“ボーカロイドマスター”より。 前回の続き。
[13:00.市営中吉台団地1号棟4F 平賀太一]
自分が目にした光景は半分想定内で、半分想定外である。
自分には信仰上、大変お世話になった御方が妙観講におられる。あいにくと仏縁からか、結局自分は違うお寺に縁してしまったが、それでも大事な人に他ならない。今日はその方の誕生日であり、自分としては何としてでもお祝いをしたかった。だが、仕事が忙しく、上京は叶わなかった。そこで自分は一計を案じた。自分が今手がけているプロジェクト、ドクター・ウィリーの産物であるバージョン・シリーズを平和利用に転用できないかというものだが、このロボット達の最大の特長とも言える神出鬼没な機動性を利用し、サプライズ・イベントを考えたのだ。GPSで確認したが、自分の用意した5体はちゃんと大事な人が常に出入りしている本部へ着いたようだ。今頃は大騒ぎになっていることだろう。ここまでは想定内、というか計画通り。
想定外というのは、自分の折伏対象である顕正会員が同じ団地住民により、集団抗議を受けてしまっていることだった。団地内で相当な苦情が出ているというのは調査したが、まさか住民達がこのタイミングで動くとは思わなかった。
「池波さん、いい加減にしてください!今度は2号棟と3号棟にポスティングしたそうですね!?」
「今度やったら出て行くという約束を忘れたのか!?」
「いくら被災者だからって、やっていいことと悪い事があるんですよ!」
正に集中砲火だ。顕正会員の場合、『在所追い放たれて』という御金言を曲解しているからな。『退去させられた』という形で退去して、『不思議な御守護で、すぐに新しい新居が見つかり』というベタな流れで行くのだろう。『退去を求めて来た住民達の中には学会員がいた』というオチ付きでね。しかし、だ。
「私、知りません!約束通り、勧暁書も新聞もお配りしてません!」
と、顕正会員は否定している。
「ウソを付きなさい!この封筒の連絡先、池波さんになってるでしょう!」
抗議団の1人、中年男性が勧暁書の入っている封筒を掲げた。
「何かの間違いです!私、何もしてません!」
「この団地で、顕正会の信者は池波さんしかいないんですから、言い逃れできませんよ!」
別の中年女性も言い放った。
何だか、話の流れが微妙だな……。そう思っていると、レンが開け放たれた玄関ドアから部屋に入った。
「由紀奈!」
自分もレンを視線で追うと、奥のダイニングですすり泣く少女の姿があった。レンは彼女を慰めると、部屋から連れ出した。
「博士、由紀奈は取りあえず公園にでも連れて行きます」
と言った。
「ああ。そうしてくれ」
その方がいいだろう。こんな醜い言い争いを子供に見せるわけには行かない。さて、自分はどこで割って入ろうか。タイミングを計っていると、抗議団の別の中年男性がトドメの一言を言い放った。
「とにかく、近いうちにここから出て行ってもらいましょう!どうですか、皆さん!」
拍手が起こる。
「まあ、ちょっと、皆さん……」
自分がやっと割って入ろうとした時だった。
「由紀奈!!」
背後でレンの叫び声がした。自分が振り返るのと、由紀奈という名の少女が飛び降りたのは同時だった。
その直後、レンも飛び降りた。
「レン!」
何秒も経たないうちに、言葉では表現できない大きな音が聞こえた。レンは下のアスファルトに叩きつけられたようだ。体から火花が飛び散っているのが見えた。
「子供達が落ちたぞ!」
「ひゃ、119番だ!は、早く救急車を呼ぶんだ!!」
「急いで!」
抗議団は抗議どころではなくなったようだ。パニックを起こした。
くそっ!何てことだ!まさか、こんな展開になるなんて!
大聖人様の尊き仏法を、邪法に変えることの何と恐ろしい罪深さよ。
大人の勝手な異流儀活動で、未入信の子弟や無関係な知人を巻き添えにするなんて……!
