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ジェフリー・ディーヴァー『ブラック・スクリーム』その8

2021-12-02 11:11:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

「(首を吊るされていた現場に)演歌ナトリウムやプロピレングリコールを含む微細証拠があるね」
「ええ。何の成分かな」
「電極用の粘着ゲルだ。精神科で行なわれている電気ショック療法の際、電極を取り付ける部位の皮膚に塗る。(中略)
「コンポーザーがイタリアで精神科にかかっているとか」エルコレが尋ねた。(中略)
「いや、それはないな」ライムは言った。「時間のかかる療法だ。向精神薬を処方したのと同じ場所━━アメリカの病院で受けたのだろうな。(中略)アモバルビタールというのは何だ? これも向精神薬か?」
 サックスは言った。「ニューヨーク市警のデータベーを検索してみる」まもなく答えが出た。「即効性鎮静剤。バニック発作に使われる。百年前、自白剤としてドイツで開発されたもの━━その目的では期待したほど効果がなかったみたいだけど、興奮したり攻撃的になったりしている被験者を落ち着かせる効果があることが判明した」(中略)

(アメリカからの留学生に男女二人組が近づいてきた。)
女性のほうが流暢な英語で尋ねた。「ガリー・ソームズ?」
「そうですけど」
「パスポートを拝見できますか」
 イタリアでは、パスポートか身分証の携帯━━と、要求に応じて提示すること━━がっ全員に義務づけられている。(中略)
 女性の警官はさっと目を走らせたあと、自分のポケットにしまった。
「あ、ちょっと」
「月曜の晩、ナターリア・ガレッリ宅で開かれたパーティに参加しましたね」
 ついさっき思い出していたパーティだ。
「え……はい。そのパーティなら行きました」(中略)
「ミスター・ソームズ」今度は男性のほうが言った。(中略)「そのパーティで起きた事件の容疑者として、あなたを逮捕します。手を前に出してください」(中略)
「何の容疑ですか(クアル・エ・イル・クリミネ)」
「暴行と強姦です。義務として、逮捕者のあなたに弁護士と通訳を呼ぶ権利があることをお伝えしておきます。シニョール、車に乗ってください」

 まもなく午後十一時になる。
 ステファンはナポリ郊外を車で走っていた。神経がぴりぴりしている。落ち着かない。次の作品作りを始める“必要”に迫られていた。(中略)
 音を聞くのは夜が一番だ。冷たく湿った空気が地面や木立から音をすくい上げ、ふだんなら聞こえない音を解き放ち、東方の三博士の贈り物のように人の耳に届ける。(中略)
 坂を登りきったところで、雑草に覆われた路肩に車を寄せて駐めた。カポディキーノの丘を見渡す。(中略)
 ナポリ国際空港はこの丘陵地帯にある。(中略)
 加えて、ごく特徴的なもの、ここを通る者の目をかならず引き寄せる者がある━━イタリア最大の難民キャンプの一つ、カポディキーノ難民一時収容センターだ。(中略)
 視線の隅で何かが動いた。見ると、フェンスの向こう橋、金網に縦に入った切れ目をすり抜けて、難民の男が一人出てきた。脱走するつもりか? しかし男は急ぐ様子もなう歩き出し、キャンプの周囲で(中略)十数件の屋台の一つに近づいた。買い物をすませ、またフェンスの内側に戻っていく。
 ふむ。キャンプの警備態勢は、文字どおり穴だらけのようだ。(中略)

「第四部 希望のない国 9月24日 金曜日」

(中略)
 サックスは地図を持ってきていた。そこに描きこまれた大きな丸印の内側に、マジークと食事の相手が会った可能性がある小さな町、あるいは商店やカフェ、レストランやバーが集まっている場所が会わせて六つ含まれている。地図をエルコレに見せた。エルコレはうなずいて、集落の一つを指さした。「ここから近いのはこれですね。二十分で着きます」(中略)
 それからの二時間で、十八軒を当たった。手がかりは何一つ得られなかった。
 正午を回ったころ、小さな町の聞き込みがひととおり終わって、リストのその町の名前に線を引いて消した。エルコレが腕時計を見て言った。「ちょうどいい、お昼にしませんか」
 サックスはこぢんまりとした交差点を見回した。「そうね、サンドイッチくらいはお腹に入れておきたいかも」(中略)
(次の町で出会ったウェイトレスは写真を見て言った。)エルコレが通訳を務めた。
「この写真の男性は、イタリア人男性と食事をしたそうです。ただし、カンパニア州の出身ではないだろうと言っています。彼女はセルビア出身で、話しかたの癖がどの地方のものかわからないそうですが、この地方の人の訛りとは違っていたと」(中略)

(また明日へ続きます……)