徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (3)

2015年10月13日 | 社会
EEG(再生可能エネルギー法)賦課金って何?

EEG賦課金とは消費者から見た場合、電気料金に含まれる税金のようなもので、いわゆる「エネルギー転換」のコスト、ともいえます。2015年度はkw当たり6.17セント(8.42円)です。

EEG賦課金の算出方法は基本的に、買取価格 ― 販売価格です。

再生可能エネルギーのkw当たりの買取価格は、設備稼働開始年度と太陽光か風力かの種類によって決められます。基本的に設備稼働開始から20年間の定額買取が保証されていますが、買い取り価格は年々下がる一方で、今年は去年の半額となったため、新たな設備投資は急激に減少しました。
販売価格は電力取引市場EPEXで電力を販売した場合に得られるkw当たりの価格です。買取価格の方が販売価格よりも高くなるのはこのシステム導入時からのことですが、2015年9月は記録的な安値、kw当たり平均3セント(約4.1円)以下となり、買取価格との差額が大きくなるので、またしてもEEG賦課金増額が不可避となるでしょう。翌年度のEEG賦課金額は毎年10月15日に決定されます。

再生可能エネルギー協会(AEE)が調査会社Emnidに委託した、9月の世論調査によると、EEG賦課金額が「適切」または「低すぎる」と回答した人が63%で、「高すぎる」と答えた36%を大きく上回っていました。
いくらエネルギー転換が重要と考えていても、このままEPEXでの電力取引価格が低迷すれば、消費者の負担が増加し続けることになるため、いずれEEG賦課金額を高すぎると考える人たちが適切と考える人たちを上回ってしまうかもしれません。

EEG賦課金の問題点
EEG賦課金の制度上の欠陥として、まず電力を「定額」買取するにもかかわらず、自由市場における変動価格で電力を販売するため、助成金の役割を果たすEEG賦課金のための支出に変動が起きやすく、計画しにくいことが挙げられます。
次に賦課金の不均等な配分が挙げられます。本来は電力消費の激しい鉄鋼業などの企業が国際競争力を失わない事を目的とした賦課金の負担軽減特例でしたが、2013年度よりこの軽減特例の恩恵に与れる対象企業が著しく拡大され、その企業に割引された分だけ個人消費者の負担分が増えるというゆがみが生じてしまいました。
軽減特例の基準は、年間電力消費量1ギガワット時以上で、生産コストの14%以上を占める場合、賦課金の90%が免除されます。10ギガワット時以上100ギガワット時未満で99%の免除、100ギガワット時以上で1kw当たりの賦課金0.05セントとなります。この特例によって免除される額は年間約25億ユーロと見積もられています。つまり電力消費の少ない企業や個人消費者は25億ユーロ(約3408億円)余計にエネルギー転換のために貢献していることになります。
環境保護の観点から言えば、電力を大量消費する企業こそペナルティとしてより多くEEG賦課金を払うべきですが、ここで働いているのは環境保護ロジックではなく、残念ながら経済ロジックです。このEEG賦課金減免は明らかに企業優遇であり、欧州委員会は「国の助成金」とみなして問題視しています。このような矛盾は、当時連立与党だった自由民主党(FDP)の経済優先主義のたまものです。この政党の自由は新自由主義の自由、民主の民には資本家のみが含まれる、というような政党ですので、さもありなんな政策でした。因みに自由民主党(FDP)は前回の連邦議会選挙で得票率5%の壁を超えることができず、連邦議会に議員を送り込むことができませんでした。

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (2)

2015年10月11日 | 社会

ドイツはフランスから原発電力を輸入している?!
「ドイツは脱原発してもフランスから原発電力を輸入している」というのもよくある誤解というか、原発推進派のミスリードと思われる情報ですが、この主張はドイツ連邦統計局が毎年公表する電力輸出入収支を見ればすぐに間違いであることが明らかになります。福島原発事故を受けて実施された安全審査の結果2,011年夏に8基の原発が稼働停止処分となったことは既に「ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (1)」で述べましたが、その2011年度すら、ドイツは実質電力輸出超過(6.3テラワット時)していました。
2014年12月の連邦統計局のプレスリリース

≪電力輸出超過34.9テラワット時

ヴィースバーデン ― ドイツは電力を輸入するよりも輸出する方が多い。連邦統計局(Destatis)が4大送電網事業者の報告をもとに公示するところによると、2013年度は約36.9テラワット時(TWh)ヨーロッパ送電網を通してドイツに輸入された。同期間中ドイツは71.8TWh輸出したため、34.9TWhの輸出超過となった。2010年に比べて輸出超過分は約2倍となった(17.6TWh)。

2013年度のドイツからの電力の主要な買い手はオランダ(24.5TWh)及びアルプスの隣国オーストリア(15.4TWh)とスイス(10.8TWh)だった。外国からの輸入ではフランス(11.8TWh)、チェコ共和国(9.2TWh)及びオーストリア(7.1TWh)からが最も多かった。

1テラワット時は10億キロワット時に相当する。≫

2014年度の輸出超過も2013年度とほぼ同レベルと予想されています。公式発表にはまだ2か月ほどかかるでしょう。
この公式の統計からも明らかなように、原発に依存するフランスからドイツへ電力が流入していることは事実なのですが、それはドイツが原発を停止したせいで電力不足になったからということではありません。さすがに8基の原発が一気に稼働停止した2011年には電力不足になるのではないかと心配されていましたが、トータルでは結局電力の余剰が6.3TWhあったわけです。

