“新人魔王の奮闘記”より。取りあえず、続く。
[3日後の15:00.闇の森“中央の村” 安倍春明]
参った。私達に村の娘に対する毒薬投与の疑いを掛けられてから、この村に監禁されてしまった。
彼らは拷問したりすることはない。何百年も生きる彼らは、根競べに強い。私達が自白するのをただジッと待っているようだ。
私達は村の外れにある空き家に全員集められ、そこに監禁されている。外にはサイラスを含む見張りが5人も付いている。
ただ、サイラスはまだどこか私を信じてくれているところがあるらしく、私だけ事情聴取と称して一定の時間だけ外に出ることを許された。
「アベさん。恩人のあなたを害するのは心苦しい。あの一団の中の誰かが犯人なのは間違いない。何とかその犯人を差し出してくれ。オレ達はそれ以外の皆さんを処罰する気は無いんだ」
サイラスは口を結んだ表情で言った。
「しかし俺達は毒薬なんて持ってないし、それ以外の薬を持っている奴らだって、村の誰にも薬を渡していないんだ」
「薬じゃないかもしれないな」
「俺達が持ってきた土産物の中に?」
「いや、それはあの娘は手にすらしていないから、アベさん達の土産物でもない」
しかもサイラスに見立ててもらったのだから、間違いが起ころうはずがない。
「じゃあ、一体何なんだ?」
私は頭を抱えてしまった。
「このままだと、ルーシー女王は捜索隊を出すだろう。全幅の信頼を寄せているアベさんが行方不明になったとあっては、あの女王陛下のことだ。この森を焼き払ってでも捜し出そうとするだろう」
「……するだろうな。いや、やりかねない!」
「そうなると、オレもアベさんの敵にならざるを得なくなる」
「何とかしてくれよ」
「だから、早いとこ犯人を捜し出さなくては……」
「そ、そうだ。その娘さんの具合はどうだ?」
「まだ目を覚ましていない」
「くそっ!せめて医者でもいればなぁ……。ちょっと、会わせてもらえないか?」
「会ってどうする?まだ昏睡状態だぞ?」
「ダメだと思うけど、ご両親に陳謝してくる。許してくれないと思うけど、誠意だけは見せておきたい」
「……まあ、いいだろう」
[16:00.闇の森“中央の村” 安倍春明]
意外とすんなり私は昏睡した娘……名前をシルカといった。そのコに会うことが許された。見ただけでは、普通に眠っているだけのように見える。
シルカの母親も民主党人民軍に拉致されていた女性の1人だ。私は見たことは無かったが……。だからなのだろう。ただ押し黙って、彼女は私を見据えているだけだった。
「サイラス。このコの写真を撮ってもいいかどうか、両親に聞いてくれないか?」
「写真?」
私はスマートフォンを取り出した。無論こんな所で、通話もメールもwi-fiもできるはずがない。私の目的は、写真撮影である。
「撮ってもいいそうだが、どうするつもりだ?」
「このコに見覚えのある奴を炙り出すさ。要はそいつが犯人だろ?」
「なるほど」
私は可愛い寝顔を見せるシルカの写真を撮った。
[16:30.闇の森“中央の村” 横田高明]
先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。しかし、大変なことになってしまいました。今なら、南米で極左ゲリラに取り囲まれた日本人駐在員の気持ちが痛いほどに分かります。
しかし、ここの種族は意外と大らかなのですね。実は正直、私はむしろ沢で会った女の子に対する行為が糾弾されるのかと思っておりました。
どうやら、違うようです。誰かが別の女の子に、毒薬を飲ませたというのです。嗚呼、何という悪の所業。いかに可愛い女の子が好きな私でも、そんなフランス書院ナポレオン文庫の作品のようなマネは絶対に致しません。ええ、正に卑劣な行為ですね。
「戻ったぞー」
おっ、どうやら総理がお戻りになられたようです。
「お帰りなさい。今、コーヒー入れてるところですから」
何とまあ、暢気なメンバーです。我が党でも1番のコーヒー・フリークス、共和党参事のセバスチャンです。
侍従長の座をピエールに取られ、副侍従長の座も私に取られて、さぞかし哀れなことですが、本人はあまり気にしていないようです。彼は元民主党の党員で、ハト派にいた者です。全く。ハト派は、こんな暢気者しかいないのでしょうか。
「それどころじゃないよ」
当然、総理は不機嫌であります。全く。ちゃんと空気は読まないとダメですね~。
「皆、このコに見覚えはあるか?」
総理はスマホに写した可愛い女の子の画像を見せました。おおっ!これは先日、沢でお会いしたあのコではありませんか!
「はい!」
私は早速手を挙げました。
すると何故か総理は私を疑惑の目で見たのです。何故かサイラスも、弓矢を構えたではありませんか!
「……横田。このコに何を渡した?」
「えーと……。あっ、確かハッカ飴です!お近づきの印に、ですね」
「正直に言え!」
「いえ、ハッカ飴に間違いありません!」
とんだ冤罪です!ハッカ飴のどこが毒薬だというのでありましょうか!?
