徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツの難民排斥運動

2015年10月19日 | 社会
ペギーダ運動
難民を大量に受け入れれば、勿論それを不安に思うばかりではなく、排斥に向かう人たちも残念ながら少なからずいます。
ドイツにおいては、難民排斥運動はドレスデン発のペギーダ運動が現在最も活発と言えます。ドレスデンを含むザクセン州は伝統的に排他的な気風が強く、ネオナチの巣窟とも言われていますが、ペギーダ運動は保守的な一般市民をかなり取り込み、昨年から定期的なデモで話題になっています。ペギーダPEGIDAはPatriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes(ヨーロッパのイスラム化に反対する愛国的なヨーロッパ人)の略で、昔のネオナチのように外国人一般に対するものではなく、ヘイトの対象は基本的にイスラムに絞っているようですが、こと難民に関しては全ての難民をその宗教に関わらずヘイトの対象としているようです。事の始まりは、ルッツ・バッハマンという人が開いたFacebookの閉鎖的グループで、創設は2014年10月11日。今年の一月に首脳部の分裂騒ぎで運動は一時下火となり、それきり消滅したかのように見えましたが、9月にメルケル独首相が大量の難民受け入れの決断を受け、毎日数千人のペースでどんどん入国する難民たちに刺激されたように、ペギーダの定期デモも9月半ばに復活し、過激さを増しています。
先週はメルケル独首相とガブリエル経済・エネルギー相を対象にした絞首台、今日はメルケル独首相のナチスのような制服姿のポスターなど反メルケル色を濃厚に打ち出しています。

2015年10月12日、ドレスデン、テアータープラッツ前。メルケル独首相とガブリエル経済・エネルギー相を対象にした絞首台© Hannibal Hanschke/Reuters


2015年10月19日、ドレスデン、テアータープラッツ前。ナチス風の制服姿のメルケル独首相ポスター@dpa

因みにこの絞首台を掲げていた人に対して検察は「特定個人に対する殺人教唆」として罪に問えるかどうか審査中とのことです。恐らく告訴には至らないでしょう。ナチ風の制服姿のメルケルポスターもきわどいところですが、鉤十字の代わりにユーロマークが入っているので、これも罪に問われることはないでしょう。例え攻撃的な内容のポスターやオブジェを持っていたとしても、平和的にデモをするのは市民の権利ですので、私はとやかく言いません。ペギーダのデモがあるときは必ずその対抗デモが行われ、通常対抗デモの参加者数の方がペギーダデモ参加者数を相当上回ります。警察としては、両デモグループの衝突を避けるのに尽力しなければならないので、単独デモよりもずっと大変です。
近頃はペギーダデモ参加者たちの一部が確実に過激化しており、「平和的な」行進ではなく、破壊活動やジャーナリストたちへの攻撃もあり、既に集会の自由の範疇を超えています。
ジャーナリスト攻撃はペギーダのもう一つの側面であるメディア批判「嘘ジャーナリズム(Lügenpresse)」に基づくものです。ジャーナリストたちに対する敵愾心が充満した空気の中を取材するのはかなり危険になりつつあるようです。

ペギーダは各地に支部がありますが、ライプチヒ支部だけは、ライプチヒのLをPの代わりに入れて、レギーダ(LEGIDA)と言います。

反難民を動機とした犯罪統計
さて、反難民のデモや集会は平和的に行われている限り、そしてヘイト発言の度が過ぎない限りにおいて容認できるものですが、中には実力行使に出る過激派もおり、今年の8月までに難民収容所・収容予定地などの放火や傷害事件が500件以上を記録しました。
下の地図は赤のピンが放火事件、青のピンが傷害事件を示しています。
(注1)

難民に対する収容所に対する攻撃や傷害事件はザクセン州が最多となっています。
各州の統計は以下の通りです。(注1)

シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州:放火2件、収容所攻撃5件
メクレンブルク・フォアポンメルン州:収容所攻撃9件、傷害7件
ニーダーザクセン州:収容所攻撃12件、障害1件
ブレーメン州:0件
ブランデンブルク州:放火3件、収容所攻撃19件、傷害7件
ベルリン州:放火2件、収容所攻撃17件、傷害5件
ザクセン・アンハルト州:放火3件、収容所攻撃12件、傷害5件
ノルトライン・ヴェストファーレン州:放火4件、収容所攻撃30件、傷害2件
ヘッセン州:放火1件、収容所攻撃14件
チューリンゲン州:収容所攻撃13件、傷害5件
ザクセン州:放火4件、収容所攻撃61件、傷害32件
ラインラント・プファルツ州:放火2件、収容所攻撃8件
ザールラント州:0件
バーデン・ヴュルッテンベルク州:放火3件、収容所攻撃13件、傷害1件
バイエルン州:放火7件、収容所攻撃24件、傷害4件

ブレーメン州とザールラント州の2州だけが今までのところ反難民を動機とした犯罪が一件も起っていません。面積が小さいばかりでなく人口も少ないので、難民受け入れ割り当ても少ないということが影響しているのかも知れません。人口最大のノルトライン・ヴェストファーレン州は難民受け入れ割り当ても最大になりますが、犯罪件数は人口も難民の割り当ても少ないザクセン州より少ないので、難民受け入れ量と犯罪件数は全く比例していないことになり、やはりザクセン州のメンタリティーの問題なのではないかと思われます。

ドイツでは9月だけで16万4千人の難民申請希望者が入国しました。登録までに都市によってはかなりの待ち時間(ベルリンでは3-4日並んで登録の順番を待つのが日常化しています)があるのと、ドイツを素通りしてスウェーデンなどの他国を目指す人も少なくないこともあるので、実際の入国者はこれよりもずっと多いです。10月に入っても毎日数千人単位で難民申請希望者がドイツに入国してきています。

公式な統計はまだありませんが、難民臨時収容施設における難民同士の傷害やレイプ事件なども多発しています。殆どのところで定員数を大幅にオーバーして難民たちが収容されているのでプライバシーもなく、空気はかなり緊迫しているようです。ただでさえ収容場所が不足しているのに、その予定地などを放火や破壊行動などで台無しにし、難民たちの収容状況の悪化に輪をかける行動は本当に許しがたいです。いまだに何千人もの難民たちが暖房の効かない、または効きづらいテントで湿気と寒さの中寝泊りすることを余儀なくされています。多くの子どもたちがインフルエンザや肺炎など病気になっています。難民登録前だと医者にもかかれないのでかなり悲惨な状況です。放火とかがなければ、より多くの人が暖房の効く屋根の下で寝泊まりすることができただろうに、と思うと心が痛みます。

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注1:ツァイト・オンラインの2015年8月26日の記事より。元記事はこちら