報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「特急スノーパル2355」 2

2022-02-21 20:04:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月23日00:45.天候:晴 埼玉県春日部市 東武春日部駅→特急“スノーパル2355”1号車内]

 臨時特急が最後の停車駅、春日部駅を発車した。
 発車メロディは、“クレヨンしんちゃん”のテーマソングである。
 最後の停車駅ではあるが、今後全く終点まで停車しないわけではない。
 パンフレットによれば、この後、下今市、鬼怒川温泉、新藤原とあるから、これらの駅に運転停車する予定であるのだろう。
 そして、新藤原駅で『車内仮眠』とある。
 下調べによれば、新藤原駅で長時間の運転停車を行うらしい。
 これは、到着時間の調整もあるのだが、乗り入れ先の野岩鉄道会津鬼怒川線が除雪作業の最中なので、それが終了次第の発車だということだ。
 この辺りでは、まだ雪など全く見えないが、いずれは車窓に雪が見えるようになるのだろう。

 

〔♪♪♪♪。「春日部からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東武鉄道をご利用頂き、ありがとうございます。特急“スノーパル2355”号、会津高原尾瀬口行きです。終点、会津高原尾瀬口には5時23分の到着予定です。これより先、下今市、鬼怒川温泉、新藤原の順に停車致します。尚、下今市と鬼怒川温泉の駅は、時間調整の為の停車でございます。お客様の乗り降りはできませんので、ご注意ください。新藤原駅では、車内仮眠の時間の為、およそ2時間ほど停車致します。新藤原駅では、ホームに降りることができます。尚、駅の出入口は閉鎖しておりますので、駅の外に出ることはできません。【中略】それでは深夜帯に入りますので、放送によるご案内は会津高原尾瀬口駅到着前まで休止させて頂きます。また、車内の照明を減光致します。……」〕

 いわゆる、『おやすみ放送』が流れる。
 そういえばこの車両、新型であるから、自動放送が搭載されているはずだ。
 しかし、この列車では自動放送は流れない。
 恐らく、専用の音声データが無いのだろう。
 あるいは、こちらの編成は修学旅行用なので、あえて流さないのか。
 しばらくすると、車内の照明が落とされた。
 但し、夜行バスほど暗くはならない。
 暗くなると、あちこちから話し声がしていたのだが、それを合図にするかのように、静かになり始めた。

 愛原:「ちょっと、トイレ行ってくる」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「せんでいい」
 高橋:「冗談っスよ!俺も行きたいっス」
 愛原:「分かったよ」

 薄暗くなった車内を通り抜けて、隣の2号車に移動する。

 男子生徒A:「うむ!美味い!わっしょい!」
 男子生徒B:「○獄さんか!w」
 男子生徒C:「キップ……拝見します……」
 男子生徒D:「やべっ!眠らされるぞ!」
 男子生徒C:「お眠りィ!」
 教師:「オマエら、静かにしろ!」

 2号車はまだ賑やかだったw
 トイレは中間車のデッキに存在する。
 新型車両らしく、車椅子対応の多目的トイレの他、通常の洋式トイレと、男子用個室があった。
 不思議に思ったのは、特急列車には必ずあるであろう洗面所が無いことだ。
 手を洗いたければ、トイレ内のを使うしかない。
 客室は薄暗くなっていたが、さすがにデッキやトイレの明るさはそのままである。

 愛原:「さーてさて、俺も寝ないと……」
 高橋:「アイマスクと耳栓、そして空気枕っスね」
 愛原:「夜行バスの必需品だが、夜行列車にも使えるだろう」

 トイレを済ませて戻ろうとすると、リサと絵恋さんも来た。

 リサ:「わたし達もトイレ」
 愛原:「変なことするなよ?」
 リサ:「分かった」

 しかし2人の少女、一緒に多目的トイレに入ろうとする。

 愛原:「言ってるそばから18禁問題!」
 リサ:「サイトーが老廃物吸わせてくれるって」
 愛原:「あのなぁ!……さっさと済ませて戻ってこいよ」
 リサ:「はーい」
 絵恋:「リサさんの為に、お腹の中にいっぱい溜めてきたの……。いっぱい吸ってね……」
 リサ:「ありがとう。但し、体の外に出すなよ?そんなもの汚らしくて吸えない」
 絵恋:「もちろんよ」
 愛原:「体の中にあろうが外に出ようが、老廃物であることに変わりは無いと思うのだが……」
 高橋:「ほんと、あれの何がいいんスかね?」

