[9月27日23:01.天候:雨 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]
江東区北端にある森下地区の地下鉄駅。
そこに到着する下り電車は、京王線から乗り入れて来た10両編成。
金曜日の夜ということもあってか、こんな深夜帯になってもまだ賑わっている。
〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕
ここでは都営新宿線と都営大江戸線が十字型に交差している。
その為か急行電車の停車駅でもあり、乗降客もそれなりに多い。
到着した京王電車の先頭車から、稲生とマリアが降りて来た。
〔2番線、ドアが閉まります〕
途中駅ということもあって、電車はすぐに発車して行く。
今この駅にもホームドアが設置され、それが閉まってからであるが。
マリア:「今、外は雨が降り出してきたかもよ」
稲生:「本当ですか。ホテル到着までは間に合わなかったか……」
稲生は残念そうな顔をすると、ホームのベンチの前で立ち止まり、そこから自分も魔道士のローブを羽織った。
スーツ姿にローブは合わないので、基本的にはマリアと違って着て歩くことはない。
ましてや今回は日蓮正宗の信徒として動いている為、尚更である。
稲生:「あー、でも、まだパラパラだ……」
地上に上がって駅の外に出ると、雨はまだそんなに強くなかった。
ただ、雨粒が意外と大きく、これが小さければ傘を差さなくても何とかなる精神で何とかなりそうなものだが、さすがに今回は無理がありそうだ。
魔道士のローブはこんな時、完全に雨を防いでくれるので便利である。
フードまで被れば、確かに魔道士という雰囲気がよく出る。
駅から徒歩数分の、元はドヤ街だった場所にワンスターホテルはある。
だからこの周辺には小さなビジネスホテルや、カプセルホテルなどが散在している。
元は簡易宿所(ドヤ)だった頃の名残で。
ドヤ街だった頃は日雇い労働者の定宿だっただろうが、今は外国人のバックパッカーが好んで宿泊するようになり、形態も様変わりした。
稲生:「やっと着いた」
ドアを開けて小さなロビーに入る。
オーナー:「いらっしゃいませ」
稲生:「どうも。イリーナ組の2名です」
オーナー:「はい、稲生様とスカーレット様ですね。では、こちらにご記入を……」
オーナーは普通の人間であるが、ダンテ一門の『協力者』でもある。
世界各地は元より、この日本国内においても『協力者』は一定数存在する。
その経緯は個人によって様々だし、あまりそれは明らかにされていない。
このオーナーも、如何にして『協力者』になったのか、全く不明だ。
オーナー:「因みに確認ですが、シングル2部屋でよろしいんですよね?」
稲生:「あ、はい。それが何か?」
オーナー:「エレーナが予約票を『ダブル1部屋』に変更していたので注意しておきましたが……」
マリア:「あのヤローw」
客の予約を勝手に変更するエレーナ。
オーナー:「それではお1人様5000円でお願いします」
稲生:「はい」
随分安いのはダンテ一門特別価格だからだろう。
また、深夜帯に到着したこともあり、『レイト・チェックイン価格』が適用されたと思われる。
恐らく、消費税分サービスされたのではないだろうか。
オーナー:「ありがとうございます。領収証はお帰りの際に、鍵と引き換えにお渡し致します。お部屋は4階の414号室と415号室になります」
稲生:「よろしくお願いします」
オーナー:「ごゆっくりどうぞ」
2人は鍵を受け取ると、ロビー内にあるエレベーターで4階に向かった。
マリア:「エレーナのヤツ……」
稲生:「油断も隙も無いですねぇ……。てか、フロントにいたのオーナーだったなぁ……」
マリア:「夜勤明けか何かなんだろう。今頃、地下室で寝てると思うよ」
稲生:「ああ……」
その様子を地下に作った居室で観ているエレーナ。
