バァルの手により、大爆発を起こそうとしている大水晶。
最後のカウントダウンとばかりに点滅の間隔が短くなり、そして……。
まるで岩の割れるような鈍い音がして、光が消えた。
そして、何も起こらない。
「……!!」
バァルは大水晶に何が起きたのか、直ぐには把握できなかった。
特技の1つである千里眼で確認すると……。
「イリーナめ!」
大魔王直々の特別指名手配を食らっているイリーナ一行が大水晶の前にいた。
[1月3日16:15.魔王城・最下階→地上1階 イリーナ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮]
「何とか間に合ったわね」
イリーナはホッとした様子だった。
江蓮が触れたことにより、普通トラックほどの大きさの大水晶に一部が欠け、拳大の大きさの白い水晶が床に落ちた。
「これでユタが生き返るんだな!?」
威吹が水晶の欠片を拾い上げてイリーナに聞いた。
「ある意味ではね」
「は?!」
「取りあえず、地上に出ましょう。……リ・レ・ミト!」
イリーナが唱えた魔法は、瞬間移動の魔法の1つなのだろうか。
気が付くと、魔王城のホールに出た。
新館はオペラハウスのような造りで数階分の吹き抜けになっており、数段上がって左右に広がる階段の中央にはこれまた大きな振り子時計が設置されている。
ここは激戦があったことなどウソのように静かで、大きな時計の振り子だけがコーンコーンとその音をホール中に響かせていた。
「やはり、アレですか、イリーナ師」
カンジが大理石の床に魔法陣を描くイリーナに話し掛けた。
「ん?」
「大水晶の中に、江戸時代の巫女が封印されているというのは……」
「まあね。だけど、栗原さんではその封印を解くのは難しいでしょう。欠片を手に入れるだけでも大変なんだから。あとは、ユウタ君を生き返らせて、彼にやってもらいましょう。ユウタ君ほどの霊力なら、さっきの栗原さんみたいに、大水晶に触るだけで封印が解けるはずよ」
「なるほど」
魔法陣を描いている間、威吹達の前に現れる者がいた。
「なるほど。お前達が噂に聞く人間界の反逆者どもか」
「おっ、出たな!ラスボス!」
キノは刀を構えた。
「さすがは人間界に拠点を置く反逆者の諸君、よくぞ大水晶の爆発を阻止した」
「へっ!老害なんぞに、オレんとこのシマ荒らされてたまるかよ!」
「フン……。余がこうして、汝らの前に現れた理由はただ1つ。これでも余は、大魔王と呼ばれた男。その余が自ら、汝らの処刑執行人となろう。光栄に思うが良い」
「ありがたき幸せ!だけど辞退させてもらうぜ!」
「スカ・ラァ!バイ・キ・ルトゥ!」
イリーナは剣客達に魔法を掛けた。
1つは相手からの攻撃に対して強い耐性が付くもの、もう1つは攻撃力がアップする魔法だった。
「3人とも!なるべく時間を稼いで!ユウタ君が生き返るまで!」
「よっしゃあ!」
斬り込み隊長のキノが先制攻撃に向かう。
「汝の属性は“炎”だな」
ガンッ!
