徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

難民危機~音を上げるドイツ・オーストリア

2015年10月28日 | 社会
難民の流入が止まる様子がありません。今まで比較的良好な協力関係にあったドイツ・オーストリアも現場の混乱は避けられず、夜中に予告もなく両国国境に2000人弱の難民がバスで運ばれて、そこで放り出された、という事件が起こりました。食料や毛布などの物資は両国のボランティアたちがコーディネートし、少なくとも子供たちを多く含む難民グループが放置される、ということは避けられましたが、宿泊施設はメッセ会場を急遽開放し、地べたに薄っぺらい敷物だけのところで、ベッドを用意することはできませんでした。この件で、もともと難民受け入れに消極的なバイエルン州首相ホルスト・ゼーホーファーばかりか内相のトーマス・ドメジエールまでがオーストリアを厳しく批判し、予告なしに難民をドイツ国境に運ぶことを即座にやめるよう要求しました。今日は少し改善され、オーストリア当局からバス75台、約3000人をドイツ・パッサウ及びヴェークシャイトに搬送という報告がドイツ側になされましたが、問題は実際に到着する人数が予告された人数を上回ることです。バスの台数も予告より多くなることがたびたびのようです。とにかくもう少し秩序だった入国を可能にするために、本来シェンゲン圏内ではあり得ないことですが、ドイツ・オーストリア国境に仕切りや柵などを設けることになりました。同様にオーストリアもスロベニア国境に仕切りや柵などの設置が検討されています。ハンガリーのような有刺鉄線柵ではない、とのことですが、具体的なことはまだ何も公にされていません。オーストリアでは少なくとも一日約500件の難民申請があるそうです。これはオーストリアに入国した難民の約5-6%に相当し、残りの大部分はドイツに向かいます。
どの国もこのままではやっていけない、と悲鳴を挙げているのですが、早急な難民流入減少に繋がる解決策は残念ながらありません。
バイエルン州首相ホルスト・ゼーホーファーはまさしくそうした不可能な「早急解決」を求めて、メルケル独首相に「最後通牒」を宣告しましたが、彼にメルケル首相をどうこうする力はないので、意味のないパフォーマンスに過ぎません。ただ、解決策の一つとして提案されているドイツ・オーストリア国境でのトランジットゾーンの設置は議論の余地があります。最新のポリートバロメーターというZDFの10月23日の世論調査でも71%がトランジットゾーンの設置に賛成でした。


トランジットゾーンでドイツに入国する前に簡易審査を行い、亡命申請資格がないと判断されればその場で入国拒否、つまり申請者を追い返してしまうことが可能になることが期待されているわけですが、現実問題として、一日当たり数千人規模の難民申請希望者を処理できるだけのキャパシティを持つトランジットゾーンを設置するのはほぼ不可能です。キャパシティの不十分なトランジットゾーンを設置すれば、簡易審査を待つ難民たちがあっという間に溢れかえり、狭い空間で、十分な宿泊設備のないところに何万人もの人が閉じ込められてしまうことになります。難民の流れのほぼ終着点に当たるドイツが先陣を切ってトランジットゾーンを設置することは人道的に許容し難い状況を生むことになるので、トランジットゾーンを設置するなら、まずトルコ・EU国境、つまりギリシャが最初でなければいけません。EU特別サミットで取り決められた難民ホットスポットの設置・拡張がまさしくその役割を負うことになるわけですが、それが実現されるまでは難民の流れを緩やかにすることすらできないのが現状です。それをさもできるかのように喧伝する政治家たちは大衆扇動的なポピュリズムに陥っているにすぎません。私は個人的にはメルケル首相を支持ししてませんが、「早急に難民数減少に繋がる解決策はない」という彼女の言葉は真実以外の何物でもないのです。

ドイツ世論も「ドイツはこれだけ多くの難民を消化できない」(赤線、51%)がついに「消化できる」(緑線、46%)を上回り、歓迎ムードはもう風前の灯火と言えるでしょう。
「これだけ多く」の規模が既に前例のないレベルをとっくに超えてしまっているので、できる派とできない派が逆転するのも当然の成り行きと言えます。

ドイツ内相ドメジエールは、アフガニスタン出身者が2番目に多いことを問題視し、今後難民認定拒否された人たちのアフガニスタン送還を強化すると宣言しました。また彼は、アフガニスタンの若者は祖国を出ることなく、祖国再建に貢献するように呼びかけました。ドイツは10年かけてアフガニスタンを安全な国にするために尽力してきたし、ODA援助も多くなされてきた、ということが理由として挙げられています。ドイツへの亡命が可能なのは通訳などでドイツをはじめとする外国軍に協力をして、タリバンに目を付けられているような人たちだけ、ということになります。ここでは、タリバンの復活を許してしまった連合国側の失政の責任は問われないらしいですね。
アフガニスタンだけでなく、シリアでもロシアの軍事介入が意味のない破壊しかもたらさないことが明らかになりつつあります。アサド政府軍が弱すぎて、ロシアの空爆で勝ち取った陣地を維持することができないとか。結局破壊が進んだだけです。
攻撃する側に犠牲者が出にくいという理由で「魅力的な」軍事介入手段である空爆ですが、誤爆も多く、本来攻撃対象でないはずの人たちまで巻き込まれるため、長引くほど現地住民の反感を強めることになります。病院を空爆したり、結婚式に集まっている人たちを空爆したりという例はアフガニスタンでもシリアでも枚挙に暇がありません。結局のところ軍需産業の儲けが増えるだけで何の解決にもならないことはこれまでの数々の紛争が示しています。この為、軍事介入は軍需産業の儲けのためだけに行われているとしか私には思えません。これに関するありがちな陰謀論を鵜呑みにするわけでは勿論ありませんが、軍事介入が内戦の解決に繋がった例がないというのは厳然たる事実です。従って、現在の難民危機の根本的解決にもなり得ないのは確かでしょう。
かと言って、代替案があるわけではないのが悲しいところです。当事者たちの誰もが平和的解決を望んでないところにきれいごとを持ち出しても無視されるのがおちですからね。