[20:30. JR仙台駅西口付近 ユタ、威吹、マリア、藤谷(父親)]
ユタ達を乗せた車は、仙台駅西口ロータリー前の交差点で止まった。信号待ちである。
「そうだ。西口と言ってもまだ広いから、もう少し待ち合わせ場所を絞っておこう」
ユタはそう言うと、自分のスマホを出した。
「あ、もしもし。イリーナさんですか?稲生ですけど……。もうすぐで仙台駅の西口に着きます。そうですね。今、宮城交通が曲がって行ったと思うんですけど……。え?宮城交通です。いや、宮崎交通じゃないですよ。九州じゃあるまいし……。え?なにって、宮城県仙台市……は!?違う!?」
ユタのやり取りを見て、威吹とマリアは眉を潜めた。
「えー……」
助手席に座っているユタは、信じられないといった顔でリアシートの妖狐と魔道師を見た。
「思いっきり間違えたみたいです」
「間違えた?」
威吹は目を丸くした。
「イリーナさんは、全部解決したそうです。イリーナさんは、鹿児島県川内(せんだい)市にいたんです。宮城県仙台市ではありません」
ズコーッ!!
「くぉらっ!こりゃ一体、どういうことだ!?」
威吹はマリアに詰め寄った。
「そ、そういえば師匠、『何かあったら、後であなたも来て』って、交通費を渡してくれた……」
「それが、あの10万円だったんですか。だから言ったんですよ。これ、鹿児島まで行けそうな額ですねって」
本当に鹿児島方面を意識していたのだった。
「はっはっはっ。ヒドい勘違いだったねー」
藤谷の父親、藤谷秋彦は笑いながら言った。そして車を駅の車寄せに止めた。
「笑いごとじゃないですよー」
「くそっ!また振り回されたーっ!!」
威吹は頭を抱えた。
「で、どうするの?帰る?」
「一泊してから帰ります。グスン……」
「じゃあ、今からホテルの予約取ってあげるよ。稲生君は帰りの新幹線の予約でも取ってきたら?」
「そうします」
「ボクも……」
ユタと威吹は車を降りて駅構内へ。マリアは半泣き状態で、水晶球(屋敷常備用のバレーボールサイズではなく、携帯用のテニスボールサイズのもの)を使い、師匠と詳細な連絡を取った。
[22:00.仙台市内のホテルの大浴場(男湯でスマソ) ユタ、威吹]
「あー、ヒドいオチだった!」
「まあ、ケンショーレンジャーも退治できて、何気に罪障消滅できちゃったけどね」
威吹は銀色の髪をかきむしりながら、苛立っていた。ユタは、もはや苦笑いするしか無かったという。
最近のビジネスホテルは、大浴場を兼ね備えていることが多い。藤谷秋彦の同級生がチェーン・ホテルの重役で、その人に頼んだという。
「それにしても……」
「ん?」
部屋で着物から館内着(作務衣)に着替えた時には気が付かなかったが、威吹の白い背中には無数の小さな切り傷やひっかき傷の痕が見て取れた。
「すごい傷痕だねぇ……」
「ああ。こう見えても、封印前などは修羅場を相当潜り抜けたもんさ。ここは平和でいいねぇ……」
「その平和を乱すケンショーレンジャーがね……」
「まあ、登場する度に段々面倒になってきてるっぽいけど、また何とかするさ」
「警察に逮捕されたはずだよなぁ……」
脱衣所内にあるテレビではちょうどニュースをやっていて、ケンショーレンジャーが逮捕されたことを報道していた。
「また『御仏智』だとか『御守護』だとか抜かして、脱獄するだろうなぁ……」
「そ、そうだろうね。その時は斬り捨てていいかい?」
「まあ、待ちなよ」
さすがに許可するわけにはいかないユタだった。
[22:30.客室フロア ユタ、威吹、マリア]
エレベータを降りるユタと威吹。
「ユタは牛乳飲まないんだ?」
「いやあ、何か飲んだ後、腹の具合が悪くなって……」
などと話す。
「マリアさんはもう寝てるかな?」
ユタは何となく言った。すると威吹はニッと笑った。妖狐ならではの鋭い犬歯が覗く。
「ははっ、寝込みなんか襲いにいったら、あのミクとかいう人形にブッ殺されるよ?」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「風呂には入りに行ったみたいだけど、体調不良だろ?もう寝てるんじゃない?」
