徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

難民危機~各国国境警備状況

2015年10月21日 | 社会
連日難民関連のニュースで一杯です。
難民にとっては寒さも冷たい川も国境警備する警察や軍隊も障壁にならないようです。バルカンでは現在日中でも10度を超えることはなく、夜は零度前後まで冷え込みます。そんな中、夜中にクロアチアからスロヴェニア国境に到着した難民たちが冷たい川を歩いて渡ったことには驚きを隠せません。歩いて渡れると言っても身長によって胸や肩・首まで水の中です。子供は大人に肩車などで抱えられて渡ったようですが、零度前後の気温でずぶぬれになっては風邪をひいてしまいます。けれど、それを押しても先に進もうとする気力の方が大きいようです。クロアチア国境に近いスロヴェニアの難民キャンプ、Breziceでは火事でテントの3分の2が焼失したそうです。なかなか進まない登録とオーストリアへの搬送に不満を抱いた難民による放火、と地元のメディアでは報道されたそうですが、スロヴェニア警察からの確認は取れていないようです。スロヴェニア当局は水曜午前中1万千人の難民を確認しました。政府は一日に処理できる難民数は2500人だとしていました。キャパ越え4.4倍です。
日曜日にまたEU難民特別サミットが開催されるようですが、対策が現実に全然追い付かない状態です。



以下に各国の国境警備の状況を紹介します。ZDFホイテの本日付の記事を参照しました。

ギリシャ

ギリシャは2012年末、陸続きのトルコ国境約10㎞に約3メートルの高さの二重有刺鉄線フェンスを完成させました。残りの200㎞弱の国境線はエヴロス川(トルコ語メリチ)に沿っています。国境警備隊がこの部分を監視しています。夏の数か月は1600人弱がこのルートでギリシャに入国しました。その大部分は西・北ヨーロッパに向かいました。エヴロス国境は一部地雷原があるため非常に危険です。過去数年間で十数名の難民が重傷を負いまた死亡しました。今年に入ってからはまだ一人も犠牲になっていません。



ブルガリア

10月半ば、ブルガリア・トルコ国境でアフガニスタン人が一人警察の銃弾で死亡しました。警告のための発砲がそれたためとのことです。この国境は警察によって厳しく監視されています。トルコからの難民グループの入国は繰り返し拒否されています。
9月半ばにブルガリア政府は国境に、最初は50人、後に千人までの兵士を配備すると宣言しました。

マケドニア

マケドニアはEU非加盟国です。ギリシャ及びセルビアとの国境の警備は実質上機能停止しています。警察官は国境に配備されていますが、難民たちはコントロールされることなく通過できるようになっています。
止めようとするだけ無駄、と悟ったのかも知れません。
事実、以前のベルリンの壁のように国境を越えようとするものは容赦なく射殺、というのでもなければ、どれだけフェンスを築こうと、軍隊が通せんぼしようと、なんとしても先を進もうとする難民たちを止めることなどできません。無駄な抵抗を止めた方が低予算で済みます。

ウクライナ

ウクライナは9月15日に175㎞に及ぶセルビアとの国境をフェンスで閉鎖し、不法な国境越えは【犯罪】としました。それ以前は単なる【秩序違反】でした。
現行犯逮捕された難民は裁判にかけられ、通常ウクライナ入国の前に通過した国へ戻されます。

ハンガリー

ハンガリーも10月16日に300㎞以上に及ぶクロアチアとの国境を閉鎖しました。うち3分の2はドラウ川及びムール川の流れが国境をなしており、そういう部分ではフェンスがないところもあります。
法改正により、軍隊が危機的状況の場合国境警備隊を補助することができるようになりました。

セルビア

セルビアはEU非加盟国です。
マケドニアとの国境は警察とEUから提供された赤外線機器で監視されています。
難民の流入に対しては何の対策も採られていません。マケドニア同様早々にギブアップです。

クロアチア

クロアチア警察は今週初めて難民の入国を阻止するための措置を取りました。国境通過地点バプスカで警察が難民の流れを止めました。


スロヴェニア

スロヴェニアは難民が到達できるすべての国境通過地点に特別装備の警察官を配備し、今度は軍隊も国境警備に投入します。
数千人の難民を小さなグループに分けて通過させています。
クロアチアとスロヴェニアは両国の国境をもっと厳しくコントロールすると表明しました。オーストリアとドイツも同様のコントロールをすることが条件です。

オーストリア

オーストリアは9月半ばから警察をサポートするために軍隊を補助として投入しました。数百人の兵士が警察補助のためにハンガリー国境に配備されました。現在はスロヴェニア国境にも配備されています。最大2200人までの兵士の投入が可能です。国境警備の他に難民の宿泊や食料提供の手伝いもしています。
オーストリアでの軍隊の国境投入は既に1990年から2011年にもありました。当時兵士たちはハンガリー及びスロヴァキア国境をパトロールしていました。
シェンゲン圏境が2007年に開かれてからは軍隊の任務は国境通過の監視に限られるようになりました。

ポーランド

現在約1万人の国境警備隊がベラルーシ、ウクライナ国境及びロシアの飛び領土カリニングラードとの国境を巡回しています。国境警備強化は既に2014年からありました。ウクライナからの難民が来ることが予想されていたからです。
これまでのところ、不法入国しか報告されてません。ウクライナ人は通常国境で難民申請をせず、ツーリストビザでひとまず祖国の状況がどうなるか様子見をしているようです。ポーランド東部国境から入国するのは大抵チェコ人かグルジア人です。

バルト三国

欧州対外国境をなすバルト三国エストニア、ラトビア、リトアニアはロシアとベラルーシに接しており、不法入国による逮捕者が増えつつあります。他のEU諸国に比べれば、難民の数は非常に少ないです。
国境侵入を阻止するためエストニアとラトビアは今後東部のロシア国境を強化する構えです。より良い国境警備のために最新の監視設備が設置され、特定の国境区域ではフェンスが設置される予定です。

以上、各国の国境状況でした。

この難民危機はユーロ危機やギリシャ財政危機よりもずっと深くヨーロッパに亀裂を生じさせています。ヨーロッパの連帯がまさに試されているのです。このまま止まらない難民の流入をどうするかはっきりしない状態が続けば、本来通行自由のはずのシェンゲン圏内で次々フェンスが築かれ、取り払ったはずの各国国境が一部の国で完全復活し、シェンゲン自体意味のないものにしてしまいかねません。
「難民は最初に入ったEU加盟国で難民申請をしなければならない」というダブリン協定の条項は事実上機能停止しています。難民登録チェックポイントをギリシャやイタリアに設置することになっていますが、十分な人材と場所が早急に提供されないことには難民の流れを変えることができません。登録が遅々として進まなければ、難民たちは自力で先へ進もうと躍起になり、そうなると軍隊でも彼らを止める手立てはありません。まさか射殺するわけにはいきませんからね。
あとは、先へ進んでも、絶対に100%最初のチェックポイントに送り返されるという厳しい方針が難民たちの間に十分に告知され、待つしかないということを理解してもらうようにするしかありません。ただ、現実問題として、一日数千人単位でEUに入ってくる人の波を捌けるスペースと人員を確保するのは不可能ではないかと思われます。
ロシアのシリア介入は問題の原因を取り除くどころか、新たな難民を生んでいます。予想されていたことですが、本当に余計なことをしてくれています。