エネルギーミックスとその問題点

その後風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる発電のシェアが拡大し続け、2014年度現在で26.2%で、前年比13.8ポイント上昇、エネルギー源の中で最大のシェアを誇るに至りました。その内訳は、風力9.1%、バイオマス7%、水力3.3%、太陽光5.7%、住宅ごみ1%、となっています。
 エネルギー・治水産業連邦連合(BDEW)、2015年2月より

それに対して原子力のシェアは15.8%でした。前年比0.3ポイント上昇ですが、誤差の範囲だと言えるでしょう。2010年時点での原子力シェアは28.4%でした(Destatis)。

これだけみると、ドイツは随分環境保護に貢献しているようですが、その印象は間違っています。注意すべきなのは褐炭(Braunkohle)25.4%と石炭(Steinkohle)17.8%合わせてまだ43.2%を占めることです。2013年度は45.5%で前年よりも上昇したので話題になりました。上昇の原因は欧州CO2排出権利証が値崩れし、石炭・褐炭発電が安くなったためと言われていました。環境保護団体は脱原発だけでなく、脱石炭も求めています。
ドイツは2020年までにCO2排出量を40%減少させることを目標に掲げていますが、環境省の予想では最大33%の減少にならないとしています。しかもその予想はかなり楽観的な想定に基づいています。2020年までの環境目標を達成するためには一刻も早く石炭・褐炭発電所を停止する必要がある、と例えば環境保護団体Compact!は主張しています。(元記事はこちら)

エネルギー転換政策、最新の合意とその問題点
経済エネルギー相ジグマー・ガブリエルは2020年の環境目標達成のためには、エネルギー部門で更に2200万トンのCO2排出量削減をしなければならないと2015年7月にエネルギー転換政策の妥協案の中で明言しました。なぜ【妥協】かと言うと、石炭・褐炭発電に関しては脱原発のような社会的コンセンサスが形成されておらず、烈しい議論がなされた上での決着だったからです。ガブリエル氏の当初の目標では石炭・褐炭税の導入を目指していましたが、結局新税導入はならず、老朽化した石炭・褐炭発電所の停止という程度の合意しか得られなかったからです。これにはガブリエルの属するドイツ社会民主党(SPD)が炭鉱労働者の組合運動と共に発展してきた歴史もあり、ドイツで人口最大のノルトライン・ヴェストファーレン州では特に炭鉱労働者が重要な支持基盤をなしているため、党内の意志調整がかなり困難だったという事情も絡んでいます。
ツァイト・オンライン、2015年7月2日の記事では以下のようなまやかしが指摘されています。
1.2200万トンのCO2排出量削減のため、平均出力合計2700メガワットの褐炭発電所が稼働停止になります。うち約800メガワットは既に政府報告書に含まれていたので、差し引き1900メガワットが追加分となります。
2.メルケル独首相(CDU)、ガブリエル(SPD)、ゼーホーファー(CSU)間の合意書には老朽化した発電所の停止により1100から1250万トンの二酸化炭素排出が削減できるとありますが、政府内の専門家でさえ実は最大900万トン削減が可能と言っています。
3.発電所事業者は「コストに見合った補償」を受けることになります。その具体的な金額については今後議論されることになりますが、この制度に隠された原則は「環境汚染をしないことに対する報酬」だと言えます。
4.褐炭業界は「義務的」かつ「場合によっては」更なる150万トン削減に貢献することになっています。これでは義務なのかそうでないのか不明です。
5.コージェネレーション拡張目標が下方修正されましたが、助成金は増額されました。消費者にとってそのコストはキロワット時当たり0.3セントプラス消費税19%となります。
6.ビル所有者、自治体及び産業界と鉄道事業は550万トンCO2排出削減に貢献するよう奨励し、そのための予算として年間11億6千万ユーロ組まれていますが、どういう措置が取られるのか具体的なことは何も決まっていません。

こういう実情では、ドイツは果たしてエネルギー転換による環境保護の先駆者として称賛されるに値するのでしょうか?

次回は再生可能エネルギー法(EEG)賦課金制度とその問題点について。


ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (1)

2015年10月11日 | 社会
ドイツは福島の原発事故をきっかけに脱原発を決断?!