「そうかぁ……」
と、その時だった。
「あっ、マリアさん」
ユタ達と隣の部屋に入ろうとしたマリアと会う。
ユタと威吹は同室だが、マリアは隣のシングルだ。
「あなた達も風呂上りか……」
「明日は10時21分の新幹線なので、少しゆっくりめに起きてもらって構いませんよ」
「ああ、すまない」
「体の具合はどうですか?」
「……もう少し休んでからだな」
「無理しないでくださいね」
「! ……ありがとう」
[22:45.ホテルのツインルーム ユタ、威吹]
「ユタ、ボクも何か疲れたから、そろそろ寝ていいかい?」
「そうだな。寝よう寝よう」
消灯する。もちろん部屋は暗くなるわけだが、威吹の金色の瞳は暗闇の中、ボウッと光る。
最初はビックリしたものだ。今でも不気味さは変わらないが、さすがにもう慣れた。
「ユタ、あの女の色香に惑わされるなよ?」
布団に入ってから、威吹は言った。
「え?」
「風呂上りに、地味に色香を漂わせていた。あれが偶然だと思うかい?多分、ユタを狙ったな」
「考えすぎじゃない?」
「マリアが生粋の人間の女だったら、ボクは何も言わない。むしろ、せっかくだからユタとくっつけたいと思う。けど、あいつは人間を辞めた魔道師だ。人間とも妖怪とも相容れない存在だよ」
「……威吹は、もしも僕とマリアさんが一緒になったら都合の悪いことでもあるの?」
「都合云々じゃない。ユタの安全の為だよ。もしどうしても都合云々って言うのなら、少なくともボクは得しない。むしろ、いつあいつが敵に回るか警戒し通しだから、その分、無駄な労力は増えるだろうね。ユタだって分かってるでしょ?あいつは1度、君を魔術の実験台にしようとしたくらいだぞ?」
「あれは僕は悪かったんだよ。あれさえしなけれぱ、彼女は何もしなかったはずだ」
「ユタ、君は生粋の人間なんだし、生粋の人間の女で代替してくれよ。何だったら、ボクが何人でも引っ張ってくるからさ」
「……そこまで威吹の世話にはならないよ」
ユタはそう言うと、頭から布団を被った。
「おやすみ」
これ以上、威吹と話をする気は無いと言わんばかりだ、
「……おやすみ」
威吹も諦めることにした。
(獲物取扱規定では……。いや、そんなもの無くたって、例え“獲物”が最悪の選択肢を選んでしまったとしても、その被害・損害を皆無もしくは最小限に食い止めるのは“盟約者”たるボクの役目……か)
そして威吹は丸暗記した規定条文の中の一文を思い出した。
『……被害・損害を皆無若しくは最小限に食い止めるよう、最大限に尽力しなければならない。尚、明らかに近い将来、その事態が起こり得ると判断される場合には、可能な限り予防策を講じても良い』
威吹の心の中に、黒い考えが浮かんだ。その黒い考えとは……。
[同時刻 シングル・ルーム マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
マリアは1番疲弊しているはずなのに、ベッドに入ってから寝付けなかった。別に、枕が変わると眠れないタチではない。
魔道師になる前は、親友とよく互いの家に泊まったくらいだ。旅行なんかも一緒に行った。
ライティング・デスクの椅子には、ミク人形が座っている。フランス人形は、再び屋敷に帰した。
『無理しちゃダメだよ。マリア、ただでさえ体弱いんだから』
魔道師になっても、ただの人間だった頃の記憶は残る。アンジェラという名の亡き親友。これを男にすると、ユタのようになるのが不思議だ。
無論、顔は全然似ていない。もう1度繰り返すが、性別も違う。
しかし、性格や雰囲気が、死に別れた親友と被ってしまうのだった。
(アンジェラはいいコだったから、天国に行ったと思うけど……。私が魔道師になって、永遠に生き続けることになったと知ったら、何て言うだろう……)
その夜、3人は変な夢を見た。
ユタは威吹がマリアを斬り殺す所を離れた場所から見る夢。
威吹はマリアを直接斬り殺す夢。
マリアは威吹に斬り殺される夢だった。
果たして、これは何の夢だったのだろう。
ただの偶然?それとも……?
