杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

真夏の京都大阪行脚その4~早稲田グリークラブOBの酒造り唄

2011-08-12 09:53:30 | 地酒

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 8月7日(日)の昼前に大阪へ戻って、リニューアルした大阪駅周辺をブラ歩きしました。西日本最大の駅ビルに生まれ変わった大阪ステーションシティ。大丸や三越伊勢丹や東急ハンズが入って、「ここはホントに大阪?」って感じ。

 

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 プラットホームが上から眺められる
のは楽しいけど、なんだかどこにでもあるオシャレな再開発ビルって感じで、“大阪らしさ”が足りないような気がしました。 

 お昼は私が好きな阪神百貨店地下食品館のフードコートでお好み焼きを食べました。阪神だけでも、どうか“らしさ”を失わないでほしいなあ。

 

 

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 JR大阪環状線でひと駅、「福島」で降りて、今回の旅の主目的であるザ・シンフォニーホールの『東西4大学OB合唱連盟演奏会』を14時から鑑賞しました。

 

 

 

 

 こちらの記事で紹介したとおり、早稲田大学グリークラブ(男声合唱団)OBのみなさんが、この演奏会で酒造り唄を歌うため、酒造映像をぜひ観たいと指揮者の佐藤拓さんが『吟醸王国しずおか』HPにコンタクトしてくださったのがきっかけ。グリークラブのことをよく知らなかった私は、趣味でコーラス活動している早稲田OBのみなさんの余暇サークルの一環かと思い、軽~い気持ちで「みなさんの合唱、聴いてみたいですぅ」とお返事したところ、早い段階でソールドアウト状態だったチケットをなんとか1枚確保してくださったのでした。

 

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 「大阪シンフォニーホールがソールドアウトになるなんて・・・」とビックリして、よくよく調べたら、グリークラブって100年以上の歴史のある名物クラブなんですね。OBにはボニ―ジャックスもいます。

 早稲田OBの青島孝さん(青島酒造)に「聴いたことある?」と訊ねたら、「何言ってるの、早稲田の新入生は全員、登校初日にグリークラブの合唱で迎えられるんだよ」と教えられました。・・・創部100余年で、OB総数は1500人を超え、在学中のグリークラブ部員も100人いるそうです。

 

 

 

 ちなみに東西4大学というのは早稲田、慶応、関西学院、同志社のことで、慶応ワグレルソサィエティは1901年(明治34)の創部、関学グリークラブは1899年(明治32)創部、同志社グリークラブも1904年創部。この4大学の合同演奏会は2年に1度、東京と関西で交替に開かれ、今年で18回目。・・・OBの総数を考えたら、「そりゃ、シンフォニーホールがソールドアウトになるのも無理ないわ」とビックリです。いやぁ、まったく未知の世界でした。

 

 

 

 

 オープニングは出演者総勢400人ほどが壇上に勢ぞろいし、各大学の校歌を順番に歌います(『東西4大学OB合唱連盟演奏会』サイトで聴けます)。

 そして、今回出演の早稲田グリークラブOBチームのひとつ「稲門グリークラブ」のみなさん60人の合唱でスタート。歌うのは『男声合唱のための四つの仕事唄』です。

 

 

 仕事唄とは労作民謡ともいい、お百姓さん、炭鉱夫さん、漁師さん、大工さんといった職人さんたちが仕事をしながら歌う民謡のことです。私が知る酒造り唄もそうだったように、過酷な労働を共有する仲間意識の向上とともに、時計のない時代は作業の経過時間をはかる目安にもなっていました。

 

 

 今回披露された合唱曲は、労作民謡をよく知る作曲家・小出清茂(1914~2009)が合唱のために作・編曲したもので、『囃し田(田植え唄』『石切り唄(石切り作業の唄)』『胴憑き唄(土台固めの唄)』『酒屋唄(南部杜氏酒造り唄)』の4曲から成り立っています。

 

 指揮者である佐藤拓さんが南部杜氏の法被をまとい、いきなり酒造り唄を独唱しながらステージに登場し、そのあとに続くように合唱団員のみなさんが次々に現れ、見事なハーモニーを連携させます。パンフレットによると、佐藤さんは岩手県ご出身のプロの声楽家&演奏家。早稲田を平成15年卒業とありましたから、まだお若いんですね(いつもメールのやりとりだけだったので、ご本人をナマで拝見するのは初めてでした)。