「ドイツは福島原発事故をきっかけに脱原発を決断した」というのがドイツの脱原発に関する一番大きな誤解のようです。そして、この脱原発の英断を下したメルケル独首相を礼賛する多くの日本人に出会うにつけ、苦笑を禁じ得ません。なぜなら、キリスト教民主同盟という保守党の党首であるメルケル氏はもともと原発推進派で、ドイツ社会民主党と緑の党連立政権時代に原発事業者との合意に至っていた脱原発契約(2000年6月14日)を反故にし、原発稼働期間延長を2010年10月28日に新たに決めてしまっていたからです。この方針変更に批判の声がかなり上がっていたところに311に続く福島第一原発の爆発に続くトリプルメルトダウンのニュースが入ってきたため、ドイツ世論は騒然となりました。ここでメルケルが原発稼働期間延長に固執していたとしたら、彼女の再選はあり得なかったでしょう。ドイツの選挙では比例代表選挙の比重が高く、日本に比べれば選挙に民意が反映しやすい選挙制度です。この為、世論に反する政策をとる、ということは政治家生命をかけるに等しい行為とも言えます。この為、メルケル氏は危機感を抱き、一先ず【モラトリアム】を設け、現在稼働中の原発の安全審査・ストレステストを実施し、また原子炉安全委員会と安全なエネルギー供給のための倫理委員会を招集して原子力エネルギーに関する根本的な是非を問うことにしたのです。
この倫理委員会の設置は日本ならあり得ないことだ、と小出裕章氏は10月10日の第144回小出裕章ジャーナルで述べています。ドイツに人生の半分以上いる私にとってはこの指摘の方がむしろ新鮮でした。ドイツでは宗教界の発言力がかなり高く、社会的なトップトピックには必ずと言っていいほどカトリック・プロテスタント教会やユダヤ人中央評議会、ムスリム中央評議会の代表者たちの意見が求められるからです。この為、原発問題で、こういった宗教界の代表者たちを含む倫理委員会の設置というのもむしろ自然の流れみたいなもので、特にメルケル氏が画期的なことをしたわけではありません。文化的背景の違い、と捉えるのが一番正しいと言えるでしょう。ただ、環境保護団体などからは、「脱原発は既に社会のコンセンサスだから、今更倫理委員会を設けて議論するのは無駄」という批判もありました。結局、原子力は子孫に放射性廃棄物という問題を残してしまうなど倫理的にも問題があるということで、2011年6月6日に第2次メルケル内閣は2022年までの段階的な脱原発を決議し、2010年秋に議決された稼働期間延長を取り消すことにしたのです。

とにかく、ドイツの脱原発方針は2000年、シュレーダー政権下で決められたことで、フクシマがきっかけになっているわけではありません。フクシマはメルケル独首相が再度考え直すきっかけになったことは事実で、また多くのドイツ人にとっては技術大国である日本でチェルノブイリ級の原発事故が起こったことが衝撃となり、自国の原発の安全性に疑問を持つきっかけにもなったはずです。それまではチェルノブイリから時間が経っていたこともあり、自国の技術と安全対策に過信し、原子力エネルギー自体に疑問を持たなかった人ほど、その衝撃は大きかったことでしょう。だからこそ、フクシマはシュレーダー政権下での最初の脱原発決議ではなし得なかった「2022年まで」という具体的な期間を区切ることに貢献したと言えます。

 ニーダーザクセン州グローンデ原発© Julian Stratenschulte/dpa

そして、フクシマ事故直後に安全審査が行われた結果、2011年8月6日までに次の8つの原発が稼働停止となりました:

ビブリスA
ビブリスB
ブルンスビュッテル(すでに2011年6月に停止)
イザール1
クリュンメル
ネッカーウェストハイム1
フィリプスブルク1
ウンターヴェーザー

今年の6月27日にはグラーフェンラインフェルド原発が稼働停止となりました。

残る8基の原発の停止予定は以下のとおりです:
2017年末 グントレミンゲンB
2019年末 フィリプスブルク2
2021年末 グローンデ、ブロクドルフ、グントレミンゲンC
2022年末 イザール2、ネッカーウェストハイム2、エムスラント

原発推進を目指す安倍政権下の日本で原発が検査等で一つも稼働していなかった間、脱原発のドイツではまだ9基稼働していたわけで、現在も8基稼働中なのは皮肉なことです。

原子力に反対する 100 個の十分な理由
「電力反逆者」と呼ばれる、バーデン・ヴュルッテンベルク州シェーナウという自治体は電力の地産地消で反原発派の間では知っている人も多いかと思いますが、その試みを主宰するEWS シェーナウ電力会社は、彼らのパンフレットである「原子力に反対する100個の十分な理由」を福島原発事故後に急遽日本語に翻訳しました。日本語版パンフレットの序文にその動機が記されています。

≪日本の読者の方々に
福島の原子力発電事故は、私たちにこの冊子を日本語に翻訳することを思い立たせました。
ここに記した数多くの数値やデータは、ドイツの原子力発電所に関するものですが、事実は
世界中どこでも同じです――原子力エネルギーは危険であり、非民主的で、高額で、不要
なものです。この小さな冊子が日本において、原子力に反対する市民運動に少しでも力を
与え、支持するものであれば幸いです。
日本にお住まいの方で、地震に、津波に、そして原子力災害で悲惨な目に遭われたすべて
の方々に、私たちから心からのお見舞いを申し上げます。
自然災害による脅威は、この先も私たち人間が完全に管理することはできないでしょうが、
日本において原子力は私たち人間で終りにすることができます――この道を進まれ、幸運
を心から願っています!
みなさまのことを心から想って、
ウアズラ・スラーデク(Ursula Sladek)
EWS シェーナウ電力会社代表≫

このパンフレットを読んでいただければ、原発推進派の二酸化炭素排出量がどうの、生産コストがどうのというような理屈も木っ端みじんに敗れ去るしかないことがお分かりいただけることでしょう。反原発派は感情的だという批判に対抗するためにも、まだ読んだことのない方は是非ご一読くださいませ。

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状(2)

