[同日11:20. 大石寺・大講堂 稲生ユウタ&栗原江蓮]
「皆さん、本日は足元が悪い中の御登山、誠に御苦労さまです。私、ただいま御紹介に預かりました……」
壇上では僧侶が布教講演を行っていた。
(結局、班長は来なかったなぁ……)
「……今日は1000名ほどの御登山者が予定されていたようですが、あいにくとこの状況で御登山を控えざるを得なかった方もおられると思いますが……」
(1000!?……いやー……)
ユタは周りを見渡したが、10分の1にも満たない有様だった。
(班長、御開扉すら間に合わなかったりして……)
(正証寺の除雪、自分だけ楽してた罰だな)
ユタと江蓮は好き勝手なことを考えていた。
[同日同時刻 大石寺・新町駐車場 威吹、カンジ、キノ、鬼門の左と右]
「なぁ、さっきの話、本当かなぁ……?」
威吹が首を傾げた。
「わざわざオレ達の前にノコノコ現れるくらいですから、本当かもしれませんよ」
カンジは曖昧に答えた。
実はここに1人の雪女が現れ、大石寺から東方の国道上で異変が起きていることを知らせに来たのだ。
「さっきの女、袴はいてただろ?連合会じゃ、それなりの地位のヤツしかはけないそうだ」
キノが言った。
「オレ達みたいなものか」
「そうですね。そこそこの地位の者が変な冗談を言ってくるとは思えないので、警戒した方が良いでしょう」
カンジも同調した。
「おい、お前ら。いつでも離脱する準備しとけ」
キノは鬼門の2人に命令した。
「キノ、お前だけ逃げる気か?」
威吹は意外そうな顔をした。
「バーカ。誰かを守りながらの戦いは、地味にやりにくいっての、オメーも知ってるだろうが」
キノは裏門の方を見た。その先に大講堂があることは、威吹は知っていた。
「なるほど。たまにはいいこと言うな」
「『たまには』は余計だっつーの!」
「先生、オレが様子を見てきましょうか?」
「そうだなぁ……」
「せっかくだから、鉄砲玉になってもらったらどうだ?」
キノはニヤけた顔をした。
「うるさいな。カンジ、異変を確認するだけだ。確認したら、すぐ戻ってこいよ?」
「分かりました」
カンジは第0形態(人間に化けた姿)から一気に第2形態(銀髪になり、頭に狐耳が生える)に変化すると、
「行ってきます」
消えるかのように、この場を去った。
「大丈夫だろうか?」
「どうだかなぁ……」
威吹の言葉に、肩を竦めるキノだった。
[同日11:45. 静岡県富士宮市 国道469号上 藤谷春人&雪奈]
「あれ?おかしいな……。どこで間違えたんだろう???」
藤谷は何度も首を傾げた。
助手席にはジト目で見つめる、麗しい雪女がいる。
「俺の作戦だと、崖に挟まれた掘割に差し掛かるから、そこをアンタの妖術で一気に雪崩を起こし、奴らの動きを封じるはずだったんだが、何か……その……いつの間にか新道ができて、掘割通らなくなってるし」
(この役立たずが!)
雪奈は喉元まで出掛かった抗議の言葉を飲み込んだ。
「って!こりゃいかん!」
「何よ?」
「もうすぐで三門が見えてきちまう!奴らを境内に入れることは阻止しないと!」
「あのね!」
[同日11:50. 静岡県富士宮市上条 国道469号上 特盛クン&エリちゃん]
「エリちゃん、もうすぐだよぉ……」
特盛君は疲れた様子でハンドルを握り、三門横にある交差点に止まった。
「全く!雪で通行止めの上、あちこち滑って立ち往生なんてサイアクだわ!」
「でも、こうして無事に辿り着いたんだからさぁ。功徳が止まらなーい」
「布教講演はバックレ決定だわ」
「まあ、しょうがないよ。御開扉だけでも、間に合いそうだしぃ……」
「って言ってる間に、信号変わったし」
「あいよ」
ズリュリュリュリュ!
