“ボカロマスター”より。 前回の続き。
[14:00.東京都内の総合病院 平賀太一]
「申し訳ありませんでした!!」
自分……いや、私は入院している妙観講員の皆さんに土下座して謝罪した。私のプログラミングは完璧だったはずだ。だが、それにどこか驕りがあったのだろう。それとも、驕り高ぶっていたのは財団の方だろうか。
「太一君、もういいよ」
ベッドの上でそう言うのは、私が最愛の姉を失って失意の底にいたところを付きっ切りで支えてくれた田中晃さん。遠い親戚の叔父に当たる。
姉は私が小学生の頃、前方不注意のトラックに轢かれて死んだ。正確に言えば、本当は轢かれるのは私のところが、私なんかを庇って……。だからエミリーではないが、仲の良い鏡音リン・レンの姉弟を見ると、微笑ましく感じていたものだ。
「キミがわざとやったわけじゃないことは分かった」
「でも、自分が余計なことをしたばっかりに……!」
国際指名手配犯のマッド・サイエンティスト、ウィリアム・フォレスト。通称、ドクター・ウィリーと称されるこの男は、私のロボット研究の師である南里志郎先生の宿敵でもある。ヤツが権威の誇示の為に作り出したテロ兵器ロボット、“バージョン・シリーズ”。イメージ的にはガンダムのザクをコンパクトにしたような感じだが、エミリーなどがこの個体を何体か捕獲した。そこで財団は、このテロ兵器を平和目的に転用できないかという研究を始めることにした。私がそのチーム・リーダーに抜擢され、最大の謎にして特長である『神出鬼没な機動性』のメカニズム解明に奔走することになった。その解明は完全には至らなかったが、それでもプログラミングについては明らかになり、私はバージョン・シリーズを『神出鬼没な機動性』を生かした“メッセンジャー”としての活用を考えた。その実験を兼ねて私は先日、誕生日を迎えた田中晃さんの元へバージョン・シリーズを送り込んだのだ。
本来の計画はこうだ。信心興盛な妙観講員の田中さんが、足しげくその本部に足を運んでいることは知っていた。そしてほぼ間違いなく、あの日の日曜日も本部にいることを予想した。その予想はちゃんと当たっていたわけだが。サプライズとして祝砲を空に向かって打ち上げ、バージョン達に搭載した歌唱機能でもって、『ハッピーバースデー・トゥー・ユー』を歌ってもらう。1曲歌った後で、再びまた祝砲を打ち上げた後にバースデーケーキとプレゼント、そして私のメッセージを進呈するという演出だ。
田中さんの話では、バージョン達が妙観講本部に到着した後、少し動きを止めたそうである。そしてその直後、バージョン達は腕に仕込まれた祝砲を建物内に向かって乱射したそうだ。それだけではなく、持ち前の強い馬力を悪用して……。
「まあ、幸いケガ人だけで、死者は出なかったからね。それに、御本尊様も無事だ」
田中さんはそう言ったが、とにかく私はこれで除名処分になるだろう。
タイマー設定で機能停止に陥るようになっていたそうだが、私はそんな設定していない。きっとどこかで、狂ってしまったのだろう。そこまで予想しないで実験した私は、研究者失格だ。
「ただ、うちの信徒だけがケガしたわけじゃないから、むしろそっちが心配だ」
と、田中さん。
「まさか、御僧侶もお怪我を?」
「いや、というか、あれは誰だったんだろうなぁ……」
「ご近所の方?」
「うーん……」
どうも的を得ない。一体、妙観講員以外に私の実験の巻き添えになってしまった人は誰なのだろう?
