[1月3日16:30.魔王城新館・1階ホール]
「反政府ゲリラの連中だぎゃ!?」
「バカ者!新政府軍と言え!」
1階ホールで威吹達が戦っている間、吹き抜けの2階や3階などでは、大魔王バァルにつく旧政府派と新女王ルーシーにつく新政府派が激突した。
ホールの上からはそれの怒号が聞こえるようになったし、中には上階から1階まで落ちて来る者もいる。
「ルーシー陛下もアベ首相もご無事だ!あとは貴様らを倒すだけだ!!」
ルーシーが城の塔屋から無事に脱出できたこと、魔界民主党党首にして現・宰相(首相)の安倍春明が人間界に避難したことが新政府関係者に知れ渡ると、一気に挽回の機運が高まった。
「先生!上でも戦闘が!?」
「ザコ共はザコに任せるさ!」
威吹もヒドい言いようだ。
バァル側のスナイパーも、威吹達に向けて攻撃してこなくなった。
どうやら、新政府軍に倒されたらしい。
とはいうものの……。
「ぐわっ!?」
だからといってバァルの力が弱まるわけではなく、
「うわっ!!」
威吹達の力が強まるわけでもなく、本戦場においては威吹達の旗色が悪かった。
[1月3日16:00.静岡県富士宮市上条 大石寺・総一坊 藤谷春人&安倍春明]
臨時の救護所となっている一室。
安倍の体には包帯が巻かれていた。
その横にいるのは藤谷春人。
「これで……OKです」
体を横たえながら、右手に持った携帯電話を切る。
「一体、どちらへご連絡を?」
「大したことはありませんよ。遠い親戚に、私の無事を伝えただけです。そして、このことを私の職場に伝えてくださいと……。おっと」
春明は携帯電話を手から滑らせ、床に落としてしまった。
藤谷が代わりに拾い上げると、ケータイの画面がチラッと目に入った。
そこには発信履歴が出ていて、聞き覚えのある日本の政治家の名前が出ていた。
いや、ただの政治家ではない。
「あ、安倍さん、もしかして、遠い御親戚というのは……その方、もしかして今、総理官邸にいらっしゃったりします?」
「政治上の機密です。お答えしかねます」
安倍は口元に笑みを浮かべただけだった。
そこへまた電話が掛かって来る。
「……ルーシー、私は無事だ。申し訳無いが、私だけ人間界に避難させてもらっている」
{「人間界だって今、安全じゃないでしょ!?」}
「いや、安全な場所があるんだ。日本の親戚に、それを知っている人がいてね。そっちはどうだ?」
{「アンタのイチオシの勇者一行がバァルと戦っているみたい」}
「おお、あのコ達が……」
{「だけど、どうも不利みたいね。そもそも勇者が死んでるし」}
「なに?どういうことだ?」
[1月3日16:30.魔王城・1階ホール]
だいぶ傷ついた威吹ら、剣客達。
まるでバァルに歯が立たない。
小さな子供と父親のようだ。
そしてそれに追い打ちを掛けるかのように、魔法陣の方から号泣が聞こえた。
その主はマリアンナ・スカーレット。
「な、何だ、どうした?」
威吹は口に入った自分の血を吐き出した後で、号泣するマリアに近づいた。
「ユタは生き返ったのか……?」
「私が未熟なせいで……!ごめんなさい……!ごめんなさい……!!」
マリアはその場にへたり込んで、両手で自分の顔を押さえるようにして泣いていた。
(やっぱり“ザオラル”じゃムリだったか……)
江蓮ももらい泣きするように目に涙を浮かべながら、マリアの肩に手を置いた。
「マリアンナ先生……」
バァルがそんなユタ達に背を向け、吹き抜け上階に向かって言った。
「余に忠誠を誓う者どもよ!“勇者”の死が確定した!これでもはや、余らの邪魔をする者はおらぬ!抵抗する者は全て皆殺しにせよ!」
「万事休すか……」
