[7月24日13時30分 天候:雨 秋田県北秋田郡鬼里村 太平山家・本家]
昼食が終わると、私達は洋室に移された。
昼食会場は畳敷きの和室だったが、一転して向かい合わせのソファのある洋室だ。
そこのソファに座って待つように言われる。
しばらくすると、焦げ茶色のスーツに身を包んだ老紳士が現れた。
夏だというのに、上着を着てネクタイまで着用している。
老紳士「初めまして。私がこの村の村議会議長を務めております、上野喜太郎と申します」
リサ「キタロー!?ゲゲゲの鬼太郎!?」
愛原「こら!失礼だぞ!……申し訳ありません!」
上野喜太郎「なぁに。元気があって良いではありませんか。どうぞ、座ってください」
喜太郎氏は御年70代。
髪は白髪だらけだが、そんなに薄くはなく、七三分けにしている。
それでも、額の上に小さく2本角が生えているのが分かった。
喜太郎氏は同じ色の山高帽(夏用にメッシュになっているタイプ)を被って来たようだが、それで隠せる程度の長さだ。
愛原「御足労頂いて、申し訳ありません。私、東京で探偵事務所を経営しております愛原学と申します」
私は名刺を差し出して挨拶した。
喜太郎「探偵さんでしたか。して、この村最強の『夜叉姫』を倒してまで、何をお調べですかな?」
愛原「今から20年以上前、この村が流行り病に見舞われた事があったと伺いました。そしてその治療に当たったのが、日本アンブレラの白井伝三郎率いる医療チームだったと」
喜太郎「その通りです」
愛原「白井伝三郎は、村民の治療を行う代わりに『鬼の血』の提供を求めたと聞きます。それが、今の『夜叉姫』である太平山雪さんだと」
喜太郎「この村に定住している村民の殆どは、鬼の血を引いています。一口に『鬼の血』が欲しいと言われても、どこの誰の血が欲しいのか分からなかったのです。白井先生にそれを聞いたところ、『なるべく力の強い鬼の血が欲しい』と言われました」
愛原「それには、何か意味があったのでしょうか?」
喜太郎「先生の所属する製薬会社の新薬開発に必要な事だとは仰っていましたが、それ以降は研究開発の機密だから明かせないとの事でした」
もっともらしいことを白井は言って誤魔化したか。
愛原「それで、『夜叉姫』となる雪さんの血を提供したと?」
喜太郎「そんなところです。今から思えば薄気味の悪い要求でしたが、村民に病死者が出ていた以上、なりふり構っていられなかったというのもまた事実です。結局、その血は何の薬に使われたのでしょう?」
愛原「人間を鬼にする薬、とでも言いましょうか」
喜太郎「エッ!?」
愛原「ここに人間が鬼になった、あなた達の言葉で言うところの『転化組』がいます。彼女はその『鬼の血』を混ぜて作られた特殊なウィルスを投与され、鬼型の生物兵器となりました」
喜太郎「ま、まさか、そんなことが……」
愛原「これは創作の話ですが、人間が鬼の血を体内に入れてしまうと、自分も鬼になってしまう事はよくある話です。実際、そうだったのではありませんか?」
喜太郎「白井先生に『鬼の血』を提供すると決めたのは、先代の村長と議長です。その時は私も若く、とても意見を言える立場にはありませんでした」
責任逃れをしているが、否定してこない。
やはり、『鬼の血』を人間が飲んだりしたら、『転化』してしまうのだ。
愛原「実は私も『鬼の血』を体内に入れられてしまっています」
喜太郎「で、では、あなたも『転化組』?」
愛原「厳密には、まだ人間です。体内に入れられたのは、『鬼の血』だけではないので。但し、白井の行動1つで、私が私でなくなります」
喜太郎「白井先生の行方は、私も知らない……」
愛原「ええ。私が聞きたいのは、そこではありません。白井はどうして、この村に目を付けたのでしょう?雪さんは偶然のような話しぶりでしたが、偶然にしては話が出来過ぎている。……ここにいる愛原リサは、この村を出て東京で医者となった上野氏の娘です」
喜太郎「は?……し、しかし、私にも娘はいるが、随分若いですな?」
愛原「白井に、そういう実験をさせられたのです。あなたと上野医師との関係は何ですか?」
喜太郎「兄弟です。東京で医者になったのは、私の弟です」
リサ「すると、伯父さん?!」
喜太郎「うーむ……。よく見ると、確かに兄さんの面影がある感じだ……」
愛原「上野医師は東京で働いていた病院において、重大な医療ミスを犯し、医療界を追われたところをアンブレラに拾われたという経緯があります。なるほど。これで繫がりました。やはり、白井は上野医師からこの村の事を聞いていたのかもしれませんね。そして、流行り病に悩んでいた所、渡りに船とばかり、この村に乗り込んだのでしょう。もしかすると、流行り病も白井達の策略だったのかも……」
