長尾景虎 上杉奇兵隊記「草莽崛起」<彼を知り己を知れば百戦して殆うからず>

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スパイラル <巨魁妄動編>1989年宮城県仙台市幸町中学生事件アンコールブログ小説5

2014年11月20日 15時58分33秒 | 日記







  第三章 攻撃計画








        1 新目、緑川罵倒計画




   新目真紀の鬱屈は晴れることはなかった。
 とにかく、優等生の道理木里子が憎かった。あのアマッ! と思っていた。
 真紀は木里子の10分の1の実力も学力も美貌もないのにも関わらず、それを理解していなかった。むしろ、自分の才覚が何故みんな理解できないのか? などと不遜に思ってもいた。茶坊主娘たち(羽柴秀子など)も心の底では、新目真紀より道理木里子のほうが優れていると思っていた。だからよけい真紀は腹が立つのであった。
「頭くるわね!」
 新目は学校の校舎の壁に蹴りをいれた。鬱屈した思いをこぶしにこめて、壁をどんどん叩いた。木里子に対する怒りの波が全身の血管を駆けめぐり、彼女は部下にとめられるまで我を忘れて壁を叩き続けた。それでも怒りはおさまらなかった。
 ターゲットが必要だわ! ストレス発散のためのターゲットが…。
 新目はふと、学校の校舎の近くに引っ越してきたという男のことを思った。そいつがターゲットになるかも知れない。ターゲット……というよりスケープ・ゴート(生け贄の羊)である。自分の鬱屈した思いを忘れるために他人を、罪もない他人を攻撃しようというのだ。なんとも身勝手なオポーチュニズム(ご都合主義)である。
 というより新目たちや、のちの”鬼畜”のやることは犯罪である。
 そして、緑川鷲羽の知らぬ間に、彼は新目の決める”ターゲット”に選択されることになる。哀れ……というより慙愧に耐えない。
 それにしても、犯罪とはこのように短絡的な、思いやりや道徳心、良心を無視した形で勃発してしまうものであろうか。短絡的に、ストレスがたまっているから、とか、むしゃくしゃする、嫌なことを忘れたい……そのような自分勝手な精神で犯罪被害にあうなんて堪らない。他人を傷つける前に自分自身を傷つければいいのだ。自分の胸に手をあてて、自分自身の心について考えればいいのだ。
 たとえば毎晩、解定前に接心し、釈尊に手を合わせる。そして自分の心に耳を傾ける。それこそ公案ではないか。意味がわからなければ辞書を引くなりして勉強しろ。
 仏教徒でなければ、キリストに懺悔するなりしたらいい。
 とにかく他人に、人様に迷惑だけはかけるな。

  道理木里子はこの頃、ひとつの趣味を見つけていた。
 それは執筆だった。エッセイや小説などを書くのだ。もちろん作家になる…などと思ってはいないが、とにかく自分の考えを文章にしていく作業は楽しかった。何か創作したことのあるひとならわかると思うが、完成したときの達成感は素晴らしいものだ。何かを完成させ、達成させ、創作する、こんな素晴らしいことはない。
 また、この頃、緑川鷲羽も小説を書き始める。音楽もつくりはじめる。絵も描きはじめる。のちのプランナー・ストラテジストへの”大躍進”へのステップだった。
 だが、この頃、自分が中学生たちのテロリズムにあうなど緑川は考えてもいなかった。米沢で”臥竜”と畏れられた鷲羽であったが、まさか鼻たれの中学生ごときにテロルで苦しめられるなど思ってもいなかった。彼はまだ二十歳間近の若者である。そんな彼が、まさか中学生たちのテロルで被害にあうとは……なんとむごい!
  団塊の世代、団塊Jrの世代が子供を甘やかし、子供が悪いことをしても「だめだよ~」などとお茶濁しみたいなことをいうだけでしつけない、甘やかし、子供に媚び、子供の姿勢を正そうともしない。その結果、ホームレスをリンチで殺すような、売春を悪ともおもわず体を売るような……そんなガキばっかりが目につく。
 学校のせいではない。親のしつけの欠如の結果だ。
 確かに、「今の若者は…」などというのは古代エジプト時代からいわれた永遠のテーマである。しかし、日本人の子供はいったいどうしちゃったのか? 不思議でたまらない。いったいどうしちゃったの? なぜ、やっていいことと悪いこと、言っていいことと悪いことを判断できないの? その質問の答えは「甘やかし」「躾欠如」である。
 抜本的な日本の子供の改心案がある。私の提唱する「ボランティア研修」である。中高一貫でもいいのだが、そのうちの3ケ月か一か月の期間、アフリカか東南アジアに点在する難民キャンプでボランティアをさせるのだ。それか老人ホームで。自分とは違った世界で生活し、そのひとの苦労を知り、そのひとのために献身的に働く。これほど国際性や思いやり、道徳心、優しさを身につけられる研修もないだろう。
 とにかく日本の子供にはそうした研修が必要だと思う。もちろん滞在研修費は親がだすのだ。研修後、自宅に帰ってきたわが子をみたときの親の顔が目に浮かぶ。研修で、道徳心や国際性や思いやりを身につけて帰ってきたわが子…。自分の子供がひとまわりもふたまわりも成長した姿………。これこそ教育の成果となろう。そういう研修をつめば、よもや、強盗や強姦やホームレス殺しなどする子供もいなくなるだろう。
 教育とは、こうして頭をつかうことである。
「ボランティア研修」は少し突拍子もないことにきこえるかも知れないが、これぐらい抜本的な教育をしないと、日本の国自体がダメになるのではないだろうか? なぜなら、将来の日本を支えていくのは今の子供達だからである。そして、大人もかわろう。子供に媚びを売らず、ちゃんとしつけよう。”大人がかわれば子供もかわる”至言ではないか。



