徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ: 世論調査(2015年10月9日)~難民歓迎ムード徐々に低下

2015年10月09日 | 社会

今日、ZDFホイテでポリトバロメーターと呼ばれる世論調査が発表されました。
調査は10月6日から8日の間にランダムに選ばれた1268名の電話によるアンケートで行われました。
それによると難民歓迎ムードが低下し、受け入れに限界を感じる人の方が多くなっていることが分かります。連邦移住難民庁の発表によると、2015年1月―9月の間にドイツで登録された難民はトータル57万7千人で、うち19万8千人がシリア出身でした。9月だけで16万4千人の難民がドイツに登録・収容されました。未登録でドイツ国内あるいは他国へ向かった人たちはここにカウントされていません。
メルケル独首相は批判の声が高くなってきた今でも「私たちはできる(Wir schaffen das)」を繰り返していますが、難民受け入れに携わる人たちも、収容キャパシティーも限界に達しており、すし詰め状態の収容所内における難民同士の暴力沙汰も増加しています。こうした背景から「ドイツはたくさんの難民受け入れに対応できる」と考えている人は45%(12ポイント減)しかおらず、「対応できない」と考える人たちが51%(11ポイント増)と力関係が逆転しました。


世論調査のその他の質問と回答は以下の通り。

難民対策のための予算増額は他の分野での予算削減に繋がる:はい 74%、いいえ 24%

たくさんの難民が入国することで犯罪が増加する:はい 62%、 いいえ 34%

たくさんの難民流入はドイツの社会的文化的価値観の存続を脅かす:はい 33%、いいえ 61%

難民たちはドイツ社会に適合する気がある:はい 44%、いいえ 50%

難民たちのドイツ社会への組み込むはうまく機能する:はい 39%、いいえ 54%

メルケル独首相の難民政策:いい 46%、あまりよくない 48%

メルケル独首相の政治全般:いい 70%、あまりよくない 27%

ロシアのシリア介入:状況悪化 54%、変化なし 27%

政党支持:
キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会主義同盟(CSU) 41%(変化なし)
ドイツ社会民主党(SPD) 25%(1ポイント減)
緑の党 9%(1ポイント減)
自由民主党(FDP) 4%(変化なし)
ドイツのためのオルタナティブ(AFD) 6%(1ポイント増)

支持政党には特に大きな変化は見られないようです


難民危機~EU、対外国境警備及び不認可難民送還強化

2015年10月09日 | 社会
10月8日に開催されたCEU内相会議で、難民対策・不法移民対策などが議論されました。特に難民申請を却下された難民申請者の本国送還を徹底するために措置が決議されました。決議内容はZDFホイテのニュースを参照しました。(注1)

ホットスポット人員増加
現在の不認可難民送還実施率はEU全体で40%未満、ドイツに至ってはわずか5%で、多くの難民申請者たちが申請が却下された後も不法に滞在し続けている状況です。これを改善するため、イタリアおよびギリシャの難民ホットスポットの人員を40人から670人に増員することになりました。
今まで40人しか配置されていなかったのが逆に驚きです。

【安全な国】リスト
経済難民を早急に振り分けられるようにバルカン6国(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、セルビア、アルバニア、モンテネグロ、コソヴォ)をEU共通の安全な国リストに加えることも合意されました。トルコをそれに加えるかどうかは議論の余地があり、合意には至りませんでした。私見では、トルコにおけるクルド人などは亡命権が認められるに値することがあるので、やはり「安全な国」に加えるのには問題があると考えます。

バルカン諸国との協力
またバルカン諸国との協力も決議されました。それによると、バルカン諸国は欧州対外国境の警備を強化し、難民をEUに向けていそうせずに自国で収容し、難民審査をスピーディーに行い、場合によっては申請却下された難民の送還を請け負うことになり、EUはそのための援助をする、というものです。

