インディオ通信

古代アメリカの共感した者の備忘録8年。

特製のパンを作りながら

2014-10-30 13:07:50 | 身の回り
  厄年を迎えた雅太は、青空の中、買い物ドライブしながら、一体自分の将来はどうなるのであろうか、という不安が過ったりする。40過ぎて独身であり、大した蓄えもなければ、自然にわき起こる感情であろう。休日の雅太は、買い物をし終えた後、玄米と煮付けの類いばかりでは飽きが来たということで、ネギとモヤシを刻み、博多ラーメンを2人前平らげ、さらに、小麦粉にドラーイーストやら牛乳、卵、蜂蜜を混ぜ合わせ、パンを作ってみることにした。

 店で売っているのは小麦粉の由来からして怪しいと雅太は常々思っていた。Y社のパンなど賞味期限は過ぎても一週間ぐらいは腐らないという噂があったりする。何事も実験だと、原材料や設備があるが故に、イチジクとかも練り込み、オリジナルなパンを制作するのである。パンなど作った経験が無いので、食べられるかどうかは未知数である。

 パンなど100円か200円ばかり出して買った方が、容易いには違いない。調理時間も温度も不明で、厚底のフライパンに蓋をして良いのかどうかすら定かでない料理人が、美味いパンが出来るかどうかは疑わしい。

 ふと雅太は仕事とかも同じではないかと思ったりする。お金を手に入れるのも、与えられた仕事を指図通りこなす方が楽であろう。お金が入るかどうか分からない自営業やるなんて、経験がないならば全く危険極まりない行為かも知れぬ。

 と、思いながら、ある程度時間が経ったので、雅太はふたを開けてみた。全然膨らんでいない。ドライイーストの時間が短い。発酵していないのだ! なんてお前は馬鹿なのだと、ネチャネチャしたパンを味わいながら、まあ、これでも食べれないことはない、ホットケーキだわい、と無理矢理自分を納得させる。胃袋の中に入れば、こちらの方が栄養素が高いのだとさえ、こじつけて見たりするのだった。

 が、本音は美味くない。砂糖が少ないのか、牛乳が少ないのか、密度が濃い。両面はクッキーのようでまずまず食べれるのだが、間が酷すぎる。今の雅太は、食パンで耳ばかり食べている感じか。カリカリした耳の味力でクレープ状の中を食べる、まさにパンの煮付けである。

 これは売り物にならない。かつて書き連ねた小説と同じかも知れぬ、と思いながら、雅太はある種の満足感を覚えるのであった。

 

 


甘酒を飲みながら

2014-10-28 20:16:56 | 身の回り
  甘酒を煮込んでいる間、雅太はブログでも書くことにした。卵や豆腐などの入ったイカの煮付け、玄米、柿やイチジクを食べた後、甘酒で締めるのである。昼間の肉体を酷使する仕事が、雅太に飢餓感を覚えさせたのだろうか。柚ぽんの旨味が食欲をそそらせたとことも大きい。

 ただ、これほど腹が満杯になれば、日課である「夢見」に影響するかも知れぬ、と雅太は腹を叩きながら後悔する。

 朝方になれば、雅太はいつもリアルな夢を体験するのだが、どれも象徴的でミステリーで、一体なんであんな夢を見たのか分からない。

 たまに全身が震え、体外離脱とおぼしき夢を見ることもあった。雅太は「どこかにいるのか?」とか深いことは思わず、熟した柿があればもいで食べてみたりする。実際にフルーテリーな味がすることを確認し、女を見つければ、追い回してみたりするのであった。夢の中の女性からすれば、雅太は吸血鬼以外の何者でもないであろう。そんな自由奔放な夢見の雅太も、そのエネルギーがつきかける頃、本当にやらねばならぬのは、一番愛すべき自分を、寝ている自分を目撃すべきことだと、気がついたりする。

 甘酒を啜りながら雅太は別のことを考える。こうやってリアルに生きている自分でさえ、実のところ、夢を見させられているのではなかろうか。社会のルールに従って生きている故に、明日の朝、またルーチンワークに行かねばならぬのだが、本当にやらねばならぬことは、他にあり、最後になって気がつく、しかし時遅し、ということになるのか。

 全ては幻であり、借り物なのかも知れぬ。

 雅太は今、強固な先入観に囚われている。だから現実世界でも、夢の世界でも、自由に動けないのかもしれぬ。これが現実だと考えている自分は一体何なのだろう。これまであちこちから叩き込まれた意識。煮込まれたスープなのであろう。

 スープを味わっている、このドロドロした甘酒、人生の中で見たり感じたことの素材が、くまなく混ざり合っている。それを雅太は味わっている。過去を振り返る、徹底的に反復することは、この甘酒を飲み干すことなのではなかろうか。

 それがタブル、幽体を目覚めさせるための秘薬なのだろう。

 今年最大の収穫本『呪術師の飛翔』にて、クララの台詞を思い出す。

 呪術師とは、鍛錬と不屈の努力によって、通常の知覚を破る人をいうのよ。

 

 

小暴君が消える

2014-10-19 15:36:51 | 身の回り
  10月半ばの日曜日は、天候も良く、室内は27度を超え、雅太のチェック模様な服は汗ばんでいた。今月、会社の「小暴君」が辞めたという事件があり、5年という月日の長さをひとしお噛み締めてみる。