[同日同時刻 地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ&蓬莱山美鬼]
「……つまり、アンタがもう生き返ることは無うなったわけや。ええ加減、諦めんと、今度の獄卒採用試験は大量募集やき、合格率は高いはずや」
「そ、そんな……」
「今なら、ウチの力で一次試験免除くらいは面倒見たるよ?」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
「ウソちゃうよ。蘇生魔法は1度しか使えんって話や。今のユタはんの動きからして、向こうで失敗したのは確定やき。ちゅうわけでな、ユタはんの地獄界入りも確定ってことや。本来なら……」
「ウソだーっ!!」
[同日16:45.魔王城・1階ホール]
「せめてもの情けだ。勇者たちのとどめは、大魔王と呼ばれたこの余が直接手を下してやろう」
バァルは杖を剣の姿に変えると、まずは失意で項垂れた威吹の頭上に上げた。
「妖の行き着く先など地獄に決まっておろうが、せめて冥福くらいは祈って進ぜる故、安心して堕獄せよ」
バァルが剣を振り下ろすのと、ユタが攻撃してきたのは同時だった。
「ぐわっ!?」
ユタに背中を向けていたので、バァルの背中にまともに直撃した。
大きな剣を振り下ろした直後だったので、バァルは大きくバランスを崩し、前のめりに倒れることとなった。
「な、何だと!?」
「し、死体が動いた!?」
ユタの目は閉じられたままで、左手だけをバァルに向けていた。
「い、今の“イオゥ・ナ・ズム”だわ!」
1000年生きてるイリーナも初めて見たのだろう。
いつもは細く閉じている目が驚愕で見開かれていた。
「ば、バカな!あの魔道師の魔法は失敗したはず……!」
「でやあーっ!」
カンジが刀を取って、バァルの首を狙う。
「黙れ!!」
「カンジ!!」
バァルはカンジの首を刎ね飛ばした。
「一体、どうなっている!?そやつは人間ではないのか!?」
「アタシに聞かないでよ!アタシも初めてなんだから!!」
イリーナが老翁に言い返す。
明らかに大魔王と呼ばれた老翁が狼狽している。
それだけ不思議な現象が起きたのだ。
「うっ!?」
その老翁の首に、死神が持つような大きな鎌の刃が当てられた。
「き、貴様……!?」
視線だけ振り向いたバァルの先には、カンジの着物を着た大師匠の姿があった。
「はーい、チェック・メイト。魔道師の底力を見くびったキミの敗北だね」
「か、カンジ!?」
「カンジじゃねぇ!?どういうことだ!?」
驚きの声を上げる剣客達。
だが、大師匠は笑みを浮かべた顔で、更にバァルに言う。
「そう思わないかい、バァル?いや……ウェルギリウスよ」
「昔の名前を呼ぶな、ダンテ・アリギエーリ。神にも魔王にもなれなかった落伍者が!」
「茶番は終わりだ。『嗚呼、神の復讐よ』『彼らはそれぞれの哀しい墓に辿り着く』。冥界でまた詩歌作りでもするかい?それとも、チェスでもやる?」
「黙れ!貴様に唆され、私は……!」
「『忘れ物』を冥界に置いて来たというのを教えてあげたんだけどね。無論、悪気じゃないよ。親切のつもりだったが……」
そしてそこで一旦、咳払い。
「いい加減、諦めなって。『忘れ物』探しなら、ボクも手伝うよ」
「何だと?」
そして大師匠はバァルを放した。
一瞬、緊張が走るが、バァルはその場に留まったままだ。
「キミのプライドからして、もう無駄な抵抗はできないよね?だってこんな衆人監視の中で、特別指名手配のボクに後ろを取られたんだから」
大師匠はニヤッと笑った。
しかし、衆人監視と言っても、新政府軍達に倒される旧政府軍達が右往左往しているので、それどころでは無いようだったが。