 私達はさっさと戻ることにした。

[同日02:00.天候:曇 栃木県日光市藤原 東武鉄道・野岩鉄道新藤原駅]

 列車が東武鉄道の北の終点駅、新藤原駅に到着する。
 この駅で2時間ほど停車する。
 微かにドアの開閉音がする。
 列車の外に出られるというのは本当のようだ。
 私はリクライニングを最大限倒していたのだが、いかんせん普通車の座席では、そこまで倒れない。
 まだ、この点では3列独立シートの夜行バスの方が倒れるだろう。
 ここで目が覚めた私は、アイマスクを取り、閉めていたカーテンを少し開けて外を見た。

 愛原:「おー……」

 栃木県の北部まで来たとはいえ、外は雪景色であった。
 天気予報では、昨日雪が降ったらしい。
 そのせいだろう。
 今は雪は降っていないようだ。

 愛原:(ちょっと降りてみるか)

 私は列車の外に出ようと思った。
 が、通路側に座っている高橋のヤツ、長い足を投げ出しているせいで、なかなか通路側に出られない。
 そういう時に限ってコイツ、グースカ寝てやがる。

 

 それでも何とか足を飛び越え、通路側に出る。
 後ろを見ると、リサと絵恋も寝入っているようだ。
 リサはブレザーを脱いで、代わりにフード付きのジャンパーを羽織り、フードを深く被って寝ていた。
 絵恋さんはスキーをする時に被ると思われる、ピンク色のキャップを深く被っていた。
 そして、リサに寄り掛かるようにし、真ん中の肘掛けの上でリサと手を繋いでいる。

 愛原:(駅のトイレに行って来るか)

 列車の外に出ると……。

 愛原:「寒っ!?」

 クソが付くほど寒かった!
 雪は降っていないものの、風が少し強い。
 吹く度に、凍死へ一歩ずつ近づく実感が湧いてくる。
 車掌の放送の通り、駅事務室や待合室には人の気配は無く、それどころか消灯されている。
 そして、駅の出入口は閉鎖されていた。
 乗客が降りて歩けるのはホーム上と駅構内のトイレと喫煙所、そして自販機の所までだろう。
 因みに新藤原駅という名前なのだから、どこかに『藤原駅』が存在するかと思うだろうが、存在しない。
 では何故、新藤原駅なのかというと、旧・藤原駅から現在地に移転した際、駅名を現在の名前にしたのだそうだ。
 その時代、今から100年前の大正時代。
 トイレに行った後、ホームの自販機で温かい飲み物を購入する。

 高橋:「先生……置いてかないでください……」
 リサ:「先生……勝手に行かないでェ……」
 絵恋:「私はリサさんとずっと一緒……」

 列車からわらわらと寝惚けた状態で、いつもの3人が降りて来た。

 愛原:「オマエら、ゾンビか!」

 取りあえず高橋は喫煙所で一服、リサと絵恋さんは駅のトイレに向かった。
 今度は老廃物吸い取りではなく、普通にトイレだそう。

 愛原:「! そういえば……」

 私はふと、聖クラリス女学院の方はどうなのだろうと気になった。
 後ろの車両の方に歩いて行くと、何だか異様であった。
 一般客が乗っている車両は、閉まっているカーテンあり、開いているカーテンありと、前3両編成と大して雰囲気は変わらない。
 しかし、聖クラリス女学院が貸し切っている後ろ2両は全ての窓にカーテンが下ろされ、しかも乗降ドアから誰も降りて来る様子が無かった。
 一瞬、中の様子を確かめたくなったが、向こうは女子校。
 さすがに部外者の私が行ったら、思いっ切り不審者扱いだろう。
 私は首を傾げながらも、前の方へと戻って行った。
 さすがに寒い。
 温かい飲み物を飲んでも、すぐに体が冷えてしまう。
 私はもう1つ温かいお茶を買い求めると、それを持って車内に戻った。

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