担することになります。

全州でのカード導入の義務付けは保守党キリスト教民主同盟(CDU)及びキリスト教社会同盟(CSU)が反対したため、カード導入は各州の自由裁量に任されることになりました。反対の背景にはもちろん医療コストの急な上昇のリスクがあります。

6.臨時収容施設の滞在期間延長

臨時収容施設の滞在期間はこれまで最長3か月に制限されていましたが、最長6か月に延長されることになりました。この決定の背景には、難民申請者を市町村に配分する前に審査手続きを完了し、不認可の場合は臨時収容施設から直接祖国送還できるようにするという目論見があります。しかし臨時収容施設はプライバシーがない上に定員を大幅に超過して難民たちが収容されており、頻繁に暴力沙汰やレイプなどの犯罪が起こっているため、そういうところでの滞在期間延長は人道的とはいいがたいです。
難民審査手続きの簡素化及び最長3か月を目標にすることが同時に決議されているので、この3か月目標が本当に達成されれば、これまで通り3か月で臨時収容施設から出られて、普通のアパートなどに移れるようになるはずですが、人員増員するにもそれなりに時間がかかりますし、溜りに溜っている難民申請25万件の山を処理するのにも増員後数か月はかかるのではないでしょうか。その上次々と新たな難民が到着しているので、当分3か月で審査終了というのは夢物語にすぎないでしょう。速くなるのはバルカン諸国出身者の審査だけに違いありません。

臨時収容施設に関しては、冬に対応した収容場所15万人分(現在の4万5千人分の代わりに)拡張するために国が補助することを確約しました。その為に国はあらゆる国有地所を必要に応じで即座に無償で提供し、収容準備のための費用も負担するとのことです。

7.国外退去・送還

難民申請が不認可となった人のうち国外退去が明らかに可能な人に対しては、住居・食料などの提供を最低限に抑制し、速やかな退去を促します。
この場合、「社会給付は本人の需要に応じて人間らしい必要最低限の生活が保障されるべきであり、移民政策的な道具として使われてはならない」という2012年の連邦憲法裁判所の判決に反する可能性があるため、かなり批判されています。

国外退去が遅れる理由として、役所や警察の人員不足や飛行機などの容量不足、あるいは本人が有効なパスポートを持っていないまたは病気であるなどが挙げられます。このような場合は難民申請が不認可となった後も滞在が容認されており、それが不認可難民送還率の低さにもつながっています。
送還率を上げるため、難民法改正法案によって予告なしの送還も可能となりました。送還予告を受けた不認可難民たちが直前で行方不明になってしまうのを阻止するためですが、送還自体が大きな心理的負担となるのに、それを予告なしで、例えば真夜中に行われるとしたらより残酷な措置となる、という批判もあります。やはりそこは個々の事情を十分に考慮するべきでしょう。

以上の点の他に、難民収容施設の建設を速めるために複雑な建設法規を一部緩められることが決まりました。

改正法案には難民たちにかなり厳しい状態を強いるものが含まれています。「歓迎する文化(Willkommenskkultur)」といって暖かく難民たちを迎えたその精神はどこかへ消えてしまったようです。
難民申請をする権利のない人たちを早急に国外追放したい、またこれ以上そういう人たちが来ないようにしたい、という意図は理解できますが、だからといって、一律臨時収容施設の滞在期間を延長してしまうのは考えものですし、ただでさえ少ない難民支援(お小遣いなど)を不認可になったからと言って個々の事情を十分に考慮せずに給付を抑制するのも問題です。こういう場面でははっきりと給付短縮対象とその前提条件を具体的に決めて各担当部署に指示を配布しておかないと、杓子定規になりがちなお役所仕事のせいでとんでもない悲劇を生み出すことになってしまいます。願わくば役人の一人一人に人道主義が行き渡るように対策を講じてもらいたいものです。

さて、本日は連邦議会での亡命法改正法案審議と同時に欧州難民サミットも開かれました。そちらの方はヨーロッパ対外国境の守護を強化することとその際に欧州対外国境管理協力機関Frontexが中心的役割を果たすこと以外の合意は得られなかったと言っていいので、詳しく言及するに値しないと考え、ここでは割愛させていただきます。
また新たな進展、例えばトルコとの交渉など、があればブログで報告したいと思います。