「大師匠、これは一体どういうことですか?」
さすがのイリーナも目を開けたまま、直属の師匠に詰め寄った。
「『敵を欺くには味方から』のつもりで、キミにも黙っていたんだ。ゴメンね」
大師匠の素顔は40代前半の壮年の顔付きだ。
もちろん、日本人ではない。
「威波莞爾という妖狐は、最初から存在していなかった。だって、ボクの化身だからね」
「な、何だって!?」
「威吹君には申し訳無い。人を騙す妖狐が騙されたことで、キミのプライドを傷つけてしまったね」
「こ、このっ……!」
威吹の米神に怒筋が浮かび上がる。
「お詫びはしよう。大水晶の中に閉じ込められている人物を解放するから、後で行ってみるといい。……というわけで、ウェル……いや、バァル。キミも『忘れ物』探しの前に、『忘れ物』が無いようにした方がいいんじゃないのかい?」
「その話、本当だろうな?もし偽りだったら……」
「大丈夫。今度はボクも一緒だ。偽りのしようがないよ。何たって、言い出しっぺの本人が一緒なんだから」
「フ……。お前も昔から変わらん」
バァルは口元に笑みを浮かべ、ユタに近づいた。
「大師匠。バァルと一緒ということは……」
「ああ。しばらく放浪の旅に出るさ。まあ、それが終わって落ち着いたところで、向こうにいることになりそうだけどね。ポーリン達にはよろしく伝えておいてくれ。それと……。ああ!心配しなくていい!バァルの『最後の善行』だ!」
ユタの前に現れたバァルに抵抗を試みる孫弟子達に言う大師匠。
バァルはマントの内ポケットから、何やら透明の液体に入った小瓶を出すと、それをユタに振り掛けた。
「終わったかい?」
「……ああ」
「じゃあ、イリーナ。ボクの言い付けをきちんと守って、キミはキミの使命を果たしなさい」
大師匠はイリーナを抱きしめた。
「師匠……お父さん……」
イリーナを放すと、バァルと共に大時計の前に立つ。
大時計の振り子が止まった。
「冥界でゴルフ場でも作って、ゴルフをやるってのもあるよ?」
「ゼロからどうやって作る気だ、お前は……」
2人の老翁(大師匠は若作りしているが)は振り子の横に開いた扉の中に入って行き、その姿を消していった。
「全く。悠悠自適のジィさん連中が……」
イリーナは涙を拭いて、今度は魔法陣の方を振り向いた。
「えっ、回答用紙に名前だけ書けばいいんですか!?」
ガバッと起き上がるユタ。
「……あ、あれ!?」
突然変わった景色にキョロキョロと見回すユタ。
「ユウタ君!」
顔を真っ赤にして泣くマリアに抱きつかれるユタ。
「あ、ま、マリアさん!?こ、これは一体……!?」
「ユタが生き返ったーっ!」
威吹も泣いてユタに駆け寄った。
「てめぇら!大魔王はもうこの魔界から消えたぞ!新政府に従うも、抵抗するも心して決めやがれ!!」
キノは吹き抜けの上階に向かって大声を上げた。
勝どきを上げる新政府関係者達。
その声は、魔王城から内戦続く国内全土に響き渡ったという。
「反政府ゲリラの連中だぎゃ!?」
「バカ者!新政府軍と言え!」
1階ホールで威吹達が戦っている間、吹き抜けの2階や3階などでは、大魔王バァルにつく旧政府派と新女王ルーシーにつく新政府派が激突した。
ホールの上からはそれの怒号が聞こえるようになったし、中には上階から1階まで落ちて来る者もいる。
「ルーシー陛下もアベ首相もご無事だ!あとは貴様らを倒すだけだ!!」
ルーシーが城の塔屋から無事に脱出できたこと、魔界民主党党首にして現・宰相(首相)の安倍春明が人間界に避難したことが新政府関係者に知れ渡ると、一気に挽回の機運が高まった。
「先生!上でも戦闘が!?」
「ザコ共はザコに任せるさ!」