 雅太はカルロス・カスタネダの著作物を4年近く読み耽っているわけであるが、実践が重要なのであり、それは「夢見」やら「マジカルパス」に限らず、こてんぱんに自分を叩き伏せてくれるような「小暴君」が必要であるらしい(『意識への回帰』)。

 現代だからこそ、暴力や刑罰は行われぬも、出来るだけ法に触れぬ範囲内で、社内の人(上司でさえ)圧迫するような存在が、雅太の会社には存在していた。背が高く、目つきが並でなく、逆らいがたいオーラを放っていたわけである。同じ部署であった時には、非情な命令やら理不尽な叱責を受けたり、それで辞めた同僚を多く見てきた。雅太も「どうしようもない野郎だ」と心の中が煮えくり返っていたわけであるが、何とか耐え抜いてきたわけである。だが、時が経つに連れ、そういったやり方が会社には合わなくなったせいか、クレームが多かったせいか、辞職に追い込まれたようだ。

 そういった小暴君とも、雅太は時が経つに連れ、接触するようになった。同じ立場に回ったわけではないが、ちょくちょく話をするようになった。部署が変わったということもあろう。小暴君はその立場が故に孤独なのかもしれぬ。

 雅太は彼を見るたびに、時代こそ違えば、織田信長といった名だたる戦国武将になったのかも知れぬ、と考えたりした。現代社会、株式会社は利益を上げなければならないと同時に、労働者は保護されなければならない、ので、戦国時代のルールは通用しないから仕方がない。

 そんな小暴君であるが、最後には雅太の実家の米を大量に購入してくれた。雅太も彼も来年はどうなっているか分からぬが、また米を渡す時には言葉を交わすことになるのだろう。私生活では案外、実家思いで、愛妻家、別の側面を見たりする。とりとめの無い話をし、別れ際に「一番ためになりました。良い修行になりました」と雅太が頭を下げたとき、彼の眼差しに薄ら笑みが見られたような気がした。
 
 5年前には思いもしなかったことであるが、滅多に会えないような貴重な人物であったような気がするのであった。
 

『ポリティコン』読破、理想郷は『呪術師の村』か?!

2014-10-12 16:08:26 | 映画や小説、テレビなど
  雅太は、読書の秋ということで、桐野夏生『ポリティコン』を読み耽った。テーマが「農村に理想郷を作る」というわけで、実に興味をそそられた。殺伐とした都会生活から逃げ出したいからといっても、理想郷の現実はシビアで、「年齢が45歳以上の人は生産費と経費が合わないから断っている」。だが、主人公のトイチは、女絡みで許してしまうわけであった。ドロドロした愛憎小説が、展開する中、「養鶏」を中心とした細い村の経済が、大学へ行きたいマヤのカネを捻出するため、拡大戦略に走るのであった。一方で、高齢化した村人も言いたいことを言いまくり、村は割れるのであった…。

 外国人嫁、食品偽装、マヤの乱れた環境、何でもありなストーリーが、型にはまった雅太には面白かった。雅太の高校時代など、バブルの絶頂で、「苦労」が欠けていたのである。しかも田舎で、「世間知らず」に拍車がかかり、今はそのツケを倍返しで払っていることになるのであろうか。いや、田舎、日本全体が、そのツケを払わされているのかも知れない、雅太は大きく息を吸いながら、「高齢化問題」「失業問題」「農業問題」などを考える。

 小説は有機やら無堆肥農業に言及しているが、一筋縄ではない。一体カネにならない農業で、どうやって生計を立てるのか。必要であるのに成り立たないという矛盾。雅太の実家は個人農家であったが、概算金という買い取り価格があまりにも安いため、「直販できなければ、米なんて作るべきではない」と独自で販路を拡大させていた。それでも「独立」にはほど遠い。今朝も30kの米袋を12ばかり提げたせいか、腰に鋭い痛みが走る。

 要するに小説のいわんとしていることは、「理想郷など作れるわけがない」ということなのだろう。創設者の志は、現実の前に空回りするのである。

 一方で、雅太の読む『呪術師の飛翔』はあと50ページを残すこととなったが、内容がリアルで濃すぎた。主人公タイシャが、「呪術師の家」に入り、クララ、マンフレッド、エイブラー(ドン・ファンか?!)、ネリダという個性的な呪術師に出会い、さらに家の管理人であるエミリート老人にも出会い、それぞれが師となり、呪術師への門をくぐって行く。夢見の世界、ダブル、霊体の開発を、マジカルパスやら水晶の利用で、促進して行く。特に「意図」を叫ぶことによって。ここで、「意図! 意図!」かのシルビオ・マヌエルが『沈黙の力』で「意志だ! 意志だ!」と狂ったように叫んだ理由が分かった。意志をおびき寄せる意図こそが、ダブルを動かすアクセルであるということを。雅太は、理想郷というのは、肉体の世界には無いのではないかと考えたりする。

 幽体の世界こそが理想郷であり、それを生み出す呪術師な村こそが、理想郷ということになるのだろうか。「仏門に入ったらどうですか」という第三者のささやきが聞こえたりするのであった。

 
ポリティコン 上
桐野夏生
文藝春秋
ポリティコン 下
桐野夏生
文藝春秋