[同日20:20.仙台空港アクセス鉄道線(SAT) 仙台空港駅〜美田園(みたぞの)駅間 敷島孝夫&エミリー]
「後ろの車両に避難してください!」
SATは基本的に、何両編成でもワンマン運転である。
よって避難誘導は、運転士1人に任されることになる。
あいにくと敷島達が乗っていたのは、2両編成を2台つないだ4両編成。
つまり、単純計算でいつもの2倍の乗客がいるということだ。
「お客様も後ろの車両に!」
運転士が敷島に避難を促したが、
「いや、私はあのガイノイド(女性型アンドロイド)の管理者ですので。他の乗客を避難させてください」
と、敷島は断った。
(それにしても、ありゃ何なんだ?ウィリーとは別の狂ったヤツが現れたってことか?いや、しかし……)
現れたロボットは3体。大きさはバージョン・シリーズとほぼ同じ。
2足歩行で、それまではガンダムのザクに似た形状だったが、今度は……。
(……ドム……かな?)
エミリーの戦法は、まず相手1機を集中攻撃して倒す。
基本的にバージョン・シリーズは単体で現れることはなく、複数でフォーメーションを取るため、1機でも倒されるとそれが崩れて、戦闘力が落ちるということを知っているからだ。
だが、今回は……確かに最初の1機は倒せた。しかし、残りの2機は最初から個人プレーをするのが定番かのように、エミリーを的確に捉え、手堅い攻撃を加えている。
(分が悪い)
敷島はそう思った。一対一ならいいのだろうが……。
「何とか1機減らさないと……」
敷島は辺りを見回した。
「うん?」
その時、荷物置き場にゴルフバッグが置かれているのが見えた。
「ちょっと失礼!」
敷島はゴルフバッグから、クラブを1本取り出した。
それと、他の荷物からゴムバンドを拝借してヘッドの先に取り付けた。
もう片方には、運転室内にあった工具箱の中からバールを取り付ける。
「よーし!」
運転席横の貫通扉を開けた。
「食らえ!!」
敷島はクラブを投げた。ロボットのいる方向へは投げたが、直接は投げない。
クラブが架線に触れた。そして、もう片方のバールがロボットのボディに当たった。
「やった!……けど、すげっ!!」
交流2万ボルトの短絡を受けたロボットは、爆発といっても良いほどのダメージを受けた。
「エミリー、残りは1機だ!」
「イエス!」
そのエミリーも、左手をだらりと下げていた。彼女もまた、左手が使い物にならないくらいのダメージを受けていた。
[1月10日 10:00.財団仙台事務所 敷島孝夫&平賀太一]
「……というわけで、何とか倒しましたよ」
「架線の電流を使うなんてアイディア、メチャクチャですよ……」
平賀は敷島の戦法に呆れた。
「エミリーの修理、終わるんですよね?」
「ええ。今、理事達からの最終チェックを受けています」
「新幹線用の交流25000ボルトだと、さすがにエミリーまでブッ壊す恐れがあったので」
「いや、多分仙石線や地下鉄の直流1500ボルトでも危険だったかと」
交流2万ボルトより、直流1500ボルトの方が強い。ヒントは電気機関車をご覧あれ(by西村京太郎先生)。
「それより敷島さん、大変ですよ」
「電車の運行を止めたのは例のロボットをけしかけたヤツなんだから、賠償請求はそこにしてくださいよ」
しかし、停電させたのは敷島である。
「いえ、そうじゃなくて……。そのロボットなんですけどね、どうやらバージョン・シリーズのようなんです」
「はあ!?あんなの見たこと無いですよ?エミリーの左手を壊すなんて、ザコロボットにできるはずが……」
「どうやら、それまでの……4.0までは既存のシリーズをマイナーチェンジしただけでしたが、今度はフルモデルチェンジした、バージョン5.0とも言うべきヤツのようです」
「ええっ!?えっ、だって、ウィリーはもう死んだはず……」
「信じたくないですが、この世のどこかに、ウィリーの遺志を継いで活動を始めたヤツがいるのは本当のようですね」
「ええっ?でも、あのロボット……5.0は……」
「ですから相手は、ウィリーに匹敵する科学者だということです」
「でも、そんなのがいたら、とっくに財団で把握してるはずじゃ……?」
「だから、俄かには信じ難い話なんですよ。学会にもいないなんて……」
「ウィリーにも、平賀先生みたいな弟子がいた……?」
「だったらそれはそれで、財団の網に掛かってるはずでしょう?」
「そ、そうか……。5.0の……メモリーの解析状況は?」
「それが、メモリー媒体を発見できなかったんです」
「えっ?」
「今までは頭部に装着されていましたが、無かったんです。無論、ボディを回収して調査しましたが、どこにも媒体らしきものは見当たりませんでした」