[13:00.市営中吉台団地1号棟4F 平賀太一]
自分が目にした光景は半分想定内で、半分想定外である。
自分には信仰上、大変お世話になった御方が妙観講におられる。あいにくと仏縁からか、結局自分は違うお寺に縁してしまったが、それでも大事な人に他ならない。今日はその方の誕生日であり、自分としては何としてでもお祝いをしたかった。だが、仕事が忙しく、上京は叶わなかった。そこで自分は一計を案じた。自分が今手がけているプロジェクト、ドクター・ウィリーの産物であるバージョン・シリーズを平和利用に転用できないかというものだが、このロボット達の最大の特長とも言える神出鬼没な機動性を利用し、サプライズ・イベントを考えたのだ。GPSで確認したが、自分の用意した5体はちゃんと大事な人が常に出入りしている本部へ着いたようだ。今頃は大騒ぎになっていることだろう。ここまでは想定内、というか計画通り。
想定外というのは、自分の折伏対象である顕正会員が同じ団地住民により、集団抗議を受けてしまっていることだった。団地内で相当な苦情が出ているというのは調査したが、まさか住民達がこのタイミングで動くとは思わなかった。
「池波さん、いい加減にしてください!今度は2号棟と3号棟にポスティングしたそうですね!?」
「今度やったら出て行くという約束を忘れたのか!?」
「いくら被災者だからって、やっていいことと悪い事があるんですよ!」
正に集中砲火だ。顕正会員の場合、『在所追い放たれて』という御金言を曲解しているからな。『退去させられた』という形で退去して、『不思議な御守護で、すぐに新しい新居が見つかり』というベタな流れで行くのだろう。『退去を求めて来た住民達の中には学会員がいた』というオチ付きでね。しかし、だ。
「私、知りません!約束通り、勧暁書も新聞もお配りしてません!」
と、顕正会員は否定している。
「ウソを付きなさい!この封筒の連絡先、池波さんになってるでしょう!」
抗議団の1人、中年男性が勧暁書の入っている封筒を掲げた。
「何かの間違いです!私、何もしてません!」
「この団地で、顕正会の信者は池波さんしかいないんですから、言い逃れできませんよ!」
別の中年女性も言い放った。
何だか、話の流れが微妙だな……。そう思っていると、レンが開け放たれた玄関ドアから部屋に入った。
「由紀奈!」
自分もレンを視線で追うと、奥のダイニングですすり泣く少女の姿があった。レンは彼女を慰めると、部屋から連れ出した。
「博士、由紀奈は取りあえず公園にでも連れて行きます」
と言った。
「ああ。そうしてくれ」
その方がいいだろう。こんな醜い言い争いを子供に見せるわけには行かない。さて、自分はどこで割って入ろうか。タイミングを計っていると、抗議団の別の中年男性がトドメの一言を言い放った。
「とにかく、近いうちにここから出て行ってもらいましょう!どうですか、皆さん!」
拍手が起こる。
「まあ、ちょっと、皆さん……」
自分がやっと割って入ろうとした時だった。
「由紀奈!!」
背後でレンの叫び声がした。自分が振り返るのと、由紀奈という名の少女が飛び降りたのは同時だった。
その直後、レンも飛び降りた。
「レン!」
何秒も経たないうちに、言葉では表現できない大きな音が聞こえた。レンは下のアスファルトに叩きつけられたようだ。体から火花が飛び散っているのが見えた。
「子供達が落ちたぞ!」
「ひゃ、119番だ!は、早く救急車を呼ぶんだ!!」
「急いで!」
抗議団は抗議どころではなくなったようだ。パニックを起こした。
くそっ!何てことだ!まさか、こんな展開になるなんて!
大聖人様の尊き仏法を、邪法に変えることの何と恐ろしい罪深さよ。
大人の勝手な異流儀活動で、未入信の子弟や無関係な知人を巻き添えにするなんて……!
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