威吹もヒドい言いようだ。
バァル側のスナイパーも、威吹達に向けて攻撃してこなくなった。
どうやら、新政府軍に倒されたらしい。
とはいうものの……。
「ぐわっ!?」
だからといってバァルの力が弱まるわけではなく、
「うわっ!!」
威吹達の力が強まるわけでもなく、本戦場においては威吹達の旗色が悪かった。
[1月3日16:00.静岡県富士宮市上条 大石寺・総一坊 藤谷春人&安倍春明]
臨時の救護所となっている一室。
安倍の体には包帯が巻かれていた。
その横にいるのは藤谷春人。
「これで……OKです」
体を横たえながら、右手に持った携帯電話を切る。
「一体、どちらへご連絡を?」
「大したことはありませんよ。遠い親戚に、私の無事を伝えただけです。そして、このことを私の職場に伝えてくださいと……。おっと」
春明は携帯電話を手から滑らせ、床に落としてしまった。
藤谷が代わりに拾い上げると、ケータイの画面がチラッと目に入った。
そこには発信履歴が出ていて、聞き覚えのある日本の政治家の名前が出ていた。
いや、ただの政治家ではない。
「あ、安倍さん、もしかして、遠い御親戚というのは……その方、もしかして今、総理官邸にいらっしゃったりします?」
「政治上の機密です。お答えしかねます」
安倍は口元に笑みを浮かべただけだった。
そこへまた電話が掛かって来る。
「……ルーシー、私は無事だ。申し訳無いが、私だけ人間界に避難させてもらっている」
{「人間界だって今、安全じゃないでしょ!?」}
「いや、安全な場所があるんだ。日本の親戚に、それを知っている人がいてね。そっちはどうだ?」
{「アンタのイチオシの勇者一行がバァルと戦っているみたい」}
「おお、あのコ達が……」
{「だけど、どうも不利みたいね。そもそも勇者が死んでるし」}
「なに?どういうことだ?」
[1月3日16:30.魔王城・1階ホール]
だいぶ傷ついた威吹ら、剣客達。
まるでバァルに歯が立たない。
小さな子供と父親のようだ。
そしてそれに追い打ちを掛けるかのように、魔法陣の方から号泣が聞こえた。
その主はマリアンナ・スカーレット。
「な、何だ、どうした?」
威吹は口に入った自分の血を吐き出した後で、号泣するマリアに近づいた。
「ユタは生き返ったのか……?」
「私が未熟なせいで……!ごめんなさい……!ごめんなさい……!!」
マリアはその場にへたり込んで、両手で自分の顔を押さえるようにして泣いていた。
(やっぱり“ザオラル”じゃムリだったか……)
江蓮ももらい泣きするように目に涙を浮かべながら、マリアの肩に手を置いた。
「マリアンナ先生……」
バァルがそんなユタ達に背を向け、吹き抜け上階に向かって言った。
「余に忠誠を誓う者どもよ!“勇者”の死が確定した!これでもはや、余らの邪魔をする者はおらぬ!抵抗する者は全て皆殺しにせよ!」
「万事休すか……」
[同日同時刻 地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ&蓬莱山美鬼]
「……つまり、アンタがもう生き返ることは無うなったわけや。ええ加減、諦めんと、今度の獄卒採用試験は大量募集やき、合格率は高いはずや」
「そ、そんな……」
「今なら、ウチの力で一次試験免除くらいは面倒見たるよ?」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
「ウソちゃうよ。蘇生魔法は1度しか使えんって話や。今のユタはんの動きからして、向こうで失敗したのは確定やき。ちゅうわけでな、ユタはんの地獄界入りも確定ってことや。本来なら……」
「ウソだーっ!!」
