また昨日の続きです。
(中略)
スピロが口を開く。「やれやれ(アッロー)。アメリカ政府に雇われた在リビアの情報提供者、イブラヒム、またの名をハッサンが、アリ・マジークとマレク・ダディというテロリスト二名をスカウトし、ウィーンとミラノで爆破テロを実行させるため、亡命希望者を装って二人をイタリアに送りこむ。イタリアにも工作員がいて━━ジャンニという男だな━━その工作員が爆発物を調達して作戦実行を支援する。実行犯二人は無事にイタリアに入国し、爆発物の準備も整う。ここでイブラヒム/ハッサンは、“きみたち”にテロ計画を使った作戦を立案し、実行犯をさらってテロ計画をつぶす。イブラヒムはなぜそんなことをする? 私には筋の通った理由が見えない」(中略)「なるほど、私にはわかったよ、マッシモ」ライムのほうを見て言った。「ローマで開かれている国際会議だね。難民対策を話し合う国際会議」
「そうだ」(中略)
ライムは言った。「イタリア国内の政治的右派から金を受け取り、亡命希望者をスカウトして、テロ計画を実行させる。イデオロギー上の理由に基づくテロではない。社会に向けて、難民は脅威であると示すことが目的だ。(中略)」
「奇妙だとは思ったの」シャーロット・マッケンジーが言った。「アリ・マジークとマレク・ダディは俳優だったから。どちらも過激思想に染まっていたりしなかった。(中略)」
アメリア・サックスは顔をしかめた。「ウィーンのテロ計画を聞いたとき、ちょっと疑問に思ったの━━総領事は、五百グラムのC4爆薬が押収されたって言ってた。五百グラムくらいなら危険はないとまでは言わない。死傷者が出る恐れはもちろんある。でも、そこまで大規模な爆発は起きないわよね」
ライムはマッケンジーを見やって言った。「ミラノでも同じだ。(中略)」
狼狽した表情で、マッケンジーは言った。「そうよね。(中略)」
「問題は、黒幕は誰か、だな。計画の首謀者は誰だ?」(中略)
スピロの目が冷ややかな光を放った。「そうだな。しかし、ヌオーヴォ・ナショナリスモ━━新国家主義党(NN)はどうだ?」
ロッシがうなずいた。その名を聞いていくらか動揺したような顔をしていた。(中略)
「どうした。エルコレ?」
エルコレが一同に向き直った。「ちょっと思ったんですが。でも、何でもないかも……」(中略)
「聞こうじゃないか」スピロが言った。
(中略)「あなたが雇っていたスパイ」マッケンジーに向かって言う。「ハッサンまたはイブラヒムは、テロ計画に“三つ”あると言ったんですよね。二つではなくて。ウィーン、ミラノ、そしてもう一つ。合ってます?」
「ええ、もう一つはナポリ。でも、徹底的な尋問をしたけれど、ハーリド・ジャブリルはテロ計画のことは何も知らなかった。情報が間違っていたのよ。何かの間違いだった」
「そうではない。間違いではない」ライムはささやいた。(中略)
スピロが言った。「きみたちはさらう相手を間違ったようだね、シニョリーナ・マッケンジー。テロリストはハーリドではない。妻のファティマだ」
サックスとエルコレは難民キャンプに向けて車を飛ばした。ナポリ中心街からは十キロほどの距離だ。(中略)
「キャンプをすでに出た可能性はありますか」
「ええ、封鎖前に出たとすれば、指示されたとおり、テントには入っていませんし、ファティマの夫とも話していません。夫の所在も確認できていません」(中略)
テントの入口は閉ざされている。窓はない。(中略)
サックスは言った。「エルコレ。抵抗を感じてるわよね。ファティマは女性だし、幼い子供の母親だもの。(中略)でも、私たちが自分を止めに来たと察した瞬間、起爆スイッチを押すだろうと思っておいたほうがいい。前にも話したわね。撃つときは━━」
「上唇のすぐ上」エルコレはうなずいた。「三発」(中略)
サックスはベレッタを抜き、左の人差し指を立てて空を指し、次に前方を指した。エルコレもベレッタを抜く。サックスは入口を指し示すてうなずくと、すばやくテント内に入った。
ハーリド・ジャブリルが驚いた様子で息をのみ、持っていたお茶のグラスを取り落とした。(中略)テント内にいるのはハーリド一人のようだ。(中略)「脅されたんだとしても、人を死なせようとしてることは事実なのよ、ハーリド。だから協力して。ファティマの行き先が知りたいの。この難民キャンプのどこかにいるの?」
「いいえ。一時間前に出かけました。(中略)」
サックスは(中略)短縮ダイヤルで電話をかけた。
「どうした?」(中略)
「ファティマはキャンプにはいないわ、ライム。荷物を受け取ってた。C4爆薬。(中略)新しい携帯電話を持って出てる。おそらく起爆用」(中略)
マッケンジーが緯度と経度を読み上げる。(中略)「王宮だ。ナポリの中心街」
(また明日へ続きます……)