ドイツ: 世論調査(2015年10月9日)~難民歓迎ムード徐々に低下

2015年10月09日 | 社会

今日、ZDFホイテでポリトバロメーターと呼ばれる世論調査が発表されました。
調査は10月6日から8日の間にランダムに選ばれた1268名の電話によるアンケートで行われました。
それによると難民歓迎ムードが低下し、受け入れに限界を感じる人の方が多くなっていることが分かります。連邦移住難民庁の発表によると、2015年1月―9月の間にドイツで登録された難民はトータル57万7千人で、うち19万8千人がシリア出身でした。9月だけで16万4千人の難民がドイツに登録・収容されました。未登録でドイツ国内あるいは他国へ向かった人たちはここにカウントされていません。
メルケル独首相は批判の声が高くなってきた今でも「私たちはできる(Wir schaffen das)」を繰り返していますが、難民受け入れに携わる人たちも、収容キャパシティーも限界に達しており、すし詰め状態の収容所内における難民同士の暴力沙汰も増加しています。こうした背景から「ドイツはたくさんの難民受け入れに対応できる」と考えている人は45%(12ポイント減)しかおらず、「対応できない」と考える人たちが51%(11ポイント増)と力関係が逆転しました。


世論調査のその他の質問と回答は以下の通り。

難民対策のための予算増額は他の分野での予算削減に繋がる:はい 74%、いいえ 24%

たくさんの難民が入国することで犯罪が増加する:はい 62%、 いいえ 34%

たくさんの難民流入はドイツの社会的文化的価値観の存続を脅かす:はい 33%、いいえ 61%

難民たちはドイツ社会に適合する気がある:はい 44%、いいえ 50%

難民たちのドイツ社会への組み込むはうまく機能する:はい 39%、いいえ 54%

メルケル独首相の難民政策:いい 46%、あまりよくない 48%

メルケル独首相の政治全般:いい 70%、あまりよくない 27%

ロシアのシリア介入:状況悪化 54%、変化なし 27%

政党支持:
キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会主義同盟(CSU) 41%(変化なし)
ドイツ社会民主党(SPD) 25%(1ポイント減)
緑の党 9%(1ポイント減)
自由民主党(FDP) 4%(変化なし)
ドイツのためのオルタナティブ(AFD) 6%(1ポイント増)

支持政党には特に大きな変化は見られないようです


難民危機~EU、対外国境警備及び不認可難民送還強化

2015年10月09日 | 社会
10月8日に開催されたCEU内相会議で、難民対策・不法移民対策などが議論されました。特に難民申請を却下された難民申請者の本国送還を徹底するために措置が決議されました。決議内容はZDFホイテのニュースを参照しました。(注1)

ホットスポット人員増加
現在の不認可難民送還実施率はEU全体で40%未満、ドイツに至ってはわずか5%で、多くの難民申請者たちが申請が却下された後も不法に滞在し続けている状況です。これを改善するため、イタリアおよびギリシャの難民ホットスポットの人員を40人から670人に増員することになりました。
今まで40人しか配置されていなかったのが逆に驚きです。

【安全な国】リスト
経済難民を早急に振り分けられるようにバルカン6国(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、セルビア、アルバニア、モンテネグロ、コソヴォ)をEU共通の安全な国リストに加えることも合意されました。トルコをそれに加えるかどうかは議論の余地があり、合意には至りませんでした。私見では、トルコにおけるクルド人などは亡命権が認められるに値することがあるので、やはり「安全な国」に加えるのには問題があると考えます。

バルカン諸国との協力
またバルカン諸国との協力も決議されました。それによると、バルカン諸国は欧州対外国境の警備を強化し、難民をEUに向けていそうせずに自国で収容し、難民審査をスピーディーに行い、場合によっては申請却下された難民の送還を請け負うことになり、EUはそのための援助をする、というものです。

不法移民対策
内相会議では以下の9項目について合意されました。

1.不法移民に対する抑止力
難民申請却下された人たちの本国送還を徹底させることによって、不法移民に対する抑止力を高められる、とのことですが、現在でも高い密航費を払い、死の危険を冒してヨーロッパへ向かって来る人たちが後を絶たないことを鑑みれば、不法滞在となった人たちの40%あるいは50%以上を強制送還したとしても、人の波を止めることはできないでしょう。なぜなら、ヨーロッパに辿り着けさえすれば、まだ半々の確率でそこに留まれるわけですから。

2.強制送還のための不認可難民拘留
不認可難民の逃亡を防ぐため、交流を徹底できるよう、EU諸国はそのための拘留所キャパシティーを充実させます。
ドイツには9月初頭から毎日数千人単位で難民申請希望者が入国してきていますが、バイエルン州内相ヨアヒム・ヘルマンによれば、難民申請をすることなく収容所から「消える」難民たちが相当数いるようです。恐らくドイツ国内を移動したり、スウェーデンなどの他国を目指すためだと考えられますが、中にはそういう平和的な目的ではなくテロなどの目的で地下に潜る人たちもいると推測されるため、治安を不安定にする要因ともなり、許容できるものではない、とヘルマン氏は見ています(注2)

3.送還データベース
EU諸国は難民申請の審査結果、特に不認可決断をデータベースで共有し、一度不認可となった難民がEUの他の国で再度難民申請をするのを防ぎます。既に2016年から不認可決断の共有が義務付けられることになる予定です。