[同日16:45.魔王城・1階ホール]
「せめてもの情けだ。勇者たちのとどめは、大魔王と呼ばれたこの余が直接手を下してやろう」
バァルは杖を剣の姿に変えると、まずは失意で項垂れた威吹の頭上に上げた。
「妖の行き着く先など地獄に決まっておろうが、せめて冥福くらいは祈って進ぜる故、安心して堕獄せよ」
バァルが剣を振り下ろすのと、ユタが攻撃してきたのは同時だった。
「ぐわっ!?」
ユタに背中を向けていたので、バァルの背中にまともに直撃した。
大きな剣を振り下ろした直後だったので、バァルは大きくバランスを崩し、前のめりに倒れることとなった。
「な、何だと!?」
「し、死体が動いた!?」
ユタの目は閉じられたままで、左手だけをバァルに向けていた。
「い、今の“イオゥ・ナ・ズム”だわ!」
1000年生きてるイリーナも初めて見たのだろう。
いつもは細く閉じている目が驚愕で見開かれていた。
「ば、バカな!あの魔道師の魔法は失敗したはず……!」
「でやあーっ!」
カンジが刀を取って、バァルの首を狙う。
「黙れ!!」
「カンジ!!」
バァルはカンジの首を刎ね飛ばした。
「一体、どうなっている!?そやつは人間ではないのか!?」
「アタシに聞かないでよ!アタシも初めてなんだから!!」
イリーナが老翁に言い返す。
明らかに大魔王と呼ばれた老翁が狼狽している。
それだけ不思議な現象が起きたのだ。
「うっ!?」
その老翁の首に、死神が持つような大きな鎌の刃が当てられた。
「き、貴様……!?」
視線だけ振り向いたバァルの先には、カンジの着物を着た大師匠の姿があった。
「はーい、チェック・メイト。魔道師の底力を見くびったキミの敗北だね」
「か、カンジ!?」
「カンジじゃねぇ!?どういうことだ!?」
驚きの声を上げる剣客達。
だが、大師匠は笑みを浮かべた顔で、更にバァルに言う。
「そう思わないかい、バァル?いや……ウェルギリウスよ」
「昔の名前を呼ぶな、ダンテ・アリギエーリ。神にも魔王にもなれなかった落伍者が!」
「茶番は終わりだ。『嗚呼、神の復讐よ』『彼らはそれぞれの哀しい墓に辿り着く』。冥界でまた詩歌作りでもするかい?それとも、チェスでもやる?」
「黙れ!貴様に唆され、私は……!」
「『忘れ物』を冥界に置いて来たというのを教えてあげたんだけどね。無論、悪気じゃないよ。親切のつもりだったが……」
そしてそこで一旦、咳払い。
「いい加減、諦めなって。『忘れ物』探しなら、ボクも手伝うよ」
「何だと?」
そして大師匠はバァルを放した。
一瞬、緊張が走るが、バァルはその場に留まったままだ。
「キミのプライドからして、もう無駄な抵抗はできないよね?だってこんな衆人監視の中で、特別指名手配のボクに後ろを取られたんだから」
大師匠はニヤッと笑った。
しかし、衆人監視と言っても、新政府軍達に倒される旧政府軍達が右往左往しているので、それどころでは無いようだったが。
「大師匠、これは一体どういうことですか?」
さすがのイリーナも目を開けたまま、直属の師匠に詰め寄った。
「『敵を欺くには味方から』のつもりで、キミにも黙っていたんだ。ゴメンね」
大師匠の素顔は40代前半の壮年の顔付きだ。
もちろん、日本人ではない。
「威波莞爾という妖狐は、最初から存在していなかった。だって、ボクの化身だからね」
「な、何だって!?」
「威吹君には申し訳無い。人を騙す妖狐が騙されたことで、キミのプライドを傷つけてしまったね」
「こ、このっ……!」
威吹の米神に怒筋が浮かび上がる。
「お詫びはしよう。大水晶の中に閉じ込められている人物を解放するから、後で行ってみるといい。……というわけで、ウェル……いや、バァル。キミも『忘れ物』探しの前に、『忘れ物』が無いようにした方がいいんじゃないのかい?」