不法移民対策
内相会議では以下の9項目について合意されました。

1.不法移民に対する抑止力
難民申請却下された人たちの本国送還を徹底させることによって、不法移民に対する抑止力を高められる、とのことですが、現在でも高い密航費を払い、死の危険を冒してヨーロッパへ向かって来る人たちが後を絶たないことを鑑みれば、不法滞在となった人たちの40%あるいは50%以上を強制送還したとしても、人の波を止めることはできないでしょう。なぜなら、ヨーロッパに辿り着けさえすれば、まだ半々の確率でそこに留まれるわけですから。

2.強制送還のための不認可難民拘留
不認可難民の逃亡を防ぐため、交流を徹底できるよう、EU諸国はそのための拘留所キャパシティーを充実させます。
ドイツには9月初頭から毎日数千人単位で難民申請希望者が入国してきていますが、バイエルン州内相ヨアヒム・ヘルマンによれば、難民申請をすることなく収容所から「消える」難民たちが相当数いるようです。恐らくドイツ国内を移動したり、スウェーデンなどの他国を目指すためだと考えられますが、中にはそういう平和的な目的ではなくテロなどの目的で地下に潜る人たちもいると推測されるため、治安を不安定にする要因ともなり、許容できるものではない、とヘルマン氏は見ています(注2)

3.送還データベース
EU諸国は難民申請の審査結果、特に不認可決断をデータベースで共有し、一度不認可となった難民がEUの他の国で再度難民申請をするのを防ぎます。既に2016年から不認可決断の共有が義務付けられることになる予定です。

4.送還フライト
これまでのところ不認可となった難民の送還は各国独自に行ってきましたが、今後は欧州対外国境管理協力機関FrontexがEU諸国共同の送還フライトをコーディネートし、資金も拠出することになります。

5.緊急派遣チームの編成
難民ホットスポットなど、緊急を要する現地へ難民登録などのサポートができるように、12月にはFrontexの委任業務拡大のための法案を欧州委員会は提出する予定です。Frontexは早急に派遣チームを編成するそうです。最大の目的は不認可難民送還コーディネートの改善です。

6.難民出身国へ圧力
不認可難民送還にあたり、出身国が送還者の引き渡しにこれまで以上に応じるように、EUは難民出身国に対してODAをエサに圧力をかけていきます。不認可難民を引き受ければ、ODAが増額され、拒否すればODAが減額削減されるという単純な脅しをかけるわけです。非EU国を札束で顔を叩くように扱うのはどうかと思いますが、逆にこれを悪用して、国を挙げてなりすまし難民をEUに送り込み、彼らを再びEUから引き取ることによってODA増額をせしめようとする政府が出てくる可能性も無きにしも非ずです。このようなあまりうまくない政策が採用されるくらいEUが難民問題で切羽詰っている、ということでしょうか。

7.EU代用パスポート
難民の一部はパスポートを持たずにEUに入国して来るので、難民申請をした時点で、EU代用パスポートを発行し、これを難民出身国にも認めさせるようにします。
問題は難民が出身国を正直に回答したかどうか100%確信が持てないことです。

8.第3国の難民キャンプへの送還
非EU国において、難民に将来の展望を提供できる安全で耐性のある収容キャパシティーの設置が可能がどうか調査します。もしこのような安全な収容所が非EU国に確保されれば、その国から来た人の難民申請をEU難民申請手続き要綱第33条に基づき「容認されない」ものと判断することができる可能性があります。これに従えば、シリア難民ですら例えばヨルダンやトルコなどの難民キャンプに送還することが可能となり、人道的に問題がある、とする意見もあります。

9.希望帰還プログラム
難民の帰還を促すインセンティブプログラムを実施します。インセンティブは出身国での新生活スタート支援金を払うなどです。出身国がある程度安定していれば、資金援助を受けて帰国しようとする人たちもある程度いるかもしれませんが、EU内に定住する難民数を減少させる効果は大してないと思われます。

どれも難民問題解決の決定打になるような政策ではないように思えますが、少なくともある程度難民の流入を制御できるようにはなるかもしれません。


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注1:2015年10月8日付けのZDFホイテ記事はこちら
注2:2015年10月7日付の南ドイツ新聞記事より。