また昨日の続きです。
携帯電話が鳴って(中略)サックスは応答した。(中略)(電話の相手はロッシだった。)
「(中略)国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)のウェブサイトに宛ててメールが届いたんです。差出人━━性別は不明です━━は、マレク・ダディが殺害された夜、事件発生直後に、キャンプそばの丘の上で男を見かけたそうです。黒っぽい車のすぐそばにいたとか、イタリア語がだいぶつたないので、翻訳ソフトを使ったんでしょう。おそらくキャンプ周辺に屋台を出している人物で、母語はアラビア語なのではないかと」「どこで目撃したか書いてあります?」
「ええ」(中略)
「エルコレ・ベネッリを行かせましょう。通訳が必要な場合に備えて」(中略)
アメリア・サックスはマイク・ヒル所有のリムジンの後部座席に乗っていた。(中略)
丘の頂上まで来た。(中略)
「コンポーザーはなぜここに来たのかしら。目撃者は、事件直後って言ってるのよね」(中略)
サックスは立ち止まった。急ブレーキをかけるように。(中略)
難民キャンプを見下したなら(中略)この頂上に立っていたとしか考えられない。車で上ってきたあと、道路を離れて小道を歩いたということになる。しかしメールで情報提供した人物は、車の“すぐそば”にいるところを見たという。
ありえない。(中略)
罠か!
メールはコンポーザー自身が送ったのだ。下手なイタリア語で。(中略)サックスや、ほかの捜査員をこの丘に誘い出すために。
きびすを返し、エルコレの名前を呼びながら、丘の頂上に取って返そうとした瞬間、銃声が響いた。(中略)堂々たるマグノリアの木の下の地面に、エルコレ・ベネッリがうつ伏せに倒れているのが見えた。立ち上がってエルコレに駆け寄ろうとしたとき、二発目の銃弾がサックスのすぐ目の前の地面にめりこんだ。一瞬おいて、高性能なライフルの銃声が空に響き渡った。
(中略)
「ガリーはひどい暴行を受けたそうです。事件に関して何か新しい情報があれば、単独室に移してもらえるかもしれません」(アメリカ領事館のスタッフは言った。)(中略)
(帰ってきたサックスに)「何があった?」ライムは固い声で訊いた。(中略)「平気。私は大丈夫」(中略)
「くそ。罠だったか」
「そう。コンポーザーの罠。ライフルを手に入れたみたいよ、ライム。大口径のライフル」(中略)
「弾丸は一個だけ回収できた。270ウィンチェスター」
狩猟用ライフルで一般的に使われる弾だ。(中略)
(中略)
キャンプの奥に向かう。“裏”ゲートの一つがそこにある━━金網のフェンスに切りこみを入れただけの出入り口だ。(中略)
茂みをかき分けて、大柄な男が現れた。白い肌、黒っぽい服と帽子。サングラスをかけている。両手に青いゴム手袋をはめていた。
男の片手に、黒い布でできたフードのようなものがあった。
ファティマは悲鳴を上げようとした。夫のほうに顔を向けようとした。
だが、男の拳が目にもとまらぬ速さで飛んできて、ファティマの顔に当たった。(中略)
一時間後、コンポーザー事件捜査チームのメンバーは、科学捜査ラボの隣にある窓のない捜査指令室に集合した。(中略)
マッシモ・ロッシに電話がかかってきた。応答するなり、ロッシは困惑の表情を浮かべた。
「なんてこった(クリスト)!」ロッシは言った。「コンポーザーがまた動きました。今度もカポディキーノの難民キャンプです」
「殺人?」
「いや、誘拐です。あたもや現場に首吊り縄を残している」
ライムは言った。「郵便警察に、動画投稿サイトの監視を始めるように伝えてくれ。新たな作品を投稿するのは時間の問題だ」(中略)
アメリア・サックスは急ブレーキをかけ、カポディキーノ難民一時収容センターの裏手にメガーヌを駐めた。(中略)
サックスはエルコレが指さした先を見た。金網を切っただけの出入口があった。
「犯人はそこの茂みから現れて、格闘になったそうです。ただ、今回は被害者の頭にフードをかぶせるのに成功して、連れ去った。だけどどうやら、興味深いこと、僕らにとってありがたいことが起きたようですよ。被害者を助けようとしてコンポーザーともみ合った人物がいます」(中略)
「その人物は警備員? 警察官?」
「いいえ。被害者の奥さんだそうです」(中略)
それから三十分ほどかけて、サックスはグリッド捜索をした。コンポーザーのトレッドマークである首吊り縄を含め、写真を撮って証拠を採取すべき地点にイタリア側から借りた番号札を置いていく。格闘の形跡が明らかな地点のすぐそばの茂みでは大きな収穫があった━━靴が片方だけ置き去りにされていた。コンバース・コンのローカットモデルだ。(中略)
(また明日へ続きます……)
携帯電話が鳴って(中略)サックスは応答した。(中略)(電話の相手はロッシだった。)
「(中略)国家警察ナポリ本部(クエストウーラ)のウェブサイトに宛ててメールが届いたんです。差出人━━性別は不明です━━は、マレク・ダディが殺害された夜、事件発生直後に、キャンプそばの丘の上で男を見かけたそうです。黒っぽい車のすぐそばにいたとか、イタリア語がだいぶつたないので、翻訳ソフトを使ったんでしょう。おそらくキャンプ周辺に屋台を出している人物で、母語はアラビア語なのではないかと」「どこで目撃したか書いてあります?」
「ええ」(中略)
「エルコレ・ベネッリを行かせましょう。通訳が必要な場合に備えて」(中略)
アメリア・サックスはマイク・ヒル所有のリムジンの後部座席に乗っていた。(中略)
丘の頂上まで来た。(中略)
「コンポーザーはなぜここに来たのかしら。目撃者は、事件直後って言ってるのよね」(中略)
サックスは立ち止まった。急ブレーキをかけるように。(中略)
難民キャンプを見下したなら(中略)この頂上に立っていたとしか考えられない。車で上ってきたあと、道路を離れて小道を歩いたということになる。しかしメールで情報提供した人物は、車の“すぐそば”にいるところを見たという。
ありえない。(中略)
罠か!
