徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル18 白と黒』

2018年11月10日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『白と黒』(1974)は、昭和35年、東京に新築された巨大団地を舞台にした複雑怪奇な連続殺人事件の話で、地方の村や島などを舞台にしたその土地の風俗や言い伝えにまつわる話や元華族などの複雑な人間関係と過去の事件との絡み合いなどの話とは趣を異にする「現代的な」設定の長編推理小説です。しかし、ネタバレになりますが、犯人が若い女性であることや、理由は違いますが、別の人間によって死体が別の場所に運ばれて細工されることによって事件が複雑化するというパターンは『仮面舞踏会』と共通します。

加えて殺人事件に前後して人の情事というかそういう性的な秘密を暴露するような内容の、新聞の文字を切り張りされた怪文書がその問題の団地の住人に何通か配られており、殺人事件と関係があるのかないのか、これも捜査を混迷化させる要素となっています。

また、第一の犠牲者となった女性の顔がまだ建設中の団地の棟の屋上に設置されていたタール窯からダストシュートを伝って落ちてきた煮えたぎるタールによって潰されていたことで、服装から団地の近所で洋裁店を営むマダム片桐恒子と推定されるものの、彼女自身が過去を隠して身元不明であったことで事件がより難解なものとなります。洋裁店からは「白と黒と...荘ホテルで...も当団地に...白か」と活字の切り抜きの貼り混ぜ手紙の一片が発見されたため、この「白と黒」が何を意味するのかがこの事件を解くカギとなります。

金田一耕助はこの団地に住む顔なじみの須藤順子(旧姓緒方)に偶然会って、彼女の夫が怪文書を受取って以来行方不明になっているので助けて欲しいと頼まれて団地に赴き、彼女の話を聞いている間に片桐恒子の死体が発見されたために、この団地の連続殺人事件に関わることになります。彼が呼ばれた先で事件が起こるというちょっと違和感を感じざるを得ない無理系の設定ですね。この作品に限ったことではありませんが。

この作品の面白い所は、次から次へと妖しい人物や疑わしい事実が浮上するにもかかわらず、なかなか事件の核心に辿り着かないという複雑で重層的な構成にあります。その当時新しく出現した「巨大団地」という現象に対して抱かれたであろう不気味な印象が、特殊な文化を育む孤島や山間の閉ざされた村などに通ずるものがあるのも興味深いですね。


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