「太一君、あのロボット達以外に、イベント会社とかに依頼したかい?」
「は?いいえ。私はバージョン4.0を5機しか送り込んでませんが……」
「何か、特撮ヒーローのような格好をしてたよ」
「何ですか?」
「確か、ケンショー・レンジャーとか言ってたな」
「はあ!?」
「彼らが1番、重傷らしいよ」
「な、何ですか、それ?」
本当に不思議なこともあるものだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何だかいきなりネットが復旧になったので、昨日投稿できなかった分を先に投稿する。登山のことは、また後ほど……。
[14:00.東京都内の総合病院 平賀太一]
「申し訳ありませんでした!!」
自分……いや、私は入院している妙観講員の皆さんに土下座して謝罪した。私のプログラミングは完璧だったはずだ。だが、それにどこか驕りがあったのだろう。それとも、驕り高ぶっていたのは財団の方だろうか。
「太一君、もういいよ」
ベッドの上でそう言うのは、私が最愛の姉を失って失意の底にいたところを付きっ切りで支えてくれた田中晃さん。遠い親戚の叔父に当たる。
姉は私が小学生の頃、前方不注意のトラックに轢かれて死んだ。正確に言えば、本当は轢かれるのは私のところが、私なんかを庇って……。だからエミリーではないが、仲の良い鏡音リン・レンの姉弟を見ると、微笑ましく感じていたものだ。
「キミがわざとやったわけじゃないことは分かった」
「でも、自分が余計なことをしたばっかりに……!」
国際指名手配犯のマッド・サイエンティスト、ウィリアム・フォレスト。通称、ドクター・ウィリーと称されるこの男は、私のロボット研究の師である南里志郎先生の宿敵でもある。ヤツが権威の誇示の為に作り出したテロ兵器ロボット、“バージョン・シリーズ”。イメージ的にはガンダムのザクをコンパクトにしたような感じだが、エミリーなどがこの個体を何体か捕獲した。そこで財団は、このテロ兵器を平和目的に転用できないかという研究を始めることにした。私がそのチーム・リーダーに抜擢され、最大の謎にして特長である『神出鬼没な機動性』のメカニズム解明に奔走することになった。その解明は完全には至らなかったが、それでもプログラミングについては明らかになり、私はバージョン・シリーズを『神出鬼没な機動性』を生かした“メッセンジャー”としての活用を考えた。その実験を兼ねて私は先日、誕生日を迎えた田中晃さんの元へバージョン・シリーズを送り込んだのだ。
本来の計画はこうだ。信心興盛な妙観講員の田中さんが、足しげくその本部に足を運んでいることは知っていた。そしてほぼ間違いなく、あの日の日曜日も本部にいることを予想した。その予想はちゃんと当たっていたわけだが。サプライズとして祝砲を空に向かって打ち上げ、バージョン達に搭載した歌唱機能でもって、『ハッピーバースデー・トゥー・ユー』を歌ってもらう。1曲歌った後で、再びまた祝砲を打ち上げた後にバースデーケーキとプレゼント、そして私のメッセージを進呈するという演出だ。
田中さんの話では、バージョン達が妙観講本部に到着した後、少し動きを止めたそうである。そしてその直後、バージョン達は腕に仕込まれた祝砲を建物内に向かって乱射したそうだ。それだけではなく、持ち前の強い馬力を悪用して……。
「まあ、幸いケガ人だけで、死者は出なかったからね。それに、御本尊様も無事だ」
田中さんはそう言ったが、とにかく私はこれで除名処分になるだろう。
タイマー設定で機能停止に陥るようになっていたそうだが、私はそんな設定していない。きっとどこかで、狂ってしまったのだろう。そこまで予想しないで実験した私は、研究者失格だ。
「ただ、うちの信徒だけがケガしたわけじゃないから、むしろそっちが心配だ」
と、田中さん。
「まさか、御僧侶もお怪我を?」
「いや、というか、あれは誰だったんだろうなぁ……」
「ご近所の方?」
「うーん……」
どうも的を得ない。一体、妙観講員以外に私の実験の巻き添えになってしまった人は誰なのだろう?
「太一君、あのロボット達以外に、イベント会社とかに依頼したかい?」
「は?いいえ。私はバージョン4.0を5機しか送り込んでませんが……」
「何か、特撮ヒーローのような格好をしてたよ」
「何ですか?」
「確か、ケンショー・レンジャーとか言ってたな」
「はあ!?」
「彼らが1番、重傷らしいよ」
「な、何ですか、それ?」
本当に不思議なこともあるものだ。
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何だかいきなりネットが復旧になったので、昨日投稿できなかった分を先に投稿する。登山のことは、また後ほど……。
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