「!?」
バァルはキノ攻撃を避けようともせず、正面から受け止めた。
しかし、キノの刀は老魔王の体に食い込みすらせず、堅い物に当たって弾かれたかのようであった。
「はぁ!?どうなってんだ!?」
「余は不死身だ」
「不死身でも何でも、お前を倒さなくてはならない!」
威吹が青い刃の刀を構えて向かったが、
「フム。汝は“地”の属性か。それなら……」
威吹の攻撃も当たらない。
カンジも同じだ。
「おい!イリーナ!こりゃ一体どうなってんだ!?」
「静かにして!」
キノの言葉を黙らせるイリーナ。
魔法陣の中央にはユタの遺体が仰向けに寝かされていた。
「じゃ、マリア。お願い」
「はい!」
マリアはユタの前に跪くような姿勢を取った。
「……万物は流転し、生は死、有は無に帰するものなり。ならば死は生、無は有に転ずるもまた真たらんや」
マリアが呪文の詠唱を行っている間、
「あの者の魔法力の全てを無効とせよ!」
イリーナはバァルに向けて、魔法を使った。
「む!?その杖は!?」
バァルが目を剥く。
「ええ。あなたの毛嫌いする大魔道師様から拝借したものよ。あなた達!バァルの防御が解かれたわ!今がチャンスよ!」
「よっしゃあ!」
再びバァルに立ち向かう剣客達。
「汝らの如き、下賤の者共の攻撃など受けん!」
バァルは右手に携えている魔王の杖で、キノ達の攻撃を受け流した。
「けっ!ジジィのくせにいい動きしやがる!」
剣客達が戦っている間、
「……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。今ここに万物流転の逆転を宣言する。この者の魂よ。冥界より転ぜよ。ザオ・ラ・ルゥ!」
マリアの蘇生呪文が発動した。
近くで見ていた江蓮は、
(は?“ザオラル”?それって確か……)
何か嫌な予感がした。
「おい、イリーナ!まだなのか!?いい加減キツいぜ!」
魔法力が封印されたとはいえ、バァルの動きは素早く、体力自慢のキノ達の息が上がり始めた。
大してバァルは涼しい顔をしていた。
キノ達の体力消耗を狙い、それが尽きた所で、一気に叩いてくることは安易に想像できた。
しかし、動きを止めるわけには行かなかった。
止めたら止めたで、吹き抜けから、魔王軍のスナイパーが狙ってくるからである。
「もう少しよ!頑張って!」
イリーナはそう言うだけだった。
[同日16:30.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ&蓬莱山美鬼]
ユタの体が光に包まれる。
「こ、これは……!?」
「どうやらユタはん、生き返られるみたいやな。向こうから魔法掛けられとるで」
「本当ですか!」
「ああ。ホンマの話や。ただな、その光……」
美鬼の話が終わらないうちに、ユタに姿が消えた。
「成功率フィフティ・フィフティのあやふやのヤツで、しかも体の傷は大して回復しとらんちゅう……って、もう行きよった。さ、どうなることやら……」
美鬼はズズズと茶を啜った。
しばらくして、
「わあっ!」
再び空間の中からユタが現れて、テーブルの上に落ちた。
「いてっ!?」
幸いテーブルの上には何も無かったものの……。
「あれ?ここは……?」
湯のみ茶碗の中を飲み干した美鬼が鬼族ならではの牙を剥き出しにして言った。
「お帰り、ユタはん。どうやら、ここがユタはんの居場所みたいやな」
「え?……ええっ?ええーっ!?」
最後のカウントダウンとばかりに点滅の間隔が短くなり、そして……。
まるで岩の割れるような鈍い音がして、光が消えた。
そして、何も起こらない。
「……!!」
バァルは大水晶に何が起きたのか、直ぐには把握できなかった。
特技の1つである千里眼で確認すると……。
「イリーナめ!」
大魔王直々の特別指名手配を食らっているイリーナ一行が大水晶の前にいた。
[1月3日16:15.魔王城・最下階→地上1階 イリーナ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮]
「何とか間に合ったわね」
イリーナはホッとした様子だった。
江蓮が触れたことにより、普通トラックほどの大きさの大水晶に一部が欠け、拳大の大きさの白い水晶が床に落ちた。
「これでユタが生き返るんだな!?」
威吹が水晶の欠片を拾い上げてイリーナに聞いた。
「ある意味ではね」
「は?!」
「取りあえず、地上に出ましょう。……リ・レ・ミト!」
イリーナが唱えた魔法は、瞬間移動の魔法の1つなのだろうか。
気が付くと、魔王城のホールに出た。
新館はオペラハウスのような造りで数階分の吹き抜けになっており、数段上がって左右に広がる階段の中央にはこれまた大きな振り子時計が設置されている。
ここは激戦があったことなどウソのように静かで、大きな時計の振り子だけがコーンコーンとその音をホール中に響かせていた。
「やはり、アレですか、イリーナ師」
カンジが大理石の床に魔法陣を描くイリーナに話し掛けた。
「ん?」
「大水晶の中に、江戸時代の巫女が封印されているというのは……」
「まあね。だけど、栗原さんではその封印を解くのは難しいでしょう。欠片を手に入れるだけでも大変なんだから。あとは、ユウタ君を生き返らせて、彼にやってもらいましょう。ユウタ君ほどの霊力なら、さっきの栗原さんみたいに、大水晶に触るだけで封印が解けるはずよ」
「なるほど」
魔法陣を描いている間、威吹達の前に現れる者がいた。
「なるほど。お前達が噂に聞く人間界の反逆者どもか」
「おっ、出たな!ラスボス!」
キノは刀を構えた。
「さすがは人間界に拠点を置く反逆者の諸君、よくぞ大水晶の爆発を阻止した」
「へっ!老害なんぞに、オレんとこのシマ荒らされてたまるかよ!」
「フン……。余がこうして、汝らの前に現れた理由はただ1つ。これでも余は、大魔王と呼ばれた男。その余が自ら、汝らの処刑執行人となろう。光栄に思うが良い」
「ありがたき幸せ!だけど辞退させてもらうぜ!」
「スカ・ラァ!バイ・キ・ルトゥ!」
イリーナは剣客達に魔法を掛けた。
1つは相手からの攻撃に対して強い耐性が付くもの、もう1つは攻撃力がアップする魔法だった。
「3人とも!なるべく時間を稼いで!ユウタ君が生き返るまで!」
「よっしゃあ!」
斬り込み隊長のキノが先制攻撃に向かう。
「汝の属性は“炎”だな」
ガンッ!