(中略)
スピロが口を開く。「やれやれ(アッロー)。アメリカ政府に雇われた在リビアの情報提供者、イブラヒム、またの名をハッサンが、アリ・マジークとマレク・ダディというテロリスト二名をスカウトし、ウィーンとミラノで爆破テロを実行させるため、亡命希望者を装って二人をイタリアに送りこむ。イタリアにも工作員がいて━━ジャンニという男だな━━その工作員が爆発物を調達して作戦実行を支援する。実行犯二人は無事にイタリアに入国し、爆発物の準備も整う。ここでイブラヒム/ハッサンは、“きみたち”にテロ計画を使った作戦を立案し、実行犯をさらってテロ計画をつぶす。イブラヒムはなぜそんなことをする? 私には筋の通った理由が見えない」(中略)「なるほど、私にはわかったよ、マッシモ」ライムのほうを見て言った。「ローマで開かれている国際会議だね。難民対策を話し合う国際会議」
「そうだ」(中略)
ライムは言った。「イタリア国内の政治的右派から金を受け取り、亡命希望者をスカウトして、テロ計画を実行させる。イデオロギー上の理由に基づくテロではない。社会に向けて、難民は脅威であると示すことが目的だ。(中略)」
「奇妙だとは思ったの」シャーロット・マッケンジーが言った。「アリ・マジークとマレク・ダディは俳優だったから。どちらも過激思想に染まっていたりしなかった。(中略)」
アメリア・サックスは顔をしかめた。「ウィーンのテロ計画を聞いたとき、ちょっと疑問に思ったの━━総領事は、五百グラムのC4爆薬が押収されたって言ってた。五百グラムくらいなら危険はないとまでは言わない。死傷者が出る恐れはもちろんある。でも、そこまで大規模な爆発は起きないわよね」
ライムはマッケンジーを見やって言った。「ミラノでも同じだ。(中略)」
狼狽した表情で、マッケンジーは言った。「そうよね。(中略)」
「問題は、黒幕は誰か、だな。計画の首謀者は誰だ?」(中略)
スピロの目が冷ややかな光を放った。「そうだな。しかし、ヌオーヴォ・ナショナリスモ━━新国家主義党(NN)はどうだ?」
ロッシがうなずいた。その名を聞いていくらか動揺したような顔をしていた。(中略)
「どうした。エルコレ?」
エルコレが一同に向き直った。「ちょっと思ったんですが。でも、何でもないかも……」(中略)
「聞こうじゃないか」スピロが言った。
(中略)「あなたが雇っていたスパイ」マッケンジーに向かって言う。「ハッサンまたはイブラヒムは、テロ計画に“三つ”あると言ったんですよね。二つではなくて。ウィーン、ミラノ、そしてもう一つ。合ってます?」
「ええ、もう一つはナポリ。でも、徹底的な尋問をしたけれど、ハーリド・ジャブリルはテロ計画のことは何も知らなかった。情報が間違っていたのよ。何かの間違いだった」
「そうではない。間違いではない」ライムはささやいた。(中略)
スピロが言った。「きみたちはさらう相手を間違ったようだね、シニョリーナ・マッケンジー。テロリストはハーリドではない。妻のファティマだ」
サックスとエルコレは難民キャンプに向けて車を飛ばした。ナポリ中心街からは十キロほどの距離だ。(中略)
「キャンプをすでに出た可能性はありますか」
「ええ、封鎖前に出たとすれば、指示されたとおり、テントには入っていませんし、ファティマの夫とも話していません。夫の所在も確認できていません」(中略)
テントの入口は閉ざされている。窓はない。(中略)
サックスは言った。「エルコレ。抵抗を感じてるわよね。ファティマは女性だし、幼い子供の母親だもの。(中略)でも、私たちが自分を止めに来たと察した瞬間、起爆スイッチを押すだろうと思っておいたほうがいい。前にも話したわね。撃つときは━━」
「上唇のすぐ上」エルコレはうなずいた。「三発」(中略)
サックスはベレッタを抜き、左の人差し指を立てて空を指し、次に前方を指した。エルコレもベレッタを抜く。サックスは入口を指し示すてうなずくと、すばやくテント内に入った。
ハーリド・ジャブリルが驚いた様子で息をのみ、持っていたお茶のグラスを取り落とした。(中略)テント内にいるのはハーリド一人のようだ。(中略)「脅されたんだとしても、人を死なせようとしてることは事実なのよ、ハーリド。だから協力して。ファティマの行き先が知りたいの。この難民キャンプのどこかにいるの?」
「いいえ。一時間前に出かけました。(中略)」
サックスは(中略)短縮ダイヤルで電話をかけた。
「どうした?」(中略)
「ファティマはキャンプにはいないわ、ライム。荷物を受け取ってた。C4爆薬。(中略)新しい携帯電話を持って出てる。おそらく起爆用」(中略)
マッケンジーが緯度と経度を読み上げる。(中略)「王宮だ。ナポリの中心街」
(また明日へ続きます……)