喜太郎「な、何ですって!?」
愛原「何しろ、事故とはいえ、ゾンビウィルスばら撒いて町1つ壊滅させるような組織ですから。アンブレラという所は」
私が聞きたいのは、もう1つ。
愛原「人間の体内に入った『鬼の血』を排除させる方法は無いですか?この村は、かなり鬼が棲む村として歴史が深いのでしょう?そういった事は過去に、1度や2度ではなかったはずです。中には、『転化』した者を人間に戻した例もあるんじゃないでしょうか?」
喜太郎「……ありますよ。よく……分かりましたね」
愛原「やはり!それを教えてもらえませんか?」
喜太郎「……『鬼の血』を排除したいのは、どちらで?」
愛原「できれば両方」
喜太郎「……残念ながら、あなたはできても、御嬢さんは無理です」
愛原「えっ、どうして分かるんです?!」
喜太郎氏はリサの角を指さした。
喜太郎「私も村の歴史はよく調べている方なんですが、未だかつて2本角の『転化組』が人間に戻ったという例はありません。逆に、『鬼の血』が入り、転化して間もない者が人間に戻れたという例はいくつかあります。だから愛原さん、あなたは見込みがあるが、お嬢さんは無理です」
リサ「無理なんだ……」
リサはガックリと肩を落とした。
喜太郎「お嬢さんは、かなり強い。うちの最強の『夜叉姫』を倒すくらいに。転化組としては、かなり成功している部類とお見受けする。なのに、どうして今さら人間に戻りたいと願いますか?」
リサ「わたしは、先生と結婚します。先生は人間で、私が鬼だと結婚できない」
喜太郎「そう悲観する必要も無いと思いますがねぇ……」
愛原「議長はリサの体内に入っているのが『鬼の血』だけではないのを御存知無いですから、無理も無いですが、実際はリサはただの『転化組』ではないのですよ」
喜太郎「ならば、逆に見込みがあるかもしれませんな」
愛原「えっ?」
喜太郎「良かったら、あなた達の近況、もう少し詳しくお話ししてはくれませんか?」
愛原「何とかなるかもしれません」
私は議長に白井の事を話した。
白井が今は元の肉体を捨て、別の人間を復活させてその体内にいること。
その体が死んだら、次は私の体が乗っ取られること。
何としても、それを阻止したいが為に今は動いているのだと。
昼食が終わると、私達は洋室に移された。
昼食会場は畳敷きの和室だったが、一転して向かい合わせのソファのある洋室だ。
そこのソファに座って待つように言われる。
しばらくすると、焦げ茶色のスーツに身を包んだ老紳士が現れた。
夏だというのに、上着を着てネクタイまで着用している。
老紳士「初めまして。私がこの村の村議会議長を務めております、上野喜太郎と申します」
リサ「キタロー!?ゲゲゲの鬼太郎!?」
愛原「こら!失礼だぞ!……申し訳ありません!」
上野喜太郎「なぁに。元気があって良いではありませんか。どうぞ、座ってください」
喜太郎氏は御年70代。
髪は白髪だらけだが、そんなに薄くはなく、七三分けにしている。
それでも、額の上に小さく2本角が生えているのが分かった。
喜太郎氏は同じ色の山高帽(夏用にメッシュになっているタイプ)を被って来たようだが、それで隠せる程度の長さだ。
愛原「御足労頂いて、申し訳ありません。私、東京で探偵事務所を経営しております愛原学と申します」
私は名刺を差し出して挨拶した。
喜太郎「探偵さんでしたか。して、この村最強の『夜叉姫』を倒してまで、何をお調べですかな?」
愛原「今から20年以上前、この村が流行り病に見舞われた事があったと伺いました。そしてその治療に当たったのが、日本アンブレラの白井伝三郎率いる医療チームだったと」
喜太郎「その通りです」
愛原「白井伝三郎は、村民の治療を行う代わりに『鬼の血』の提供を求めたと聞きます。それが、今の『夜叉姫』である太平山雪さんだと」
喜太郎「この村に定住している村民の殆どは、鬼の血を引いています。一口に『鬼の血』が欲しいと言われても、どこの誰の血が欲しいのか分からなかったのです。白井先生にそれを聞いたところ、『なるべく力の強い鬼の血が欲しい』と言われました」
愛原「それには、何か意味があったのでしょうか?」
喜太郎「先生の所属する製薬会社の新薬開発に必要な事だとは仰っていましたが、それ以降は研究開発の機密だから明かせないとの事でした」
もっともらしいことを白井は言って誤魔化したか。
愛原「それで、『夜叉姫』となる雪さんの血を提供したと?」
喜太郎「そんなところです。今から思えば薄気味の悪い要求でしたが、村民に病死者が出ていた以上、なりふり構っていられなかったというのもまた事実です。結局、その血は何の薬に使われたのでしょう?」