「!?」
バァルはキノ攻撃を避けようともせず、正面から受け止めた。
しかし、キノの刀は老魔王の体に食い込みすらせず、堅い物に当たって弾かれたかのようであった。
「はぁ!?どうなってんだ!?」
「余は不死身だ」
「不死身でも何でも、お前を倒さなくてはならない!」
威吹が青い刃の刀を構えて向かったが、
「フム。汝は“地”の属性か。それなら……」
威吹の攻撃も当たらない。
カンジも同じだ。
「おい!イリーナ!こりゃ一体どうなってんだ!?」
「静かにして!」
キノの言葉を黙らせるイリーナ。
魔法陣の中央にはユタの遺体が仰向けに寝かされていた。
「じゃ、マリア。お願い」
「はい!」
マリアはユタの前に跪くような姿勢を取った。
「……万物は流転し、生は死、有は無に帰するものなり。ならば死は生、無は有に転ずるもまた真たらんや」
マリアが呪文の詠唱を行っている間、
「あの者の魔法力の全てを無効とせよ!」
イリーナはバァルに向けて、魔法を使った。
「む!?その杖は!?」
バァルが目を剥く。
「ええ。あなたの毛嫌いする大魔道師様から拝借したものよ。あなた達!バァルの防御が解かれたわ!今がチャンスよ!」
「よっしゃあ!」
再びバァルに立ち向かう剣客達。
「汝らの如き、下賤の者共の攻撃など受けん!」
バァルは右手に携えている魔王の杖で、キノ達の攻撃を受け流した。
「けっ!ジジィのくせにいい動きしやがる!」
剣客達が戦っている間、
「……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。今ここに万物流転の逆転を宣言する。この者の魂よ。冥界より転ぜよ。ザオ・ラ・ルゥ!」
マリアの蘇生呪文が発動した。
近くで見ていた江蓮は、
(は?“ザオラル”?それって確か……)
何か嫌な予感がした。
「おい、イリーナ!まだなのか!?いい加減キツいぜ!」
魔法力が封印されたとはいえ、バァルの動きは素早く、体力自慢のキノ達の息が上がり始めた。
大してバァルは涼しい顔をしていた。
キノ達の体力消耗を狙い、それが尽きた所で、一気に叩いてくることは安易に想像できた。
しかし、動きを止めるわけには行かなかった。
止めたら止めたで、吹き抜けから、魔王軍のスナイパーが狙ってくるからである。
「もう少しよ!頑張って!」
イリーナはそう言うだけだった。
[同日16:30.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ&蓬莱山美鬼]
ユタの体が光に包まれる。
「こ、これは……!?」
「どうやらユタはん、生き返られるみたいやな。向こうから魔法掛けられとるで」
「本当ですか!」
「ああ。ホンマの話や。ただな、その光……」
美鬼の話が終わらないうちに、ユタに姿が消えた。
「成功率フィフティ・フィフティのあやふやのヤツで、しかも体の傷は大して回復しとらんちゅう……って、もう行きよった。さ、どうなることやら……」
美鬼はズズズと茶を啜った。
しばらくして、
「わあっ!」
再び空間の中からユタが現れて、テーブルの上に落ちた。
「いてっ!?」
幸いテーブルの上には何も無かったものの……。
「あれ?ここは……?」
湯のみ茶碗の中を飲み干した美鬼が鬼族ならではの牙を剥き出しにして言った。
「お帰り、ユタはん。どうやら、ここがユタはんの居場所みたいやな」
「え?……ええっ?ええーっ!?」
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