[10月15日09:00.天候:雨 東京都墨田区某所 東京中央学園墨田中学校・西校舎1F職員室→校長室]
西校舎3階の女子トイレの壁から、15年前に行方不明になった女子生徒の白骨死体が見つかったこと並びに同じトイレ内でこの学校の教師の惨殺死体が見つかったことで、学校は臨時休校となっている。
まだ警察の捜査が終わっておらず、また、生徒達の動揺が落ち着くまで当分の間という形だ。
コロナ禍の長期休校に加え、これは恐らく、冬休みが無くなるレベルなのではなかろうかと思う。
ま、さすがに年末年始は休みだろうが……。
そんな学校だが、リサだけが登校した。
リサは下級生の女子を例のトイレに連れ込み、脅迫と暴行をした廉で停学処分を食らっている。
義務教育の中学校では、その教育を受ける義務を妨害するとして、「停学」は無いことになっている。
だが私立の中学校では、停学処分に当たる「謹慎」とか「特別教育」の処分を設けている所もある。
この学校法人もそうだというわけだ。
処分内容は学校によって様々。
本当に登校そのものを禁止する所もあるし、開き教室などに登校させて課題をやらせる所もあるという。
東京中央学園では「謹慎」とし、その期間中はレポートを提出させることになっている。
その為、今回にあっては学校は休校なのに、謹慎処分のリサだけがレポート提出の為に登校しているというおかしな事になっている。
担任教師:「……そう。昨日は保護者の方の仕事の手伝いをしたのね。保護者の方って、探偵さんでしょう?危ない事に首を突っ込んだらダメよ」
リサ:「分かっています」
むしろリサの方が、人間の首を危ない事に突っ込ませる側なのだが。
リサ:「家が自営業の人は、謹慎中に家の手伝いをすることもあると聞きました」
担任:「まあ、そうなんだけど、愛原さんの所は、お店を経営なさっているというわけではないし……」
リサ:「別に報酬をもらっているわけではないので、ボランティアですよ」
担任:「まあ、分かったわ」
リサの処分が不自然に軽い理由を担任は知っているのか、これ以上、面倒な事はしたくないようだ。
担任:「もう帰っていいわよ。また明日もレポートよろしく」
リサ:「はい」
多くはネタが無いので反省文になるのがオチだ。
因みに昔、20世紀以前は、もっと厳しい罰があったらしい。
千葉県や愛知県で有名な管理教育が横行していた頃だ。
レポートや反省文を書かせるだけでは飽き足らず、何度も書き直しを命じたり、校庭の草むしりを命じたり、毎朝校門に立たせて登校する他の生徒達に大声で挨拶させたりと、まるでJR西日本の日勤教育のような見せしめ処分が行われていたという。
全国的な管理教育が廃れて行ったことで、この学園の処分内容も緩やかなものになったと言われているが、その陰には流血の惨を見た事案が発生していたのである。
リサ:「失礼します」
その内容をリサは知らない。
だが、誰かが血を流してくれたおかげで、この学園の管理教育は早めに終了したとも言われている。
どうも、学園のイメージに関わるような事件だったらしく、今の制服がブレザーになったのも、イメージ一新の一環だということだ。
白骨死体の女子生徒がブレザーを着ていたので(デザインは今と若干違うらしい)、その血の事件はもっと昔の話ということになる。
昔の制服はオーソドックスな、男子は詰襟、女子はセーラー服だった。
リサはその話を思い出しながら……。
リサ:(この学校の制服がセーラー服だったら、私は絶対に入らなかった。制服を一新させてくれた先輩には、感謝しないと……)
生徒側にとっては英雄的な存在だが、学校側には恥部のようで、慰霊碑すら建っていない。
リサが挨拶をして職員室を出ようとすると、担任の机の上の電話が鳴った。
担任:「はい。……校長!?……は、はい。何でしょうか?……えっ?愛原さんを?……わ、分かりました。すぐお連れします゜」
リサ:「……?」
担任は電話を切った。
担任:「校長先生がお呼びだわ。すぐ校長室に行くわよ」
リサ:「校長先生が!?」
想定外の呼び出しに、リサも目を丸くした。
思わず、両目を赤く光らせてしまうところだった。
今のリサは第0形態、つまり完全に人間に化けている状態である。
さすがにここで正体がバレるわけにいかない。
リサ:(あれ?そういえば、どうしてこの状態を『第0形態』って言うんだっけ?)
