Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

光と影のプロフェッサー 追悼、アラン・パーカー

2020-08-03 00:10:00 | コラム
真夜中の刑務所。
監視塔から放たれる灯りは、まるで深夜列車のように見える。

映像表現とはどういうことかを教わった気がした―専門学校の1年時、授業の課題で観た『ミッドナイト・エクスプレス』(78)の感想をそんな風に記した。

採点はA、最も優秀な感想文だと褒められ、コピーされたその文章は全生徒に配られた。

自分が、なんでもいいからことばを紡ぐ職業に就こうと決意した瞬間だった。


そこまで作家性の強い映画監督ではなかった。
むしろ職人肌で、どんな物語でも興味を抱いたものであれば撮ってみる。

英国出身のアラン・パーカーは、そんなひと。
サーの称号(=騎士爵)を得ているが、プロフェッサー(=教授)としたほうが個人的にはしっくりくる。


71年、『小さな恋のメロディ』の脚本を担当。

よく知られた話だが、英語圏ではパッとしなかった本作は「なぜか」日本で大人気となった。

よい作品だけれども、なぜ日本でだけ特別扱いされたのかは「未だ」謎のまんま。


76年、『ダウンタウン物語』で監督デビューを飾る。
ギャングスタの物語を「子役たち」で再現する―という実験作で、微笑ましく観ることも出来るが、たぶんこれは日本では創れない、英国っていろいろ成熟しているんだなぁと感心したものだった。

前述した『ミッドナイト・エクスプレス』、米国南部に色濃く残る人種差別をテーマとした『ミシシッピー・バーニング』(88)などの影響で社会派と括られることも多いが、そうじゃなくって、物語の面白さを優先しているのではないか。

前者は脱獄する男の物語、後者は死体隠し/死体探しの物語。
映画として最高に面白いでしょ? みたいな。

80年、音楽とダンスに情熱を賭ける若者たちを捉えた『フェーム』がスマッシュヒットを記録する。

ベトナム戦争によりこころに傷を負い、自分を鳥だと思いこむ青年を見つめた『バーディ』 (84)、
ミッキー・ローク、ロバート・デ・ニーロ共演が話題を呼んだ『エンゼル・ハート』(87)。




パーカーの最高傑作をひとつ選べといわれたら、迷いに迷いながらも・・・
ダブリンに住む労働者階級の若者たちがバンドを組む物語、『ザ・コミットメンツ』(91)を選ぶだろう。



彼ら彼女らはスターへの階段を順調に上っていく、、、ように見えて、成り上がるだろうと予感させておいて、最後の最後で、じつに生々しい理由から、成り上がり「損ねる」。

この苦さが、たまらなかった。


その後も、ミュージカル仕様のまま映画化した『エビータ』(96)、苦難の日常を生き抜こうとする家族の物語『アンジェラの灰』(99)などの力作を発表、

繰り返すが、作家主義ではなく、職人ゆえ多岐にわたるジャンル映画を撮ってきた。

そんな職人の一大特徴といえば、やはり光と影の扱いかたになると思う。


映画は光と影の世界だ、、、なんてなことを識者はいうけれど、ただ観ているだけでは、そのことに気づかぬ作品だって多い。

観ているだけの観客に、あぁそうだよな、映画って光と影だよな! と分かり易く教えてくれる作品って、たとえば『第三の男』(49)だったりする。

極端な話、テキトーに観ていたとしても、そのことに気づかせてくれるくらいの「光と影の世界」を構築しているから。

『ミッドナイト・エクスプレス』や『エンゼル・ハート』にも、同じことがいえると思う。

そう、分かり易いのです物語ではなくて、映像表現が。
だから、映画を習いたての自分でも冒頭に記したような感想文が書けた。

そういう意味で、自分にとっては「サー」ではなく映画の「プロフェッサー」だったというわけ。

ありがとう教授、あなたのおかげで自分の進路は定まりました。


映画監督アラン・パーカー、2020年7月31日死去。
享年76歳、合掌―。




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明日のコラムは・・・

『DCとリズム』
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