「んん?」
「それと敷島さん、どうやら今度の相手は敷島さんが目的のようです」
「は?何で?」
「それは分かりません。しかし、今までバージョン・シリーズがやってきた所に共通していたのは、敷島さんだけなんですよ」
「えっ?」
「思い出してみてください」
「あっ……」
北陸道に現れた4.0、十条家に現れた3.0、アクセス鉄道に現れた5.0……。
「ただの偶然でしょう?」
敷島は否定した。
「奴らは何の目的も無く現れません。明確な命令を受けて動くんです。そこに敷島さんがいたのは、偶然とは思えないんですよ」
「そ、そんな……」
「敷島さん、科学者に個人的な知り合いは?」
「財団の平賀先生ご夫妻と十条理事……あとはやっぱり財団関係者しか知りませんよ」
「ウィリーの関係者との接点は?」
「あるわけないでしょ!……シンディはもう処分されたし」
敷島の一言に、平賀が反応した。
「……!いや、まさかな……」
「何がです?」
「マルチタイプは、バージョン・シリーズを使役することができます」
「それが何か?」
「実はマルチタイプが全部で何体製造され、何体残っているかの正確な数字は出ていないんですよ」
「ええっ!?」
「南里先生は、エミリーの他にも何体か製造したと仰ってました」
「で、生き残ってるのはエミリーだけでしょう?」
「ウィリーもまた何体か製造してるんですが、生き残ったのがシンディだけだという保証はどこにも無いんですよ」
「ええっ!?……でもそれにしたって、誰かがその生き残ったマルチタイプを所有して、整備して稼働させないとダメでしょう」
「まあ、それはそうですけど……。でも、それが科学者でなくてもいいわけですから。どこかのテロ組織の手に渡っていたとしたら、大変だ」
「でも、それだと、じゃあ5.0を作ったのは誰かってことになりますよ?」
敷島のツッコミに、平賀は答えを失った。
「科学者か……。でも、誰だ?」
「ウィリーの身辺を洗い直してみる必要がありますね」
敷島は、帰りの飛行機の中で見た夢の内容を思い出していた。
「ヒントは、ゼルダ・フォレストです」
「聞いたことないなぁ……」
平賀は首を傾げた。
「後ろの車両に避難してください!」
SATは基本的に、何両編成でもワンマン運転である。
よって避難誘導は、運転士1人に任されることになる。
あいにくと敷島達が乗っていたのは、2両編成を2台つないだ4両編成。
つまり、単純計算でいつもの2倍の乗客がいるということだ。
「お客様も後ろの車両に!」
運転士が敷島に避難を促したが、
「いや、私はあのガイノイド(女性型アンドロイド)の管理者ですので。他の乗客を避難させてください」
と、敷島は断った。
(それにしても、ありゃ何なんだ?ウィリーとは別の狂ったヤツが現れたってことか?いや、しかし……)
現れたロボットは3体。大きさはバージョン・シリーズとほぼ同じ。
2足歩行で、それまではガンダムのザクに似た形状だったが、今度は……。
(……ドム……かな?)
エミリーの戦法は、まず相手1機を集中攻撃して倒す。
基本的にバージョン・シリーズは単体で現れることはなく、複数でフォーメーションを取るため、1機でも倒されるとそれが崩れて、戦闘力が落ちるということを知っているからだ。
だが、今回は……確かに最初の1機は倒せた。しかし、残りの2機は最初から個人プレーをするのが定番かのように、エミリーを的確に捉え、手堅い攻撃を加えている。
(分が悪い)
敷島はそう思った。一対一ならいいのだろうが……。
「何とか1機減らさないと……」
敷島は辺りを見回した。
「うん?」
その時、荷物置き場にゴルフバッグが置かれているのが見えた。
「ちょっと失礼!」
敷島はゴルフバッグから、クラブを1本取り出した。
それと、他の荷物からゴムバンドを拝借してヘッドの先に取り付けた。
もう片方には、運転室内にあった工具箱の中からバールを取り付ける。
「よーし!」
運転席横の貫通扉を開けた。
「食らえ!!」
敷島はクラブを投げた。ロボットのいる方向へは投げたが、直接は投げない。
クラブが架線に触れた。そして、もう片方のバールがロボットのボディに当たった。
「やった!……けど、すげっ!!」
交流2万ボルトの短絡を受けたロボットは、爆発といっても良いほどのダメージを受けた。
「エミリー、残りは1機だ!」
「イエス!」
そのエミリーも、左手をだらりと下げていた。彼女もまた、左手が使い物にならないくらいのダメージを受けていた。
[1月10日 10:00.財団仙台事務所 敷島孝夫&平賀太一]
「……というわけで、何とか倒しましたよ」