 

 

 

 『囃し田唄』は中国地方山間部(広島県東部)の田植え唄をベースに、早乙女たちが囃しと音頭取りの唄にあわせながら軽快に苗を植える姿を唄います。『石切唄』は瀬戸内海の小豆島に伝わる石の切り出し作業の唄で、大きな金槌で石にノミを打ち付ける様子をパフォーマンスで見せながら力強く唄い上げます。

 『胴憑き唄』は家を建てるときの土台作りで、大きな丸太を縄で吊るし上げ、勢いよく落としながら地盤を固める作業の唄。作者の小出さんが自身の記憶をもとに書き上げたオリジナル曲だそうです。“ヨイトマケ(よく巻け)”の掛け声がカッコよくて、これぞ男声合唱の醍醐味!って感じでした。

 

 

 そして『酒屋唄』。南部杜氏酒造り唄の中でも私が一番好きな「♪今朝の寒さに洗い番はどなたよ 可愛い男の声がするよ~」の米洗いの唄が披露され、目頭がジーンと熱くなりました。

 

 

 たぶん、実際の現場では合唱のように集団で勇ましく唄うということはなかったと思いますが、美しい合唱で聴くと、地味な職人作業が、なんとも尊く、神々しいものに思えてきます。

 米洗いというのは酒造りの工程の第一歩で、昔は下っ端の見習いの基礎仕事だったようです。厳しい冬の早朝、冷たい水と米を踏桶に入れ、素足で爪を立てて研ぐ―なんとも原始的で過酷な作業ですが、米洗いをきちんとやらないと、いい蒸米ができないし、いい麹が出来ないし、いいもろみが育たない。・・・職人修業の第一歩であり、その厳しさを体に叩き込むのにふさわしい作業だったと思います。

 

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 私はこの唄のことを1997年から98年の1年間、毎日新聞静岡版で連載した『しずおか酒と人』の中で取り上げました。『若竹』『おんな泣かせ』の蔵元・大村屋酒造場の蔵元と南部杜氏の絆について、イラスト付きで紹介し、以来、米洗い唄のことを教えてくれた今は亡き大村屋酒造場の松永始郎会長のことを、唄とセットで懐かしんできました(記事はこちらを参照してください)。

 

 

 

 岩手県も含めた東日本が未曾有の震災に見舞われた今年、岩手県出身の音楽家が創部104年という歴史ある合唱クラブを率いて、この唄を高らかに力強く合唱したことは、私にとってもこの唄をよりいちだんと深く、心の深層に刻ませてくれました。天国の松永会長をはじめ、この唄を現場で唄い繋いだ酒造り職人たちの心にも届いたかのような、見事な合唱でした。

 

 

 

 見事といえば、最後のアンコール曲で、4大学全員が合唱した「You'll never walk alone」。これ、サッカーUEFAチャンピオンズリーグの試合で7万人の観客が東日本大震災の被災者にエールを送ろうと歌った歌ですよね、You tubeで観ました。もともとはアメリカのミュージカル『回転木馬』の劇中歌で、イギリスリバプールFCのサポーターが応援歌として愛唱しているそうです。

 

 

 ~♪人生の嵐の中を進む時、どうかハッキリ頭を上げて。暗闇を恐れないで。嵐がすぎ去れば黄金の空に、ひばりの優しいさえずりが聞こえるでしょう・・・なぜならあなたは一人ぼっちじゃないから。一人で歩いているわけじゃないから・・・♪~(福永陽一郎・訳の一部より)

 

 この歌を最後のアンコールに持ってくるなんて、さすがです。グリークラブOBのみなさま、素晴らしい演奏をありがとうございました!

 

 ・・・それにしても合唱っていいなあ~としみじみ惚れ惚れしました。大声を出すこと自体、健康的だし、一人で歌うのは抵抗あっても大勢でちゃんとした目的を持って歌うなら立派な文化活動になりますよね。

 しずおか地酒研究会でも合唱団を作って酒造り唄を唄い継ぐってどうでしょうか?

 

コメント (2)
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