また昨日の続きです。
「鳥のもう一種類はカモメだ。ナポリはカモメだらけだけど、この場所にいるのはたぶん四羽だけだな。一羽は求愛の声を上げている。この一羽は少し遠い。ほかの三羽は(中略)激しく喧嘩している。(中略)三羽しかいないってことは、小型のごみ容器の残飯を奪い合ってるんだと思う。(中略)海からは少し距離がありそうだ。(中略)」
「近くに学校がある。アメリカで言う小学校だ。カトリック系か、私立の学校だと思う。生徒の大部分が革底の靴を履いてるから。(中略)
「(中略)わりと近くに建設現場がある。(中略)アメリカ人の声は聞こえる? 男性がこう尋ねているだろう━━“これはいくら?”。(中略)
誰かが吐いてる音も聞こえる。(中略)吐いた人物は酔っ払いだ。(中略)」
「工具の音も聞こえる」
「修理工場か」(中略)
「教会の鐘」(中略)「音階は、D、G,G,B,G,G」(中略)」
エルコレがうなずいた。「それから知ってます、アンジェラスの鐘だ。(中略)正午の鐘です」(中略)
「ここだ(エッコ)。ジャンニはここにいたと考えて間違いないだろう。エキア山だよ。(中略)
エルコレが言った。「そうだ、あそこなら、ファティマのターゲットになりそうな建物もありますよ。ニーノ・ビクシオ兵舎━━軍事資料館です」(中略)
ライムはデジタル時計を確かめた━━00:50。
テロ計画の実行まで、残り1時間10分。
アメリア・サックスは、エルコレの哀れなメガーヌをまたもや限界まで酷使していた。(中略)
やっとのことで登頂を果たすと、先に到着していた治安作戦中央部隊(SCO)の隊員が二十数名見えた。(中略)
爆破まで、あと四十六分。(中略)
サックスはライムに電話をかけた。
「何か見つかったか、サックス?」
「何も。でもね、何かがおかしい気がするの」
「おかしいというのは、そこがターゲットとは思えないという意味か」
「そう」(中略)
「あと四十分待ったところで、大勢が来るとは思えないわ、ライム。(中略)
ライムが言った。「私はミスを犯した」(中略)
「(中略)ジャンニは、ターゲットにいるとは言っていない。ターゲットが“見える”と言った。エキア山からターゲットを見下ろしていたのだろう」(中略)
そのとき、サックスの視線は(中略)小島をとらえた。「あれは何?」
「卵城(カステル・デッローヴォ)です」エルコレが答える。「人気のある観光スポットですよ。(中略)
「あ、あれを見てください!」
(中略)
「ファッション関係のイベントの宣伝みたいです。(中略)」
「イベントなら、事前にプレスリリースが出てたでしょうね。ジャンニがそれを見ていれば、午後二時開始ということもわかったはず」(中略)
「それだ、それで間違いない!」ロッシが言った。(中略)
(中略)
卵城は理想的な標的だった。(中略)
観光客も勘定に入れれば、島には軽く千人くらいいることになりそうだ。(中略)
人込みにじっと目を凝らす。
とても見つけられない……(中略)
爆弾を仕掛けるとしたら━━?
ちょうどいい場所はいくらでもあった。(中略)
爆発まで、あと十分。(中略)
「待って」サックスは言った。(中略)さっき見たベビーカーを押した女性……場違いではないか。すぐ近く、パルテノペ通りの西端には公園だってあるのに?(中略)なのに、観光客だらけで、しかもごちゃごちゃと入り組んだ波止場に囲まれた卵城にわざわざ来たのはなぜ?
