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全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割 NO.2

2010年01月11日 23時10分42秒 | 講義録・講演記録 2

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割

続き

 

活性酸素種の病態修飾

 ROSがDNAや細胞内情報伝達蛋白に障害を与えることは,これまで多くの研究で明らかとされてきた。NADPHはNOXの活性化された細胞において,図4のように,まず,スーパーオキシドに変換される。スーパーオキシドは,次に一酸化窒素(NO)との反応によりペルオキシナイトライトに変換されるとともに,SODにより過酸化水素に変換される。過酸化水素からは,ヒドロキシラジカルや次亜塩素酸が産生される。

これらのROSによるDNA障害は,適切に修復されない限り,アポトーシスを介した細胞死の誘因となる。また,ペルオキシナイトライトは,細胞内情報伝達蛋白のチロシン残基のニトロ化を介して,チロシン残基のリン酸化を障害し,正常な細胞内情報伝達を障害する48。次亜塩素酸も極めて強い組織障害を与えることが知られており,これらのROSはインシュリン受容体の機能障害にも関与し,インスリン抵抗性高血糖の誘引として知られている49。その他,以下のROSを介した転写因子活性化作用が明らかとされており,SIRS病態を増悪させると評価される。

1. 転写因子NF-κBの持続活性化作用
 SIRS病態で炎症性受容体を介して活性化される転写因子NF-κB12)は,上述のようにNOXやNOX活性化関連因子の転写を高め,ROS産生を誘導する。一方,産生された過酸化水素濃度がμMレベルに達すると,様々な細胞でNF-κB活性を上昇させることが知られている49~52)。この過酸化水素によるNF-κB活性化の機序としてこれまでに,①I-κB(inhibitory-κB)のプロテアソームによる分解を直接に促進させること,② I-κBキナーゼの活性化を介してI-κBの分解を間接的に促進させることが確認されている51~54)。通常,NF-κB活性は自らがI-κBの産生を高め,自らの活性に限界を持つが,DNA障害が生じない初期段階では過酸化水素の局所産生がμMレベルに高まるとI-κB発現が抑制され,NF-κB活性が持続する54)。このように,過酸化水素産生がμMレベルに高まる初期状態ではNF-κBの核内移行が持続的に高められ,炎症性サイトカイン,iNOSやCOX2,組織因子などの産生12)がさらに高められると考えられている。

2. MAPKおよびAP-1の活性化作用
 MAPKは,extracellular signal-regulated kinase1/2(ERK1/2),Jun-N-terminal protein kinase(JNK),p38 MAPK,ERK5/ big MAPK1(BMK1)の4つのサブファミリーで構成されるセリン/スレオニンキナーゼである。このうち主にAP-1領域の活性を高めるAP-1群の直接的本体は,JunとFosである。Junのホモ2量体や,FosとJunのヘテロ2量体は,リン酸化された状態でDNA上のAP-1領域として知られるphorbol 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate-responsive element(TPA- responsive element:TRE)と結合し,COX-2,ICAM-1などの炎症性マーカー,matrix metalloproteinase(MMP-1,MMP-3,MMP-9)などのプロテアーゼ,アクチンフィラメントの伸展に関与するCapG,Ezrin,Krp-1,Mts-1などを転写段階で増加させる。SIRS病態のAlert細胞で活性化されるAP-1は,セリンあるいはスレオニン残基のリン酸化により活性化されたJunとFosの2量体によりもたらされる12)。当研究室では,AP-1活性によりTNF受容体1,Fas,DR4,DR5などのDeath受容体の細胞膜発現が高まり,肺や血管系のAlert細胞のアポトーシスが進行することを確認している4, 55)。
このようなMAPKおよびAP-1活性に関して,スーパーオキシドや過酸化水素は,c-Junやc-Fosを転写段階で増加させ56, 57),また100μM以上の濃度に高められた過酸化水素は主にJNKを介したJunファミリーのリン酸化によりAP-1活性を増加させる58)。さらに,nMレベルの低濃度のROS産生であっても,JNKやp38MAPKはリン酸化活性を受けることが確認されている59)。一方,ERK1/2は1mMを超える極めて高い濃度の過酸化水素においてリン酸化を受け,通常のROSの産生のレベルでは活性化されないと考えられている60)。

おわりに

 本稿では,SIRS病態に照らして,ROS産生におけるNOXおよびNOX関連因子の役割を論じた。SIRS病態におけるAlert細胞では,炎症性受容体を介して活性化されたNF-κBやAP-1などにより転写段階からNOXおよびNOX関連因子の発現が増加し,ROS産生が高まる。一方,Alert細胞で産生されたROSは,高濃度状態では近傍のnon-Alert細胞に対しても作用し,non-Alert細胞にNF-κBの活性を高め,NOXおよびNOX関連因子の発現を誘導する可能性がある。さらに,non-Alert細胞では,ROS刺激により活性化されたAP-1を介して炎症性受容体やDeath受容体の細胞膜発現を誘導し,non-Alert細胞をAlert細胞に変容する可能性がある。このように,SIRS病態の主要臓器における細胞間炎症伝播機構に対して,今後より詳細にROSの関与が明らかにされるであろう。

参考文献

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割PART1

 

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