[9月28日12:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道本線ホーム→東海道本線4035M電車15号車内]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。9番線に停車中の列車は、12時ちょうど発、特急“踊り子”115号、伊豆急下田・修善寺行きです。……〕
東京駅でマリアとエレーナの2人と合流した稲生と鈴木は、途中のコンコースで昼食の駅弁を購入した。
それを手に、東海道本線のホームに上がる。
エレーナ:「あえて新幹線で行かないとは、さすが稲生氏だぜ」
稲生:「ゴメン。新幹線は高いんで、予算が……」
鈴木:「先輩、俺に相談してくれれば、新幹線代くらいカンパしましたよ?」
稲生:「ありがとう。だけど、ずっとキミの世話になるわけにはいかない」
鈴木:「水くさいですよ。困った時はお互い様じゃないですか」
稲生:「そうだね」
今時珍しい幕式の方向幕を使用した電車に乗り込む。
その行き先には『修善寺』と書かれていた。
グリーン車の連結されていない附属の5両編成側の電車である。
幕式のヘッドマークには、“伊豆の踊子”に登場する踊り子の絵が描かれている。
絵入りのヘッドマークは外国には珍しいのか、それを撮影する外国人観光客もいた。
エレーナもそうしているが、マリアはそうしない。
鈴木:「向かい合わせにしますか?」
稲生:「エレーナとの二人旅を楽しみたいのなら、それはしなくていいんじゃない?」
鈴木:「それもそうですね」
古い電車ということもあって普通車はシートピッチが狭く、向かい合わせにすると狭く感じるのと、テーブルが無くなるからである。
稲生は前に座る鈴木の席から、背面テーブルを出して、そこに駅弁を置いた。
〔「ご案内致します。この電車は12時ちょうど発、東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。前10両、1号車から10号車が伊豆急下田行き、後ろ5両、11号車から15号車が修善寺行きです。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。まもなく発車致します」〕
エレーナ:「おい、マリアンナ。オマエは撮影してルーシーに送ってやらないのか?」
ルーシーとはもちろん、魔界の女王ルーシーではなく、ベイカー組のルーシーのことである。
ベイカー組にはルーシーを含めて3人の弟子がいたが、2人は異国の地たるこの日本で“魔の者”の眷属に銃撃され、落命している。
マリア:「ルーシーが好きなのは新幹線だから。新幹線の写真なら撮って送ってあげるさ」
但し、東海道新幹線なら“こだま”で乗車体験済みである。
ホームの外からシンプルな発車メロディが聞こえたかと思うと、ドアの閉まるエアーの音がした。
そして発車する際、ガクンと電車が揺れた。
今のデジタル制御された新型車両ならこんな揺れ方しないが、未だにモーターにインバータが使用されていない旧型電車はアナログな揺れ方をする。
これを懐かしいと思うか不快に感じるかは人それぞれだ。
作者は最近、これを不快に感じるようになってきた。歳を取ったのと、趣味が鉄道からバスに移ったからかもしれない。
〔♪♪(車内チャイム。“鉄道唱歌”)♪♪。「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。電車は1番前が1号車、1番後ろが15号車です。1号車から10号車が伊豆急下田行き。11号車から15号車が修善寺行きです。途中の熱海で切り離しを致しますので、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。尚、10号車と11号車の間は運転台がある為、車内の通り抜けできませんので、ご了承ください。【中略】次は品川、品川です」〕
因みに放送では車内販売が無いことも告げていた。
稲生:「車内販売も下火になったなぁ……」
マリア:「日本の鉄道も合流主義かな?」
稲生:「そういうことになりますかね」
マリア:「ユーロスターには車内販売も食堂車もあるよ」
稲生:「それは羨ましい。マリアさん、乗ったことあるんですか?」
マリア:「いや、ルーシーがこの前、写真送ってくれた。ベイカー先生と一緒に乗ったらしい」
