ハロウィーンの語源は'All hallow evening'(諸聖人の日前夜)で、後ろの語が詰まってHalloweenとなりました。諸聖人の日である11月1日の前夜に行われるお祭りなわけですが、始まりはアイルランドのカトリック教徒のお祭りでした。とはいえ、本来はキリスト教徒は関係のないケルトのお祭りサムハイン祭がキリスト教改宗後にも形を変えて生き延びたのではないかと言われています。死者が帰って来ると言われる収穫期、幽霊に変装して仲間のふりをし、食べ物を供えたのです。かぼちゃを飾るのもアイルランドが起源です。
アイルランドからはたくさんの人がアメリカへ移住したので、このお祭りも一緒にアメリカに輸入され、当地でアイルランド移民以外にも受け入れられ、現在に至っています。
ドイツは本来ハロウィーンのお祭りとは無縁でした。10月31日はプロテスタントの「宗教改革記念日」で、プロテスタントの多い州では祭日。そして11月1日「諸聖人の日」はカトリック教徒が多い州で祭日。ベルリンだけはどちらも祭日ではありません。私の同僚はベルリンにもいますが(大企業ならでは)、毎年この二日を働き続けなければならないことに不平を漏らしています。
それはともかく、10月31日はドイツ・カトリック教徒にとっては何もない日だったのですが、1990年代にアメリカ風ハロウィーンはまずはフランス、それから南ドイツで取り入れられるようになりました。その後徐々にハロウィーン商戦のマーケティング効果もあって、ヨーロッパ全体に普及しつつあるようです。
私の住むノルト・ラインヴェストファーレン州でハロウィーンかぼちゃが目立つようになったのはこの5・6年くらいのことで、自治体によっては子供たちのための催しとして'Trick or Treat'の仮装行列を行うようになりました。ただのお祭り騒ぎなので、宗教的意味合いはなく、参加者も色んな宗教の信者あるいは無宗教だったりします。仮装行列自体はカーニバルのノリで、各家を回って'Trick or Treat'と言ってお菓子をもらうのは聖マルティンの日のノリみたいです。つまり、ドイツの子どもたちにとっては楽しく仮装して練り歩く機会が一つ増えただけなんですね。
ただし、地域によってはアメリカ風ハロウィーンのような催しが諸聖人の日といういわゆる「沈黙の祭日」にそぐわないとして禁止されています。「沈黙の祭日」は州によって多少の違いがありますが、有名なものではKarfreitag(カール・フライターク、復活祭前の金曜日)のダンス禁止があります。
「宗教改革記念日」は、かのマルチン・ルターが1517年10月31日にヴィッテンベルク城教会の正面扉にラテン語で書かれた『95箇条の論題』を貼り付け、免罪符販売などカトリック教会の腐敗を批判し、新宗派を創立するきっかけとなった事件を思い起こすための日です。
Wittenberg Thesentuer Schlosskirche von AlterVista
その日はプロテスタント系の教会でミサが行われ、マルチン・ルター作詞作曲の'Nun freut euch, lieben Christen g’mein'(「さあ、ともに喜べ、愛するキリスト教徒たちよ」という意味ですが、日本のプロテスタント系教会でどのように翻訳されているかは確認していません)などが歌われます。ハロウィーンと同日の祭日ではありますが、趣旨からいって、ハロウィーン的バカ騒ぎの対極にあると言っていいでしょう。
つまり、アメリカ風ハロウィーンは、ドイツ・カトリック教徒にとってもドイツ・プロテスタント教徒にとっても全く「そぐわないもの」なので、近年の若者の「ハロウィーン熱」に両教会とも渋い反応を示しており、ハロウィーンを伝統的な宗教的枠内で説明し、すたれそうな伝統行事のリヴァイヴァルを計ろうと必死なようです。とはいえ、沈黙の祭日も、ただミサで賛美歌を歌うのも若い人たちにはかび臭く感じられてしまうのではないでしょうか。
因みに各家を回ってお菓子をもらうドイツの伝統行事「聖マルティンの日」は11月11日で、聖マルティン行列の日の夕方か、自治体によっては別の日に子供たちがランタンを持って各家を訪問し、聖マルティン賛美歌を歌って、お菓子やその他のプレゼントをもらうというカトリックの行事です。ドイツ語の行事の名称はMartinssingen(マルティンを歌う)です。
プロテスタント教徒の多い北ドイツではマルティン・ルターの誕生日である11月10日にランタンを持って各家を訪問し、「ランタン」の歌を歌って、お菓子やその他のプレゼントをもらいます。紛らわしいですが、ドイツ語の名称はMartinisingenで、意味はMartinssingenと同じですが、マルティンと後部のジンゲン(歌う)を繋げる文法的な方法に違いがあります。北ドイツ方言ではSünne Märten、Mattenherrnなどの呼び方もあり、両者を混ぜて略したMatten Mär'nということもあるようです。MärtenもMattenもMartinがなまった形で、マルティニジンゲンで歌われる歌の歌詞に登場するので、それがそのまま行事の名称となったのでしょう。北ドイツのマルティニジンゲンはカトリックのマルティンスジンゲンとは違い、歌を聴いてもお菓子をあげなかった家には後でいたずらをすることになっていますので、ハロウィーンの'Trick or Treat'近いものがあります。
こうしてドイツの伝統行事を見てみると、ハロウィーンとの相性は悪いようですが、前者は教会主導、後者は学校や町内会や個人の主催なので、併存は可能のようです。2週間の間に2度も訪問を受ける各家ではちょっと迷惑な話かもしれませんが。
私は個人的な好みで言えば、やはり「歌を歌ってお菓子をもらう」伝統行事の方がいいですね
上にハロウィーン商戦のマーケティング効果と述べましたが、実際ハロウィーン関連のグッズの売れ行きは良好で、年間2億ユーロの市場です。うち2800万ユーロはハロウィーン衣装やメイク用品が占めています。またドイツスィーツ工業連合会は今年のハロウィーン特別製品で約1000万ユーロの売り上げを予想しています(ZDFホイテの本日付のニュースより)