報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「『どちらでもない』を選んだルート」

2018-04-16 10:20:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日23:45.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 外は相変わらずの雨だ。
 風も強くなってきたのか、時々外からそれらしい音が聞こえる。
 尚、室内には時計の秒針が動く規則正しい音も聞こえている。

 ナディア:「聞きたいの?聞きたくないの?どっち?」
 稲生悟郎:「まあまあ。俺は部外者だけど、何だか勇太の過去について、その真相が分かりそうなものじゃないか。キミ達は何か分かるんだろう?」
 マリア:「それを言うと、私はまだ森の中に引き籠っていた部外者だ。勇太の思い出の中には入れないしな」
 ナディア:「まあ、うちの先生なら、そういう魔法が使えるけどね。イリーナ先生も」
 マリア:「ああ……まあ、そんな気がします。多分、乗り気じゃないでしょうけど」
 悟郎:「なるほど。罰なぁ……。でも、何だか皮肉な話だ」

 悟郎は腕組みをして言った。

 悟郎:「せっかく信仰をしていて、その見返りがこれじゃ、死んでも浮かばれんだろうな」
 勇太:「マリアさんと出会う前は、墓参りに行っていたものです。今はマリアさんがいるから……」
 悟郎:「それでも、命日には墓参りに行ってもいいんじゃないかな?」
 マリア:「……私も、1度は『挨拶』をしておいた方がいいかもしれないと思う」
 勇太:「はあ……」
 ナディア:「ただ、壮絶な死に方だったでしょうね。車に2回も跳ねられるなんて。勇太君はその彼女の遺体を見た?」
 勇太:「いいえ。とても、見られるものではありませんでした」
 ナディア:「だよねぇ……。死体がグチャグチャになったら、魔道師にもなれないし……」
 勇太:「え?」
 ナディア:「いや、あなたと気が合うコだったんでしょう?もしかしたら、そのコも霊力が強かったのかなぁ……なんて」
 勇太:「ああ。そういえば、そんな感じでしたね。威吹が反対しなかったのも、それが理由でしたし」
 ナディア:「『契約相手は1人だけ。しかし、その契約相手に伴侶ができた場合、その伴侶も契約の範疇に入れても良い』か。悪魔にとっては、1度の契約で2度美味しい内容だもんね」
 勇太:「威吹は悪魔じゃないですよ?」
 ナディア:「分かってる。でも契約内容は、悪魔が持ち掛けて来るものと同じみたいだね」
 マリア:「ということは……!」

 マリアは何かに気づいた。

 マリア:「イブキは犯人じゃないのか?」
 勇太:「何ですって?」
 マリア:「いや、私は河合氏殺しの犯人はイブキだと推理したんだ。勇太に殴られた腹いせに、妖術を使って河合氏殺しの事故を引き起こしたんだってね」
 勇太:「い、威吹はそんなヤツじゃ……ないですよ」
 マリア:「その言い方。確信は持てないだろう?でも、どうやら違うみたいだ。私もイブキとは何回か会っているけど、あいつはそんなにリスクを取るヤツじゃない」

 マリアの言う通り、威吹ほどの妖狐なら、河合をまず最初に跳ねたドライバーに妖術を掛けて幻惑し、それで河合を車で跳ね飛ばすように仕向けることは簡単だっただろう。
 だが、河合は威吹にとって『1度で2度美味しい』相手であったのだ。
 せっかくのオマケをみすみす捨ててしまうようなヤツかというと、そうではない。
 また、もしそれが勇太にバレでもしたら、今度こそ殴られるだけでは済まないだろう。
 威吹は大胆不敵に人喰い活動をして、それで巫女のさくらに封印されてしまった過去を持つ。
 その反省から、慎重派に転じたわけだ。
 だから、勇太に更に妖術による不正勧誘を持ち掛けられても断ったのである。
 勇太に殴られても我慢したのは、偏にその慎重さによる。

