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救急医学 ハチ刺症 スズメバチやアシナガバチへの対応

2009年06月25日 16時10分49秒 | 講義録・講演記録4

救急医療 スズメバチ刺傷 受け入れのお願い


京都大学大学院医学系研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之


スズメバチの集団刺傷は,救急外来では断らずに,分散搬送として,すぐに受け入れることが大切です。
スズメバチは,黒いものを攻撃する特徴があります。

スズメバチ:大きさ 3 cm, 4 cm 顔つきが悪く睨んできます。ボテッとした怖い様相です。
気をつける時期は,活動期の8月~10月です。6月そして7月でも,近くに巣があると数匹が威嚇してくる場合があります。

ズズメバチは,大きいです。頭部が目立つ,黄色で,色調がわかりやすいので,刺されないように注意してください。


刺すハチの3大注意事項

刺すハチといえば,①ミツバチ,②スズメバチ,③アシナガバチ,この3つを救急で鑑別します。

刺すハチは,メスです。働き蜂は,メスが主体であり,メスの産卵管が変化して針になっています。




アシナガバチ:大きさ 2〜3 cm, 脚が長い

スズメバチ VS アシナガバチ:凶暴なのはススメバチ

1. ススメバチ:クマンバチと言われているのは,正式名称はスズメバチです。スズメバチは大きく,4つの属,67種類が知られています。日本では,スズメバチ属7種,クロスズメバチ属5種,ホオナガスズメバチ属4種の3属16種が知られています。大きさは,3~4cm 大きいです。

2. アシナガバチ:足が長いので,ミツバチハッチのお母さんのような感じです。世界では,現在,26属,1000種が存在するとのことですが,日本では代表的なのは3属,11種とされています。スズメバチより大きくなく,2~3cmレベルです。おとなしいので,攻撃を仕掛けなければ,刺してこないと言われています。


スズメバチに刺されないための方法の共有
スズメバチは威嚇行為をすることを知っておきましょう。


1. ヒトの周りをまとわりつくように旋回する

2. 空中でホバリングのようにピタッと停止する

3. 威嚇するようにカチカチというような音を立てる

4. 黒いところを襲ってくる:頭や黒いTシャツに注意します

※ 黒いものを見に付けているときは,威嚇に気がついた段階で逃げるようにします。


救急医としての注意 残った針に注意すること

1.針が残っている場合は,ミツバチのものです。ミツバチは,一度おしりの針で刺すと,針が抜けず,腹腔内の内臓ごと抜けてしまうために死亡します。ミツバチにとっては「刺す」ということは,一度限りの最終手段となります。蜂の針は産卵管ですので,メスのハチのみに存在します。

2.民家に巣を創る3つのハチ
ミツバチ,スズメバチ,アシナガバチの3つが,3大民家バチであり,すべて刺すハチです。

3.針跡だけ残るもの:スズメバチ,アシナガバチ
スズメバチ,アシナガバチの何度でもさすハチの針の特徴は,直線的であることで,ヒトに刺したあとでもヒトから抜けます。


蜂毒に含まれる留意分子

ヒトの生体内分子と同じようなものを含んでいます

・ヒスタミン
・セロトニン
・ドパミン
・アドレナリン
・ノルアドレナリン
・アセチルコリン

蜂毒に含有される酵素

・ホスホリパーゼ
・プロテアーゼ
これらによって,アナフィラキシー反応とは異なる血管拡張性ショック(血流分布異常性ショック)などが生じます。

ハチ特有ペプチドと特徴

・ハチ毒キニン
・メリチン・・ハチの持つ溶血性毒素,強い赤血球破砕効果があります
・マストパラン
 肥満細胞からヒスタミンを遊離する作用があります。このため,通常の1型アレルギーとしてのアナフィラキシーショックとは,機序が異なる血管拡張性ショックを誘導します。
・アパミン・・Kチャネル阻害薬であり,不整脈や神経障害の原因となります。
・MCDペプチド・・肥満細胞などの末梢の白血球系細胞を破砕します。このため,一気にヒスタミンの血中濃度が上昇します。アナフィラキシーとは異なる機序です。