終
ユタ達を乗せた車は、仙台駅西口ロータリー前の交差点で止まった。信号待ちである。
「そうだ。西口と言ってもまだ広いから、もう少し待ち合わせ場所を絞っておこう」
ユタはそう言うと、自分のスマホを出した。
「あ、もしもし。イリーナさんですか?稲生ですけど……。もうすぐで仙台駅の西口に着きます。そうですね。今、宮城交通が曲がって行ったと思うんですけど……。え?宮城交通です。いや、宮崎交通じゃないですよ。九州じゃあるまいし……。え?なにって、宮城県仙台市……は!?違う!?」
ユタのやり取りを見て、威吹とマリアは眉を潜めた。
「えー……」
助手席に座っているユタは、信じられないといった顔でリアシートの妖狐と魔道師を見た。
「思いっきり間違えたみたいです」
「間違えた?」
威吹は目を丸くした。
「イリーナさんは、全部解決したそうです。イリーナさんは、鹿児島県川内(せんだい)市にいたんです。宮城県仙台市ではありません」
ズコーッ!!
「くぉらっ!こりゃ一体、どういうことだ!?」
威吹はマリアに詰め寄った。
「そ、そういえば師匠、『何かあったら、後であなたも来て』って、交通費を渡してくれた……」
「それが、あの10万円だったんですか。だから言ったんですよ。これ、鹿児島まで行けそうな額ですねって」
本当に鹿児島方面を意識していたのだった。
「はっはっはっ。ヒドい勘違いだったねー」
藤谷の父親、藤谷秋彦は笑いながら言った。そして車を駅の車寄せに止めた。
「笑いごとじゃないですよー」
「くそっ!また振り回されたーっ!!」
威吹は頭を抱えた。
「で、どうするの?帰る?」
「一泊してから帰ります。グスン……」
「じゃあ、今からホテルの予約取ってあげるよ。稲生君は帰りの新幹線の予約でも取ってきたら?」
「そうします」
「ボクも……」
ユタと威吹は車を降りて駅構内へ。マリアは半泣き状態で、水晶球(屋敷常備用のバレーボールサイズではなく、携帯用のテニスボールサイズのもの)を使い、師匠と詳細な連絡を取った。
[22:00.仙台市内のホテルの大浴場(男湯でスマソ) ユタ、威吹]
「あー、ヒドいオチだった!」
「まあ、ケンショーレンジャーも退治できて、何気に罪障消滅できちゃったけどね」
威吹は銀色の髪をかきむしりながら、苛立っていた。ユタは、もはや苦笑いするしか無かったという。
最近のビジネスホテルは、大浴場を兼ね備えていることが多い。藤谷秋彦の同級生がチェーン・ホテルの重役で、その人に頼んだという。
「それにしても……」
「ん?」
部屋で着物から館内着(作務衣)に着替えた時には気が付かなかったが、威吹の白い背中には無数の小さな切り傷やひっかき傷の痕が見て取れた。
「すごい傷痕だねぇ……」
「ああ。こう見えても、封印前などは修羅場を相当潜り抜けたもんさ。ここは平和でいいねぇ……」
「その平和を乱すケンショーレンジャーがね……」
「まあ、登場する度に段々面倒になってきてるっぽいけど、また何とかするさ」
「警察に逮捕されたはずだよなぁ……」
脱衣所内にあるテレビではちょうどニュースをやっていて、ケンショーレンジャーが逮捕されたことを報道していた。
「また『御仏智』だとか『御守護』だとか抜かして、脱獄するだろうなぁ……」
「そ、そうだろうね。その時は斬り捨てていいかい?」
「まあ、待ちなよ」
さすがに許可するわけにはいかないユタだった。
[22:30.客室フロア ユタ、威吹、マリア]
エレベータを降りるユタと威吹。
「ユタは牛乳飲まないんだ?」
「いやあ、何か飲んだ後、腹の具合が悪くなって……」
などと話す。
「マリアさんはもう寝てるかな?」
ユタは何となく言った。すると威吹はニッと笑った。妖狐ならではの鋭い犬歯が覗く。
「ははっ、寝込みなんか襲いにいったら、あのミクとかいう人形にブッ殺されるよ?」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「風呂には入りに行ったみたいだけど、体調不良だろ?もう寝てるんじゃない?」
「そうかぁ……」
と、その時だった。
「あっ、マリアさん」
ユタ達と隣の部屋に入ろうとしたマリアと会う。
ユタと威吹は同室だが、マリアは隣のシングルだ。
「あなた達も風呂上りか……」
「明日は10時21分の新幹線なので、少しゆっくりめに起きてもらって構いませんよ」
「ああ、すまない」
「体の具合はどうですか?」
「……もう少し休んでからだな」
「無理しないでくださいね」
