また昨日の続きです。
国家警察ナポリ本部の一階にある科学警察ラボの隣、コンポーザー事件の捜査指令室で、ベアトリーチェ・レンツァが淡々と説明してくれた。(中略)
説明を聞いているメンバーは、ライム、マッシモ・ロッシ、エルコレ・ベネッリ、そしてアメリア・サックスだ。(中略)
ベアトリーチェは英語で答えた。「部分指紋の復元しかできませんでした。あなたが」━━エルコレにうなずく━━「持ち帰った木の葉に付着していた部分指紋です。」(中略)
「微細証拠は?」ライムが尋ねた。
「その分析はもう少し成果がありました。コンバース・コンの靴跡の溝の部分から、ごく微量の土が採取できました……その土に、二酸化炭素、未燃炭化水素、窒素と一酸化炭素と灯油が含まれていました」
「エンジン排気か」ライムは言った。(中略)
「ジェット機です。理由は灯油の割合。自動車やトラックではありません。もう一つ見つけたものがあります━━繊維です。ナプキンやペーパータオルの繊維と、コエレンテ……」「矛盾しない」エルコレが英語で言った。
「シ、ナプキンやペーパータオルの繊維と矛盾しません。その繊維から、次に挙げる食材と矛盾しない物質を検出しました。サワーミルク、小麦、ジャガイモ、チリパウダー、ターメリック、トマト。あとフェヌグリーク。知ってます?」
「知らんな」
エルコレが言った。「料理用のスパイスです。北アフリカ料理によく使われます」(中略)
それから続けた。「そこで(アッローラ)、犯人の行動範囲、ダブルッツォから半径十五キロの地域にあるレストランに問い合わせをかけました。すべて伝統的なイタリア料理の店でした。中東料理や北アフリカ料理を出す店は、近隣に一軒もありません」(中略)「つまり、コンポーザーはごく最近、中東系、北アフリカ系のレストランか家庭があるところに行ったか近づいたことになります」
ライムは渋面を作った。
「何かおかしな点でも?」
「分析は上出来だ。問題は、それぞれの証拠がどう結びつくかわからないということでね。(中略)」
ロッシは鼻に皺を寄せた。「(中略)どこの難民キャンプや収容施設でもつねに対応できるというわけではありません。そこでキャンプの周囲にたくさんの屋台が出て、リビアやチュニジアの食材や総菜を販売しています」
「その条件では、ほぼすべてのキャンプが該当してしまう」
ロッシがふいに顔をほころばせた。「はい。ただ━━」
ライムはさえぎった。「ジェット機の排気」
「そうです! カンパニア州最大のキャンプ、カポディキーノ難民一時収容センターは、空港のすぐそばに位置しています。北アフリカの屋台もある」(中略)
サックスが言った。「ミケランジェロの戦略チームをキャンプに急行させてください。私も行きます」(中略)
(中略)コンポーザーは、ライムたちが推測したとおりの行動を取った。ただし、繰り返されたテーマからはずれたことをした。誘拐した人物の呼吸音をワルツのリズムセクションに使うという手順を省いた。被害者の喉をその場で切り裂き、トレードマークの首吊り縄を残して逃走した。(中略)
(中略)ステファンの新しい作品の一拍目を刻むはずだった男は、もう存在しない。
あの男から音が聞こえることは、もう二度とない。
ああ愛するあなたよ……
ごめんよ、エウテルペ……本当にごめん……
大切なミューズを絶対に裏切ってはならない。絶対に、絶対に絶対に絶対に……(中略)
ブルックリンの廃工場で見た赤毛の刑事。“イル・コンポジトーレ”の事件捜査のためにニューヨークの捜査官がイタリアに来ているらしいことはステファンも知っていた。(中略)
一つ考えが浮かんだ。狩りの女神が予期しないことが一つあるとしたら、それは何だ?