リサ・トレヴァー日本版完全体の『0番』と言い、ここ最近は0という数字をやたら聞く。
担任:「何してるの?早く来なさい」
リサ:「は、はい」
リサは担任に付いて、職員室を出た。
校長室はすぐ隣にある。
職員室と繋がっているのだが、何かルールでもあるのか、担任はその直接繋がっているドアから行こうとはせず、一旦廊下に出て、廊下側のドアに向かった。
校長室の入口ということもあってか、そのドアだけは木目調の重厚なドアになっている。
担任:「校長先生が直々にお話があるんだからね?失礼の無いようにね?」
リサ:「は、はい」
担任はドアをノックした。
担任:「失礼します」
リサ:「失礼します」
校長室、それも私立学校の校長室とあっては、その造りは豪勢なものになっている。
中学校の校長室でこれなのだから、高等部の校長室や理事長室はもっと豪華なものだろうとリサは思った。
校長:「お呼び立てして、申し訳ないね」
校長は50代半ばの男性で、黒い髪をオールバックにしている。
神妙な顔で、リサ達を迎えた。
やはり大甘な処分を取り消し、もっと重い処分を下すつもりなのだろうか。
リサは重厚な机の前に立つと、さすがに直立不動になった。
校長:「先生は退室して結構」
担任:「は、はい。失礼します」
担任は踵を返して校長室から出て行った。
校長は黒いダブルのスーツを着ている。
そんなにでっぷりした体型ではないのだが、着ぶくれしやすいのか、そういったスーツを着るとガッチリした体型に見えてしまう。
校長はその上着を脱いだ。
白いワイシャツに黒いネクタイだけの姿になると、意外とスマートな体型であることが分かる。
着ぶくれしやすいというのは、そういったことからだ。
校長:「3年3組の愛原リサさん、だね?」
リサ:「は、はい。3年3組の愛原リサです」
リサはオウム返しに答えた。
校長:「西校舎3Fの女子トイレであった事件は知ってるね?壁の中から15年前に行方不明になったここの女子生徒が発見され、その近くで三上先生が亡くなっていたという事件だ」
リサ:「はい、知っています」
正にリサが当事者だからだ。
そのことは……校長の耳にも入っているのだろう。
それでリサを呼び立てたのだ。
リサはそう思った。
一体、何を聞かれるのだろう?
三上を殺したのは『9番』であるが、同じBOWリサ・トレヴァーとして責任を取れとでも言うのだろうか。
校長:「……キミを入れて2名の生徒が、その場にいたね?」
リサ:「……いました」
校長:「……他の2人には、私から改めて言っておく。今この場で、私からキミに言いたいことは1つだ。キミ達はあのトイレにはいなかった。キミ達は下校時刻に合わせて下校したのだ。いいね?」
リサは目を丸くした。
リサ:「どうしてそんなことを!?」
校長:「理由は聞くな。これは校長として生徒であるキミへの命令だ。聞けぬというのなら、キミはイジメの加害者として1番重い処分を受けてもらうことになる」
それは即ち、退学処分を意味する。
義務教育で退学処分というのも変な話だが、要は強制的に転校させられるということである。
リサとしてはただ単に学校に通いたかっただけだ。
別にそれなら、東京中央学園でなくても良いのである。
こんなバカげた命令に従うくらいなら、いっそのこと転校でもいいかと思った。
が……。
リサ:「分かりました。そういうことにしておきます」
リサがそう答えると、ようやく校長はホッとした顔になった。
校長:「そうか。すまんね。分かってくれて、ありがとう」
リサ:「いえ。私が転校すると、誰かが舌を噛み切って死ぬことになるので。私もそれは嫌なので」
校長:「な、なに!?キミは他にも何かやってるのかね!?」
リサ:「さあ、どうでしょう」
校長:「頼むから、卒業までおとなしくしててくれ」
リサ:「頑張ります。失礼します」
リサは出て行く時には少し笑いを堪え気味になっていた。
リサ:(さすがに私のせいで、サイトーが舌噛み切って死ぬというのはちょっと……ね)
