また昨日の続きです。
「同意の有無は問題ではないの。私は事実を述べたまでのことです。これから話すことは仮定の話であり、あとで尋ねられても私はすべて否定します」返事を待つことなく、マッケンジーは続けた。「アブ・オマル」
ライムはその名前に心当たりがなかったが、ダンテ・スピロとマッシモ・ロッシは反応を示した。(中略)
スピロがライムに言った。「シ。数年前にイタリアで起きた事件だ。アブ・オマルはミラノのイマームだった。アメリカのCIAとイタリアの諜報機関が協力して指揮した作戦で、拉致された。エジプトに移送され、そこで拷問を受け、尋問された。イタリア検察は、作戦に関与したCIAとイタリアの諜報員を起訴した。この件が原因で、CIAのイタリアでの工作は何年かにわたって事実上中止されたとする文書を読んだことがある。またCIAの上級工作員の何名かに、欠席裁判を経て、実刑が言い渡された」
マッケンジーが言った。「アブ・オマル事件は、諜報機関が国外で直面する二つの問題を象徴しています。第一に、主権ね。現地の政府の了解がないかぎり、国外で容疑者を逮捕したり拘束したりする法的権利はありません。(中略)もう一つの問題は、最適な尋問方法の見きわめです。水責め、拷問、過酷な尋問、正規の手続きを経ない投獄━━アメリカの諜報機関はもうそういった方針を採用していません。(中略)もっと効率のよい方法を使って情報を引きだす必要があります。(中略)」
ライムはまた一つ思い出して言った。「そうか、アモバルビタールはそれか。ステファンがパニック発作を抑えるのに服用している薬だと思っていた。だが、きみたちは本来の用途に使ったわけだな。自白剤として」
「そのとおりよ。(中略)」
ダンテ・スピロが言った。「(中略)三名の被害者は命の危険にさらされたんだぞ!」
「いいえ、命の危険などまったくなかったわ」
サックスが小さく笑った。「絞首台はちゃちな造りだったから、ね」(中略)
「マレク・ダディは? 彼はカポディキーノ難民一時収容センターを出たところで殺害された」ロッシが尋ねた。
「ああ、そうか。略奪を試みたほかの難民の手でたまたま殺されてしまったわけか」
「ステファンは助けようとしたのよ。結局は死んでしまったので、ずいぶん動揺していたわ。(中略)」
マッケンジーは続けた。「私の経歴をお話ししましょうか……私が所属する組織の長官の背景も」
ロッシが言った。「諜報部員の大部分は、軍の出身者か、政府のほかの機関の元職員だ。(中略)」
「私は政府機関出身、長官は軍の元諜報将校ですが、その前は私はハリウッドのインディ映画のプロデューサーをしていました。(中略)」
「これですべて話しました。もちろん、仮定の話ですけれど。実は皆さんの力をお借りしたいことがあります。(中略)」
「イタリアに入国したテロリスト、マジークとダディは、トリポリでイブラヒムという名の男から組織に誘われています。この男に関する情報はほとんどなくて、どの組織に属しているのかさえわからない。(中略)イブラヒムの共犯者は、ナポリまたはナポリ周辺に潜伏しています。その共犯者が、イタリア国内での交渉役を務めているの。爆薬を調達したのもその共犯者だし、ウィーンやミラノのテロ計画を立案した現地工作員でもある」
サックスが言った。「ダブルッツォで拉致される前、アリ・マジークが食事をした相手もきっとその共犯者ね」
「そのとおりです。マジークの尋問で、その男の名はジャンニであることはわかりました。もちろん、コードネームよ。マジークはそれ以上の情報は持っていませんでした」(中略)
「(中略)唯一の希望は、ジャンニの逮捕です。ところが、手がかりはすでに尽きてしまった。どうでしょう、力を貸していただけませんか」(中略)
「第七部 意味の音 9月27日 月曜日」
午前九時、国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)一階の捜査司令官に、チームのほぼ全員がふたたび顔をそろえていた。(中略)
マッケンジーは、イブラヒムがテロ計画に関してジャンニと連絡を取り合うのに使ったと思しきトリポリのカフェの公衆電話の番号を(ハッカーの)ギャリソンに伝えた。(中略)ギャリソンによれば、リビア電話電信会社のシステムへの侵入は“朝飯前”だった。(中略)
「見て」マッケンジーはリストを指さした。「その発信記録━━トリポリのカフェからジャンニの古いほうの番号に発信した記録。(中略)」
「その一つ上の番号。(中略)“私の”番号なの」(中略)「盗聴防止の暗号化機能付き携帯電話。その電話がかかってきたときのことは覚えてる。(中略)」
サックスが言った。「つまり、あなたの情報提供者(中略)と、その計画のためにテロリストをスカウトしたイブラヒムは、同一人物だということね」
(また明日へ続きます……)