メールはコンポーザー自身が送ったのだ。下手なイタリア語で。(中略)サックスや、ほかの捜査員をこの丘に誘い出すために。
きびすを返し、エルコレの名前を呼びながら、丘の頂上に取って返そうとした瞬間、銃声が響いた。(中略)堂々たるマグノリアの木の下の地面に、エルコレ・ベネッリがうつ伏せに倒れているのが見えた。立ち上がってエルコレに駆け寄ろうとしたとき、二発目の銃弾がサックスのすぐ目の前の地面にめりこんだ。一瞬おいて、高性能なライフルの銃声が空に響き渡った。
(中略)
「ガリーはひどい暴行を受けたそうです。事件に関して何か新しい情報があれば、単独室に移してもらえるかもしれません」(アメリカ領事館のスタッフは言った。)(中略)
(帰ってきたサックスに)「何があった?」ライムは固い声で訊いた。(中略)「平気。私は大丈夫」(中略)
「くそ。罠だったか」
「そう。コンポーザーの罠。ライフルを手に入れたみたいよ、ライム。大口径のライフル」(中略)
「弾丸は一個だけ回収できた。270ウィンチェスター」
狩猟用ライフルで一般的に使われる弾だ。(中略)
(中略)
キャンプの奥に向かう。“裏”ゲートの一つがそこにある━━金網のフェンスに切りこみを入れただけの出入り口だ。(中略)
茂みをかき分けて、大柄な男が現れた。白い肌、黒っぽい服と帽子。サングラスをかけている。両手に青いゴム手袋をはめていた。
男の片手に、黒い布でできたフードのようなものがあった。
ファティマは悲鳴を上げようとした。夫のほうに顔を向けようとした。
だが、男の拳が目にもとまらぬ速さで飛んできて、ファティマの顔に当たった。(中略)
一時間後、コンポーザー事件捜査チームのメンバーは、科学捜査ラボの隣にある窓のない捜査指令室に集合した。(中略)
マッシモ・ロッシに電話がかかってきた。応答するなり、ロッシは困惑の表情を浮かべた。
「なんてこった(クリスト)!」ロッシは言った。「コンポーザーがまた動きました。今度もカポディキーノの難民キャンプです」
「殺人?」
「いや、誘拐です。あたもや現場に首吊り縄を残している」
ライムは言った。「郵便警察に、動画投稿サイトの監視を始めるように伝えてくれ。新たな作品を投稿するのは時間の問題だ」(中略)
アメリア・サックスは急ブレーキをかけ、カポディキーノ難民一時収容センターの裏手にメガーヌを駐めた。(中略)
サックスはエルコレが指さした先を見た。金網を切っただけの出入口があった。
「犯人はそこの茂みから現れて、格闘になったそうです。ただ、今回は被害者の頭にフードをかぶせるのに成功して、連れ去った。だけどどうやら、興味深いこと、僕らにとってありがたいことが起きたようですよ。被害者を助けようとしてコンポーザーともみ合った人物がいます」(中略)
「その人物は警備員? 警察官?」
「いいえ。被害者の奥さんだそうです」(中略)
それから三十分ほどかけて、サックスはグリッド捜索をした。コンポーザーのトレッドマークである首吊り縄を含め、写真を撮って証拠を採取すべき地点にイタリア側から借りた番号札を置いていく。格闘の形跡が明らかな地点のすぐそばの茂みでは大きな収穫があった━━靴が片方だけ置き去りにされていた。コンバース・コンのローカットモデルだ。(中略)
(また明日へ続きます……)