海外のニュースより

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「胡錦涛主席よ、ありがとう」と題する『ガーディアン』紙の論説。

2006年04月23日 | 国際政治
 米国の貿易赤字は、一年間に6,860億ドル(80兆9,480億円)に達した。特に中国に対する赤字が大きい。最近のコメントにおいて、トーマス・ポーリーは、アメリカの経済成長の弱さの原因が貿易赤字にあるとし、米国の長期金利を低く維持することによる住宅バブルの責任が中国にあるとした。この見解に対応して、ブッシュ大統領は、胡錦涛主席に何かをしてくれと懇願した。有り難いことに、胡錦涛主席は、何ら特別の行動を約束しなかった。
 中国が、彼らが昨年われわれに売った商品のうち2千億ドル分(23兆6千億円)を売ることを決定しなかったと仮定しよう。直ちにインフレがエスカレートするだろうし、何十億ドルものドルは、もはや売ってもらえない商品を探すことになる。われわれの連邦準備銀行は、利率を上げることで対応するだろう。議会は、支出を削減し、税金を増やすだろう。
 われわれには商品がなくなり、中国にはお金が入らなくなる。誰かが得するだろうか?誰も得しない。
 あるいは、中国が石油や小麦や機械類や良い生活のために手持ちのドルの蓄積を消費しようと決心したと仮定しよう。その場合、インフレは、中国が購入しようと決めたものが何であれ、世界の物価の上昇に火をつけるだろう。アメリカ人の生活水準は下がるだろう。われわれの政治家達は、素早く反応するだろう。そして事態をもっと悪くするだろう。
 結論は明白である。商品を売り、われわれが彼らのために準備した債券を蓄積することで、中国はアメリカに巨大な恩恵を与えているのだ。これは中国にとっては高くついている。もっとも中国は彼らなりの十分な理由があって、そうしているのだが。つまり、それは中国人がかれらの進行中の都市化を管理するのに役立っている。
 だが、この結果、最後にクラッシュすることにならないか?うん、なるかもしれない。いつか、太陽は爆発し、宇宙は冷たい暗黒物質の重さに堪えかねて崩壊するだろう。だが、それが先延ばしできるとすれば、黙示録を思い出させる理由はない。中国が商品を売り、外貨を増やしている限りは、どうして順応したり楽しんだりしてはいけないのか?相互に同意している限り、彼らがわれわれに与えることを止めさせたり、われわれから受け取るのを止めさせるものは何もないのだ。
 特に多くのレトリックとは異なり、中国がわれわれに貸与できる額には限度がない。なぜなら、実際には彼らはわれわれにぜんぜん貸与なんかしていないのだから。例えば、米国の消費者がクレジット・カードで携帯電話を買った場合、彼が国内の銀行から資金を借りている。クレジット会社は、中国のモトローラに支払われるドルを供給している。すると、中国はそのドルを米国財務省の債券と交換する。それは純粋にアメリカのポートフォリオの移動に過ぎない。「外国資本」は、無関係である。
 結果は次の通りである。われわれはわれわれの貿易赤字に資金を提供するために、外国の貯金に依存しているのではない。理論上の問題ではなく、会計上の問題としては、国内の信用が、外国の貯金に資金を提供している。外国部門は、米国消費者の持続的な購買能力に依存しているから、われわれが外国のために維持している金融資産(financial assets)と引き替えに、米国の消費者は、彼らがわれわれに売りたいと思っている商品を買い続けることができるのだ。中国が投入している唯一の資源は、労働と携帯電話を組み立てている部品である。
 ある日、彼らが1兆ドルでなくて、2兆ドルの米国債券を持つとすると、そのことはわれわれ両国の間の関係を現在とは変えるだろうか。ある日、中国が輸入する以上に輸出することを止めることを選ぶとすると、その理由は、中国が国内でその商品を必要とするからであって、中国が必要以上に米国債券を持っているからではない。
 国家の安全保障についてはどうだろうか?戦略的領域で失われた能力についていらいらしている人たちは、簡単な解決を見逃している。なぜ、米国政府は、国内の設備を維持するために必要な割増金を支払って、戦略的商品を国内の生産者から買うことができないのか?できるはずだ。このほうが、国内の製造業(例えば自動車製造業)によって使用されているより安い製品(例えば鉄鋼)を閉め出すために、インフレ的な関税や割当量を課するより遥かに破壊的でない。
 最後に、輸入はアメリカ人の仕事を奪っているか?確かにそうだ。そして、拡大する貿易によって傷つけられられた人々には、援助が与えられるべきだ。だが、貿易によって失われた仕事をより良い仕事と取り替えることができないということは、全く国内問題である。われわれが労働する意欲のあるアメリカ人のために必要な新しい仕事に資金を出すのに失敗したためである。米国に必要なのは、すべての人に開かれたアップデートされたインフラと公共空間と文化センターである。アメリカに必要なのは、もっと良い学校である。アメリカに必要なのは、普通の労働者が労働時間を短縮しても、十分な生活を送れる可能性である。アメリカに必要なのは、ハリーケーン・カトリーナのような災害に対するもっと強力な予防措置と準備である。玩具やテレビや携帯電話を安価に提供したいという中国の態度は、これらの必要に応じることを容易にするのであって、より難しくするのではない。われわれがこの挑戦に立ち向かうことに失敗した場合、責められるべきは、われわれ自身である。
 われわれの貿易赤字を補填するのに「外国から借金をするという無邪気な欺瞞」という表現は、われわれの本当の問題から注意をそらすことである。ある日、これらの間違った問題が消え去れば、本当の問題はもっと悪くなるだろう。そういうわけで、本当の問題がより悪くならないことを希望して、しばらくは、中国人がしていることを非難したりしないで、中国人に感謝しよう。
[訳者の感想]「貿易赤字は中国のせいだ」という声が米国議会筋には多いようですが、中国が安い商品を輸出し、その代金で米国国債を買ってくれるから、米国はインフレにならずに済んでいるというジェームズ・ガルブレイスとウオレン・モスラーの4月21日付け論説です。クルーグマン教授も多分これと同意見だと思います。経済用語が沢山使われていて、拙訳が正しいかどうか自信がありません。

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1 コメント

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米国債 (kts)
2006-04-26 14:01:58
たくさん買って絶対に売らない日本は全く感謝されないのに、中国には感謝するんでしょうか。

米軍基地移転のお金は米国債で支払っちゃいましょう。
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