西校舎3階の女子トイレの壁から、15年前に行方不明になった女子生徒の白骨死体が見つかったこと並びに同じトイレ内でこの学校の教師の惨殺死体が見つかったことで、学校は臨時休校となっている。
まだ警察の捜査が終わっておらず、また、生徒達の動揺が落ち着くまで当分の間という形だ。
コロナ禍の長期休校に加え、これは恐らく、冬休みが無くなるレベルなのではなかろうかと思う。
ま、さすがに年末年始は休みだろうが……。
そんな学校だが、リサだけが登校した。
リサは下級生の女子を例のトイレに連れ込み、脅迫と暴行をした廉で停学処分を食らっている。
義務教育の中学校では、その教育を受ける義務を妨害するとして、「停学」は無いことになっている。
だが私立の中学校では、停学処分に当たる「謹慎」とか「特別教育」の処分を設けている所もある。
この学校法人もそうだというわけだ。
処分内容は学校によって様々。
本当に登校そのものを禁止する所もあるし、開き教室などに登校させて課題をやらせる所もあるという。
東京中央学園では「謹慎」とし、その期間中はレポートを提出させることになっている。
その為、今回にあっては学校は休校なのに、謹慎処分のリサだけがレポート提出の為に登校しているというおかしな事になっている。
担任教師:「……そう。昨日は保護者の方の仕事の手伝いをしたのね。保護者の方って、探偵さんでしょう?危ない事に首を突っ込んだらダメよ」
リサ:「分かっています」
むしろリサの方が、人間の首を危ない事に突っ込ませる側なのだが。
リサ:「家が自営業の人は、謹慎中に家の手伝いをすることもあると聞きました」
担任:「まあ、そうなんだけど、愛原さんの所は、お店を経営なさっているというわけではないし……」
リサ:「別に報酬をもらっているわけではないので、ボランティアですよ」
担任:「まあ、分かったわ」
リサの処分が不自然に軽い理由を担任は知っているのか、これ以上、面倒な事はしたくないようだ。
担任:「もう帰っていいわよ。また明日もレポートよろしく」
リサ:「はい」
多くはネタが無いので反省文になるのがオチだ。
因みに昔、20世紀以前は、もっと厳しい罰があったらしい。
千葉県や愛知県で有名な管理教育が横行していた頃だ。
レポートや反省文を書かせるだけでは飽き足らず、何度も書き直しを命じたり、校庭の草むしりを命じたり、毎朝校門に立たせて登校する他の生徒達に大声で挨拶させたりと、
全国的な管理教育が廃れて行ったことで、この学園の処分内容も緩やかなものになったと言われているが、その陰には流血の惨を見た事案が発生していたのである。
リサ:「失礼します」
その内容をリサは知らない。
だが、誰かが血を流してくれたおかげで、この学園の管理教育は早めに終了したとも言われている。
どうも、学園のイメージに関わるような事件だったらしく、今の制服がブレザーになったのも、イメージ一新の一環だということだ。
白骨死体の女子生徒がブレザーを着ていたので(デザインは今と若干違うらしい)、その血の事件はもっと昔の話ということになる。
昔の制服はオーソドックスな、男子は詰襟、女子はセーラー服だった。
リサはその話を思い出しながら……。
リサ:(この学校の制服がセーラー服だったら、私は絶対に入らなかった。制服を一新させてくれた先輩には、感謝しないと……)
生徒側にとっては英雄的な存在だが、学校側には恥部のようで、慰霊碑すら建っていない。
リサが挨拶をして職員室を出ようとすると、担任の机の上の電話が鳴った。
担任:「はい。……校長!?……は、はい。何でしょうか?……えっ?愛原さんを?……わ、分かりました。すぐお連れします゜」
リサ:「……?」
担任は電話を切った。
担任:「校長先生がお呼びだわ。すぐ校長室に行くわよ」
リサ:「校長先生が!?」
想定外の呼び出しに、リサも目を丸くした。
思わず、両目を赤く光らせてしまうところだった。
今のリサは第0形態、つまり完全に人間に化けている状態である。
さすがにここで正体がバレるわけにいかない。
リサ:(あれ?そういえば、どうしてこの状態を『第0形態』って言うんだっけ?)