「……あ、あれ?車が動かなーい」
「『動かなーい』じゃねーよ!スタックしてんだよ!だからさっき、チェーン巻けっつっただろ!ああっ!?」
「怒らないでぇ、エリちゃ~ん。今、チェーン巻くから待っててぇ……」
「あー、もう!アンタ1人にやらせてると、御開扉終わっちゃうよ!あたしも手伝うからさ!ほら、早く車降りて!ちゃんとハザード点けてね!」
特盛君とエリちゃんが車を降りた時だった。
「うわっ!?」
ズドーン!!
「きゃっ!?」
突然後ろから、軽トラが突っ込んで来た。
「あ~れ~!」
荷台に乗っていたレッド、グリーン、イエローの戦闘スーツを着ていた3人は荷台から振り落とされ、3人仲良く頭から車道脇の雪山に突っ込んだ。
「うあっ!?ケンショーレンジャーだぁっ?!」
特盛君は飛び上がらんばかりに驚き、
「テメーら!あたしの新車に何てことすんだよ、ああっ!?」
エリちゃんは右手で拳を握って、キャブにいるブルーとホワイトに抗議した。
「え、エリちゅわ~ん……そのジムニー、僕が買ったんだけどォ……?」
「ああっ!?このクサレマ○コ!こんなとこに止まってんのが悪いんだろっ!ああっ!?」
ブルーが降りて来て、エリちゃんに言い返す。
と、そこへジムニーの2倍以上の大きさはあるベンツGクラスがやってきた。
「おおっ!?あなた達は確か、塔中坊の御信徒さん!ご協力ありがとうございます!」
藤谷は車から飛び降りると、特盛君達に礼を言った。
「協力した覚えは無いんですけどね。一体、何なんですか、こいつら?」
エリちゃんは両手を腰に当てて、藤谷に詰問した。
「え、エリちゃ~ん、信徒同士でケンカはダメだよォ。『門内摂受、門外折伏』……」
「うっせーんだよっ!だいたい……」
藤谷は腰を低くした。
「話せば長くなるんです。後でゆっくり説明しますから、まずは取り急ぎ、ケンショーレンジャーを退治……いや、何でもないです」
藤谷が言葉を打ち切ったのは……。
「よくも大事な友達を……辱めて……!!」
既に雪奈がレンジャー全員を氷漬けにしていたからだ。
「キミの仲間は無事かい!?」
「何ですか~?」
藤谷と特盛君は軽トラの荷台を見た。
そこには着物を引き裂かれ、上半身が露わになった若い雪女の姿があった。
「変態ども!離れろッ!」
エリちゃんが慌てて2人を引き離す。
「ちょっと待て!確か、車の中に……」
藤谷は自分の車に戻ると、毛布を持ってきた。
「これを使え!」
直接は渡せないので、エリちゃんに渡す。
「大丈夫?怪我は無い?」
エリちゃんは毛布を羽織らせた。
[同日11:50. 大講堂→裏門 稲生ユウタ&栗原江蓮]
「結局バックレやがったな、藤谷さん……」
エントランスで靴を履きながら、江蓮は言った。
「まあ、この雪じゃね……」
「空はもうこんなに晴れてるのに……」
「現実は難しんだよ、きっと。とにかく、威吹達と合流してお昼食べよう」
「あ、そうか。記念登山とかじゃないと弁当出ないんだっけ」
「そうだね」
そんなことを話しながら裏門へ向かうと、
「おーう!2人とも!」
藤谷が大きく手を振って走って来た。
「藤谷班長、ご無事で何より!」
「藤谷さん、遅いよ。もう御開扉終わったよw」
「え!?」
しかし、江蓮はすぐにニヤけた顔をした。
「なーんてな!終わったのは、布教講演だよ」
「何だ……」
「妖怪の抗争に巻き込まれたってのは?」
「話せば長くなる。後で話すよ。取り急ぎ、俺は整理券を内拝券に換えてくる」
「僕達、先にお昼食べてますよ?」
「そうしてくれ」
藤谷は正証寺が休憩所として使用している坊へ走って行った。
「本当に藤谷さん、無事だったねぇ……。まあ、殺しても死なない感じだもんね」