稲生:「ということは、1等車ですか。尚更羨ましい」
パスポートについては、大魔道師ともなればどうにでもなるのだろう。
ルーシーは素直にイギリスのパスポートを持っているだろうが、齢3000年くらいのベイカーはどうしたのやら……。
同じ1期生ながら、イリーナの先輩でもある。
もっとも、1期生の中では年長者の部類に入る為、ベイカー以外にごろごろと年上がいるわけでもないようだ。
マリア:「ルーシーと確実に違う所があるけどな」
マリアは自分のパスポートを取り出した。
そこには『永住者』のシールが貼られている。
イリーナが政治的な力を使ったのは明らかだった。
一応、稲生もいつでも海外に行けるよう、パスポートは取っている。
だがそれをエレーナが欲した。
エレーナ:「私も持ってるぜ」
エレーナは後ろを振り向いて、自分のウクライナのパスポートを取り出す。
そこにも『永住者』のシールが貼られていた。
エレーナ:「日本のパスポートは高く売れるから、譲渡早よ」
マリア:「何さらっと勇太を犯罪に巻き込もうとしてるんだ」
鈴木:「お、俺ので良ければ……」
稲生:「鈴木君、間に受けなくていいよ」
エレーナ:「ちっ……。中国人と北朝鮮人に高く売れるのに……」
マリア:「東アジア魔道団の入国の手助けになるからやめろという通達が出ただろ」
エレーナ:「今はやってないよ、今はな」
ダンテ一門とシェア争いで対立している別の門流がある。
ダンテ一門がヨーロッパ人が多いのに対し、東アジア魔道団はアジア人が多い。
日本人もそれなりに含まれていると聞く。
稲生も勧誘の対象だったが、先にイリーナに勧誘されたことで人材を横取りされたと認識し、それが却って対立を深めている。
稲生:「それより、お弁当食べましょう」
マリア:「それもそうだな。品揃えは新幹線ホームと大して変わらないみたいだけど……」
稲生:「まあ、そうでしょうね。ただ、NREとJRCPではやっぱり違いますよ」
前者は日本レストランエンタープライズの略で、後者はJR東海パッセンジャーズのこと。
稲生:「車内販売が下火になっても、駅弁文化はまだまだ栄えてますから」
マリア:「確かに。駅であれだけ品数揃えてるランチボックスは、イギリスにも無いな」
特急“踊り子”115号は、旧式の抵抗制御のモーター音を響かせて東海道本線を下って行く。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。9番線に停車中の列車は、12時ちょうど発、特急“踊り子”115号、伊豆急下田・修善寺行きです。……〕
東京駅でマリアとエレーナの2人と合流した稲生と鈴木は、途中のコンコースで昼食の駅弁を購入した。
それを手に、東海道本線のホームに上がる。
エレーナ:「あえて新幹線で行かないとは、さすが稲生氏だぜ」
稲生:「ゴメン。新幹線は高いんで、予算が……」
鈴木:「先輩、俺に相談してくれれば、新幹線代くらいカンパしましたよ?」
稲生:「ありがとう。だけど、ずっとキミの世話になるわけにはいかない」
鈴木:「水くさいですよ。困った時はお互い様じゃないですか」
稲生:「そうだね」
今時珍しい幕式の方向幕を使用した電車に乗り込む。
その行き先には『修善寺』と書かれていた。
グリーン車の連結されていない附属の5両編成側の電車である。
幕式のヘッドマークには、“伊豆の踊子”に登場する踊り子の絵が描かれている。
絵入りのヘッドマークは外国には珍しいのか、それを撮影する外国人観光客もいた。
エレーナもそうしているが、マリアはそうしない。
鈴木:「向かい合わせにしますか?」
稲生:「エレーナとの二人旅を楽しみたいのなら、それはしなくていいんじゃない?」
鈴木:「それもそうですね」
古い電車ということもあって普通車はシートピッチが狭く、向かい合わせにすると狭く感じるのと、テーブルが無くなるからである。
稲生は前に座る鈴木の席から、背面テーブルを出して、そこに駅弁を置いた。
〔「ご案内致します。この電車は12時ちょうど発、東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。前10両、1号車から10号車が伊豆急下田行き、後ろ5両、11号車から15号車が修善寺行きです。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。まもなく発車致します」〕