ホテル内に設置されている防犯カメラの映像を、水晶球に映している。
エレーナ:「オーナーも頭固いんだから……」
リリアンヌ:「エレーナ先輩……」
エレーナ:「いいから、あんたはもう寝な。明日は魔界に戻るんだから」
リリアンヌ:「ふぁい……」
[9月28日09:00.天候:晴 ワンスターホテル]
昨夜はゲリラ豪雨が降ったようだ。
稲生は雷の音で目が覚めたくらいだ。
次に目が覚めた時、朝になっていたが、昨日の悪天が嘘みたいによく晴れていた。
稲生:「マリアさんは……まだ寝てるのかな?」
稲生はスーツに着替えると、内線電話を取った。
オーナー:「はい、フロントです」
稲生:「あ、すいません。414号室の稲生ですけど……」
オーナー:「稲生様、おはようございます」
稲生:「おはようございます。あの、415号室のマリアさんはチェックアウトしましたか?」
オーナー:「いえ、まだでございます」
稲生:「あ、そうですか。ありがとうございます」
稲生は電話を切った。
稲生:「疲れてるから、まだ寝てるのかな……。まあ、いいや。どうせチェックアウトまで、あと1時間しか無いし」
稲生は今度はマリアに電話を掛けた。
マリア:「……なに?」
稲生:「(あ、やっぱり寝てた!)おはようございます。僕、これから正証寺に行って来ますので」
マリア:「あ、そう。今日の昼頃、東京駅に行けばいいんでしょ?」
稲生:「そうです。それまでに僕も行きますから」
マリア:「分かった。行っといで。……って、こら!私が許可してるんだから、脱走じゃないって!」
どうやらマリアの使役人形が、稲生が脱走を企てているようだと勘違いしているらしい。
誤解されない為にも、わざわざ電話したのである。
稲生:「大騒ぎになる前にとっとと出よ」
稲生は荷物と鍵を手に部屋をさっさと出た。
稲生:「お世話になりました」
オーナー:「ありがとうございます。スカーレット様はまだお部屋に?」
稲生:「ええ。チェックアウト時間ギリギリに出ると思います」
オーナー:「かしこまりました。それでは、こちらが領収証です。本日は真にありがとうございました」
稲生:「お世話さまでした」
稲生は領収証を受け取ると、ホテルの外に出た。
鈴木:「稲生先輩、おはようございます」
稲生:「おっ、鈴木君」
ホテルの外では鈴木が待っていた。
その前にはベンツのVクラスが止まっている。
鈴木:「車回して来ましたから、これで行きましょう」
稲生:「ありがとう。てか、これで大石寺まで行けないの?」
鈴木:「あいにくと昼から実家で使うらしくて、けんもほろろに断られましたよ」
稲生:「ま、もう電車のキップは買っちゃったしね」
鈴木:「鉄ヲタの先輩に任せると安心ですから。あ、お金今払いますね。まずは車に……」
稲生:「うん」
稲生は助手席に乗り込んだ。
藤谷のGクラスや、前に乗っていたEクラスと違い、こっちのVクラスは右ハンドルである。
つまり、ちゃんと日本仕様として輸入されたものを正規ディーラーで購入したということ。
もちろん、この方が購入費用が高い。
藤谷のは中古車らしいので。
但し、別にこの車は鈴木本人が買ったものではなく、実家の車を拝借してきただけのようだ。
稲生:「ねぇ、本当にエレーナも来るのかい?」
鈴木:「先輩はマリアンナさんを連れて来るんでしょ?」
稲生:「僕の場合は、ただ単に『監視』されてるだけで……」
鈴木:「またまたぁ……。俺はエレーナを連れ出すことに成功したわけです」
稲生:「そうかい。(絶対カネが絡んでるな)」
鈴木:「じゃ、これが電車代。お釣りはいいんで。手数料として」
稲生:「あ、そう。ありがとう」
稲生は鈴木からもらった金を財布にしまいこんだ。
そして、鈴木は車のエンジンを掛ける。
鈴木:「それじゃ、正証寺へ向かいます」
稲生:「うん」
鈴木は自分達の所属寺院へとハンドルを切った。
江東区北端にある森下地区の地下鉄駅。