「同意の有無は問題ではないの。私は事実を述べたまでのことです。これから話すことは仮定の話であり、あとで尋ねられても私はすべて否定します」返事を待つことなく、マッケンジーは続けた。「アブ・オマル」
ライムはその名前に心当たりがなかったが、ダンテ・スピロとマッシモ・ロッシは反応を示した。(中略)
スピロがライムに言った。「シ。数年前にイタリアで起きた事件だ。アブ・オマルはミラノのイマームだった。アメリカのCIAとイタリアの諜報機関が協力して指揮した作戦で、拉致された。エジプトに移送され、そこで拷問を受け、尋問された。イタリア検察は、作戦に関与したCIAとイタリアの諜報員を起訴した。この件が原因で、CIAのイタリアでの工作は何年かにわたって事実上中止されたとする文書を読んだことがある。またCIAの上級工作員の何名かに、欠席裁判を経て、実刑が言い渡された」
マッケンジーが言った。「アブ・オマル事件は、諜報機関が国外で直面する二つの問題を象徴しています。第一に、主権ね。現地の政府の了解がないかぎり、国外で容疑者を逮捕したり拘束したりする法的権利はありません。(中略)もう一つの問題は、最適な尋問方法の見きわめです。水責め、拷問、過酷な尋問、正規の手続きを経ない投獄━━アメリカの諜報機関はもうそういった方針を採用していません。(中略)もっと効率のよい方法を使って情報を引きだす必要があります。(中略)」
ライムはまた一つ思い出して言った。「そうか、アモバルビタールはそれか。ステファンがパニック発作を抑えるのに服用している薬だと思っていた。だが、きみたちは本来の用途に使ったわけだな。自白剤として」
「そのとおりよ。(中略)」
ダンテ・スピロが言った。「(中略)三名の被害者は命の危険にさらされたんだぞ!」
「いいえ、命の危険などまったくなかったわ」
サックスが小さく笑った。「絞首台はちゃちな造りだったから、ね」(中略)
「マレク・ダディは? 彼はカポディキーノ難民一時収容センターを出たところで殺害された」ロッシが尋ねた。
「ああ、そうか。略奪を試みたほかの難民の手でたまたま殺されてしまったわけか」
「ステファンは助けようとしたのよ。結局は死んでしまったので、ずいぶん動揺していたわ。(中略)」
マッケンジーは続けた。「私の経歴をお話ししましょうか……私が所属する組織の長官の背景も」
ロッシが言った。「諜報部員の大部分は、軍の出身者か、政府のほかの機関の元職員だ。(中略)」
「私は政府機関出身、長官は軍の元諜報将校ですが、その前は私はハリウッドのインディ映画のプロデューサーをしていました。(中略)」
「これですべて話しました。もちろん、仮定の話ですけれど。実は皆さんの力をお借りしたいことがあります。(中略)」
「イタリアに入国したテロリスト、マジークとダディは、トリポリでイブラヒムという名の男から組織に誘われています。この男に関する情報はほとんどなくて、どの組織に属しているのかさえわからない。(中略)イブラヒムの共犯者は、ナポリまたはナポリ周辺に潜伏しています。その共犯者が、イタリア国内での交渉役を務めているの。爆薬を調達したのもその共犯者だし、ウィーンやミラノのテロ計画を立案した現地工作員でもある」
サックスが言った。「ダブルッツォで拉致される前、アリ・マジークが食事をした相手もきっとその共犯者ね」
「そのとおりです。マジークの尋問で、その男の名はジャンニであることはわかりました。もちろん、コードネームよ。マジークはそれ以上の情報は持っていませんでした」(中略)
「(中略)唯一の希望は、ジャンニの逮捕です。ところが、手がかりはすでに尽きてしまった。どうでしょう、力を貸していただけませんか」(中略)
「第七部 意味の音 9月27日 月曜日」
午前九時、国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)一階の捜査司令官に、チームのほぼ全員がふたたび顔をそろえていた。(中略)
マッケンジーは、イブラヒムがテロ計画に関してジャンニと連絡を取り合うのに使ったと思しきトリポリのカフェの公衆電話の番号を(ハッカーの)ギャリソンに伝えた。(中略)ギャリソンによれば、リビア電話電信会社のシステムへの侵入は“朝飯前”だった。(中略)
「見て」マッケンジーはリストを指さした。「その発信記録━━トリポリのカフェからジャンニの古いほうの番号に発信した記録。(中略)」
「その一つ上の番号。(中略)“私の”番号なの」(中略)「盗聴防止の暗号化機能付き携帯電話。その電話がかかってきたときのことは覚えてる。(中略)」
サックスが言った。「つまり、あなたの情報提供者(中略)と、その計画のためにテロリストをスカウトしたイブラヒムは、同一人物だということね」
(また明日へ続きます……)