決まっている━━自分が別の狩人のターゲットにされることだ。
その晩の十時、コンポーザー事件捜査チームの全員が国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)にふたたび集まった。(中略)
一覧表を眺めながらロッシがつぶやいた。「ポストイット。ミラノか……いったいどんな意味が? マレク・ダディのものか。それとも、コンポーザーにつながる人物がミラノにいるのか?(中略)」
サックスが言った。「私が行きます」(中略)
「第五部 髑髏と骨と 9月25日 土曜日」
午前八時、ライムとサックスとトムは、警備が厳重な領事館の入口で海兵隊員にパスポートを提示し、ロビーに案内された。(中略)(総領事の)ヘンリー・マスグレーヴは、職業外交官らしいそつのない物腰と鋭敏な目の持ち主だ。(中略)
(また明日へ続きます……)
国家警察ナポリ本部の一階にある科学警察ラボの隣、コンポーザー事件の捜査指令室で、ベアトリーチェ・レンツァが淡々と説明してくれた。(中略)
説明を聞いているメンバーは、ライム、マッシモ・ロッシ、エルコレ・ベネッリ、そしてアメリア・サックスだ。(中略)
ベアトリーチェは英語で答えた。「部分指紋の復元しかできませんでした。あなたが」━━エルコレにうなずく━━「持ち帰った木の葉に付着していた部分指紋です。」(中略)
「微細証拠は?」ライムが尋ねた。
「その分析はもう少し成果がありました。コンバース・コンの靴跡の溝の部分から、ごく微量の土が採取できました……その土に、二酸化炭素、未燃炭化水素、窒素と一酸化炭素と灯油が含まれていました」
「エンジン排気か」ライムは言った。(中略)
「ジェット機です。理由は灯油の割合。自動車やトラックではありません。もう一つ見つけたものがあります━━繊維です。ナプキンやペーパータオルの繊維と、コエレンテ……」「矛盾しない」エルコレが英語で言った。
「シ、ナプキンやペーパータオルの繊維と矛盾しません。その繊維から、次に挙げる食材と矛盾しない物質を検出しました。サワーミルク、小麦、ジャガイモ、チリパウダー、ターメリック、トマト。あとフェヌグリーク。知ってます?」
「知らんな」
エルコレが言った。「料理用のスパイスです。北アフリカ料理によく使われます」(中略)
それから続けた。「そこで(アッローラ)、犯人の行動範囲、ダブルッツォから半径十五キロの地域にあるレストランに問い合わせをかけました。すべて伝統的なイタリア料理の店でした。中東料理や北アフリカ料理を出す店は、近隣に一軒もありません」(中略)「つまり、コンポーザーはごく最近、中東系、北アフリカ系のレストランか家庭があるところに行ったか近づいたことになります」
ライムは渋面を作った。
「何かおかしな点でも?」
「分析は上出来だ。問題は、それぞれの証拠がどう結びつくかわからないということでね。(中略)」
ロッシは鼻に皺を寄せた。「(中略)どこの難民キャンプや収容施設でもつねに対応できるというわけではありません。そこでキャンプの周囲にたくさんの屋台が出て、リビアやチュニジアの食材や総菜を販売しています」
「その条件では、ほぼすべてのキャンプが該当してしまう」
ロッシがふいに顔をほころばせた。「はい。ただ━━」
ライムはさえぎった。「ジェット機の排気」
「そうです! カンパニア州最大のキャンプ、カポディキーノ難民一時収容センターは、空港のすぐそばに位置しています。北アフリカの屋台もある」(中略)
サックスが言った。「ミケランジェロの戦略チームをキャンプに急行させてください。私も行きます」(中略)
(中略)コンポーザーは、ライムたちが推測したとおりの行動を取った。ただし、繰り返されたテーマからはずれたことをした。誘拐した人物の呼吸音をワルツのリズムセクションに使うという手順を省いた。被害者の喉をその場で切り裂き、トレードマークの首吊り縄を残して逃走した。(中略)
(中略)ステファンの新しい作品の一拍目を刻むはずだった男は、もう存在しない。
あの男から音が聞こえることは、もう二度とない。
ああ愛するあなたよ……
ごめんよ、エウテルペ……本当にごめん……
大切なミューズを絶対に裏切ってはならない。絶対に、絶対に絶対に絶対に……(中略)
ブルックリンの廃工場で見た赤毛の刑事。“イル・コンポジトーレ”の事件捜査のためにニューヨークの捜査官がイタリアに来ているらしいことはステファンも知っていた。(中略)
一つ考えが浮かんだ。狩りの女神が予期しないことが一つあるとしたら、それは何だ?
決まっている━━自分が別の狩人のターゲットにされることだ。
その晩の十時、コンポーザー事件捜査チームの全員が国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)にふたたび集まった。(中略)
一覧表を眺めながらロッシがつぶやいた。「ポストイット。ミラノか……いったいどんな意味が? マレク・ダディのものか。それとも、コンポーザーにつながる人物がミラノにいるのか?(中略)」
サックスが言った。「私が行きます」(中略)
「第五部 髑髏と骨と 9月25日 土曜日」
午前八時、ライムとサックスとトムは、警備が厳重な領事館の入口で海兵隊員にパスポートを提示し、ロビーに案内された。(中略)(総領事の)ヘンリー・マスグレーヴは、職業外交官らしいそつのない物腰と鋭敏な目の持ち主だ。(中略)
(また明日へ続きます……)