リサ・トレヴァー日本版完全体の『0番』と言い、ここ最近は0という数字をやたら聞く。
担任:「何してるの?早く来なさい」
リサ:「は、はい」
リサは担任に付いて、職員室を出た。
校長室はすぐ隣にある。
職員室と繋がっているのだが、何かルールでもあるのか、担任はその直接繋がっているドアから行こうとはせず、一旦廊下に出て、廊下側のドアに向かった。
校長室の入口ということもあってか、そのドアだけは木目調の重厚なドアになっている。
担任:「校長先生が直々にお話があるんだからね?失礼の無いようにね?」
リサ:「は、はい」
担任はドアをノックした。
担任:「失礼します」
リサ:「失礼します」
校長室、それも私立学校の校長室とあっては、その造りは豪勢なものになっている。
中学校の校長室でこれなのだから、高等部の校長室や理事長室はもっと豪華なものだろうとリサは思った。
校長:「お呼び立てして、申し訳ないね」
校長は50代半ばの男性で、黒い髪をオールバックにしている。
神妙な顔で、リサ達を迎えた。
やはり大甘な処分を取り消し、もっと重い処分を下すつもりなのだろうか。
リサは重厚な机の前に立つと、さすがに直立不動になった。
校長:「先生は退室して結構」
担任:「は、はい。失礼します」
担任は踵を返して校長室から出て行った。
校長は黒いダブルのスーツを着ている。
そんなにでっぷりした体型ではないのだが、着ぶくれしやすいのか、そういったスーツを着るとガッチリした体型に見えてしまう。
校長はその上着を脱いだ。
白いワイシャツに黒いネクタイだけの姿になると、意外とスマートな体型であることが分かる。
着ぶくれしやすいというのは、そういったことからだ。
校長:「3年3組の愛原リサさん、だね?」
リサ:「は、はい。3年3組の愛原リサです」
リサはオウム返しに答えた。
校長:「西校舎3Fの女子トイレであった事件は知ってるね?壁の中から15年前に行方不明になったここの女子生徒が発見され、その近くで三上先生が亡くなっていたという事件だ」
リサ:「はい、知っています」
正にリサが当事者だからだ。
そのことは……校長の耳にも入っているのだろう。
それでリサを呼び立てたのだ。
リサはそう思った。
一体、何を聞かれるのだろう?
三上を殺したのは『9番』であるが、同じBOWリサ・トレヴァーとして責任を取れとでも言うのだろうか。
校長:「……キミを入れて2名の生徒が、その場にいたね?」
リサ:「……いました」
校長:「……他の2人には、私から改めて言っておく。今この場で、私からキミに言いたいことは1つだ。キミ達はあのトイレにはいなかった。キミ達は下校時刻に合わせて下校したのだ。いいね?」
リサは目を丸くした。
リサ:「どうしてそんなことを!?」
校長:「理由は聞くな。これは校長として生徒であるキミへの命令だ。聞けぬというのなら、キミはイジメの加害者として1番重い処分を受けてもらうことになる」
それは即ち、退学処分を意味する。
義務教育で退学処分というのも変な話だが、要は強制的に転校させられるということである。
リサとしてはただ単に学校に通いたかっただけだ。
別にそれなら、東京中央学園でなくても良いのである。
こんなバカげた命令に従うくらいなら、いっそのこと転校でもいいかと思った。
が……。
リサ:「分かりました。そういうことにしておきます」
リサがそう答えると、ようやく校長はホッとした顔になった。
校長:「そうか。すまんね。分かってくれて、ありがとう」
リサ:「いえ。私が転校すると、誰かが舌を噛み切って死ぬことになるので。私もそれは嫌なので」
校長:「な、なに!?キミは他にも何かやってるのかね!?」
リサ:「さあ、どうでしょう」
校長:「頼むから、卒業までおとなしくしててくれ」
リサ:「頑張ります。失礼します」
リサは出て行く時には少し笑いを堪え気味になっていた。
リサ:(さすがに私のせいで、サイトーが舌噛み切って死ぬというのはちょっと……ね)