徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

2018年11月06日 | 書評ー小説:作者ア行

『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』は現在4巻まで出ているシリーズ『茉莉花官吏伝』の番外編のようなもので、白楼国の珀陽の支援で皇帝の座に就いた赤奏国の暁月と、本当は暁月が殺した先帝の後宮に入る予定だった莉杏の出会いから始まる恋物語です。暁月は帝位簒奪を実行した日にたまたま13歳の誕生日を迎えて(赤奏国は13歳で「成人」)顔見世のために王宮に来ていた莉杏を「ちょうどいいから」と皇后にしてしまいます。「鳳凰」朱雀神獣を守護神に掲げる赤奏国では「夫婦」であることが重視され、皇帝の即位も夫婦となっていることが必要とされ、暁月が皇后に想定していた女性が途中で暗殺されて来れなかったため、その場にちょうど来ていた莉杏を皇后にして朱雀神獣の加護を受けて即位する儀式を取り急ぎ行って既成事実をつくったという身も蓋もない経緯から始まる関係ですが、莉杏の方は皇后の役割を真摯に受け止め、暁月にもどんどん恋心を募らせ、より一層お役目を果たそうと努力していきます。

莉杏は幼いながらも鋭い洞察力を持ち、学習能力も高いので、どんどん問題解決能力を身につけて行きます。その有能さと健気さに暁月がほだされて行くところもみものです。政情不安の国の帝位に就いたばかりの皇帝の皇后としていろいろと残酷な決断を迫られたり、血なまぐさい事件に巻き込まれたりしますが、「こども」として守られるばかりではなく、懸命に事態に立ち向かおうとするところがひたむきでいいですね。事件の緊張感と「陛下、かっこいい~。好き~♡」というほんわかした感じが程よく混じっていて楽しめます。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:三上延著、『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち 』(メディアワークス文庫)

2018年11月06日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち 』はスピンオフの短編集で、ビブリア古書堂店長の篠川栞子と五浦大輔の娘扉子(7)に栞子が語り聞かせる過去の事件の概要という形が取られています。

母親同様に本の虫で、本に関することには妙に感が働く扉子になんとか本の世界ばかりではなく、本物の人との関わりに興味を持ってほしいという栞子の苦心と、そんなこととはつゆ知らず屈託なく「ご本」を信奉する(つまり母の伝えようとしていることがまったく通じていない)扉子のはつらつさが面白い対照をなしており、ふふっと笑わずにはいられない語り口です。

極端な人見知りをする栞子に対して、本好きの人はみんな善人と思い込んで、誰かれなく物おじせずに話すことができ、かつ「じゃあ、私はご本を読むから」とあっさり人を置いてきぼりにできる扉子は外見と本好きという点を除けば全く違うキャラで面白いです。扉子が将来どんな人生を歩んでいくのか楽しみになるような、心温まるスピンオフでした。

そういえば、本編の方の書評を書いていなかったことに今気づきました(笑)本編は7巻あり、古書にまつわる探偵物語みたいな感じですね。特に稀覯本には数百万円の価値があったりするので、それを巡る争いも起こりますので、十分に「事件」がおこる環境です。古書に関する知識と古書業界に関する知識がふんだんにちりばめられ、特に古書に関する知識が謎解きの重要なキーとなることが多いです。そうした緊張感溢れる事件の合間に店長の栞子と店員の五浦大輔のなんとももどかしい一向に進展しない関係(ほぼ五浦大輔の片思いみたいなのに、後の方になると栞子の方も結構?)も見ものです。まあ、最終的に二人は結婚するわけですけど、「まあ、うぶだこと」と思わずニヤニヤしてしまうのもこの作品の魅力の一つではないかと思います。