4.送還フライト
これまでのところ不認可となった難民の送還は各国独自に行ってきましたが、今後は欧州対外国境管理協力機関FrontexがEU諸国共同の送還フライトをコーディネートし、資金も拠出することになります。

5.緊急派遣チームの編成
難民ホットスポットなど、緊急を要する現地へ難民登録などのサポートができるように、12月にはFrontexの委任業務拡大のための法案を欧州委員会は提出する予定です。Frontexは早急に派遣チームを編成するそうです。最大の目的は不認可難民送還コーディネートの改善です。

6.難民出身国へ圧力
不認可難民送還にあたり、出身国が送還者の引き渡しにこれまで以上に応じるように、EUは難民出身国に対してODAをエサに圧力をかけていきます。不認可難民を引き受ければ、ODAが増額され、拒否すればODAが減額削減されるという単純な脅しをかけるわけです。非EU国を札束で顔を叩くように扱うのはどうかと思いますが、逆にこれを悪用して、国を挙げてなりすまし難民をEUに送り込み、彼らを再びEUから引き取ることによってODA増額をせしめようとする政府が出てくる可能性も無きにしも非ずです。このようなあまりうまくない政策が採用されるくらいEUが難民問題で切羽詰っている、ということでしょうか。

7.EU代用パスポート
難民の一部はパスポートを持たずにEUに入国して来るので、難民申請をした時点で、EU代用パスポートを発行し、これを難民出身国にも認めさせるようにします。
問題は難民が出身国を正直に回答したかどうか100%確信が持てないことです。

8.第3国の難民キャンプへの送還
非EU国において、難民に将来の展望を提供できる安全で耐性のある収容キャパシティーの設置が可能がどうか調査します。もしこのような安全な収容所が非EU国に確保されれば、その国から来た人の難民申請をEU難民申請手続き要綱第33条に基づき「容認されない」ものと判断することができる可能性があります。これに従えば、シリア難民ですら例えばヨルダンやトルコなどの難民キャンプに送還することが可能となり、人道的に問題がある、とする意見もあります。

9.希望帰還プログラム
難民の帰還を促すインセンティブプログラムを実施します。インセンティブは出身国での新生活スタート支援金を払うなどです。出身国がある程度安定していれば、資金援助を受けて帰国しようとする人たちもある程度いるかもしれませんが、EU内に定住する難民数を減少させる効果は大してないと思われます。

どれも難民問題解決の決定打になるような政策ではないように思えますが、少なくともある程度難民の流入を制御できるようにはなるかもしれません。


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注1:2015年10月8日付けのZDFホイテ記事はこちら
注2:2015年10月7日付の南ドイツ新聞記事より。

アメリカの個人情報保護はEU基準満たさず~欧州司法裁判所の無効判決

2015年10月07日 | 社会
欧州司法裁判所は昨日、10月6日、アメリカ・EU間のいわゆるセーフ・ハーバー合意が無効である、という判決を下しました。
セーフ・ハーバー合意とは、欧州委員会が2000年に欧州連合加盟国からアメリカ合衆国への個人情報トランスファー認可を採決したもので、アメリカと直接締結された条約ではなく、採決前にアメリカ側と協議したために「合意」と呼ばれています。

欧州連合加盟国からEU個人情報保護基準を満たさない第三国へのデータトランスファーは、1995年に発効した個人情報保護法令95/46/ECによって定められた例外を除き、基本的に禁止されています。アメリカとのセーフ・ハーバー合意はこの法令の例外を定めるものの一つです。
欧州司法裁判所がこの合意が無効である理由として挙げたのは、アメリカでは個人情報がアメリカ当局のアクセスから十分に保護されていないという点でした。
裁判所の説明では、加盟国の情報保護局は「苦情申し立てを処理する際、完全に独立して、データトランスファー時に全ての要求が満たされているかどうか審査することができなければならない。」このことは欧州委員会の決定事項にも左右されない。この判決はEU加盟国の情報保護局の権限を強化するものです。

判決所の中でアメリカのインターネットサービスのあり方が驚くほど明確に批判されています:「欧州司法裁判所は、政府機関に電子情報伝達の内容にアクセスすることを許す規則はプライバシー保護の基本権の根本的内容に違反するものであることを付記する。更に、EU市民は個人情報の利用に対して異議申し立てをすることができないため、裁判所による法的保護の基本権の根本的内容にも違反している。」

この無効判決はアメリカ企業に限らず広範な影響を及ぼすことになります。裁判はオーストリア人マックス・シュレムスのFacebookの情報保護の在り方(特にNSAのプリズム)に対する異議申し立てでしたが、この判例を元に、他の企業のやり方に対しても異議申し立てが可能になります。例えば個人情報を加工し、アメリカのプロバイダーにそれを提供しているドイツ企業などです。

また、この判決はうやむやになってしまったNSAスキャンダルの決着をつけるきっかけになる可能性もあります。エドワード・スノーデンがNSAの実態についてリークして以降、ヨーロッパではアメリカに対して随分と非難しましたが、それを踏まえた上でアメリカとの新たな具体的な合意には至っていません。メルケル独首相も、彼女の携帯電話が盗聴されていたにもかかわらず、アメリカに対してあいまいな態度のままを通しました。(こういうところに、彼女の従米主義が現れていると言えます)
いずれにせっよ、欧州司法裁判所は「過渡期」を特に設けなかったので、理論的にはセーフ・ハーバー合意に基づく企業の欧米間のデータのやり取りは即刻停止されなければならず、そのようなやり取りのある企業に不安が広がっています。