「アベさん、こいつを引き渡してくれ!そしたら、オレからレニフィールに頼んでアベさん達を解放してやる!」
「うーむ……」
「ちょっwww 総理!?そんなご無体な!」
「いいのか?責任者の俺が責任取らなくて?」
「アベさんがオレ達にしてくれたことの方が大きいからな。レニフィールだって被害者だったんだから」
「そうだったのか……」
「というわけだ、横田!皆のために犠牲になってくれ!」
そんな総理!そして、共和党のみんな!いくら国益の為には人間1人の犠牲も当然とはいえ、それが私だとは……っ!
「ハッカ飴のどこが毒薬だというんですか!?私の分析では、鼻がスースーとするだけですよ。却って、目が覚めますよ!」
私はそう言って、持参のハッカ飴を口に放り込みました。
「どうです?全然毒なんて入ってないでしょ!?」
しかし、サイラスは眉を潜めたままです。
「お前が渡したのが別の薬物の可能性がある」
「無いですって!総理、助けてください!」
「うーむ……」
総理は難しい顔をしながら、ハッカ飴を口に入れました。
「うん。確かに、普通のハッカ飴だが……。お前が持ってきたの、これだけか?」
「そうですよ!あのコに渡したのもこれです!」
「包み紙はあるかな?」
「いや、無かったな」
サイラスは首を横に振りました。
「サイラス、食べてみなよ」
「あまり、人間の食べ物は口にしたくないのですが……」
「しかしサイラス、このコーヒーは飲んでたじゃないか」
セバスチャンがにこやかに笑って、コーヒーを入れています。全く。どこまでも暢気ですね。
「まあ、コーヒーはな。とにかく、犯人が分かった以上、引き渡してもらおう。恐らく、人間には普通の嗜好品でも、我々には毒なのだろう」
「そういうことってあるんですか!?そんなデタラメ……!」
「あるさ。例えば我々にとってはただの野菜の1つであるネギ類が、犬や猫には毒草そのものであるのは有名だろう?」
「いや、しかし……!」
「このコーヒーだって、蜘蛛に飲ませると、酔っ払ってデタラメな巣を作る。コーヒーで酔うなんて信じられないが、本当の話だ」
理不尽です!こんなことで傷害だか殺人未遂が成立するなんて!断固、最高裁まで戦いますよ!ええ!こっちには敏腕人権派弁護士が……あれ!?
「アベさん、ご協力ありがとう。犯人は連行したので、すぐにレニフィールに言って解放してもらうようにする」
「あ、ああ……」
[3日後の15:00.闇の森“中央の村” 安倍春明]
参った。私達に村の娘に対する毒薬投与の疑いを掛けられてから、この村に監禁されてしまった。
彼らは拷問したりすることはない。何百年も生きる彼らは、根競べに強い。私達が自白するのをただジッと待っているようだ。
私達は村の外れにある空き家に全員集められ、そこに監禁されている。外にはサイラスを含む見張りが5人も付いている。
ただ、サイラスはまだどこか私を信じてくれているところがあるらしく、私だけ事情聴取と称して一定の時間だけ外に出ることを許された。
「アベさん。恩人のあなたを害するのは心苦しい。あの一団の中の誰かが犯人なのは間違いない。何とかその犯人を差し出してくれ。オレ達はそれ以外の皆さんを処罰する気は無いんだ」
サイラスは口を結んだ表情で言った。
「しかし俺達は毒薬なんて持ってないし、それ以外の薬を持っている奴らだって、村の誰にも薬を渡していないんだ」
「薬じゃないかもしれないな」
「俺達が持ってきた土産物の中に?」
「いや、それはあの娘は手にすらしていないから、アベさん達の土産物でもない」
しかもサイラスに見立ててもらったのだから、間違いが起ころうはずがない。
「じゃあ、一体何なんだ?」
私は頭を抱えてしまった。
「このままだと、ルーシー女王は捜索隊を出すだろう。全幅の信頼を寄せているアベさんが行方不明になったとあっては、あの女王陛下のことだ。この森を焼き払ってでも捜し出そうとするだろう」
「……するだろうな。いや、やりかねない!」
「そうなると、オレもアベさんの敵にならざるを得なくなる」
「何とかしてくれよ」
「だから、早いとこ犯人を捜し出さなくては……」
「そ、そうだ。その娘さんの具合はどうだ?」
「まだ目を覚ましていない」
「くそっ!せめて医者でもいればなぁ……。ちょっと、会わせてもらえないか?」
「会ってどうする?まだ昏睡状態だぞ?」
「ダメだと思うけど、ご両親に陳謝してくる。許してくれないと思うけど、誠意だけは見せておきたい」
「……まあ、いいだろう」
[16:00.闇の森“中央の村” 安倍春明]
意外とすんなり私は昏睡した娘……名前をシルカといった。そのコに会うことが許された。見ただけでは、普通に眠っているだけのように見える。
シルカの母親も民主党人民軍に拉致されていた女性の1人だ。私は見たことは無かったが……。だからなのだろう。ただ押し黙って、彼女は私を見据えているだけだった。