そこに到着する下り電車は、京王線から乗り入れて来た10両編成。
金曜日の夜ということもあってか、こんな深夜帯になってもまだ賑わっている。
〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕
ここでは都営新宿線と都営大江戸線が十字型に交差している。
その為か急行電車の停車駅でもあり、乗降客もそれなりに多い。
到着した京王電車の先頭車から、稲生とマリアが降りて来た。
〔2番線、ドアが閉まります〕
途中駅ということもあって、電車はすぐに発車して行く。
今この駅にもホームドアが設置され、それが閉まってからであるが。
マリア:「今、外は雨が降り出してきたかもよ」
稲生:「本当ですか。ホテル到着までは間に合わなかったか……」
稲生は残念そうな顔をすると、ホームのベンチの前で立ち止まり、そこから自分も魔道士のローブを羽織った。
スーツ姿にローブは合わないので、基本的にはマリアと違って着て歩くことはない。
ましてや今回は日蓮正宗の信徒として動いている為、尚更である。
稲生:「あー、でも、まだパラパラだ……」
地上に上がって駅の外に出ると、雨はまだそんなに強くなかった。
ただ、雨粒が意外と大きく、これが小さければ傘を差さなくても何とかなる精神で何とかなりそうなものだが、さすがに今回は無理がありそうだ。
魔道士のローブはこんな時、完全に雨を防いでくれるので便利である。
フードまで被れば、確かに魔道士という雰囲気がよく出る。
駅から徒歩数分の、元はドヤ街だった場所にワンスターホテルはある。
だからこの周辺には小さなビジネスホテルや、カプセルホテルなどが散在している。
元は簡易宿所(ドヤ)だった頃の名残で。
ドヤ街だった頃は日雇い労働者の定宿だっただろうが、今は外国人のバックパッカーが好んで宿泊するようになり、形態も様変わりした。
稲生:「やっと着いた」
ドアを開けて小さなロビーに入る。
オーナー:「いらっしゃいませ」
稲生:「どうも。イリーナ組の2名です」
オーナー:「はい、稲生様とスカーレット様ですね。では、こちらにご記入を……」
オーナーは普通の人間であるが、ダンテ一門の『協力者』でもある。
世界各地は元より、この日本国内においても『協力者』は一定数存在する。
その経緯は個人によって様々だし、あまりそれは明らかにされていない。
このオーナーも、如何にして『協力者』になったのか、全く不明だ。
オーナー:「因みに確認ですが、シングル2部屋でよろしいんですよね?」
稲生:「あ、はい。それが何か?」
オーナー:「エレーナが予約票を『ダブル1部屋』に変更していたので注意しておきましたが……」
マリア:「あのヤローw」
客の予約を勝手に変更するエレーナ。
オーナー:「それではお1人様5000円でお願いします」
稲生:「はい」
随分安いのはダンテ一門特別価格だからだろう。
また、深夜帯に到着したこともあり、『レイト・チェックイン価格』が適用されたと思われる。
恐らく、消費税分サービスされたのではないだろうか。
オーナー:「ありがとうございます。領収証はお帰りの際に、鍵と引き換えにお渡し致します。お部屋は4階の414号室と415号室になります」
稲生:「よろしくお願いします」
オーナー:「ごゆっくりどうぞ」
2人は鍵を受け取ると、ロビー内にあるエレベーターで4階に向かった。
マリア:「エレーナのヤツ……」
稲生:「油断も隙も無いですねぇ……。てか、フロントにいたのオーナーだったなぁ……」
マリア:「夜勤明けか何かなんだろう。今頃、地下室で寝てると思うよ」
稲生:「ああ……」
その様子を地下に作った居室で観ているエレーナ。
ホテル内に設置されている防犯カメラの映像を、水晶球に映している。
エレーナ:「オーナーも頭固いんだから……」
リリアンヌ:「エレーナ先輩……」
エレーナ:「いいから、あんたはもう寝な。明日は魔界に戻るんだから」