「栗原さん、それはちょっと言い過ぎだよ。威吹達に言わせれば、班長の霊力はC級だけど、絶対に侮れない何かがあるって話だね」
「確かに……」
続く
「皆さん、本日は足元が悪い中の御登山、誠に御苦労さまです。私、ただいま御紹介に預かりました……」
壇上では僧侶が布教講演を行っていた。
(結局、班長は来なかったなぁ……)
「……今日は1000名ほどの御登山者が予定されていたようですが、あいにくとこの状況で御登山を控えざるを得なかった方もおられると思いますが……」
(1000!?……いやー……)
ユタは周りを見渡したが、10分の1にも満たない有様だった。
(班長、御開扉すら間に合わなかったりして……)
(正証寺の除雪、自分だけ楽してた罰だな)
ユタと江蓮は好き勝手なことを考えていた。
[同日同時刻 大石寺・新町駐車場 威吹、カンジ、キノ、鬼門の左と右]
「なぁ、さっきの話、本当かなぁ……?」
威吹が首を傾げた。
「わざわざオレ達の前にノコノコ現れるくらいですから、本当かもしれませんよ」
カンジは曖昧に答えた。
実はここに1人の雪女が現れ、大石寺から東方の国道上で異変が起きていることを知らせに来たのだ。
「さっきの女、袴はいてただろ?連合会じゃ、それなりの地位のヤツしかはけないそうだ」
キノが言った。
「オレ達みたいなものか」
「そうですね。そこそこの地位の者が変な冗談を言ってくるとは思えないので、警戒した方が良いでしょう」
カンジも同調した。
「おい、お前ら。いつでも離脱する準備しとけ」
キノは鬼門の2人に命令した。
「キノ、お前だけ逃げる気か?」
威吹は意外そうな顔をした。
「バーカ。誰かを守りながらの戦いは、地味にやりにくいっての、オメーも知ってるだろうが」
キノは裏門の方を見た。その先に大講堂があることは、威吹は知っていた。
「なるほど。たまにはいいこと言うな」
「『たまには』は余計だっつーの!」
「先生、オレが様子を見てきましょうか?」
「そうだなぁ……」
「せっかくだから、鉄砲玉になってもらったらどうだ?」
キノはニヤけた顔をした。
「うるさいな。カンジ、異変を確認するだけだ。確認したら、すぐ戻ってこいよ?」
「分かりました」
カンジは第0形態(人間に化けた姿)から一気に第2形態(銀髪になり、頭に狐耳が生える)に変化すると、
「行ってきます」
消えるかのように、この場を去った。
「大丈夫だろうか?」
「どうだかなぁ……」
威吹の言葉に、肩を竦めるキノだった。
[同日11:45. 静岡県富士宮市 国道469号上 藤谷春人&雪奈]
「あれ?おかしいな……。どこで間違えたんだろう???」
藤谷は何度も首を傾げた。
助手席にはジト目で見つめる、麗しい雪女がいる。
「俺の作戦だと、崖に挟まれた掘割に差し掛かるから、そこをアンタの妖術で一気に雪崩を起こし、奴らの動きを封じるはずだったんだが、何か……その……いつの間にか新道ができて、掘割通らなくなってるし」
(この役立たずが!)
雪奈は喉元まで出掛かった抗議の言葉を飲み込んだ。
「って!こりゃいかん!」
「何よ?」
「もうすぐで三門が見えてきちまう!奴らを境内に入れることは阻止しないと!」
「あのね!」
[同日11:50. 静岡県富士宮市上条 国道469号上 特盛クン&エリちゃん]
「エリちゃん、もうすぐだよぉ……」
特盛君は疲れた様子でハンドルを握り、三門横にある交差点に止まった。
「全く!雪で通行止めの上、あちこち滑って立ち往生なんてサイアクだわ!」
「でも、こうして無事に辿り着いたんだからさぁ。功徳が止まらなーい」
「布教講演はバックレ決定だわ」
「まあ、しょうがないよ。御開扉だけでも、間に合いそうだしぃ……」
「って言ってる間に、信号変わったし」
「あいよ」
ズリュリュリュリュ!