愛原「人間を鬼にする薬、とでも言いましょうか」
喜太郎「エッ!?」
愛原「ここに人間が鬼になった、あなた達の言葉で言うところの『転化組』がいます。彼女はその『鬼の血』を混ぜて作られた特殊なウィルスを投与され、鬼型の生物兵器となりました」
喜太郎「ま、まさか、そんなことが……」
愛原「これは創作の話ですが、人間が鬼の血を体内に入れてしまうと、自分も鬼になってしまう事はよくある話です。実際、そうだったのではありませんか?」
喜太郎「白井先生に『鬼の血』を提供すると決めたのは、先代の村長と議長です。その時は私も若く、とても意見を言える立場にはありませんでした」
責任逃れをしているが、否定してこない。
やはり、『鬼の血』を人間が飲んだりしたら、『転化』してしまうのだ。
愛原「実は私も『鬼の血』を体内に入れられてしまっています」
喜太郎「で、では、あなたも『転化組』?」
愛原「厳密には、まだ人間です。体内に入れられたのは、『鬼の血』だけではないので。但し、白井の行動1つで、私が私でなくなります」
喜太郎「白井先生の行方は、私も知らない……」
愛原「ええ。私が聞きたいのは、そこではありません。白井はどうして、この村に目を付けたのでしょう?雪さんは偶然のような話しぶりでしたが、偶然にしては話が出来過ぎている。……ここにいる愛原リサは、この村を出て東京で医者となった上野氏の娘です」
喜太郎「は?……し、しかし、私にも娘はいるが、随分若いですな?」
愛原「白井に、そういう実験をさせられたのです。あなたと上野医師との関係は何ですか?」
喜太郎「兄弟です。東京で医者になったのは、私の弟です」
リサ「すると、伯父さん?!」
喜太郎「うーむ……。よく見ると、確かに兄さんの面影がある感じだ……」
愛原「上野医師は東京で働いていた病院において、重大な医療ミスを犯し、医療界を追われたところをアンブレラに拾われたという経緯があります。なるほど。これで繫がりました。やはり、白井は上野医師からこの村の事を聞いていたのかもしれませんね。そして、流行り病に悩んでいた所、渡りに船とばかり、この村に乗り込んだのでしょう。もしかすると、流行り病も白井達の策略だったのかも……」
喜太郎「な、何ですって!?」
愛原「何しろ、事故とはいえ、ゾンビウィルスばら撒いて町1つ壊滅させるような組織ですから。アンブレラという所は」
私が聞きたいのは、もう1つ。
愛原「人間の体内に入った『鬼の血』を排除させる方法は無いですか?この村は、かなり鬼が棲む村として歴史が深いのでしょう?そういった事は過去に、1度や2度ではなかったはずです。中には、『転化』した者を人間に戻した例もあるんじゃないでしょうか?」
喜太郎「……ありますよ。よく……分かりましたね」
愛原「やはり!それを教えてもらえませんか?」
喜太郎「……『鬼の血』を排除したいのは、どちらで?」
愛原「できれば両方」
喜太郎「……残念ながら、あなたはできても、御嬢さんは無理です」
愛原「えっ、どうして分かるんです?!」
喜太郎氏はリサの角を指さした。
喜太郎「私も村の歴史はよく調べている方なんですが、未だかつて2本角の『転化組』が人間に戻ったという例はありません。逆に、『鬼の血』が入り、転化して間もない者が人間に戻れたという例はいくつかあります。だから愛原さん、あなたは見込みがあるが、お嬢さんは無理です」
リサ「無理なんだ……」
リサはガックリと肩を落とした。
喜太郎「お嬢さんは、かなり強い。うちの最強の『夜叉姫』を倒すくらいに。転化組としては、かなり成功している部類とお見受けする。なのに、どうして今さら人間に戻りたいと願いますか?」
リサ「わたしは、先生と結婚します。先生は人間で、私が鬼だと結婚できない」
喜太郎「そう悲観する必要も無いと思いますがねぇ……」
愛原「議長はリサの体内に入っているのが『鬼の血』だけではないのを御存知無いですから、無理も無いですが、実際はリサはただの『転化組』ではないのですよ」
喜太郎「ならば、逆に見込みがあるかもしれませんな」
愛原「えっ?」
喜太郎「良かったら、あなた達の近況、もう少し詳しくお話ししてはくれませんか?」
愛原「何とかなるかもしれません」
私は議長に白井の事を話した。
白井が今は元の肉体を捨て、別の人間を復活させてその体内にいること。
その体が死んだら、次は私の体が乗っ取られること。
何としても、それを阻止したいが為に今は動いているのだと。
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