徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『アトポス』(講談社文庫)

2018年11月28日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『アトポス』(1993、文庫は1996年)は御手洗潔シリーズ第9巻の大長編。美容のために処女の血を浴びたというルーマニアのエリザベート・バートリー伯爵夫人にまつわるエピソードや、彼女がその後吸血鬼となって生き延びたとするホラー小説のプロットの紹介(この小説の作者は殺害される)、吸血族と言われるサロメの映画(松崎レオナ主演)、そしてまるで吸血女が次々と獲物を求めるように行われる殺人事件という具合にホラー色満載で実に不気味な作品。

しかも暗闇坂の人喰いの木』や『水晶のピラミッド』ですでにメインキャラクターとなっているハリウッド女優松崎レオナがドラッグ依存症ゆえに精神科にかかっており、彼女の自分の行動についての記憶が曖昧な中、まるで彼女が狂気のあまりに殺人鬼となって映画「サロメ」関係者を次々とハリウッドと撮影現場の死海で殺しているかのようなストーリー展開なので、動かしがたいかのように見える状況証拠がどうやってそこまで揃ったのか、あるいは本当に彼女が今は亡き父親のように殺人淫楽症となってしまったのか、「まさか」と思いながらページを繰る手が止められず、ついに徹夜して完読してしまいました。

「アトポス」はアトピー性皮膚炎の「アトピー」の語源で、連続嬰児誘拐殺人事件で何人もの目撃者が証言する「頭髪がなく、顔が赤く爛れた女性」の爛れの原因である病気(アメリカでは「ストレインジ」)を指しています。

殺人の動機は嫉妬と美容のため(皮膚病治療のため)で、エリザベート・バートリー伯爵夫人の執念に通ずるものがあり、常軌を逸した恐ろしさです。御手洗潔の登場は最後の方だけで、わずか数時間で瞬く間にレオナの無罪を証明します。

この作品は後半部になるまで、御手洗潔シリーズであることを忘れてしまうようなストーリー展開です。

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