インディオ通信

古代アメリカの共感した者の備忘録8年。

海で泳ぐ、そして、

2014-08-18 20:21:55 | 身の回り
  今年の夏は天候に恵まれないためか、海のイメージがわかない。たまたま休日だった雅太はスイカを食べ、『セールスマンの死』(アーサーミラー)を読み終え、昼寝をしたら汗だくになり、空を見上げる。まだらな雲が青空を泳いでおり、雅太を海に誘っているようだった。

 思い起こせば、30代は良く泳いだものだ。雅太は「反復」なる過去を振り返るための修行をしているのだが、「洞窟」がないので、サウナだったり、温泉だったり、車の中だったり、至る所で思い起こしをしていた。海で思い起こしをすれば、カッパのように泳いでいた当時が思い起こせるのではと、ちょこっと車を走らせ、向島の海岸で塩水を浴びるのだった。濁っているが温かく気持ちがよい。

 浮かびながら雅太はこれまでの人生、とくに夏のシーンを思い出すのだった。年をとったものだ。雅太は、5年、10年が、いかに早かったかを思い知らされるのである。こんなはずではなかったか。いや、もっと苦しい展開になっていたかも知れないし、せめて親元の近くに住んでいることは良かったかも知れぬ、とぐだぐだ考えていると、親子連れ、いや、その祖父母もろとも泳いでいる一家がいた。孫がいると、釣られて、親どころか、その親まで海で泳ぐのである。

 中年、一匹、虚しく海に漂う雅太の頭の中で、カスタネダの呪文がBGMとして流れた。それは『未知の次元』より。「何とみごとな前兆なんだろう! しかも全てがお前のためだ…」。雅太の真上は、果てしない空が広がっており、波紋が幾重にも広がる大海原の向こうには、島が、蜃気楼のように立っている。『沈黙の力』より。「この宇宙には測り知れない、言語に絶する力が存在しており、呪術師たちはそれを意志と呼ぶ。そして宇宙全体に存在する万物は例外なくある環によって意志に結びつけられている…」

 子供は親になり、親は祖父母になり、やがて死んで大地に戻って行く。雅太自身がこれほど年をとったこと、人生の儚さを感じているのだから、親はそれ以上だろう。全国大勢いる老いた親たちは、テレビやらケータイなどの画面を眺めながら、気を紛らわせているのか。動けなくなれば、老人ホームに入ったり、子供が面倒を見たりせねばならぬ。幸運なことに、田舎の雅太の親は二人とも元気であり、父は米作り野菜などの農業を、母にいたっては働きに出ているという状況である。

 海から出た雅太は、サウナに入って水風呂に浸かり、「親に感謝を表さねば」と『無限の本質』が脳内BGMとして流れる。「戦士・旅人は負債を未払いのまま済ますようなことはしない…」。払いきれるものではないが、今から少しずつ分割払い、ということになろうか。

 かくして、雅太は出来るだけ実家に帰ろうかと思うのであった。

  

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