「……あ、あれ?車が動かなーい」
「『動かなーい』じゃねーよ!スタックしてんだよ!だからさっき、チェーン巻けっつっただろ!ああっ!?」
「怒らないでぇ、エリちゃ~ん。今、チェーン巻くから待っててぇ……」
「あー、もう!アンタ1人にやらせてると、御開扉終わっちゃうよ!あたしも手伝うからさ!ほら、早く車降りて!ちゃんとハザード点けてね!」
特盛君とエリちゃんが車を降りた時だった。
「うわっ!?」
ズドーン!!
「きゃっ!?」
突然後ろから、軽トラが突っ込んで来た。
「あ~れ~!」
荷台に乗っていたレッド、グリーン、イエローの戦闘スーツを着ていた3人は荷台から振り落とされ、3人仲良く頭から車道脇の雪山に突っ込んだ。
「うあっ!?ケンショーレンジャーだぁっ?!」
特盛君は飛び上がらんばかりに驚き、
「テメーら!あたしの新車に何てことすんだよ、ああっ!?」
エリちゃんは右手で拳を握って、キャブにいるブルーとホワイトに抗議した。
「え、エリちゅわ~ん……そのジムニー、僕が買ったんだけどォ……?」
「ああっ!?このクサレマ○コ!こんなとこに止まってんのが悪いんだろっ!ああっ!?」
ブルーが降りて来て、エリちゃんに言い返す。
と、そこへジムニーの2倍以上の大きさはあるベンツGクラスがやってきた。
「おおっ!?あなた達は確か、塔中坊の御信徒さん!ご協力ありがとうございます!」
藤谷は車から飛び降りると、特盛君達に礼を言った。
「協力した覚えは無いんですけどね。一体、何なんですか、こいつら?」
エリちゃんは両手を腰に当てて、藤谷に詰問した。
「え、エリちゃ~ん、信徒同士でケンカはダメだよォ。『門内摂受、門外折伏』……」
「うっせーんだよっ!だいたい……」
藤谷は腰を低くした。
「話せば長くなるんです。後でゆっくり説明しますから、まずは取り急ぎ、ケンショーレンジャーを退治……いや、何でもないです」
藤谷が言葉を打ち切ったのは……。
「よくも大事な友達を……辱めて……!!」
既に雪奈がレンジャー全員を氷漬けにしていたからだ。
「キミの仲間は無事かい!?」
「何ですか~?」
藤谷と特盛君は軽トラの荷台を見た。
そこには着物を引き裂かれ、上半身が露わになった若い雪女の姿があった。
「変態ども!離れろッ!」
エリちゃんが慌てて2人を引き離す。
「ちょっと待て!確か、車の中に……」
藤谷は自分の車に戻ると、毛布を持ってきた。
「これを使え!」
直接は渡せないので、エリちゃんに渡す。
「大丈夫?怪我は無い?」
エリちゃんは毛布を羽織らせた。
[同日11:50. 大講堂→裏門 稲生ユウタ&栗原江蓮]
「結局バックレやがったな、藤谷さん……」
エントランスで靴を履きながら、江蓮は言った。
「まあ、この雪じゃね……」
「空はもうこんなに晴れてるのに……」
「現実は難しんだよ、きっと。とにかく、威吹達と合流してお昼食べよう」
「あ、そうか。記念登山とかじゃないと弁当出ないんだっけ」
「そうだね」
そんなことを話しながら裏門へ向かうと、
「おーう!2人とも!」
藤谷が大きく手を振って走って来た。
「藤谷班長、ご無事で何より!」
「藤谷さん、遅いよ。もう御開扉終わったよw」
「え!?」
しかし、江蓮はすぐにニヤけた顔をした。
「なーんてな!終わったのは、布教講演だよ」
「何だ……」
「妖怪の抗争に巻き込まれたってのは?」
「話せば長くなる。後で話すよ。取り急ぎ、俺は整理券を内拝券に換えてくる」
「僕達、先にお昼食べてますよ?」
「そうしてくれ」
藤谷は正証寺が休憩所として使用している坊へ走って行った。
「本当に藤谷さん、無事だったねぇ……。まあ、殺しても死なない感じだもんね」
「栗原さん、それはちょっと言い過ぎだよ。威吹達に言わせれば、班長の霊力はC級だけど、絶対に侮れない何かがあるって話だね」
「確かに……」
続く
早いとこ原因究明して、平日には通常運転に戻ってもらいたいものだ。