「サイラス。このコの写真を撮ってもいいかどうか、両親に聞いてくれないか?」
「写真?」
私はスマートフォンを取り出した。無論こんな所で、通話もメールもwi-fiもできるはずがない。私の目的は、写真撮影である。
「撮ってもいいそうだが、どうするつもりだ?」
「このコに見覚えのある奴を炙り出すさ。要はそいつが犯人だろ?」
「なるほど」
私は可愛い寝顔を見せるシルカの写真を撮った。
[16:30.闇の森“中央の村” 横田高明]
先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。しかし、大変なことになってしまいました。今なら、南米で極左ゲリラに取り囲まれた日本人駐在員の気持ちが痛いほどに分かります。
しかし、ここの種族は意外と大らかなのですね。実は正直、私はむしろ沢で会った女の子に対する行為が糾弾されるのかと思っておりました。
どうやら、違うようです。誰かが別の女の子に、毒薬を飲ませたというのです。嗚呼、何という悪の所業。いかに可愛い女の子が好きな私でも、そんなフランス書院ナポレオン文庫の作品のようなマネは絶対に致しません。ええ、正に卑劣な行為ですね。
「戻ったぞー」
おっ、どうやら総理がお戻りになられたようです。
「お帰りなさい。今、コーヒー入れてるところですから」
何とまあ、暢気なメンバーです。我が党でも1番のコーヒー・フリークス、共和党参事のセバスチャンです。
侍従長の座をピエールに取られ、副侍従長の座も私に取られて、さぞかし哀れなことですが、本人はあまり気にしていないようです。彼は元民主党の党員で、ハト派にいた者です。全く。ハト派は、こんな暢気者しかいないのでしょうか。
「それどころじゃないよ」
当然、総理は不機嫌であります。全く。ちゃんと空気は読まないとダメですね~。
「皆、このコに見覚えはあるか?」
総理はスマホに写した可愛い女の子の画像を見せました。おおっ!これは先日、沢でお会いしたあのコではありませんか!
「はい!」
私は早速手を挙げました。
すると何故か総理は私を疑惑の目で見たのです。何故かサイラスも、弓矢を構えたではありませんか!
「……横田。このコに何を渡した?」
「えーと……。あっ、確かハッカ飴です!お近づきの印に、ですね」
「正直に言え!」
「いえ、ハッカ飴に間違いありません!」
とんだ冤罪です!ハッカ飴のどこが毒薬だというのでありましょうか!?
「アベさん、こいつを引き渡してくれ!そしたら、オレからレニフィールに頼んでアベさん達を解放してやる!」
「うーむ……」
「ちょっwww 総理!?そんなご無体な!」
「いいのか?責任者の俺が責任取らなくて?」
「アベさんがオレ達にしてくれたことの方が大きいからな。レニフィールだって被害者だったんだから」
「そうだったのか……」
「というわけだ、横田!皆のために犠牲になってくれ!」
そんな総理!そして、共和党のみんな!いくら国益の為には人間1人の犠牲も当然とはいえ、それが私だとは……っ!
「ハッカ飴のどこが毒薬だというんですか!?私の分析では、鼻がスースーとするだけですよ。却って、目が覚めますよ!」
私はそう言って、持参のハッカ飴を口に放り込みました。
「どうです?全然毒なんて入ってないでしょ!?」
しかし、サイラスは眉を潜めたままです。
「お前が渡したのが別の薬物の可能性がある」
「無いですって!総理、助けてください!」
「うーむ……」
総理は難しい顔をしながら、ハッカ飴を口に入れました。
「うん。確かに、普通のハッカ飴だが……。お前が持ってきたの、これだけか?」
「そうですよ!あのコに渡したのもこれです!」
「包み紙はあるかな?」
「いや、無かったな」
サイラスは首を横に振りました。
「サイラス、食べてみなよ」
「あまり、人間の食べ物は口にしたくないのですが……」
「しかしサイラス、このコーヒーは飲んでたじゃないか」
セバスチャンがにこやかに笑って、コーヒーを入れています。全く。どこまでも暢気ですね。
「まあ、コーヒーはな。とにかく、犯人が分かった以上、引き渡してもらおう。恐らく、人間には普通の嗜好品でも、我々には毒なのだろう」
「そういうことってあるんですか!?そんなデタラメ……!」
「あるさ。例えば我々にとってはただの野菜の1つであるネギ類が、犬や猫には毒草そのものであるのは有名だろう?」
「いや、しかし……!」
「このコーヒーだって、蜘蛛に飲ませると、酔っ払ってデタラメな巣を作る。コーヒーで酔うなんて信じられないが、本当の話だ」
理不尽です!こんなことで傷害だか殺人未遂が成立するなんて!断固、最高裁まで戦いますよ!ええ!こっちには敏腕人権派弁護士が……あれ!?
「アベさん、ご協力ありがとう。犯人は連行したので、すぐにレニフィールに言って解放してもらうようにする」
「あ、ああ……」