「架線の電流を使うなんてアイディア、メチャクチャですよ……」
平賀は敷島の戦法に呆れた。
「エミリーの修理、終わるんですよね?」
「ええ。今、理事達からの最終チェックを受けています」
「新幹線用の交流25000ボルトだと、さすがにエミリーまでブッ壊す恐れがあったので」
「いや、多分仙石線や地下鉄の直流1500ボルトでも危険だったかと」
交流2万ボルトより、直流1500ボルトの方が強い。ヒントは電気機関車をご覧あれ(by西村京太郎先生)。
「それより敷島さん、大変ですよ」
「電車の運行を止めたのは例のロボットをけしかけたヤツなんだから、賠償請求はそこにしてくださいよ」
しかし、停電させたのは敷島である。
「いえ、そうじゃなくて……。そのロボットなんですけどね、どうやらバージョン・シリーズのようなんです」
「はあ!?あんなの見たこと無いですよ?エミリーの左手を壊すなんて、ザコロボットにできるはずが……」
「どうやら、それまでの……4.0までは既存のシリーズをマイナーチェンジしただけでしたが、今度はフルモデルチェンジした、バージョン5.0とも言うべきヤツのようです」
「ええっ!?えっ、だって、ウィリーはもう死んだはず……」
「信じたくないですが、この世のどこかに、ウィリーの遺志を継いで活動を始めたヤツがいるのは本当のようですね」
「ええっ?でも、あのロボット……5.0は……」
「ですから相手は、ウィリーに匹敵する科学者だということです」
「でも、そんなのがいたら、とっくに財団で把握してるはずじゃ……?」
「だから、俄かには信じ難い話なんですよ。学会にもいないなんて……」
「ウィリーにも、平賀先生みたいな弟子がいた……?」
「だったらそれはそれで、財団の網に掛かってるはずでしょう?」
「そ、そうか……。5.0の……メモリーの解析状況は?」
「それが、メモリー媒体を発見できなかったんです」
「えっ?」
「今までは頭部に装着されていましたが、無かったんです。無論、ボディを回収して調査しましたが、どこにも媒体らしきものは見当たりませんでした」
「んん?」
「それと敷島さん、どうやら今度の相手は敷島さんが目的のようです」
「は?何で?」
「それは分かりません。しかし、今までバージョン・シリーズがやってきた所に共通していたのは、敷島さんだけなんですよ」
「えっ?」
「思い出してみてください」
「あっ……」
北陸道に現れた4.0、十条家に現れた3.0、アクセス鉄道に現れた5.0……。
「ただの偶然でしょう?」
敷島は否定した。
「奴らは何の目的も無く現れません。明確な命令を受けて動くんです。そこに敷島さんがいたのは、偶然とは思えないんですよ」
「そ、そんな……」
「敷島さん、科学者に個人的な知り合いは?」
「財団の平賀先生ご夫妻と十条理事……あとはやっぱり財団関係者しか知りませんよ」
「ウィリーの関係者との接点は?」
「あるわけないでしょ!……シンディはもう処分されたし」
敷島の一言に、平賀が反応した。
「……!いや、まさかな……」
「何がです?」
「マルチタイプは、バージョン・シリーズを使役することができます」
「それが何か?」
「実はマルチタイプが全部で何体製造され、何体残っているかの正確な数字は出ていないんですよ」
「ええっ!?」
「南里先生は、エミリーの他にも何体か製造したと仰ってました」
「で、生き残ってるのはエミリーだけでしょう?」
「ウィリーもまた何体か製造してるんですが、生き残ったのがシンディだけだという保証はどこにも無いんですよ」
「ええっ!?……でもそれにしたって、誰かがその生き残ったマルチタイプを所有して、整備して稼働させないとダメでしょう」
「まあ、それはそうですけど……。でも、それが科学者でなくてもいいわけですから。どこかのテロ組織の手に渡っていたとしたら、大変だ」
「でも、それだと、じゃあ5.0を作ったのは誰かってことになりますよ?」
敷島のツッコミに、平賀は答えを失った。
「科学者か……。でも、誰だ?」
「ウィリーの身辺を洗い直してみる必要がありますね」
敷島は、帰りの飛行機の中で見た夢の内容を思い出していた。
「ヒントは、ゼルダ・フォレストです」
「聞いたことないなぁ……」
平賀は首を傾げた。
何作も掛け持ちしているプロ作家は本当に凄いと思うが、富樫病には掛かりたくないw
かくいう私もその1人。
視力は落ちたし、神経痛もするようになった。
救いなのは、まだ髪は黒く、一定の量を維持できていることだ。
同級生の一部に、髪に問題が出始めたヤツがいると思うと、明日は我が身のような気がしてならないのである。