 マリア:「もちろん、本人に聞かないと分からないけどね、真相は」
 勇太:「そうか……。威吹が犯人ではないけども、でも犯人を知ってはいたんだ……」
 マリア:「まだ私の予想だよ。あえて勇太に殴られた後、すぐに消えたのが気になってね。多分、頭を冷やす為であるとは思うんだけど……」
 ナディア:「犯人は知っていたけど、勇太君にそれは教えなかったとしたら、どうしてだろうね?」
 悟郎:「やっぱり本人に聞いた方がいいんじゃないのかな?ここであれこれ考えるよりは」
 勇太:「そうですね」
 悟郎:「そのイブキ君とやらは、今どこにいるんだい?」
 勇太:「魔界です」
 悟郎:「はい?」
 勇太:「いや、まあ……その……」
 マリア:「どうせ明後日、魔王城に行くんだ。その時、師匠に言って少し時間をもらおう。その足でイブキの家に行って来ればいい」
 勇太:「そうですね」
 ナディア:「じゃ、文字数が余ったんで、あとは私が話しておくからね」
 勇太:「文字数!?」
 悟郎:「またメタ発言を……」
 勇太:「ここの魔女さん達って、皆こうですよね」
 マリア:「悪かったな」
 ナディア:「まあまあ。私の場合は話ではないね。ちょっと、占いをやってみようと思って」
 勇太:「占い?」
 ナディア:「そう。今の話、犯人が誰かを当ててみようっての」
 勇太:「なるほど!早く、水晶球を!」
 ナディア:「ああ、いや。水晶球では占えないよ。あんなピンポイント、それこそうちの先生やイリーナ先生でないとダメだって」
 勇太:「そ、そうか……。で、どうするんです?」
 ナディア:「これを使ってみようと思うの」

 ナディアはとある紙を取り出した。
 それはA3サイズほどある。
 そして、そこには……。

 勇太:「これ、『こっくりさん』じゃないですか!」
 悟郎:「うん、『こっくりさん』だね」
 ナディア:「やっぱり日本人には有名なのね。ヨーロッパでは『ウィッチ・ボード』って言うんだけど、ちょっと形式は違うかな」
 マリア:「あえて日本式ですか?」
 ナディア:「そうよ。ここは日本だからね。……あっ、悟郎。リビングに大きな灰皿があったでしょ?それ、持って来てくれる?」
 悟郎:「はいはい」

 確かにリビングには、白い透明のクリスタル製の灰皿がある。
 稲生家に限らず、応接間などを持つ家庭によくあるあれだ。
 悟郎はそれをすぐに持って来た。

 ナディア:「スゥパスィーバ。そこに置いといて」
 悟郎:「あい」

 悟郎は灰皿をテーブルの脇に置いた。

 マリア:(何でお礼の言葉だけロシア語なんだ?それに、師匠とは少し発音が違うな……)

 ロシアは世界一広大な国土を持つ国だ。
 その中でもモスクワやサンクトペテルブルグに住んでいたイリーナやアナスタシアと、ウラジオストクのナディアとでは少し違うのかもしれない。

 ナディア:「それじゃ、始めましょう」

 ナディアは鳥居の所にコインを置いた。
 それは10円玉ではなく、ロシアの5ルーブル硬貨だった。
 日本式と言いつつ、硬貨はロシアのルーブル硬貨を使うようである。

 ナディア:「じゃ、ここに指を置いて」

 ナディアを含む4人が全員、硬貨の上に人差し指を置いた。

 ナディア:「呼び出すのは私の契約悪魔よ。その方が確実だから」
 マリア:「なるほど」

 ナディアの契約悪魔はゴエティア系悪魔のエリゴス。
 因みに一覧表にするとナンバリングがされていることがあるが、このナンバーは別にランキングというわけではない。
 
 ナディア:「それじゃエリゴス、お願い」

 エリゴスの姿は勇太には見えなかった。
 そこはたまに姿を現し、自らモブキャラなどを演じる7つの大罪系悪魔とは少し違う。

 ナディア:「あなたはすぐ近くにいて、私達の話を聞いていたでしょう?早速だけど、河合有紗氏を殺そうと画策した犯人の名前を教えてくれないかしら?」

 すると、スススッと硬貨が動き出した。
 右手の人差し指を置いていた勇太は、何だか不思議な感じだった。
 果たして、エリゴスはどんな名前を刻むのだろうか。

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