私見ですが、日本のマイカード制度はFacebookやGoogleの個人情報漏洩よりも酷いプライバシーの侵害でしょう。ドイツに住む私には関係ないものですが、それにしても日本はこの頃どんどんおかしな方向に向かっている印象を受けますね。

難民ヘイトイラスト~はすみとしこ(2)

2015年10月06日 | 社会

2016年1月16日アップデート:この2015年10月6日に書いた私のブログ記事がいまだに「はすみとしこ」や「難民」などのキーワードでの検索結果として読まれているようなので、ここに最新のドイツにおける難民による犯罪情報を右翼の犯罪とも併せて紹介したブログ記事へのリンクを貼っておきます:http://blog.goo.ne.jp/mikakohh/e/bfc251071e0b22bc3a56fc037e7108c0

大晦日にケルンなどで起きた女性襲撃多発事件で、この記事を読んでくださっている方の一部は「はすみとしこ氏の正しさが証明された」と思い込んでいる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん「偽難民がいる」あるいは「難民の中にテロリストがいる」ということは事実で、それはいついかなる時も完全否定できることではありません。はすみとしこ氏の問題は感情的な思い込みによって【多い】という言葉を使うことと、下のイラストで何の個別ケースを考慮することなく、難民全てが「他人の金で好きなことをする人間」であるとレッテルを張ったことにあります。余りにも強引な「一般化」が問題なのです。その強引な一般化が差別であり、侮辱であるのです。彼女は在日外国人に対してもかなりの攻撃をし、様々なきちんと証明できないデマや出所不明の偽統計を拡散しています。それを鵜呑みにして彼女に賛同するような無批判な方は知性が足りないとしか申し上げようがありません。

私は海外にいる(元)日本人として日本から出ない日本人には体験できないようなことを体験してきています。私の周りには日本人でない人しかいないのです。だから、何か日本で事件が起きたり、日本の政治家が失言を連発したりすれば、当然「なんで日本ではあんなことを言う人が大臣(あるいは首相)になれるのか」聞かれますし、「あんなのが選ばれるなら日本の国民はよほどレベルが低いんだな」と言われることもありますし、福島原発の対処の仕方や、年間20mSVのところへ住民を帰還させようとする人権無視の政策なども含めて、「なんであんなのを野放しにしているのか?」という批判にさらされるわけです。歴史的事実を認めない日本人、無知な日本人などなど。ネガティブな日本人像はいくらでもあります。一部に変な日本人がいることや日本の政治家が相もない失言を繰り返すのも否定できない事実ですが、それを例にとって「だから日本人はみんなそう」と思われたら、あなた方はどんな気持ちがしますか? そのことをよく考えてから、はすみとしこ氏のイラストのことや難民のことを考えていただきたいものです。(以上2016年1月16日のアップデート)


はすみとしこ氏がFBで公開したイラスト「そうだ、難民しよう!」に反対する声が随分と広がっているようで、喜ばしい限りです。イラスト公開後にスタートした反対キャンペーンにも既に1万人近い賛同者が集まりました。私のブログやFBの記事から賛同して下さった方も多くいらっしゃったようで、ここにお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

カウンターイラストも出てきました。副島和芳氏の作で、やはりFB上に公開されています。副島氏のコメントは:

{はすみとしこ氏のシリアの難民少女のイラスト。ほんとに嫌悪感を感じてしまい、あの少女を想起する一切の話題を避けてきました。facebookの「はすみとしこの世界」はいったん削除されまた復活しています。どうしても看過できないコメントもいただきましたので、僕もカウンターをだします。
すごく、正攻法なものしか作れませんでした(笑)
(イラスト 工場長・コラージュ 副島和芳)}

はすみとしこ作 副島和芳作

確かに直球のカウンターですが、見ていて心の温まる気持ちの良いイラストです。
でも、この呼びかけのような積極的支援を全ての人がするべきだとは私は思いません。支援したいと思う方、そしてその余裕がある方がすればよいと私は考えています。私自身も時間的な余裕がないので、寄付金を払ったり、古着を寄付するくらいのことはしますが、それ以上に積極的な支援活動はしていません。私の難民でない人たちに対する願いは、「難民支援のために何もしなくてもいいけど、敵視もしないで欲しい」ということに尽きます。

問題イラストの元となった写真を撮ったJonathan Hyam氏もヘイトイラストにアレンジされたことを知って深い悲しみをツイッターで表明しています:
"Shocked+deeply saddened anyone would choose to use an image of an innocent child to express such perverse prejudice"(誰かが罪のない子供の写真を選んで、このような道理に反する偏見を表現に使うなんてショックでとても悲しい)。Japan Timesという英語メディアに取り上げられたので(記事はこちら)、ネット住民の一部では「国際的にも話題に!」と騒いでいるようですが、残念ながらそういうわけでもありません。むしろ話題になってない方が、日本の恥さらしにならなくて良いと思います。