 



         2 ターゲット





「新目さん、わかりました!」
 羽柴秀子が走ってきていった。新目真紀は化学室でタバコをふかしているところであった。新目と部下しかひとはいない。今はけだるい午後だ。
「なにが?」新目はおっとり刀で尋ねた。
 羽柴秀子ははあはあ息をつきながら「あの男です。前にいってた変な男……」
「変な男……? 校舎の近くのアパートに越してきたっていう?」
「そうです!」羽柴秀子は続けた。「その男の名前がわかったんです!」
 彼女は”ターゲット”の名前を告げた。それは、緑川……緑川鷲羽だった。秀子が彼のアパートの前の玄関の表札で確認したのだ。
「緑川? …ワシハ?」
 新目はいった。羽柴秀子は「そうです! ワシハです!」といった。
 ふたりは肝心なところで違っていた。ワシハ…ではなく、鷲羽(わしゅう)である。とにかく、そういうことで緑川鷲羽は”ターゲット”にノミネートされた。
 テロルのターゲットに。
「で? そのワシハはどういうやつなの?」新目は訝し気にきいた。
「変なやつです。変です」
「どういう風に?」
「とにかく変なんです」秀子はいった。答えになってない。
「だったら…」高橋広子がいった。「その男のアパートの前でまちぶせして、顔写真撮るっていうのは?」
「そうそう!」斎藤淳子がこの日初めて発言した。「それがいいですよ。なんといってもターゲットですし、顔写真バッチリ撮って、学校中で罵倒すればいいんですよ」
「スカッとするかもね」新目はにやりとした。
「馬鹿、馬鹿! とか 死ね! とかいって罵声をあびせかけ、投石したり、嘲笑する……スカッとしますよ、きっと。こっちには無害ですしね。その男は学校にチクッたりしないだろうし」
「なんでわかるの? チクッたら?」新目が高橋にきいた。
 高橋広子はいった。「チクッたって怖いもんですか! どうせあの男には私たちの顔や名前も住所もわからないんだから……それにあたしたち女だから殴られたりすることもないし……とにかくあのワシハを罵倒しましょうよ! スカッとしますって」
「よし!」
 新目が、重い腰をあげた。「じゃあ、その男の前でタムロって、やつの顔を撮って、学校中に罵倒するように号令を発することにするわ!」
 こうして、テロルは始動しだした。

  新目真紀、羽柴秀子、高橋広子、斎藤淳子を中心とする十二人の新目一団は、緑川のアパートの前の階段に座り、タムロった。皆、学生服姿だが、もう授業が始まる時刻になっても、新目らはタムロっていた。羽柴秀子はインスタントカメラを周到に準備し、緑川鷲羽の顔をバッチリ撮るのだと決心していた。
 とにかく、ターゲットの顔をバッチリ撮り、学校中のストレス発散のための罵倒人物にするのだ。彼女らには良心のかけらもなかった。
 ただ、自分たちのストレス発散のためのスケープ・ゴートがほしかったのだ。
 例え緑川がどんな人物であろうと、彼女たちには関係がなかった。罵倒投石嘲笑の理由などまったくない。只、ストレス発散できればそれでいいのだ。
 そして、緑川は専門学校の授業出席のために玄関を出た。すると、階段に女子中学生がタムロっているので驚いた。見るからに陰険そうな中女たちで、その顔はアイドルをおっかける”追っかけ娘”のそれではなかった。その顔は誘惑のそれでもなかった。
”連中”は、テロルの相手を確認しに待ち伏せしていただけである。そして、その朝、顔確認がおわった女達は、にやりとした。これで……ストレス発散…だわ。

  学校にもどると、テロリスト娘たちは「顔、撮れた?」とにやにやした。
 羽柴秀子は猿のような顔に満天の笑みを浮かべ、「バッチリです!」といった。
「変なやつだったわね。あいつならターゲットでいいわよ」
 新目は、悪ぶれることもなくいった。「あとは道理木里子を始末すればいいのよ。緑川ワシハと一緒に叩き潰してやるわ!」


  新目真紀は、自宅で、家庭教師に教わっていた。
 教師はなんとあの新田和也である。新米医師で、アルバイトで真紀をみていた。新田は東大卒で、頭だけはいい青年である。実は、真紀と和也は深い仲になっていた。
 この数年、つきっきりで勉強をみているうちに男と女の関係となってしまっていた。
 当然のように、真紀の父親がいなくて家にだれもいなくなったときは、愛を確かめあった。セックスに興じた。真紀は隣人を気にせず、大きな声であえいだ。
 ふたりきりになって愛を確かめあっているときは、新目真紀はしばしばそうだ、と断言することができた。和也は激しく、しかも優しかった。お互い裸でもつれあった。彼女を抱きしめ、和也は熱っぽく思いをこめて唇と腰をからめてくる。真紀は彼が自分のことを大事におもっているのを知っていた。彼女にとって彼は初めての相手だったし、彼にとっては”セックス相手の若い娘”である。処女も奪ったし、真紀は顔はいまいちかも知れないが、こんな若い娘を抱けるなら上等なものだろう。
 真紀は彼が自分を大切におもっていると感じていた。自分をむさぼるように見つめるときのまなざしと、熱のこもった微笑にすべてが現れている……そう思っていた。
 セックスに興じているときには、早朝の”テロル計画”のことなど忘れていた。
 それほど気持ち良かったので、ある。


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