それに、あの女性はバックパックを肩にかけていた。爆弾を隠すのにちょうどいい。
でも、あの金髪は? そうか、小道具のベビーカーを買いにいくなら、そのついでにウィッグも買えばいい。(中略)
サックスは南へ、ベビーカーを押した女性を最後に見かけた場所へと歩き続けた。(中略)
次の瞬間、答えが見えた。卵城の南面の壁の向こう側、城の陰になった波止場のあたりからベビーカーを押した金髪の女性が現れた。(中略)
ここにはターゲットらしいターゲットがない。(中略)しかし、ファティマを爆風から守る頑丈なアーチ形の出入口にはある。(中略)
サックスは銃を抜き、(中略)小走りで近づいた。あと十メートルほどのところまで来たところでファティマがサックスに気づき、その場で凍りついた。
サックスは穏やかな声で、ゆっくりとわかりやすく語りかけた。「あなたはだまされたのよ、ファティマ。(中略)イブラヒムは嘘をついている」(中略)
「あなたを撃ちたくない。だから言うとおりにして。(中略)」
ファティマは携帯電話を取り出そうとしている。(中略)
「やめて、ファティマ、やめて!」(中略)
ファティマは携帯電話を取り出した。(中略)
アメリア・サックスは息を吸いこみ、呼吸を止めると、トリガーを引いた━━三発。
(また明日へ続きます……)
「鳥のもう一種類はカモメだ。ナポリはカモメだらけだけど、この場所にいるのはたぶん四羽だけだな。一羽は求愛の声を上げている。この一羽は少し遠い。ほかの三羽は(中略)激しく喧嘩している。(中略)三羽しかいないってことは、小型のごみ容器の残飯を奪い合ってるんだと思う。(中略)海からは少し距離がありそうだ。(中略)」
「近くに学校がある。アメリカで言う小学校だ。カトリック系か、私立の学校だと思う。生徒の大部分が革底の靴を履いてるから。(中略)
「(中略)わりと近くに建設現場がある。(中略)アメリカ人の声は聞こえる? 男性がこう尋ねているだろう━━“これはいくら?”。(中略)
誰かが吐いてる音も聞こえる。(中略)吐いた人物は酔っ払いだ。(中略)」
「工具の音も聞こえる」
「修理工場か」(中略)
「教会の鐘」(中略)「音階は、D、G,G,B,G,G」(中略)」
エルコレがうなずいた。「それから知ってます、アンジェラスの鐘だ。(中略)正午の鐘です」(中略)
「ここだ(エッコ)。ジャンニはここにいたと考えて間違いないだろう。エキア山だよ。(中略)
エルコレが言った。「そうだ、あそこなら、ファティマのターゲットになりそうな建物もありますよ。ニーノ・ビクシオ兵舎━━軍事資料館です」(中略)
ライムはデジタル時計を確かめた━━00:50。
テロ計画の実行まで、残り1時間10分。
アメリア・サックスは、エルコレの哀れなメガーヌをまたもや限界まで酷使していた。(中略)
やっとのことで登頂を果たすと、先に到着していた治安作戦中央部隊(SCO)の隊員が二十数名見えた。(中略)
爆破まで、あと四十六分。(中略)
サックスはライムに電話をかけた。
「何か見つかったか、サックス?」
「何も。でもね、何かがおかしい気がするの」
「おかしいというのは、そこがターゲットとは思えないという意味か」
「そう」(中略)
「あと四十分待ったところで、大勢が来るとは思えないわ、ライム。(中略)
ライムが言った。「私はミスを犯した」(中略)
「(中略)ジャンニは、ターゲットにいるとは言っていない。ターゲットが“見える”と言った。エキア山からターゲットを見下ろしていたのだろう」(中略)
そのとき、サックスの視線は(中略)小島をとらえた。「あれは何?」
「卵城(カステル・デッローヴォ)です」エルコレが答える。「人気のある観光スポットですよ。(中略)
「あ、あれを見てください!」
(中略)
「ファッション関係のイベントの宣伝みたいです。(中略)」
「イベントなら、事前にプレスリリースが出てたでしょうね。ジャンニがそれを見ていれば、午後二時開始ということもわかったはず」(中略)
「それだ、それで間違いない!」ロッシが言った。(中略)
(中略)
卵城は理想的な標的だった。(中略)
観光客も勘定に入れれば、島には軽く千人くらいいることになりそうだ。(中略)
人込みにじっと目を凝らす。
とても見つけられない……(中略)
爆弾を仕掛けるとしたら━━?
ちょうどいい場所はいくらでもあった。(中略)
爆発まで、あと十分。(中略)
「待って」サックスは言った。(中略)さっき見たベビーカーを押した女性……場違いではないか。すぐ近く、パルテノペ通りの西端には公園だってあるのに?(中略)なのに、観光客だらけで、しかもごちゃごちゃと入り組んだ波止場に囲まれた卵城にわざわざ来たのはなぜ?
それに、あの女性はバックパックを肩にかけていた。爆弾を隠すのにちょうどいい。
でも、あの金髪は? そうか、小道具のベビーカーを買いにいくなら、そのついでにウィッグも買えばいい。(中略)
サックスは南へ、ベビーカーを押した女性を最後に見かけた場所へと歩き続けた。(中略)
次の瞬間、答えが見えた。卵城の南面の壁の向こう側、城の陰になった波止場のあたりからベビーカーを押した金髪の女性が現れた。(中略)
ここにはターゲットらしいターゲットがない。(中略)しかし、ファティマを爆風から守る頑丈なアーチ形の出入口にはある。(中略)
サックスは銃を抜き、(中略)小走りで近づいた。あと十メートルほどのところまで来たところでファティマがサックスに気づき、その場で凍りついた。
サックスは穏やかな声で、ゆっくりとわかりやすく語りかけた。「あなたはだまされたのよ、ファティマ。(中略)イブラヒムは嘘をついている」(中略)
「あなたを撃ちたくない。だから言うとおりにして。(中略)」
ファティマは携帯電話を取り出そうとしている。(中略)
「やめて、ファティマ、やめて!」(中略)
ファティマは携帯電話を取り出した。(中略)
アメリア・サックスは息を吸いこみ、呼吸を止めると、トリガーを引いた━━三発。
(また明日へ続きます……)