病原性大腸菌と溶血性尿毒症症候群(HUS:hemolytic-uremic syndrome)
2011年4月中旬は,東日本大震災の後に,壮絶な事件が起きていました。富山県,福井県,横浜市において焼肉チェーン店を利用した人が腸管出血性大腸菌O111による食中毒を起こし,165名が腹部症状を訴え,34名が入院し,4名が死亡したという病原性大腸菌事件です。病原性大腸菌O157は有名ですが,これまでにもO111による集団食中毒の事例は報告されていました。
病原性大腸菌毒素O111やO157の原因食品は,焼肉店で提供されたユッケと焼肉(カルビ,ロース)と考えられていますが,レバーこそ要注意だそうです。夕食にレバーを食べて,1週間たって「お休みなさい~~」と眠った夜に,突然に脳症が出た症例も知られているようです。HUSの発症と同時に脳症が起きる,これはとても怖いことであり,インフルエンザ脳症と同じように,急変の典型例です。「僕,家かえる」と突然にいなくなってしまったり,変なことを言い出したときには,脳症が突然に進行する前兆です。3年殺しは大山空手,1週間殺しは大腸菌空手,ならば3日で救命する急性期空手・・救命・集中治療理論が不可欠です。
どうもデータを見る限り,脳症は焼き肉を食べてから3~7日で生じる傾向があり,傾向としては焼き肉を食べて1週間後に尿量が減少してきたり,変な言動をしている夜に注意が必要です。この2011年4月から6月の期間,941人が焼肉屋●●●で食事をし,326名が消化器症状が出現したといいます。このうち,88名が病原性大腸菌O111陽性,11名がO157陽性,さらに初期32名,追加2名,合計34名がHUS(溶血性尿毒症症候群:HUS)と診断されたとのことです。年齢群では,15~19歳までが年齢で最多だったようです。脳症が起きる前に血液浄化療法,いざという時は早く血漿交換を施行することが救命の鍵という討論を,この本日の研究会でしておりました。
一方,この毒素O111やO157で死亡するものには,遺伝要因の可能性があります。ヒトは菌や毒素から身を守る急性の防御機構があります。例えば,生体の一酸化窒素(NO)の産生による,毒素や細菌成分のニトロ化です。しかし,菌が,NO還元酵素を作ることにより,宿主側の大腸菌に対する生体防御が低下する可能性が千葉大学より示唆されています。また,急性病態においてもiNOS産生が低下する遺伝子異常やSNPがあり,急性期にNO産生があまり産生されないために血管拡張性の血流分布異常性ショックにはなりにくいとけれども,毒素や細菌感染に弱いという短所が生じるようです。このため,体内に入った菌量によらず,消化管内に病原性大腸菌が入ったかどうかが重要となるようです。
このように,遺伝的にNOのような抗菌分子の産生が低下している場合,血管内皮細胞炎症が進行して初めて,臨床病態として気がつく,つまり,HUS,意識障害,血管内皮細胞障害として重篤化してから初めて発見されて,急激に脳症が進行する可能性があるようです。さらに,遺伝的にミトコンドリア機能異常があれば,虚血に移行しやすい可能性がある。細菌の立場と,臓器免疫の立場の両面から,HUSが進行しやすい個人差があるようです。本日の生体防御研究会では,このような討論がなされました。
医師国家試験対策 HUSの診断
ドイツのO104アウトブレイク
O104はヒト-ヒト感染するが,O111はウシ-ヒト感染である。
下痢を伴わないHUSが約10%存在し,それらは非定型(atypical HUS;aHUS)と呼ばれている。
下痢関連HUSは予後が良いが,aHUSでは致死率が約25%を超えて予後が悪い。
HUSの原因
溶血と毛細血管系血管内皮細胞傷害と血小板沈着
1.宿主側の要因
・ 補体活性化制御因子の遺伝子異常(aHUS患者の約60%):H因子(FH)の異常が高頻度
・ 血管内皮細胞上のトロンボモジュリン(TM)の遺伝子異常
・ iNOS産生低下:NO産生低下により殺菌能の低下
その他の機序はよくわかっていません
2. 大腸菌側の要因
・ NO還元酵素の産生株:NO還元酵素は金属酵素であり,2 つの NO 分子から2電子および2つのプロトンにより,N2OやH2O へ触媒として変換する酵素である
診断で大切なこと
3徴:国家試験的には5歳以下に発症しやすいことがポイント
■ 溶血性貧血 破砕赤血球の同定,ハプトグロビン低下
■ 血小板減少症 < 15万 cells/mm3
■ 腎機能障害 血清クレアチニン値上昇,タンパク尿,RIFLEクライテリアRISK以上
意識大丈夫あるか??