「! ……ありがとう」
[22:45.ホテルのツインルーム ユタ、威吹]
「ユタ、ボクも何か疲れたから、そろそろ寝ていいかい?」
「そうだな。寝よう寝よう」
消灯する。もちろん部屋は暗くなるわけだが、威吹の金色の瞳は暗闇の中、ボウッと光る。
最初はビックリしたものだ。今でも不気味さは変わらないが、さすがにもう慣れた。
「ユタ、あの女の色香に惑わされるなよ?」
布団に入ってから、威吹は言った。
「え?」
「風呂上りに、地味に色香を漂わせていた。あれが偶然だと思うかい?多分、ユタを狙ったな」
「考えすぎじゃない?」
「マリアが生粋の人間の女だったら、ボクは何も言わない。むしろ、せっかくだからユタとくっつけたいと思う。けど、あいつは人間を辞めた魔道師だ。人間とも妖怪とも相容れない存在だよ」
「……威吹は、もしも僕とマリアさんが一緒になったら都合の悪いことでもあるの?」
「都合云々じゃない。ユタの安全の為だよ。もしどうしても都合云々って言うのなら、少なくともボクは得しない。むしろ、いつあいつが敵に回るか警戒し通しだから、その分、無駄な労力は増えるだろうね。ユタだって分かってるでしょ?あいつは1度、君を魔術の実験台にしようとしたくらいだぞ?」
「あれは僕は悪かったんだよ。あれさえしなけれぱ、彼女は何もしなかったはずだ」
「ユタ、君は生粋の人間なんだし、生粋の人間の女で代替してくれよ。何だったら、ボクが何人でも引っ張ってくるからさ」
「……そこまで威吹の世話にはならないよ」
ユタはそう言うと、頭から布団を被った。
「おやすみ」
これ以上、威吹と話をする気は無いと言わんばかりだ、
「……おやすみ」
威吹も諦めることにした。
(獲物取扱規定では……。いや、そんなもの無くたって、例え“獲物”が最悪の選択肢を選んでしまったとしても、その被害・損害を皆無もしくは最小限に食い止めるのは“盟約者”たるボクの役目……か)
そして威吹は丸暗記した規定条文の中の一文を思い出した。
『……被害・損害を皆無若しくは最小限に食い止めるよう、最大限に尽力しなければならない。尚、明らかに近い将来、その事態が起こり得ると判断される場合には、可能な限り予防策を講じても良い』
威吹の心の中に、黒い考えが浮かんだ。その黒い考えとは……。
[同時刻 シングル・ルーム マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
マリアは1番疲弊しているはずなのに、ベッドに入ってから寝付けなかった。別に、枕が変わると眠れないタチではない。
魔道師になる前は、親友とよく互いの家に泊まったくらいだ。旅行なんかも一緒に行った。
ライティング・デスクの椅子には、ミク人形が座っている。フランス人形は、再び屋敷に帰した。
『無理しちゃダメだよ。マリア、ただでさえ体弱いんだから』
魔道師になっても、ただの人間だった頃の記憶は残る。アンジェラという名の亡き親友。これを男にすると、ユタのようになるのが不思議だ。
無論、顔は全然似ていない。もう1度繰り返すが、性別も違う。
しかし、性格や雰囲気が、死に別れた親友と被ってしまうのだった。
(アンジェラはいいコだったから、天国に行ったと思うけど……。私が魔道師になって、永遠に生き続けることになったと知ったら、何て言うだろう……)
* * *
その夜、3人は変な夢を見た。
ユタは威吹がマリアを斬り殺す所を離れた場所から見る夢。
威吹はマリアを直接斬り殺す夢。
マリアは威吹に斬り殺される夢だった。
果たして、これは何の夢だったのだろう。
ただの偶然?それとも……?
終
何かのフラグ立てをして終わらせるというやり方が、ベタ過ぎますね。
実はどの辺で終わらせるか、迷ってました。1番いいのはケンショーレンジャーを倒した時点だったのですが、それだとポテンヒットさんオリジナル作品と変わらなくなってしまいますので……。
マリアは親友亡き後、その悲しみに耐えられず、後追い自殺を図りました。飛び降りです。
地面に激突するその刹那、弟子候補を探していたイリーナが魔術でマリアの命を助けたのが始まりという設定までは考えているのですが……。
「1度捨てたその命、あたしに預けてみない?後悔はさせないし、今更何を後悔する必要があって?」
などとスカウトしたようです。
色恋沙汰は苦手なんだよなぁ……。そもそも作者自身が恋愛経験ゼロだし。
ネタは他のメンバーからパクッて……あ、いや、何でもないです。