ショックの表現形

■ 血流分布異常性ショック:血管拡張分子の大量皮下投与,アナフィラキシー
■ 心原性ショック:心抑制分子の大量皮下投与,アナフィラキシー
■ 肺血管透過性亢進

治療

① 気道確保/酸素投与:Airway(気道)とBreathing(呼吸)の評価

② Circulation(循環)の評価:血圧・脈拍数・心機能・心嚢液;エピネフリン 0.3 mg 筋注 (☓ 皮下注)

※ 皮下注ではありません:エピネフリン最大血中濃度は,筋肉内注射で5~8分,皮下注射で20分以上です。

③ 急性期静脈路確保:輸液およびエピネフリン 0.1 mg ivの可能性を念頭におきます。

④ 心アナフィラキシー:注意 (12誘導心電図,心エコー)など。心房浮腫に注意します。

※ 国家試験および救急科専門医試験対策:ハチ毒によるショックにおいて,エピネフリンの投与法は「皮下注射ではダメ(☓)」です。皮下注射では血中濃度の最高上昇までに20分以上かかってしまうためです。筋肉注射であると,5分~8分でエピネフリン濃度はピークとなります。エピネフリンの筋肉内投与は,皮下投与よりも早く,血中濃度が上昇することが知られています。

参考文献:Simons FE, et al. Epinephrine absorption in adults: intramuscular versus subcutaneous injection. J Allergy Clin Immunol. 2001; 108: 871-873.


知っておくとよいこと

■ スズメバチ集団災害:トリアージしてください:Airway,Breathing,Circulation どこから症状が始まってもおかしくありません。また,毒素による高血圧や心原性肺水腫にも注意します。単なるアナフィラキシーにとどまらない場合があります。
■ アナフィラキシーに準じた緊急対応:ススメバチ刺傷は,直接の毒作用が強いことに留意します。サバ中毒と同様に,ステロイドは無効である理由をしっかりと説明できるようにしてください。
■ 注意点:針刺口の数を,聞かれたら,答えられるようにしておいてください。●●さんは●●ヶ所,●●さんは●●ヶ所です。
 スズメバチとアシナガバチは,針が残らないために何度でも刺します。緊急時は,ABCに注意し,バイタルの安定化をはかることに専念します。最終的には,以下もカルテに情報を残すようにして下さい。①刺しあと・刺口の数のカウント,②ハチの体格の評価:大きさの問診・毒量推定・大きいということであると3~4cmを想定,③指し場所(患者さんの頭にも注意)をカルテに記載します。重症性と緊急性をアセスメントします。

試験に出るスズメバチ

日本におけるスズメバチの特徴で,正しいものを選びなさい。
□ スズメバチ刺傷は,蛇咬傷より多い。 ○ 
□ オオスズメバチの巣の除去は,1万8,000円が相場である。○ 2万円を超えないところで交渉できます。
□ オオスズメバチ以外の巣の除去は,1万2,000円が相場である。○ 1万5,000円を超えないところで交渉できます。命がけ度が減少します。
□ ススメバチ刺傷では,アナフィラキシー以外の要因でもショックを誘発する。 ○ ヒスタミンなどの血管拡張物質をスズメバチ毒は含有しています。
□ スズメバチ刺傷では,頻脈性不整脈を合併しやすい。 ○ ヒスタミン,エピネフリン,アパミンなどの作用
□ 1匹のスズメバチは,1度のみしか刺すことはできない。 ☓ 針が直線的(写真)であり,何度でも刺しますので,ミツバチ(1度のみ)です。
□ スズメバチのオスは,メスよりも強い針毒を持つ。 ☓ 雄には針がありません。(◯ スズメバチのメスだけが刺すことができる。)

❏ エピネフリンの投与法:◯ 筋注,☓ 皮下注

❏ 細胞外液の輸液:◯ 20 mL/kgレベル以上

❏ 気道確保・気道トラブルに注意

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