リリアンヌ:「ふぁい……」
[9月28日09:00.天候:晴 ワンスターホテル]
昨夜はゲリラ豪雨が降ったようだ。
稲生は雷の音で目が覚めたくらいだ。
次に目が覚めた時、朝になっていたが、昨日の悪天が嘘みたいによく晴れていた。
稲生:「マリアさんは……まだ寝てるのかな?」
稲生はスーツに着替えると、内線電話を取った。
オーナー:「はい、フロントです」
稲生:「あ、すいません。414号室の稲生ですけど……」
オーナー:「稲生様、おはようございます」
稲生:「おはようございます。あの、415号室のマリアさんはチェックアウトしましたか?」
オーナー:「いえ、まだでございます」
稲生:「あ、そうですか。ありがとうございます」
稲生は電話を切った。
稲生:「疲れてるから、まだ寝てるのかな……。まあ、いいや。どうせチェックアウトまで、あと1時間しか無いし」
稲生は今度はマリアに電話を掛けた。
マリア:「……なに?」
稲生:「(あ、やっぱり寝てた!)おはようございます。僕、これから正証寺に行って来ますので」
マリア:「あ、そう。今日の昼頃、東京駅に行けばいいんでしょ?」
稲生:「そうです。それまでに僕も行きますから」
マリア:「分かった。行っといで。……って、こら!私が許可してるんだから、脱走じゃないって!」
どうやらマリアの使役人形が、稲生が脱走を企てているようだと勘違いしているらしい。
誤解されない為にも、わざわざ電話したのである。
稲生:「大騒ぎになる前にとっとと出よ」
稲生は荷物と鍵を手に部屋をさっさと出た。
稲生:「お世話になりました」
オーナー:「ありがとうございます。スカーレット様はまだお部屋に?」
稲生:「ええ。チェックアウト時間ギリギリに出ると思います」
オーナー:「かしこまりました。それでは、こちらが領収証です。本日は真にありがとうございました」
稲生:「お世話さまでした」
稲生は領収証を受け取ると、ホテルの外に出た。
鈴木:「稲生先輩、おはようございます」
稲生:「おっ、鈴木君」
ホテルの外では鈴木が待っていた。
その前にはベンツのVクラスが止まっている。
鈴木:「車回して来ましたから、これで行きましょう」
稲生:「ありがとう。てか、これで大石寺まで行けないの?」
鈴木:「あいにくと昼から実家で使うらしくて、けんもほろろに断られましたよ」
稲生:「ま、もう電車のキップは買っちゃったしね」
鈴木:「鉄ヲタの先輩に任せると安心ですから。あ、お金今払いますね。まずは車に……」
稲生:「うん」
稲生は助手席に乗り込んだ。
藤谷のGクラスや、前に乗っていたEクラスと違い、こっちのVクラスは右ハンドルである。
つまり、ちゃんと日本仕様として輸入されたものを正規ディーラーで購入したということ。
もちろん、この方が購入費用が高い。
藤谷のは中古車らしいので。
但し、別にこの車は鈴木本人が買ったものではなく、実家の車を拝借してきただけのようだ。
稲生:「ねぇ、本当にエレーナも来るのかい?」
鈴木:「先輩はマリアンナさんを連れて来るんでしょ?」
稲生:「僕の場合は、ただ単に『監視』されてるだけで……」
鈴木:「またまたぁ……。俺はエレーナを連れ出すことに成功したわけです」
稲生:「そうかい。(絶対カネが絡んでるな)」
鈴木:「じゃ、これが電車代。お釣りはいいんで。手数料として」
稲生:「あ、そう。ありがとう」
稲生は鈴木からもらった金を財布にしまいこんだ。
そして、鈴木は車のエンジンを掛ける。
鈴木:「それじゃ、正証寺へ向かいます」
稲生:「うん」
鈴木は自分達の所属寺院へとハンドルを切った。
かつて“アンドロイドマスター”シリーズを書いていた頃はボーカロイド関連をよく聴いていた。
最近のゲーム版“バイオハザード”では、敵が出ないとBGMが無音になることが多く(風のエフェクトや機械音が流れていることが多い)、この辺も映画に近くなったとされる理由であろう。