Yahooニュースでは在英国際ジャーナリストの木村正人氏が【安倍首相はこの問いに「そうだ難民を受け入れよう!」と言い返せるか】という記事の中で、はすみとしこ氏のインタヴュー回答を載せ、また英国で出回っている難民に関する根拠のないデマも紹介しています。
この記事の中で根拠がない主張として削除された部分がはすみとしこの世界のFBページに公開されています:
「(削除された部分)
 そんな中、日本人の多くは戦争難民や経済難民の受け入れには反対しています。それは何故かというと、日本には既に65年も前に大量の戦争難民を受け入れており、彼らが理由で、日本に住む日本人が冷遇を受けているからです。日本には被害者のふりをして特権を得ている在日朝鮮人または在日韓国人(以下「在日」)と呼ばれる存在があります。彼らは日本人よりも優遇され、日本人が支払った税金で何不自由無い暮らしを送っています。国民たる日本人は生活保護が受けられずに多数が餓死しているにも拘わらず、在日の14%以上が生活保護を受けています。日本にいる在日韓国人は67万人とされていますが、その内 45万人は無職で、在日は生活保護が簡単に受けられますが、日本人への生活保護はハードルが高くてなかなか受けられないのが現状なのです。
(削除部分終わり)」

ネットにはこのような根拠のないデマがさももっともらしく流通しています。それを碌なチェックもせずに拡散していく一部ネットユーザーのリテラシーの低さには呆れるばかりです。統計っぽい話なら、何年度のどこでどのように取られた統計なのか、出所をきちんと確認してから拡散していただきたいものです。


コッテンフォルストの森を歩く(2)~ドイツ統一記念日

2015年10月03日 | 日記

今日は25年目のドイツ統一記念日です。4半世紀というのは一つの節目なのでしょうが、毎年「東西ドイツは本当にともに発展したのか」というような歴史振り返り記事や式典などやっていて、少々食傷気味になっています。私がドイツに来たのはベルリンの壁が崩壊した後の1990年3月末で、まだ通貨統合の前でした。それからあれよあれよという間に同年の10月3日正式に東西ドイツ統合ということになってしまいました。そういうわけで、自分がどれだけ長くドイツにいるかを計るには良い目安となっています(苦笑)。
ドイツの未だにある東西格差などについては、また別の機会に回すとして、今日は天気も良く、祭日で買い物にも行けないので森に散歩に行きました。多くの人たちが同様に考えていたようで、結構な人出でした。


今回行ったところはボン西部に広がるコッテンフォルスト (Kottenforst) の中でもかなり人気のある「ヴァルダウ (Waldau)」というエリアで、私の近所の森より南に位置しています。ここは親子連れに対応した子供用の遊び場や、子供向けの木々や動物の説明等がところどころにあり、またイノシシやシカを囲っているところもあるのが人気の理由です。昔このエリアの近所の女子寮に住んでいたことがありましたが、久々に行ったら、パンフレットまでできていて驚きました。


こちらがイノシシたち。
  

さすがにオスは迫力の大きさです。囲いのないところでは絶対に出会いたくないですね。大人しくクリやドングリなどのエサを食べてるところなら、そっとそばを通り抜けても危険はないでしょうけど。
このイノシシの囲いの隣に鹿の囲われているエリアがあるのですが、人の多さに恐れをなしたのか、しかの姿は全く見当たりませんでした。

ヴァルダウ・エリアはブナ、オークの他、松、菩提樹などが多い混交林で、自然保護区域ではなく、適度に林業に利用されています。昔、18世紀から19世紀末ころまでは果樹園があったそうで、その名残で多少果樹が残っています。



鳥類観察のための小屋も設置されてます。


森の出入り口にはカフェ。バス停も目の前にあります。


昔はこのカフェで散歩の後にコーヒーとケーキを頂いたものですが、今日はお水持参でしたので、寄り道せずに帰宅して、家でまったりとコーヒーを頂きました。


難民ヘイトイラスト~はすみとしこ

2015年10月01日 | 社会

2016年1月16日アップデート:この2015年10月1日に書いた私のブログ記事がいまだに「はすみとしこ」や「難民」などのキーワードでの検索結果として読まれているようなので、ここに最新のドイツにおける難民による犯罪情報を右翼の犯罪とも併せて紹介したブログ記事へのリンクを貼っておきます:http://blog.goo.ne.jp/mikakohh/e/bfc251071e0b22bc3a56fc037e7108c0

大晦日にケルンなどで起きた女性襲撃多発事件で、この記事を読んでくださっている方の一部は「はすみとしこ氏の正しさが証明された」と思い込んでいる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん「偽難民がいる」あるいは「難民の中にテロリストがいる」ということは事実で、それはいついかなる時も完全否定できることではありません。はすみとしこ氏の問題は感情的な思い込みによって【多い】という言葉を使うことと、下のイラストで何の個別ケースを考慮することなく、難民全てが「他人の金で好きなことをする人間」であるとレッテルを張ったことにあります。余りにも強引な「一般化」が問題なのです。その強引な一般化が差別であり、侮辱であるのです。彼女は在日外国人に対してもかなりの攻撃をし、様々なきちんと証明できないデマや出所不明の偽統計を拡散しています。それを鵜呑みにして彼女に賛同するような無批判な方は知性が足りないとしか申し上げようがありません。