「その話、本当だろうな?もし偽りだったら……」
「大丈夫。今度はボクも一緒だ。偽りのしようがないよ。何たって、言い出しっぺの本人が一緒なんだから」
「フ……。お前も昔から変わらん」
バァルは口元に笑みを浮かべ、ユタに近づいた。
「大師匠。バァルと一緒ということは……」
「ああ。しばらく放浪の旅に出るさ。まあ、それが終わって落ち着いたところで、向こうにいることになりそうだけどね。ポーリン達にはよろしく伝えておいてくれ。それと……。ああ!心配しなくていい!バァルの『最後の善行』だ!」
ユタの前に現れたバァルに抵抗を試みる孫弟子達に言う大師匠。
バァルはマントの内ポケットから、何やら透明の液体に入った小瓶を出すと、それをユタに振り掛けた。
「終わったかい?」
「……ああ」
「じゃあ、イリーナ。ボクの言い付けをきちんと守って、キミはキミの使命を果たしなさい」
大師匠はイリーナを抱きしめた。
「師匠……お父さん……」
イリーナを放すと、バァルと共に大時計の前に立つ。
大時計の振り子が止まった。
「冥界でゴルフ場でも作って、ゴルフをやるってのもあるよ?」
「ゼロからどうやって作る気だ、お前は……」
2人の老翁(大師匠は若作りしているが)は振り子の横に開いた扉の中に入って行き、その姿を消していった。
「全く。悠悠自適のジィさん連中が……」
イリーナは涙を拭いて、今度は魔法陣の方を振り向いた。
「えっ、回答用紙に名前だけ書けばいいんですか!?」
ガバッと起き上がるユタ。
「……あ、あれ!?」
突然変わった景色にキョロキョロと見回すユタ。
「ユウタ君!」
顔を真っ赤にして泣くマリアに抱きつかれるユタ。
「あ、ま、マリアさん!?こ、これは一体……!?」
「ユタが生き返ったーっ!」
威吹も泣いてユタに駆け寄った。
「てめぇら!大魔王はもうこの魔界から消えたぞ!新政府に従うも、抵抗するも心して決めやがれ!!」
キノは吹き抜けの上階に向かって大声を上げた。
勝どきを上げる新政府関係者達。
その声は、魔王城から内戦続く国内全土に響き渡ったという。
競輪場も大変ですね。
まあ、弊社くらいの規模になりますと、あのような修羅場の警備は料金安い上に割に合わないので全く取っていませんがね。
警備業界は社会の底辺もいい所ですが、その中でも比較的ホワイティな大企業に正規雇用でいられるのは、良い加護だと思っていますよ。
とうとう最後まで残った競馬関係の仕事も、ようやっと手放すことになりました。
中央競馬のお偉いさんポストも、結構警察の天下り先になっているらしく、同じく天下られ会社の弊社とも癒着していた節がありますが、ついに仏様がそこにメスを入れて下さったのでしょう。
天網恢々、疎にして漏らさず、ですね。
私の今年の功徳は、『サツの癒着に付き合うこともなくなった』ですかね。
もっとメスを入れて頂きたいものです。
それはいいが、最終レース間際にボヤ騒動が起き消防車が出動していたぞ。第1スタンド辺りで、どうやら誰かが放火したらしい。まだソースがなく推測でしかないが、ど~せジジイがゴミ箱に火の付いたタバコでも捨てたんじゃね~か?競輪場のゴミ箱は新聞やハズレ車券でいっぱいだからよく燃えんだよw
放火だとしたら、クソジジイ余計な事してくれたぜ。下手すりゃ場内全面完全禁煙になっちまうじゃね~かよ!ま、ジジイはそれでも吸うだろうけどな。こんなやりとりは日常茶飯事だしw
警備員「お客様。スタンドは禁煙ですのでお煙草は喫煙所でお願いします」
ジジイ「なに言ってんだバカ!ここは競輪場だろっ?常識勉強しろボケッ!」