エレーナ:「おい、マリアンナ。オマエは撮影してルーシーに送ってやらないのか?」
ルーシーとはもちろん、魔界の女王ルーシーではなく、ベイカー組のルーシーのことである。
ベイカー組にはルーシーを含めて3人の弟子がいたが、2人は異国の地たるこの日本で“魔の者”の眷属に銃撃され、落命している。
マリア:「ルーシーが好きなのは新幹線だから。新幹線の写真なら撮って送ってあげるさ」
但し、東海道新幹線なら“こだま”で乗車体験済みである。
ホームの外からシンプルな発車メロディが聞こえたかと思うと、ドアの閉まるエアーの音がした。
そして発車する際、ガクンと電車が揺れた。
今のデジタル制御された新型車両ならこんな揺れ方しないが、未だにモーターにインバータが使用されていない旧型電車はアナログな揺れ方をする。
これを懐かしいと思うか不快に感じるかは人それぞれだ。
〔♪♪(車内チャイム。“鉄道唱歌”)♪♪。「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。電車は1番前が1号車、1番後ろが15号車です。1号車から10号車が伊豆急下田行き。11号車から15号車が修善寺行きです。途中の熱海で切り離しを致しますので、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。尚、10号車と11号車の間は運転台がある為、車内の通り抜けできませんので、ご了承ください。【中略】次は品川、品川です」〕
因みに放送では車内販売が無いことも告げていた。
稲生:「車内販売も下火になったなぁ……」
マリア:「日本の鉄道も合流主義かな?」
稲生:「そういうことになりますかね」
マリア:「ユーロスターには車内販売も食堂車もあるよ」
稲生:「それは羨ましい。マリアさん、乗ったことあるんですか?」
マリア:「いや、ルーシーがこの前、写真送ってくれた。ベイカー先生と一緒に乗ったらしい」
稲生:「ということは、1等車ですか。尚更羨ましい」
パスポートについては、大魔道師ともなればどうにでもなるのだろう。
ルーシーは素直にイギリスのパスポートを持っているだろうが、齢3000年くらいのベイカーはどうしたのやら……。
同じ1期生ながら、イリーナの先輩でもある。
もっとも、1期生の中では年長者の部類に入る為、ベイカー以外にごろごろと年上がいるわけでもないようだ。
マリア:「ルーシーと確実に違う所があるけどな」
マリアは自分のパスポートを取り出した。
そこには『永住者』のシールが貼られている。
イリーナが政治的な力を使ったのは明らかだった。
一応、稲生もいつでも海外に行けるよう、パスポートは取っている。
だがそれをエレーナが欲した。
エレーナ:「私も持ってるぜ」
エレーナは後ろを振り向いて、自分のウクライナのパスポートを取り出す。
そこにも『永住者』のシールが貼られていた。
エレーナ:「日本のパスポートは高く売れるから、譲渡早よ」
マリア:「何さらっと勇太を犯罪に巻き込もうとしてるんだ」
鈴木:「お、俺ので良ければ……」
稲生:「鈴木君、間に受けなくていいよ」
エレーナ:「ちっ……。中国人と北朝鮮人に高く売れるのに……」
マリア:「東アジア魔道団の入国の手助けになるからやめろという通達が出ただろ」
エレーナ:「今はやってないよ、今はな」
ダンテ一門とシェア争いで対立している別の門流がある。
ダンテ一門がヨーロッパ人が多いのに対し、東アジア魔道団はアジア人が多い。
日本人もそれなりに含まれていると聞く。
稲生も勧誘の対象だったが、先にイリーナに勧誘されたことで人材を横取りされたと認識し、それが却って対立を深めている。
稲生:「それより、お弁当食べましょう」
マリア:「それもそうだな。品揃えは新幹線ホームと大して変わらないみたいだけど……」
稲生:「まあ、そうでしょうね。ただ、NREとJRCPではやっぱり違いますよ」
前者は日本レストランエンタープライズの略で、後者はJR東海パッセンジャーズのこと。
稲生:「車内販売が下火になっても、駅弁文化はまだまだ栄えてますから」
マリア:「確かに。駅であれだけ品数揃えてるランチボックスは、イギリスにも無いな」
特急“踊り子”115号は、旧式の抵抗制御のモーター音を響かせて東海道本線を下って行く。