治療:国家試験で大切なことは輸液による利尿確保
・ 適切な初期輸液:利尿を付けること・・
(注意)ループ利尿薬フロセミドは,尿細管再吸収を抑制するのみであり,腎前負荷を下げて,糸球体濾過量を減じる可能性があるために理論的には禁忌である。
・ 腎機能低下:血漿交換→持続血液濾過透析
・ IVIG:静注用免疫グロブリン製剤の投与
・ リコンビナントトロンボモデュリンの投与:播種性血管内凝固症候群(DIC)に準じた治療
△あるいはX 抗菌薬・・外毒素の多くは大腸菌のペリプラズム中に貯蔵されており,抗菌剤で死滅した菌より毒素が大量に発生すると病態が急激に進行する可能性があることに注意する。
初期には予防的投与としてペニシリン系抗菌薬が有効だが,HUS症状が出てからは抗菌薬投与に慎重とならざるをえず,脳症の進行に注意が必要となる。
2011年4月中旬は,東日本大震災の後に,壮絶な事件が起きていました。富山県,福井県,横浜市において焼肉チェーン店を利用した人が腸管出血性大腸菌O111による食中毒を起こし,165名が腹部症状を訴え,34名が入院し,4名が死亡したという病原性大腸菌事件です。病原性大腸菌O157は有名ですが,これまでにもO111による集団食中毒の事例は報告されていました。

病原性大腸菌毒素O111やO157の原因食品は,焼肉店で提供されたユッケと焼肉(カルビ,ロース)と考えられていますが,レバーこそ要注意だそうです。夕食にレバーを食べて,1週間たって「お休みなさい~~」と眠った夜に,突然に脳症が出た症例も知られているようです。HUSの発症と同時に脳症が起きる,これはとても怖いことであり,インフルエンザ脳症と同じように,急変の典型例です。「僕,家かえる」と突然にいなくなってしまったり,変なことを言い出したときには,脳症が突然に進行する前兆です。3年殺しは大山空手,1週間殺しは大腸菌空手,ならば3日で救命する急性期空手・・救命・集中治療理論が不可欠です。
どうもデータを見る限り,脳症は焼き肉を食べてから3~7日で生じる傾向があり,傾向としては焼き肉を食べて1週間後に尿量が減少してきたり,変な言動をしている夜に注意が必要です。この2011年4月から6月の期間,941人が焼肉屋●●●で食事をし,326名が消化器症状が出現したといいます。このうち,88名が病原性大腸菌O111陽性,11名がO157陽性,さらに初期32名,追加2名,合計34名がHUS(溶血性尿毒症症候群:HUS)と診断されたとのことです。年齢群では,15~19歳までが年齢で最多だったようです。脳症が起きる前に血液浄化療法,いざという時は早く血漿交換を施行することが救命の鍵という討論を,この本日の研究会でしておりました。
一方,この毒素O111やO157で死亡するものには,遺伝要因の可能性があります。ヒトは菌や毒素から身を守る急性の防御機構があります。例えば,生体の一酸化窒素(NO)の産生による,毒素や細菌成分のニトロ化です。しかし,菌が,NO還元酵素を作ることにより,宿主側の大腸菌に対する生体防御が低下する可能性が千葉大学より示唆されています。また,急性病態においてもiNOS産生が低下する遺伝子異常やSNPがあり,急性期にNO産生があまり産生されないために血管拡張性の血流分布異常性ショックにはなりにくいとけれども,毒素や細菌感染に弱いという短所が生じるようです。このため,体内に入った菌量によらず,消化管内に病原性大腸菌が入ったかどうかが重要となるようです。
このように,遺伝的にNOのような抗菌分子の産生が低下している場合,血管内皮細胞炎症が進行して初めて,臨床病態として気がつく,つまり,HUS,意識障害,血管内皮細胞障害として重篤化してから初めて発見されて,急激に脳症が進行する可能性があるようです。さらに,遺伝的にミトコンドリア機能異常があれば,虚血に移行しやすい可能性がある。細菌の立場と,臓器免疫の立場の両面から,HUSが進行しやすい個人差があるようです。本日の生体防御研究会では,このような討論がなされました。
医師国家試験対策 HUSの診断
ドイツのO104アウトブレイク
O104はヒト-ヒト感染するが,O111はウシ-ヒト感染である。
下痢を伴わないHUSが約10%存在し,それらは非定型(atypical HUS;aHUS)と呼ばれている。
下痢関連HUSは予後が良いが,aHUSでは致死率が約25%を超えて予後が悪い。
HUSの原因
溶血と毛細血管系血管内皮細胞傷害と血小板沈着
1.宿主側の要因
・ 補体活性化制御因子の遺伝子異常(aHUS患者の約60%):H因子(FH)の異常が高頻度
・ 血管内皮細胞上のトロンボモジュリン(TM)の遺伝子異常
・ iNOS産生低下:NO産生低下により殺菌能の低下
その他の機序はよくわかっていません
2. 大腸菌側の要因
・ NO還元酵素の産生株:NO還元酵素は金属酵素であり,2 つの NO 分子から2電子および2つのプロトンにより,N2OやH2O へ触媒として変換する酵素である
診断で大切なこと
3徴:国家試験的には5歳以下に発症しやすいことがポイント
■ 溶血性貧血 破砕赤血球の同定,ハプトグロビン低下
■ 血小板減少症 < 15万 cells/mm3
■ 腎機能障害 血清クレアチニン値上昇,タンパク尿,RIFLEクライテリアRISK以上
意識大丈夫あるか??
治療:国家試験で大切なことは輸液による利尿確保
・ 適切な初期輸液:利尿を付けること・・
(注意)ループ利尿薬フロセミドは,尿細管再吸収を抑制するのみであり,腎前負荷を下げて,糸球体濾過量を減じる可能性があるために理論的には禁忌である。
・ 腎機能低下:血漿交換→持続血液濾過透析
・ IVIG:静注用免疫グロブリン製剤の投与
・ リコンビナントトロンボモデュリンの投与:播種性血管内凝固症候群(DIC)に準じた治療
△あるいはX 抗菌薬・・外毒素の多くは大腸菌のペリプラズム中に貯蔵されており,抗菌剤で死滅した菌より毒素が大量に発生すると病態が急激に進行する可能性があることに注意する。
初期には予防的投与としてペニシリン系抗菌薬が有効だが,HUS症状が出てからは抗菌薬投与に慎重とならざるをえず,脳症の進行に注意が必要となる。