私は海外にいる(元)日本人として日本から出ない日本人には体験できないようなことを体験してきています。私の周りには日本人でない人しかいないのです。だから、何か日本で事件が起きたり、日本の政治家が失言を連発したりすれば、当然「なんで日本ではあんなことを言う人が大臣(あるいは首相)になれるのか」聞かれますし、「あんなのが選ばれるなら日本の国民はよほどレベルが低いんだな」と言われることもありますし、福島原発の対処の仕方や、年間20mSVのところへ住民を帰還させようとする人権無視の政策なども含めて、「なんであんなのを野放しにしているのか?」という批判にさらされるわけです。歴史的事実を認めない日本人、無知な日本人などなど。ネガティブな日本人像はいくらでもあります。一部に変な日本人がいることや日本の政治家が相もない失言を繰り返すのも否定できない事実ですが、それを例にとって「だから日本人はみんなそう」と思われたら、あなた方はどんな気持ちがしますか? そのことをよく考えてから、はすみとしこ氏のイラストのことや難民のことを考えていただきたいものです。(以上2016年1月16日のアップデート)

 



FBやツイッターをやっていると気がめいるほどの差別発言やヘイト、扇動、デマ等々に出くわします。
この度、私の気に障ったのは下の「はすみとしこの世界」というハンドルネームでFBに公表された難民を侮辱するイラストです。



いつまでFBに載せたままか分かりませんが、これが公表されたURLはこちらです:https://www.facebook.com/984279651598190/photos/a.984889011537254.1073741836.984279651598190/1217327478293405/ またはhttp://on.fb.me/1L5CtpS

このイラストの元となっている写真があります。


これはVire's Attachedというサイトに載せられたシリア難民キャンプで過ごさざるを得ない子供たちの写真のうちの一枚です。真夏の中東。日中は蒸し風呂で夜は冷え込む。ゴミが散乱し悪臭が漂う。狭いテントに雑魚寝し1日1回の炊き出しで飢えをしのぐ。難民キャンプの子ども達が強いられているのは動物以下の生活です。そんな中でも少女はカメラを向けられてはにかむような笑顔を見せます。そんな笑顔を邪悪な心をもってなぞると上のようなイラストになってしまうのでしょうか?
私は、人がどうしてここまで無知で無理解でいられるのか不思議でなりません。
はすみとしこ氏はさらにこのイラストに

{ってか、あのシリア難民?ほとんど「移民」だろw

 不幸にも溺死してしまった自称シリア難民のお子さん一家は、実はトルコ在住家族で、トルコ政府から無償援助を受け取っていた。パパは船には乗っていずトルコに残り、ママと子どもだけが乗船。先に母子家庭を装って難民申請→定住GETし、後からパパを呼び寄せる手筈だったのではないか、との疑い。}


とコメントしています。まず「自称シリア難民」という言い方が侮辱的です。自称ではなく、実際にシリアから逃げてきた難民だからこそ、トルコで難民としての最低限の援助を受けていたわけです。この家族がなぜトルコからさらにヨーロッパに向かおうとした本当の動機は分かりません。ただ、一般的にシリア人はとても誇り高く、人の世話になるのを良しとせず、自分で働こうとします。だから、トルコにいる200万人のシリア難民たちのほんの一部しか難民キャンプにいないのです。大部分の人たちが何らかの形でトルコで働いているのです。「パパは船には載っていずトルコに残り」というのはお金の問題です。密航費は高いので、先の子どもと母親を逃がそうとしたのです。「母子家庭を装って」というのは中傷以外の何物でもありません。難民申請審査の際に母子家庭が優先されるということはありません。出身国とどれだけ追い詰められていたか、ということが審査では重要となります。シリアから逃げてきたのなら、家族親戚一同揃って来ても難民申請が受理される可能性は非常に高く、別に「母子家庭」という条件で同情を引く必要など全くないのです。

はすみとしこ氏はまた移民と難民の区別も付けられないようです。日本を代表する総理大臣安倍晋三からしてその区別がつけられず、難民受け入れを人口問題で答えるとんちんかんさを披露しているくらいなので、もしかしたらそれが日本の標準的なリテラシーなのかと絶望的な気分になります。移民とは自らの意志で他国へ行ってそこに定住する人たちのことです。難民とは内戦などで生命の危機に晒され、家や生活基盤を破壊されてやむを得ず避難する人たちのことです。「避難民」なのです。もちろん、もともと裕福な人たちが、家やお店などが破壊され、取りあえず全財産持って車で逃げる、ということもあります。トルコにBMWに乗って避難したシリア難民も中にはいたそうで、トルコ人たちが驚いたそうですが、いかに財産を持っていようとも、難民であることには違いがないのです。なぜなら、彼らには帰るところが無くなっているわけですから。少なくとも戦闘が終わるまでは帰れないわけです。そこが移民と根本的に違う点です。そういう事情を知ろうともせず「生きたいように生きていきたい、他人の金で」とは随分な侮辱ではありませんか。

私はこのFB投稿を見てすぐにFBに不適切報告をしましたが、「問題ない」という回答が返ってきました。何人もの人が同じことをして同様の回答をもらったようです。
そして今Change.orgで「シリア難民を侮辱するイラストがレイシズムであることをFBに認めさせる」キャンペーンが始まりました。これを読んだ皆さんもご賛同していただけるようお願いします。
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